
大学ブランディングを成功に導く
志願者に選ばれる大学をつくる事例4選
変革期を迎える大学経営とブランディングの重要性
18歳人口の減少により、2040年には大学入学者数が現在の約8割まで減少すると予測される中、大学間の競争は一層激化しています。文部科学省の高大接続改革により教育の質的転換が求められる今、偏差値競争だけでは生き残れない時代が到来しました。
このような環境下で、持続可能な大学経営を実現し、志願者から「第一志望」として選ばれるためには、戦略的なブランディングが不可欠です。しかし、多くの大学では、その重要性を認識しつつも、具体的な取り組みに着手できていない、あるいは効果的なブランディング戦略を構築できていないのが現状です。
ブランディングへの取り組みが十分でないと、志願者に選ばれる明確な理由を伝えきれなかったり、そもそも何が大学独自の魅力になりうるのかがわからないといった状況に陥りがちです。また、大学の理念やビジョンが組織内にも浸透せず、組織力の向上にも課題を抱える場合も。さらに、広報コミュニケーションの顔とも言えるWebサイトにおいても、訪問者にとって魅力的な体験を提供できないことにも繋がります。
こうした課題を解決するために、自学の独自性や教育理念を捉え直し、ステークホルダーとの深い関係性の構築を目指す、戦略的なブランド構築とその実装が重要です。これにより、競合との差別化を図り、持続的な成長が可能になります。
本記事では、大学ブランディングの4つの成功事例を紹介。成果を導き、志願者に選ばれる大学をつくるためのブランド戦略のポイントを解説します。
千葉工業大学:グローバル展開を見据えたブランディング

1942年に創立された千葉工業大学は、「世界文化に技術で貢献する」を理念に掲げ、ロボティクスや人工知能、宇宙工学などの最先端分野で知られる大学です。2023年に伊藤穰一氏が学長に就任し、次世代IT人材育成とグローバルリーダー輩出を目標とした大学変革を推進してきました。
特に、海外パートナーの開拓強化が重要戦略として位置付けられており、国際的な認知度向上とブランド力強化が急務となっていました。
その実現に向け、2024年1月より世界的デザインスタジオ「Pentagram」と連携したリブランディングプロジェクトを開始。その一環として、ロフトワークの支援のもと、日英両サイトのWebサイトリニューアルと日本語ロゴタイプの策定を実施しました。
新Webサイトでは、単なる大学紹介にとどまらず、研究のビジュアルや社会的成果を前面に押し出すデザインやコンテンツを制作。ファーストビューには研究の魅力にフォーカスした動画を配置し、「ユニークでエッジの効いた工業大学」としてのブランドイメージを確立しました。
主なアウトプット
- 日本語ロゴタイプの策定
- 日英両言語でのWebサイト全面リニューアル
- 「学長だより」の新設など、発信力強化のコンテンツ設計


椙山女学園大学:歴史を未来へ継承するパーパス駆動型ブランディング

1905年開校の「名古屋裁縫女学校」を起源とする椙山女学園大学は、「人間になろう」を教育理念に掲げ、約120年に渡り女性教育を実践してきました。しかし、女性が社会で活躍することがスタンダードになりつつある社会において、女子大学教育の意義を見つめ直し、自学の提供価値を問い直す必要がありました。
また、大学運営の側面でみても、東海地方における大学間競争の激化と18歳人口減少により、多くの生徒を獲得することは課題であり、独自性を明確に発信する必要性が高まっていました。
そこで、120年の歴史を振り返りながら、現代社会における女子大学教育の意義を問い直すブランディングプロジェクトを実施。ロフトワークは、パーパス策定から、Webサイトリニューアルを含むコミュニケーション施策まで包括的に支援しました。
ブランド構築にあたっては、大学の歴史を紐解きながら、教職員・卒業生へのインタビュー、社会で活躍する女性実践者への取材、現役女子学生への調査を実施。これらの知見を基に、クリエイティブコンセプト、広報コミュニケーション戦略、価値創造メカニズムなどを策定。教育理念を柱に、社会やステークホルダーに向けてより深いメッセージを届けていくためのブランディングの基礎を築きました。
主なアウトプット
- パーパスとブランディング設計書の策定
- タグライン「私を選ぶのは、わたし」の開発
- コミュニケーションマーク(VI)のリニューアル
- 大学Webサイトのリニューアル
- タグラインを反映した新規コンテンツ制作


デジタルハリウッド大学:第一志望校化を促す体験シナリオの設計

2005年開学のデジタルハリウッド大学(DHU)は、「Entertainment. It’s Everything!」をバリューに掲げ、デジタルクリエイティブ分野の最先端教育を推進していました。しかし、日本の偏差値重視の受験環境において、受験検討者にとって「第一志望」として選ばれにくい状況が続いていました。
そこで、偏差値競争からの脱却を目指し、受験検討者の「迷い」をきっかけとした体験シナリオを設計。コンセプトブックとWebサイトリニューアルを通じて、志望校決定プロセスに介入するブランディング戦略を実施しました。
特徴的なのは、Webサイトのファーストビューやコンセプトブックの冒頭で、印象的なテキストメッセージを訴求し、志望者の“受験に対する価値観”を揺さぶるアプローチをとったこと。また、学生の実際の活動や作品を押し出すことで、入学後の具体的なイメージを訴求し、志望者が自分ごと化しやすいコミュニケーションを設計しています。
主なアウトプット
- 受験生向けのコンセプトブックの制作
- 大学Webサイトのリニューアル
- キュレーションメディア「NOW」の制作


沖縄大学:ビジョンを軸にした、共感醸成型のブランディング

1958年に沖縄初の私立大学として創設された沖縄大学は、米軍統治下での創立から数々の困難を乗り越え、「地域の人々の夢の実現」を使命として教育を提供してきました。しかし、進路選択肢の多様化により、偏差値競争を超えた魅力の発信が課題となっていました。
相対評価からの脱却を図り、大学のビジョンや価値観への共感を醸成するブランディングプロジェクトを実施。VIとWebサイトのリニューアルを通じて、地域密着型の教育理念を現代的な表現で発信しました。新たなロゴマークは「日本タイポグラフィ年鑑2021」に入選するなど、デザイン面での評価も獲得しました。
特に印象的なのは、沖縄県内の17歳の人生選択肢を広げることをコンセプトとした「17歳へ。」というコンテンツです。沖縄大学の卒業生に限らず、自らの生き方を切り開いてきた様々な人々を紹介することで、直接的な大学PRではなく、価値観や思想を伝える長期的なアプローチを採用しました。
主なアウトプット
- VIリニューアル(ロゴマーク制作)
- Webサイトリニューアル
- 新コンテンツ「17歳へ。」の企画・制作


成功する大学ブランディングの共通ポイント
これまでに紹介した4つの事例をもとに、大学ブランディングを成功に導くためのポイントとして、以下の共通要素が挙げられます。
1. 明確なパーパスとビジョンの再解釈
多くの大学には、建学の精神や教育理念が存在しています。(千葉工業大学の「世界文化に技術で貢献する」、椙山女学園大学の「人間になろう」、沖縄大学の「地域の人々の夢の実現」など)これらを再解釈し、ブランディングの核とすることが重要です。特に、大学のもつ歴史的背景を丁寧に紐解き、現代社会のニーズと繋げていくこと。これにより、普遍的でありながら時代性のあるメッセージや表現へと昇華させることにつながります。
2. ターゲット学生のインサイト把握
デジタルハリウッド大学や椙山女学園大学の事例では、徹底的なリサーチによりターゲット学生の価値観や意思決定プロセスを把握しています。偏差値競争に対するモヤモヤ、将来への不安、自己実現への憧れなど、深層心理に響くコミュニケーション戦略の構築が成功の鍵となりました。
3. 一貫したコミュニケーション設計とその実装
上流工程でブランド方針を定めるだけでなく、高品質な実装へと導くことも欠かせません。事例では、ブランド方針を起点に、VI、Webサイト、パンフレット、イベントなど、あらゆるタッチポイントで一貫したメッセージとデザインを展開しています。特に重要なのは、「ユーザー体験」の視点。デジタルハリウッド大学では、3つのタッチポイント間の連携により、段階的な志望動機形成を促進しました。
4. 長期的視点での関係性構築
沖縄大学の「17歳へ。」コンテンツのように、直接的な学生募集ではなく、価値観の共有や社会性に根差した発信を行うことで、多様なステークホルダーに対して長期的な関係性を築くきっかけになります。一過性のキャンペーンではなく、継続的なブランド価値向上を目指すアプローチが効果を発揮しています。
選ばれる大学へ、変革を導くために。
大学ブランディングの成功は、一朝一夕には実現できません。しかし、本記事で紹介した4つの事例が示すように、明確な戦略と継続的な取り組みにより、確実に成果を上げることができます。
重要なのは、自学の存在意義と教育理念を見つめ直し、再解釈した価値提案を行うことです。そして、受験生一人ひとりの人生選択に寄り添い、長期的な視点で関係性を構築していく姿勢が求められます。
18歳人口減少という厳しい環境下でも、ブランディングに成功した大学は着実に志願者を獲得し、持続可能な成長を実現しています。今こそ、貴学独自の価値を見つめ直し、戦略的なブランディングへの投資を検討してみませんか?
大学ブランディングやWebサイトリニューアルに関するご相談は、上流工程からのパートナー協働により、より効果的な結果を期待できます。ロフトワークの詳細な支援内容は、以下のページをご覧ください。
ブランド変革の一歩は、現状課題の整理から。貴学の課題と目標に合わせた最適なアプローチについて、まずは個別相談からスタートしてみませんか。
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