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諏訪 光洋, 林 千晶 2022.11.07

知られざる地域の魅力、期待膨らむQ0の可能性
Q0設立記念パーティー レポート

株式会社日建設計、株式会社ハチハチ、株式会社ロフトワークの3社は2022年9月9日、地方と都市の新たな関係性をつくる新会社「株式会社Q0(キューゼロ)」を設立しました。

「地方と都市の新たな関係性」とはどのようなことなのか、この新事業に建設業界の最大手・日建設計が関わる意図とは何か。9月28日にSHIBUYA QWSで開催されたQ0の設立記念パーティーでは、そんな疑問と期待を抱えた参加者を前に、代表・林 千晶をはじめとする面々がトークを展開。まだ多く知られていない地域の魅力とQ0の可能性に期待が膨らむパーティーとして、大いに賑わいました。

取材・文:吉澤瑠美
写真:村上大輔
編集:鈴木真理子

「これまでの経験や仲間が活きる」20年ぶりのスタートラインにエール

左から: 伊藤穰一さん、林千晶 

秋田県に拠点を置く映像制作会社、アウトクロップによるイメージムービーからパーティーはスタート。渋谷に集う私たちには新鮮にも、そしてどこか懐かしくも感じられる光景ばかり。歓談に沸いていた会場もだんだんと静まり、映像に目を奪われる様子が窺えました。

オープニングにはQ0 代表取締役の林 千晶が登壇。お祝いに駆けつけた伊藤穰一さんを呼び込み、クロストーク形式での賑やかな幕開けとなりました。22年前、林が共同創業者として立ち上げたロフトワークの設立時にも立ち会ったという伊藤さんは「目の輝きやパワフルさは当時と変わっていない」と回想しつつ、「20年前と違ってパーティーにたくさんの人が集まってくれるようになった」と会場を見渡します。「これから新しい仲間と新しい場所で新しいことを始めても、これまでの経験や仲間を忘れず今後に活かしてほしい」とメッセージを送りました。

東北・北陸で始まっている新しい動き。今、地域が求めているものとは?

左から:増山 武さん、磯貝 健さん、 岡本 奈留美さん

トークセッション第1部は「Listen 地域からの声」と題し、公立大学法人国際教養大学の磯貝 健副学長、株式会社米三 常務取締役の増山 武さんが登壇。モデレーターに日建設計 岡本 奈留美さんのもと、それぞれ秋田と富山での新しい取り組みについてお話を伺いました。

AIUは2004年に開学した秋田県の公立大学。全ての授業が英語で行われ、1年間の留学が卒業要件に含まれているという厳しい学校ですが、学生たちはそれを理解した上で「何かできそう」「自分を変えられそう」と全国から集まっています。今や東大・京大を抑えて日本一の難関大とも言われるAIUですが、あくまでも「偏差値だけで騒がれても困る。やる気のある学生に入学してほしい」と語る磯貝氏。地域との連携を教育の中心に据えており、産学連携で地域の課題解決を図るデザインラボの活動も盛んです。卒業生の中には、秋田県内で起業し、秋田を拠点に活躍する卒業生もいるとのこと。

創業174年という歴史を持つ富山の家具店・米三は、家具の循環を体感できる複合施設「トトン」を2022年9月にオープンしました。ライフスタイルの変化、そして新製品の登場に伴って家具の廃棄が増加する中、家具のアップサイクルを富山の文化にすることを目指してプロジェクトが始動しました。米三の物流倉庫をリノベーションしたトトンの1階には資源循環を軸に回収・再生・販売の3つのコンテンツを展開、2階にはカフェ・食堂とコワーキングスペース、フォトスタジオを開設し、マテリアルを介して、地域と都市、企業とクリエイターのマッチングを目指しています。「今後、トトンを起点にホテルやサウナなどまちづくりにつながる動きが起これば」と増山さんは展望を語りました。

岡本さんは「地域と聞くと保守的、閉鎖的というイメージを持ちがちだが、どちらも先進的でパワフル」とコメント。地域で事業を行うメリットを両者に尋ねたところ、増山さんは「良くも悪くも、どこへ行っても知った顔に出会う。何かやりたいと熱量を持つ人が集まりやすい」と答え、「自分たちの活動が正しいかどうか、俯瞰し応援してくれる人が外から入ってきてくれたらうれしい」と述べました。また、磯貝さんは「AIUの学生は秋田のポテンシャルを自分で見つける力がある。東京の企業の皆さんには学生が何かを始めるための場、機会をぜひ与えてほしい」と呼びかけました。

Q0が地域やパートナーと事業をおこす理由、地域をテーマに掲げる理由

左から:諏訪 光洋、林千晶、大松 敦さん、山口 有希子さん

第2部は「Design&Zero Energy Q0で目指す社会」として、Q0の立ち上げに携わった日建設計 代表取締役社長の大松 敦さん、ロフトワーク 代表取締役でありQ0 取締役の諏訪 光洋、Q0 代表取締役の林が登壇。パナソニック コネクト株式会社 執行役員常務 CMOの山口 有希子さんをモデレーターに迎え、Q0の全容を紐解きました。

まずは誰もが気になっている「Q0とは何か」について。林は「これまでロフトワークとして全国と仕事をしてきたが、声をかけても反応のない地域は少なからずあった。これまでのプロジェクトが自ら波動を持つ『動脈』のサポートだとしたら、これからの20年は『静脈』に耳を傾けたい。リアルな地域を見て、都市と結びつけた新しいデザインがしたい」と決意を表しました。

続いて山口さんは、日建設計、ロフトワーク、ハチハチの3社で新会社を立ち上げた理由を質問。諏訪は、6年前にロフトワークが岐阜県飛騨市で立ち上げた株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)を例に挙げ、「ヒダクマはパートナー企業とともに立ち上げ、カフェという形で地域に場をひらき、地元の職人や東京の建築家との共創で事業を成長させてきた。次に『静脈』へアプローチするなら、プロジェクトマネジメントの先輩であり、空間づくりのトップランナーである日建設計の知見が欠かせないだろうと考えた」と協業の経緯を説明しました。

それに対し、大松さんも「日建設計は自分たちで何でもやってきたが、これからの社会ではそれが障害になることもあり得る。『会社をひらく』という体験や機会を広げたいと考えていた」と好意的な反応。コロナ禍を経て都市から地域へと位相が変わっていること、高速道路や新幹線のように大きなものをつくって社会課題を解決する時代ではないことを挙げ、「ロフトワークや林さんと組んだら面白いことができるんじゃないかな」と期待を寄せました。

最後に、Q0設立にあたっての思いを3名がコメント。大松さんは岐阜県瑞浪市の中学校でのゼロ・エネルギー事例を挙げ、「Q0と関わった人々がその経験を次に生かし、世の中で活躍できるようにしたい」と抱負を述べました。また、諏訪は「才能のある若者の多くは地域に注目している。地域には歴史があり、物価が安く、価値が多く眠っている。Q0にいっちょ噛みして、面白いことをしていきましょう」と会場に呼びかけます。そして林は、このパーティーに秋田から駆けつけたという若きプロジェクトパートナーらを紹介し、「彼らと話をしていると自然と笑顔になる。彼らのためにも赤字企業にするわけにはいかない。Q0を定型のビジネスモデルに当てはめることは難しいが、我々なりの形で事業を軌道に乗せていきたい」と宣言し、沸き起こる拍手とともにトークセッションを締めくくりました。

五感で触れる地域の魅力。交流と関係性をひろげるQ0に膨らむ期待

会場では、いぶりがっこやじゅんさいなど秋田の食材を使用した軽食がドリンクとともに振る舞われ、歓談にも花が咲きます。秋田県大仙市出身のシンガー・ソングライター、青谷明日香さんがキーボードでの弾き語りを披露すると、その澄み渡るような歌声に会場の誰もが聞き入りました。スクリーンには秋田県の日常の風景を収めた映像作品「True North, Akita.」が投影され、演奏と映像がリンクして表現する秋田県の美しさに、来場者は胸を打たれました。

青谷明日香さんによる演奏の様子

クロージングでは日建設計 常務取締役でありQ0 取締役の奥森 清喜が企業パートナーメンバーを紹介。パナソニック株式会社の仙田 圭一さんは「当社は大量のモノを世に送り出してきた企業なので、サーキュラーなものづくりは真剣に考えている。ぜひ一緒に取り組んでいきたい」とメッセージを送りました。奥森は引き続きパートナー企業を募りつつ、「さまざまな交流を生みながら、地方や都市との関係性を考えていきたい。さまざまな活動でお声掛けしていくので、ぜひ積極的に参加してほしい」と呼びかけました。

帰りには、秋田市の亀の町ベーカリーによるココナッツメレンゲクッキーがお土産として配布され、参加者は地域への思いとともに持ち帰りました。このパーティーによって疑問がますます膨らんだという方もいるかもしれませんが、同時に期待もますます膨らんだのではないでしょうか。各々持ち帰った種が芽吹き、Q0とのコラボレーションによって全国各地で花開くことを期待するばかりです。

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す