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誰かの「悩みのタネ」は、別の誰かの「お宝」になる
サーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち開催レポート [第一部]

FabCafe・ロフトワークで開催中の循環型経済をデザインするグローバル・アワード「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)」。本アワードの関連イベントとして、2021年8月27日(金)に サーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち crQlr Meet up! vol.0 をオンラインにて開催。多彩なゲストたちがサーキュラー・エコノミー可能性について事例を交えて意見を交わしました。
本記事は、3部構成で構成されており、その1部になります。

FabCafe・ロフトワークで開催中の循環型経済をデザインするグローバル・アワード「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)」。本アワードの関連イベントとして、2021年8月27日(金)にオンライントークイベントを開催。多彩なゲストたちがサーキュラー・エコノミー可能性について事例を交えて意見を交わしました。

クロストーク1:サーキュラー・エコノミーへの社会変革はどう進む?

クロストーク1は、「crQlr Award」審査員でもある以下4名を迎え、ロフトワークの棚橋弘季をモデレーターに、サーキュラー・エコノミーの背景や普及するためのポイントについて語りました。

■登壇者
・ハーチ株式会社 代表取締役 加藤 佑さん
・一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事/mymizu共同創設者 マクティア マリコさん
・三井住友フィナンシャルグループ(SMBC) 企画部サステナビリティ推進室長 竹田 達哉さん
・Circular Initiatives&Partners 代表 安居 昭博さん

ー 棚橋:ここ数年で、日本でもサーキュラーエコノミーが着目され、様々な活動が始まってきたことと実感しています。なぜここまで注目されるようになったとお考えでしょうか。

安居:最も大きな要因は、今の私たちを取り巻く世界の情勢が大きく変わってきているところにあると思います。その変化は大きく3つに分けられます。

1つ目が、今後も増加し続ける見通しの世界人口増加。
2つ目が、石油やレアメタルといった地下の枯渇製資源と呼ばれるものの将来的な安定供給が難しくなっていること。
3つ目が私たち人間の活動によって排出されてきた廃棄物や環境汚染が、もはや企業の経済活動や人間にとって無視できない程度にまでなってきていること。これらの変化が、新しい経済社会の仕組みを求めていて、その結果、サーキュラーエコノミーが注目されていると思います。

竹田:安居さんがおっしゃった状況を踏まえて、2021年1月に経産省と環境省がサーキュラーエコノミーに係るサステナブルファイナンス促進のための開示対話ガイダンスを作りました。

「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」
私も策定に関わったのですが、政府もサーキュラーエコノミーには本気で取り組む心構えで、企業が取り込むにはどうすればいいか、あるいはファイナンスの方々とどのように対話をしていくか、など具体的な課題を議論していきました。

政府の姿勢も相まって、企業にとって「サーキュラーエコノミーへのシフト」は、ますます戦略的に取り組むべき課題になってきていると感じています。今、日本の企業は、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)を意識し、その観点から、従来のようにGDPをリニア(直線的)に追いかけていくリスクの高さがあることを意識するようになってきています。
私も各企業の取り組みを興味深く注目していますが、それらを見るにつけ、線形経済依存のリスク解消のための一つの「解」がサーキュラーエコノミーになるだろう、という思いを強くしています。

悩みのタネは、別の分野では宝の資源になる

ー 棚橋:竹田さんのお話を踏まえると、皆さんも、サーキュラーエコノミーについて、様々な企業から相談を受けることも多いと思います。いくつか事例をご紹介いただけませんか。

加藤:横浜DeNAベイスターズさんからいただいた「折れたバットをアップサイクルできないか」というご相談は、木材を加工できる会社とのマッチングにも恵まれて、非常に興味深く関わらせていただいた事例でした。

野球選手にとって、バットは折れたら、もう「使えないもの」でしかないんです。でも、少し視点を変えたら「ファンにとっては価値があるはず」なんですよね。 そう考えて、折れたバットを使ってファン向けのグッズを作るワークショップ「Next Ballpark Meeting」が開催されました。
当日は私も登壇させていただき、皆さまのお話をお伺いしたのですが「カスタネットを作る」とか「応援フラッグの棒に使う」などといった、面白いアイディアがたくさん出てきました。まさに自分たちが掲げている「共創しながら、何ができるかを一緒に考えていく」そのものともいうべき体験でした。 今回の「crQlr Awards」も、共創のコンセプトが根底にある。またあの時のような、素敵な体験ができるのではと、とても楽しみにしています。

安居:サーキュラーエコノミーでよくあるケースが、ある分野にとっての悩みのタネが別の分野では宝のような資源になる、ということです。

その一例として、熊本県阿蘇郡南小国町にある、黒川温泉の「黒川温泉一帯地域サーキュラー・コンポストプロジェクト」をご紹介させてください。
黒川温泉には30の旅館があり、プロジェクト当時で年間で約100万人が訪れている観光地なのですが、そこから出る「生ゴミ」、そして景観づくりに力を入れているが故の「落ち葉」の処理に悩まれていました。
生ゴミも落ち葉も、観光地では「悩みの種」ですが、農業の分野では貴重な「完熟堆肥」になるのでは、と考え「生ゴミをコンポストで堆肥にし、その堆肥を農家さんに使っていただく、そして農家さんが育てた農産物を今後は旅館で使って、お客様に召し上がっていただく」という循環ができれば、という考えをベースにして、プロジェクトがスタートしました。

プロジェクトの主役は現地の旅館や農家の方々。皆さん一緒になって堆肥の切り返しを行うんです。
「手を差し込むと暖かい !!」なんてことを言ったりしながら、生ゴミや落ち葉の未活用の資源を完熟堆肥にしていく。そんな取り組みを通して、人間関係にも「有機的なつながり」が起こり、それが「発酵」して、環境負荷を軽減する取り組みが南小国町全体に波及していくという手応えも感じました。

https://youtu.be/6o7HtjE180w

この事例からもわかるのですが、サーキュラーエコノミーは、廃棄物を扱う以上、自治体の仕事にも大きく関わってくる。だからカギとなるのは間違いなく「官民の連携」だと思っています。そのためには、各ステークホルダーの情報共有が大事になります。黒川温泉のプロジェクトも「生ゴミや落ち葉がこれだけ出てます」と旅館から出てきた話を、皆で共有できたからこそ、自治体なども早くから連携を取り合えました。 もうひとつ大事なキーワードが「リジェネレート」すなわち「再生」だと思います。
サーキュラーエコノミーの推進的役割を果たしてきているエレンマッカーサー財団の「サーキュラーエコノミーの3原則」のひとつとして”Regenerate natural systems(自然の仕組みを再生する)”がうたわれていますが、この「再生」において、微生物との関わりは絶対欠かせなくなります。
いずれにしてもサーキュラーエコノミーを取り入れたビジネスを進めていく上で「自然ともう一度向き合う」あるいは「身近なところから自然の仕組みを知る」ことが大事になっていくのでは、と感じています。

マクティア:三菱ケミカル・クリンスイさんを含め様々な企業や組織と取り組んでいる「mymizuチャレンジ」についてお話しさせてください。これは、アプリを使って、楽しみながらペットボトルを何本削減できるかというチャレンジを行いながら、組織内の意識を変えるという取り組みです。

「プラごみ問題」は、世界中の課題として認識されていますが、日本はペットボトルはひとり当たり1年で200本というとんでもない数を使っています。
個人的には、日本は使い捨ての多い国だとも感じていて、世界から「使い捨て王国」と言われるのも仕方ないかなと思ったりもします。

でもよく考えてみると、日本は水に恵まれている国。
「必要のないものまで使ってしまっているのかな?」という感じるものに対して、私たちが仕組みをリデザインして、少しずつでも循環型社会を実現させていく、そうすることで、自然からの恵みを長く、心地よくいただいていける環境にしていけたらと考えています。 そのためには、例えば企業などの「コミュニティ」の規模から、人たちの意識を変えていくことが大切だと思って、「mymizuチャレンジ」にも取り組んでいます。
その結果、情報共有をグループ間でしつつ、環境への負荷を減らすための学びを始める、といったケースも増えてきたと感じています。 ただ、サーキュラーエコノミーのコンセプトに同意して「何かをやらなきゃいけない」とは思っても、「実際、どうやったら自分も取り組めるんだろう?」という段階で止まってしまうケースって、まだまだ多いかもしれません。どんなことでも形にすることは、難しいですからね。「こういう方向性に行かなきゃいけないよね」ということが見えてきたら、行動するためのメソッドもこれからは必要になってくるかもしれません。 いずれにしても、企業などのコミュニティの中で、使う素材や仕組みをリデザインする取り組みなどを積み重ねていくことで、一人一人が、環境を意識し、実際に行動することが当たり前の社会に近づいていくのかな、と思っています。

竹田:従来の世界が志向してきたグローバリゼーションは、「大量生産」を可能にしてきました。そしてこの大量生産こそがまさにリニアエコノミーが成立する大前提だったと思います。 グローバリゼーションの反対は、ローカリゼーション。
要するに「地産地消」です。
かつては誰もがこの地産地消型経済で生活してきたはずです。それも、先ほどの安居さんがおっしゃった事例のようなコミュニティレベルの小さな規模感で。 グローバル経済、すなわち線形型経済から、循環型経済へとシフトしていく時期が来ている今、そして今後、この「コミュニティ」が大事なキーワードになってくると思います。 小規模なクローズドの経済圏でサーキュラーエコノミーが回っていく、そしてバタフライダイアグラムの「循環の円」の範囲を少しずつ大きくしていくことが、今後は大事になってくるように思いました。

ー 棚橋:誰かの悩みは誰かの宝だったりする。だからこそ、情報共有も含めて、人同士が交流をしながら互いの課題を見出し、その解決策を考えていく。そういった、コミュニケーションがあれば変わっていく「楽しみ」を味わいながらサーキュラーエコノミーを取り入れていくことができるかもしれません。

そういった機会をこれから創出していければという思いを新たにしました。 【企業目線から語るサーキュラーエコノミーのツボとは? サーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち開催レポート[第二部]】へ続きます。

Speaker

加藤 佑

加藤 佑

ハーチ株式会社代表取締役 / IDEAS FOR GOOD 編集長

マクティア マリコ

マクティア マリコ

一般社団法人Social Innovation Japan, mymizu
代表理事・共同創設者 

竹田 達哉

竹田 達哉

株式会社三井住友フィナンシャルグループ
企画部サステナビリティ推進室長

安居 昭博

安居 昭博

Circular Initiatives&Partners
代表

棚橋 弘季

株式会社ロフトワーク
執行役員 兼 イノベーションメーカー

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