「わたしにもできた!」これからの学びの空間づくり
〜CO-SHAソウゾウ プロジェクト成果発表会〜(前編)
文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。
そんなCO-SHA Platformでは、「CO-SHA ミートアップ vol.3」と題し、イベントを開催。今回は、「明日の校舎作り」に挑戦する「CO-SHA ソウゾウ プロジェクト」に採択された3つのプロジェクトによる3ヶ月間の活動成果発表と、アドバイザーを交えた座談会形式のふりかえりを実施しました。
前編となる本稿では、3つのプロジェクトの成果発表の模様をお届けします。
*本記事は、ロフトワークが支援する、文部科学省 学校施設設備・活用のための共創プラットフォーム 「CO-SHA Platform」のWebサイトから転載しています。
1)一般社団法人まなびぱれっと(板橋区立板橋第十小学校)小泉志信さん
「児童が研究し自立した学び手になるためのオープンスペース利活用空間設計」をテーマに進めてきた「オープンスペースを広場にしない!多目的スペース利活用促進プロジェクト」。まなびぱれっとの代表を務めながら、板橋第十小学校の教員でもある小泉さんが、同校のオープンスペースのより良い利活用に向けて、コミュニティ・マネジメントの観点からユースケースを示していこうと始めました。
「オープンスペースには、活用の自由度が高すぎる・活用方法が教員の力量に委ねられている・画一的な手法を想定しづらい・活用計画や指針を立てづらいといった課題がある」と語る小泉さん。実際、オープンスペースは、空間活用に関する教員の知識が不足している、多様な学びの提供に必ずしも最適化されていない、フレキシビリティを活かしきれていないなどの理由から、十分に活かしきれていない現状があったそうです。
そこで、「オープンスペースの活用例を示すことで、空間を活かした学びの手法が発展するのではないか」と考えた小泉さんは、オープンスペースの活用を実践する教員向けのワークショップを開催し、児童の発達段階に応じた空間活用の事例集を作成することにしました。
プロジェクトの実施体制
- メンバー:小泉志信、河野翔一、加藤陸人、髙橋彩希
- メンター:垣野義典先生
- 家具の使われ方調査:垣野研究室、倉斗研究室
- アンケート協力:倉斗綾子先生、倉斗研究室
- ワークショップファシリテーター:藤村琢己(一般社団法人FORA)
- ワークショップ参加者:板橋第十小学校教諭
活動実績/全体スケジュール
11月
- 教員へのインタビュー
- 教員の中にオープンスペースに対して想いのある人とない人の差があることが判明。当初は事例集を作成することで活用してもらえると考えていたが、そうすると教員の主体性を削ぐことになることも見えてきた。
- 児童の発達段階に応じたオープンスペース活用を検討する必要性があることもわかった。
- 倉斗先生と垣野先生を交えた検討会
- オープンスペースのコンセプトの検討
- 低学年:対話の場/中学年:創造の場/高学年:対話の場
12月
- 板橋第十小学校にてワークショップ1(場のコンセプト設定)を開催
- オープンスペースの意義と、配置する備品の持つ意味を説明し、各学年の空間イメージを作成しました。
- 家具を新しく入れる前に、各学年や学級で家具がどのように使われているか実態を把握するために、垣野研究室の学生が家具の実測や使われ方を記録しました。何時何分に、どの家具がどう使われているかも、児童の動きとともに校舎の平面図に記録しました。これがいわゆる「Before」調査です。
1月・2月
- 板橋第十小学校にてワークショップ2(児童の行動設定)の開催
- ワークショップ1で考えたイメージを軸に、実際にスペースを作成していきました。また、児童の学び型への活用方法についてインプットしたうえで、児童の行動設計を考えるワークショップを実施し、最終的に各学年のオープンスペースを完成させました。
- 家具を新しく入れた後の1月末に、再び、各学年や学級で家具がどのように使われているか実態を把握するために、垣野研究室の学生が家具の実測や使われ方を記録しました。12月と同様、何時何分に、どの家具がどう使われているかも、児童の動きとともに校舎の平面図に記録しました。これが「After」調査になります。
「全職員にコミュニティ・マネジメントの概念をインプットしてから、実際に空間づくりに着手できたのはよかった。これにより、教員が空間づくりに対して当事者意識を持つことができ、日々の教育活動のなかでオープンスペースを積極的に活用しようとする姿が見られるようになったのは大きな成果だと思う」と語る小泉さん。
当初は事例集を作成することをゴールとしていましたが、プロジェクトのなかで実施した教員インタビューによって「試行錯誤する余地を残すことが、教員の主体性を引き出すことにつながる」「発達段階によってコンセプトを変えることが重要」だとわかり、途中で軌道修正した結果、このような成果につながったと明かしてくれました。
今後は、オープンスペースが生み出す効果を比較できるよう、他校での実施や継続的なデータ収集を検討していきたいそうです。
〜メンターの垣野先生より〜
今回、家具を題材にしたことで、先生同士のコミュニケーションを生み出したり、子どもたちの発達段階と家具の関係性について気づきを与えたりして、今後オープンスペースを自律的に活用していくための下地をうまくつくられたのではないかと思います。
場の使われ方としておもしろかったのが、「家具の置き場所」と「子どもたちの姿勢」、そして「学年」を掛け合わせると、本当に多種多様なフォーメーションができあがったんですよね。ドシッと床に座って対話できる場ができたことで、子どもたちに提供できる“時間の質”も大きく変わったのではないでしょうか。
2)IMPULS合同会社(湯沢学園)松田菜穂子さん
「学校図書館を拠点に本との出会いを町全体で支えるための『ラーニングコモンズ』」をテーマに進めてきた「人を想い・我を磨く、湯沢町みんなの夢みる学園図書館プロジェクト」。IMPULS合同会社の松田さんは、プロジェクトの舞台となった湯沢学園に自身のお子さんを通わせながら、学校運営協議会やボランティアにも関わっておられます。
地域が主体となり、学校に働きかけることでスタートしたこのプロジェクトでは、町内で唯一の公教育施設である湯沢学園内の学校図書館を拠点に、子どもたちの豊かな心を育み、すべての学習の礎となる「本」との出会いを、街全体で支えるためのラーニングコモンズをつくることを目指しました。
湯沢学園には、図書ボランティアはいるものの、学校司書が不在。また、全国に先駆けて10年前に設立された保・小・中一貫のコミュニティスクールであるにもかかわらず、図書館の利用者が少ないことから一般開放をやめてしまったという歴史がありました。「先生たちに負担をかけずに、子どもも大人も互いに学びあえる、コミュニティスクールの特色を活かした学校図書館をつくれないか」という想いがあったのです。
プロジェクトのゴールは、「読書量が自然と向上する空間があり、豊かな読書体験によって“人を想い、我を磨く”の教育目標を実現する」ことです。このゴールに向けて、松田さんの所属するIMPULSが事務局となり、湯沢町出身の司書や学校図書館司書経験者を「図書館づくりアドバイザー」や「学校図書館アドバイザー」として迎えたほか、保護者はもちろん、地元の子どもたちのために手を貸したい卒業生や地域住民など、多くの人々を巻き込みながらプロジェクトを進めていったという松田さん。「前半の2ヶ月は、地域と学校の想いのすり合わせに、とにかく時間をかけました」。
プロジェクトの実施体制
- メンバー:松田菜穂子、飯田哲也、ほか
- メンター:倉⽃綾⼦先生
活動実績/全体スケジュール
10〜11月
- 想いの共有と活動内容&場所の検討
- コアメンバーで現状分析や図書館を活用した教育のあり方などに関するブレスト&勉強会を実施
- 教育委員会・学校管理職・司書教諭と、現状認識合わせ&意見交換
- 子どもたちに“夢みる図書館”をアイデアシートに書いてもらう
- 町外の図書館へ行き、子どもたちの図書館像をアップデート
これらの結果、以下3つの活動の実施が決定。
- どこでも本棚(INPUT型)…図書館に入らなくても読書ができる場所をつくり、空き時間に本と触れ合うきっかけを生み出す。寄贈本を通じて、多様なジャンルの本に強制感なく偶然に出会えるワクワク感を醸成する。
- いつでも自由研究(OUTPUT型)…子どもたちの興味・関心に基づいた学びを広げる仕掛けとして、試験的にイベントを開催。また、アウトプットを共有する場として大型黒板を設置する。
- 図書館内の環境整備・整美…居心地よく読書ができる空間にするため、ユニット畳と本棚を設置。教室以外の居場所や学習スペースとなるよう、レイアウトを変更する。
プロジェクトの対象となる場所は、3つの“もったいないスペース(未利用空間)”に決まった。
- 7〜9年生の廊下にある「ユビキタススペース」
- 図書館横の三角スペース「閲覧ラウンジ」
- 図書館内の一角
12月
- お金をかけず、ものを設置・移動し、子どもの反応を観察
- メンバー内で寄贈本を募り、おすすめポイントを添えたポップを作成して設置しました。
- 「放課後ブックカフェ」をお試し開催しました。
- 子どもたちが作成したおすすめ本紹介シートを添えた閲覧コーナーを設置しました。
- 段ボールで掲示板や借りてきた畳マットを仮設して、子どもたちの反応を観察しました。
1月
- 寄贈本受け入れの拡大
- 町内在住の住民から広く寄贈本を受け入れ開始しました。
- 既製品の購入、家具の造作と設置
- 大型黒板・廃材を使った丸テーブル・一箱本棚を設置しました。
- 図書館内にユニット畳と本棚を設置しました。
- 昼休みに本に関するイベントを7回実施しました。
「授業時間外での個別最適な学びと協働的な学びのための空間(ハード)と機会(ソフト)の基礎をつくることができたことが一番よかった。また、ただの広場になっていた図書館横の三角スペースを “参画スペース”にできたことで、本を読んだり、掲示板を眺めたり、何かを書き込んだり、子どもたちの能動的な姿を見られる場になった。さらに、本の寄贈やイベントへの参加を通じて、保護者以外の地域の大人が学校づくりに関わる『関わりしろ』をつくれたことも大きい。先生との距離も近くなってきたように思う。たくさんの多様な人々が関わったプロジェクトだったこともあり、私たち自身が協働的な学びのおもしろさと難しさを体感できた4ヶ月になった」と成果を語った松田さん。
今後は、授業時間内での個別最適な学びと協働的な学びにつなげていけるよう、先生たちと連携を図るとともに、地域の大人の輪を広げながら、寄贈本の継続的な受け入れ・管理・配架レイアウトを更新し続ける体制づくりを目指していきたいそうです。
〜メンターの倉斗先生より〜
この取り組みが始まる前の三角スペースは、休み時間になると、子どもたちが鬼ごっこをして走り回っている場所だったのですが、取り組み後には、大人でも思わず足を止めてしまうような、すごく落ち着いた “留まるための場所”に変化していて、とても驚きました。
湯沢学園は、地域の人たちが学校のために本気で動いてくれる恵まれた学校です。まだ学校側は受け身な姿勢が見られますが、子どもたちが地域の人たちと一緒に動き始めているので、これから学校側も積極的に参加するようになったら、夢に見たカフェが実現する日も近いのではないかと期待しています。
3)日枝小学校 上部充敬さん
「ハッピーわくわく安心・安全改造計画」と名付けたプロジェクトに取り組んだのは、日枝小学校で学校事務職員を務める上部さんです。日枝小学校内にある支援教室「わくわくルーム」を舞台に、子どもたちとのワークショップを通して、不登校傾向のある子どもたちの学びや成長をサポートするための空間リフォームに挑みました。
わくわくルームは、「ここなら学校に通える」という子どもたちが、心のパワーを溜めたり、自分の気持ちや行動をコントロールしたり、自分のペースで学習したりするための教室です。そんなわくわくルームを、自分の力を発揮できる空間を子どもたち自身の手で創造すること、そしてその良さを一般教室へ広げていくことを目的として、プロジェクトはスタートしました。
子どもが主体となって、わくわくルームをどう変えていきたいかを話し合う「子ども会議」では、コンサルタントのちょん せいこさんがファシリテーターを務め、黒板やホワイトボードに子どもたちの意見を可視化。そこから導き出した「みんなが居心地の良い空間=くらい・しずか・わくわく」の定義をもとに、空間をつくって試しては改善していくことを繰り返したそうです。
子どもたちの意見が割れたときには、メンターの金子先生に相談して意見をいただいたことも。「『そこは何をしたい空間なの?』という金子先生からの問いをきっかけに、子どもも大人も見通しを明確に持てるようになった」と上部さんは振り返ります。
そんな活動を続けるうちに、隣の4年1組が「自分たちもわくわくルームのような空間をつくりたい!」と思うようになり、学校にあるものを集めて教室のリフォームをしました。この場所は、自分のペースで学習したいときや、協働的に学び合いたいときに活用されているそうです。
「プロジェクトのなかで印象的だったのが、わくわくルームの子どもが『4年1組、ちょっと見てくる』と、隣の教室をのぞきに行ったこと。自分たちのチャレンジに手応えと価値を感じ始めた象徴だったと思う。これからも成長し、変容し続ける子どもたちに合わせて、空間を変えていくチャレンジを続けていきたい」と上部さんは話すとともに、今回のプロジェクトの成果として、以下の5つを挙げました。
- 日枝小学校が大切にしている「生き生き日枝っ子」。このプロジェクトも子どもたちが話し合い、互いを尊重しながら、試行錯誤する経験ができた。
- プロジェクトに必要な予算組や手続きも、子どもたちが中心になって行った。
- わくわくルームから4年1組に取り組みが広がった。
- 子どもたちは一貫して「安心・安全」な空間づくりを探究し続けていた。校舎づくりにおいて、この概念がいかに重要であるかを、私たち大人に伝えてくれたように感じている。
- 子どもたちが外部の大人と連携しながら進めることができた。
プロジェクトの実施体制
- メンバー:上部充敬、新井栄子、小谷野雄大、本間優里
- ファシリテーター・プロジェクトマネージャー:ちょんせいこ
- メンター:金子嘉宏先生
〜メンターの金子先生より〜
子どもたち主体で進めていくうえで、どこまで介入すべきかを悩まれた場面がたくさんあったのではないかと思います。子どもたちは具体で考えます。これはとても重要なことで、具体で考えなければ空間はつくれません。私がアドバイスするときに気を付けていたのは、「あえて抽象的な問いを投げかけ、具体の裏にある本質的なものに気づかせてあげる」ことです。煮詰まったときには最初に思い描いていた“ありたい姿”に立ち返らせてあげるのは重要だと感じました。また、自分のやりたいことと集団のやりたいことを擦り合わせていくのは、これから社会に出たら一番求められる力であり、今回のプロジェクトは自然とその力を鍛えられるものになったのではないかと思います。
後編では、今回の発表を受けて、CO-SHAアドバイザーの先生方を交えた座談会の模様をお届けします。