“無責任”な会話から、何かが生まれる場『喫茶シランケド』
大阪・心斎橋の一室が笑いと変な熱狂で溢れた一日。行われていたのは、イベント「喫茶シランケド」。
ついつい交わりたくなるような、面白そうな出来事、人の集まり。
こういったことは、無責任な会話から始まったりしています。
「私ら一緒にやったら絶対おもろいことできるで、知らんけど」
関西人が言い放つ、魔法の言葉「知らんけど」。
「成功」するかどうかは知らんけど、面白そうやしやってみようやの軽いノリ。所属や分野の垣根をヒョイっと越えて、そんな仲間が生まれてくると、自ずとワクワクする社会に繋がるはず。
様々な企業や教育機関、行政や地域の課題と向き合い、関わる人々が持つ創造性の力を結集して、新しい価値を生み出すプロジェクトに取り組んできたロフトワークが始める喫茶店「シランケド」。
堅苦しいことはおいといて、面白そうやし繋がりましょうやと、人と人が出会う場所。
「知らんけど精神」の聖地、大阪でゆるりと始めます。
これからやってみたいことがある人。何か面白そうなことが起こりそうだと思ってふらりと参加した人。このステートメントに共感したさまざまな思いを持った約50人の参加者が語り合った1日をレポートします。
取材・執筆:藤原 朋
写真:山元 裕人
編集:服部 木綿子(ロフトワーククリエイティブディレクター)
これまでの肩書きは捨てて、“無責任”にしゃべる
会場は、心斎橋PARCO内にあるコミュニティ型ワーキングスペース「SkiiMa(スキーマ)」。受付を済ませて会場に入ると、入り口すぐのテーブルを囲んで、何やら人だかりができています。
そこで行われていたのは、「肩書きアルファベットパズル」。箱の中からおみくじのように3つのアルファベットを取って、それぞれを頭文字とした今日だけの肩書きを考えるアクティビティです。アルファベット3文字で、CEOやCOOのような肩書きを、自分で(もしくは出会った誰かに頼んで)勝手に作ってしまおうという試み。
このアクティビティは、初対面の人同士が話すきっかけづくりに、という意図に加え、、普段の肩書きを外そうという「喫茶シランケド」でのマインドセットを表現しています。
よくある異業種交流会では、会話の入口が「どこどこ会社の誰かさん」になってしまいます。 立場をわきまえずに無責任に会話するには、肩書きが邪魔をしてしまいます。語尾に「知らんけど」を付けるように、軽やかに未来を作るチームを目指したい、単なる交流会で終わらせずに、プロジェクト化することにこだわりたい…。今回は、さまざまなアクティビティという形で、何かが生まれる種が蒔かれた形となります。
やりたいことがあれば、気軽に言い出せる場所に
今日だけの肩書きを作ったり、ドリンクを片手にくつろいだり、参加者が思い思いに楽しんでいると、マスター4人によるシランケドトークが始まりました。
今回のマスターは、ロフトワークからは、FabCafe Osaka(仮)準備室に取り組むプロデューサー小島和人(ハモ)と、ローカルのコミュニティづくりに携わってきたクリエイティブディレクター服部木綿子(もめ)の2人。
さらにゲストマスターは、本屋を街に開放し、あらゆる垣根をなくした居場所づくりに取り組む大阪・天王寺の本屋&CAFEスタンダートブックストア店主の中川和彦さんと、今回の会場であるSkiiMaにて「好きと好きの間に」をコンセプトに場づくりを行う齋藤伸吾さんです。
マスターの自己紹介を済ませると、「皆さん今日はなんで来たんですか。どういうつもりで来たんですか(笑)」と、さっそく会場に水を向ける小島。それに応じて服部がランダムに指名すると、参加者の皆さんが前に出て、マイクを持って思いを語り始めました。
ベビーシッター業をしていたという京都の女性は、「鍵っ子の子どもたちが『ただいま』と帰って来られるような居場所を地域で作りたい」とコメント。でも資金がないという彼女に対して、中川さんは「お金がかからんところを探してみたら?あるはずやで」「住み開きって知ってる?自宅の一部を開放する方法もある」とアドバイスしました。
他にも、「池田市でイベント運営をしているので、北摂エリアで連携して動ける仲間を作りたい」「玉造の古い長屋を再生した複合施設でイベントを開催するので、告知も兼ねて参加しました」など、さまざまな思いを持って参加した人が、マスターたちとトークを繰り広げました。
大阪らしい「場の寛容性」を生かして
次々とやりたいことを語り始めた人たちを見て、「何も準備していなかったのに、声を掛けた人たちがまるでサクラかのようにしっかりと話してくれて、すごくびっくりしました」と齋藤さんが冗談めかして話すと、小島と服部も笑って頷きます。
「まさかこんなに具体的な相談を皆さんが持って来てくれるとは思わなかったです。図らずもこうなった感じですね」(小島)
「何か小難しいことを言って集まるよりも、なんとなく面白そうっていう空気を作って、そこに人が集まったほうが、何かコトが起こっていくんじゃないかというイメージだけはありました」(服部)
さらに、服部が「大阪ならではの、コトの起こし方や面白がり方があるんでしょうか」と問いかけると、「大阪には許容する力、寛容性があるような気がする」と中川さん。
「大阪って、たこ焼きとかグリコとか“コテコテ”みたいなイメージがあって入りにくいように見えるかもしれへんけど、入ってみたら基本的にウェルカムなんですよ」(中川さん)
そんな大阪のカルチャーが滲み出ている場だからこそ、突然指名された参加者の皆さんも、気負わず自分の思いを話してくれたのかもしれません。
「喫茶シランケド」は一回きりのイベントではなく、大阪で何か面白いことをやりたい人たちが継続的に集まれる場にしていきたいと、マスターの皆さんは話します。
「大阪の人たちに、入れ替わり立ち替わり運営側に入ってもらって、一緒に場を作っていきたいですね」(服部)
「主体としてのロフトワークが薄まっていくくらいが面白い。皆さんと一緒に作っていくほうが、面白いプロジェクトがもっと生まれるんじゃないかと思っています」(小島)
「トークイベントみたいな雰囲気をぶち壊していきたいですね。みんながマイクを持って話し合っているような会になるといいなと思います」(齋藤さん)
さらに齋藤さんは、こんなふうに付け加えます。
「何かをしたいと思っている人だけじゃなくて、何かをしたい人を応援したいとか助けたいと思っている人もいると、もっと広がりが生まれるかなと思います。たまたま今日来た人も、いろんな人と話す中で、自分の興味にマッチすることや自分も一緒にやりたいことに出会ってくれるとうれしいですね」(齋藤さん)
目的はなくてもOK。なんとなく喫茶店に足を運ぶような感覚で
トークの最後には、鉄道会社で働く傍ら、ミナミでフリーコーヒーイベントなどを開催している「場リスタ」の前川壮太(まろ)さんが、参加者と一緒にコーヒーを淹れる「始給式(しきゅうしき)」を行い、参加者が自由に交流するフリータイムへ移行しました。会場のあちこちで、自然に会話の輪が生まれていきます。
ロウソクに火を灯し、その火が消えるまでの約10分間だけ相談できる「ロウソクの火が消えるまで相談会」では、「最近火がついたこと」「最近燃え尽きそうなこと」などのテーマでマスターの小島が相談に答えました。
始給式が終わった後のフリーコーヒーのエリアでは、参加者同士でコーヒーを淹れあう姿が。会話のきっかけになるだけでなく、提供する側に回ることで運営側の目線になってみるという仕掛けでもあります。
参加者の人たちに話を聞いてみると、大阪だけでなく京都や兵庫から足を運んだという人もたくさん。トークイベントで「地域の子どもたちの居場所を作りたい」と話していた京都の女性は、奈良で小中学生のための場づくりをしている同世代の女性に出会えたとのこと。他にも、フェミニズムに関する作品を制作しているアーティストの方は、「ジェンダーに関心のある人と話ができた」と笑顔で語ってくれました。SNSの広告で見かけ、イラストが可愛かったからという人や、普段から「知らんけど」って言葉が好きだから来てみたという人も…!明確な目的意識を持たずしても、ふらっと来れる気軽さも、「喫茶シランケド」が醸す軽やかな空気の特徴かも知れません。
同じ興味・関心を持つ仲間と出会えたり、自分とは異なるバックグラウンドを持つ人と話すことで視野を広げられたり。肩書きにとらわれずに“無責任”に語り合うことで、何かが起こりそうな種がぽこぽこと生まれていく様子を目の当たりにして、とてもワクワクした気持ちになりました。