企業目線から語るサーキュラーエコノミーのツボとは?
サーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち開催レポート[第二部]
FabCafe・ロフトワークで開催中の循環型経済をデザインするグローバル・アワード「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)」。本アワードの関連イベントとして、2021年8月27日(金)に サーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち crQlr Meet up! vol.0 をオンラインにて開催。多彩なゲストたちがサーキュラー・エコノミー可能性について事例を交えて意見を交わしました。
本記事は、3部構成で構成されており、その2部になります。
続くクロストーク2では、実際にサーキュラー・エコノミーの実践に取り組んでいる企業の以下4名を迎え、事例紹介や取り組みを成功させるためのポイント、事業展開していく上で大切にしていることを語っていただきました。 ■登壇者 ・ループ・ジャパン アジア太平洋統括責任者 エリック・カワバタさん ・株式会社トリドールホールディングス サステナブル推進室長/ESG推進責任者 大下 浩平さん ・ウミトロン株式会社 広報マネージャー・人事 佐藤 彰子さん ・株式会社良品計画 生活雑貨部 住空間担当部長 湯崎 知己さん
1社では解決できないので、心でつなぐパートナーシップを
ー 棚橋:今までの皆さんのご活動のなかで、「ここがポイントだった」というところをお聞かせいただければと思います。
カワバタ:1950年代に大きな価値観のシフトがあり、容器は企業の「資産」から「コスト」に変わりました。当然企業としては、コストダウンのための努力をして、廉価で軽い容器を作りました。原料価値がないので、リサイクルしてもバリューチェーンは成り立たないんです。我々「LOOP 」は、廃棄物を少しでも減らすことで持続可能な社会を実現するために、リユース容器を利用した循環型ショッピングプラットフォームです。
リユース容器は強い素材で作るので、コストは高くなります。ですがそれを再利用し、減価償却することによって、販売コストを下げることが可能です。容器に力とお金かけることによってフードロスも減らせたり、賞味期限を伸ばすことにもつながるといいなと思っています。
大下:私たちのチャレンジは、「省エネ茹で釜」の開発です。我々が直営する「丸亀製麺」は830以上ある各店舗ごとに茹で釜を準備して、お客様に目の前で麺を茹でるところを見ていただいております。ただ、水や火力のロスが多いのが悩みでした。何とか省エネ化できないかということで2019年に取り組み、水道の水の使用量を30%削減し、電気の使用量を20%削減し、結果として令和元年度省エネ大賞を受賞しました。
ほかにも、外食事業者5社共同で、食品廃棄物をリサイクルする取り組みを名古屋市内で始めています。お店から出る調理くずや食べ残しを、5社で連携して、収集運搬業者に同じ便でゴミを運んでもらうことで効率化をはかりつつ、それらから作った飼料を餌にした鶏の産んだ卵を各店舗で使うというリサイクルループです。競合店ですが、力を合わせてループを作ったということが非常に注目をいただきました。
また、今回のコロナ禍で苦労されていらっしゃる方々に、我々の料理で元気になっていただたけたら、という思いから医療従事者や高齢者施設、子ども食堂などに暖かいうどんを届ける活動を行っています。
佐藤:世界的な人口増加、及びアジアを中心とした中間所得層の増加でタンパク質の需要が増えてきています。そこで注目されているのが養殖産業。タンパク源として魚が好まれてきている中で、海洋生物は1970年代から半減しているというショッキングなデータもあり、水産養殖が注目され生産量が世界的に伸び続けています。
産業として伸びている状況の中で、水産養殖をテクノロジーで支えていくことは社会的意義も大きく、これをサステナブルにしていくことが、人類にとって、食料不足やタンパク質不足を解消するキーになると考えて「持続可能な水産養殖」をテーマにして事業を行っています。
ウミトロンは、IoT やAIなどのテクノロジーを活用したサービスを現場に導入しています。そのひとつが「スマート餌やり機」。洋上に浮かぶ生け簀に設置する、餌が入れて使うIoT機器なのですが、スマートフォンからの遠隔操作で、どこにいても魚に餌やりをすることができる。さらにAIが魚の食欲を判定して餌を止めることも可能です。
こうした技術によって、無駄な餌を減らすことで環境に配慮できる上に、労働環境の改善も期待できます。さらに、消費者にウミトロンの技術で育てたサステナブルなシーフードを提供する事業にも力を入れています。生産から消費まで一貫性のある取り組みを行うことで、養殖を通して社会貢献をしていければと考えています。
湯崎:そもそも「無印良品」の成り立ちが、大量消費への疑問から、資源を無駄にせず、本当に必要なものを使い続けてもらいたい、というところからから生まれたブランドなので、改めて今の時代に自分たちの役割とは何かと考えながら進んでいるところです。
行っている事業は幅広いと思います。例えば、成田の第3ターミナルなどの公共事業デザイン、MUJI HOUSEブランドでの家の販売、フィンランドでは国と連携して自動運転バスを走らせてもいます。様々な事を、地域の方々とも連携を取りながら活動しています。それぞれのお店がそれぞれの地域と連携して固定経営土着化を推進をしております。
例えば、千葉県の廃校を借りて運営してる「青空市」があります。そこに不要になった廃棄物をあつめて、バザーを開催しています。
先ほどカワバタさんが「捨てる概念を捨てよう」ということをおっしゃっていましたけど、我々も「あるものをない方にお届けする」ことで、廃棄されるものを減らすといった活動もしています。
商品を売ったらそれで終わりではなく、製造の過程で出てしまった残飯や糸も、使えるものは使い、回収できるものは回収して、資源にしたり、商品に再利用したりという努力をしています。
熱くなりすぎることなく、消費者の目線を持ち続けること
ー 棚橋:事業展開していく上で大事にしてるポイントはなんですか。
湯崎:企業としての重要度は高いけれど、まだメソッドも確立されていない新しい領域を切り開いていく上で一番大事なことは、いいと考えたことは、まずはやってみるということに尽きます。何をするにしもお金も手間もかかりますし、いろいろなハードルも課題もあります。でも、そこで立ち止まってしまうと先に進まない。サーキュラーエコノミーの実践という、やってみたことによって見えてくるものがある。でも、一歩踏み込まないと何も起こらない。その最初の一歩が簡単なようで難しいですけれど。
大下:1つ目はスピード感。企業が大手になればなるほどリスクを考えて、やるべき時にやらない、やるとしても初動が遅れてしまう、という傾向があるように思います。私はそこを変えていきたいんです。食べ物屋って、目の前にお客様がいらっしゃるから、素早く美味しいと食べていただけるものをお出しすることが基本なんです。それと同じで、目の前に困っている人、困っている社会があるのに、リスクを持ち出して手を差し伸べないという社会は、変えていかなければならないと思っています。社会課題を解決するにはスピード感が大事です。
2つ目は、ボトムアップ。様々なソリューションが本部からスタート、要するにトップダウンにならないことを心がけています。困っている方に直接会っている現場の人たちの声がスタート地点になることを意識してやっています。
湯崎:大下さんのお話し、うなずくことばかりです。無印良品の基本方針に、「役に立つ」というシンプルな指針があります。その方法はさまざまで、企業だけではなく、生活者のみなさと交流を持たせていただき、無印として何ができるのかを模索しています。
最近、地方に出店した新潟県の直江津店があるのですが、直江津店長をお知らない人がほとんどいないくらい地域に入り込んでいるんです。たった一年で地域の困りごとから可能性を自分で見つけて、解決していくパワーを見て、僕らもそのパワーに乗っていかなければと思いました。本部がスピードを落としてどうするんだと。本部がお店の可能性や事業の拡大性を止めてしまうリスクもあると思いますので、僕らも気を引き締めないと思いました。
佐藤:消費者向けにサステナブルな魚を販売する事業のの例で言うと、自分もまた一消費者であるという「感覚」を忘れないことが大事だと思っています。サステナブルやSDGs、循環型社会が大切なことであることは理解していますけれど、毎日、食材を購入する時に、その考えを念頭において実践するのはやはり簡単ではないと思うんです。自分たちの「やりたい」という熱意だけで進めるのではなく、なぜ実践しにくい世の中になってるんだろう、という視点を持ちながらプロジェクトを作っていく重要性を痛感しています。
魚をスーパーマーケットで買う時だって、まず、新鮮かどうか、美味しいかどうか、安全性はどうかといったチェックポイントがありますよね。それらをクリアした上で、さらにサステナブルを考える。そうでなければ商品としては売れません。社会課題の解決のため、と熱くなっていくうちに、そういう「当たり前のこと」に気づかなくなってしまったら本末転倒です。そこを忘れないように心がけています。
カワバタ:廃棄物問題は社会的な目的を持ったビジネス、つまりソーシャルエンタープライズで、1社だけでは解決できないことでもあります。なので、幅広くステークホルダーを作り、コミュニティを作ることを心がけています。パート―シップを組んだステークスホルダーの方々と、リサイクルや洗浄といった作業を一緒にやると、心でつながることができるように思います。我々が取り組んでいるマテリアルリサイクルも始めた時は、アジア大西洋で私ひとりだけしかいませんでした(笑)。今、67人になりましたが、一緒に循環型社会を作っていきましょう、と話しかけながら続けてきた結果だと自負しています。
弊社の洗浄技術はすべて情報共有しています、リサイクル技術も過去のパートナーに全ての技術を無料で提供しました。特許を申請しないことで、社会のためになる技術を誰でも使えるようにする。そういった姿勢が様々な社会課題を解決していくためには大事なのではと考えています。
ー 棚橋:お互いにこんなことが協力できたら、みたいなことを思ってらっしゃる方いらっしゃいますか。
カワバタ:実は私たちは、すでに良品計画さんによくお声がけしています(笑)。
大下:うどんの茹で上がり後、一定の時間が経てば棚から下げざるを得ないので、どうしてもロスが出てしまう。今日、お話をさせていただいたことで、それらを魚の餌として提供できる可能性もあるのでは、と思いました。
佐藤:魚の餌には魚粉が使われているのですが、餌における魚粉の含有量どれだけ減らせるかは研究テーマの一つで、様々な餌が研究開発されています。おっしゃっていただいたように、うどんを食べた魚が将来育つかもしれないですね。
湯崎:連携となると同業者をイメージしがちですが、今回のような機会をいただくと、自分たちの「常識」とは全く違うところからいただく視点をいただき、それがきっかけとで新しいご縁が生まれることもあります。ボーダーを持たずに、このように交流する機会を大切にして、学ばさせていただきたいです!
【「自分たちが実現したいビジョン」だから追い求められるサーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち開催レポート [第三部]】へ続きます。
Speaker
エリック・カワバタ
ループジャパン
アジア太平洋統括責任者 Asia Pacific General Manager
大下 浩平
株式会社トリドールホールディングス
サステナブル推進室長 / ESG推進責任者
佐藤 彰子
ウミトロン株式会社
広報・マーケティング・人事
湯崎 知己
株式会社良品計画
生活雑貨部 住空間担当部長