著者:鈴木 真理子

世界のFabCafeを実際に訪ねて「WHY」をぶつけるシリーズ、第一回目はバルセロナです。 (WHYをぶつけるシリーズとは何か、はこちらをみてくださいね)

バルセロナにいったことがある人で、バルセロナが嫌いという人に会ったことがありません。街全体がオープンで、通りを歩いている人が笑顔で、フレンドリー。個人的に、行くたびにここに住みたいなと強く思う街、それがバルセロナです。

そんなバルセロナのFabCafeを運営しているのがCecilia Tham(セシリア・タム)。FabCafe Barcelonaは、セシリアが4年前に始めたコワーキングスペース MOB(モブ – メイカーズ・オブ・バルセロナの略)の中にあります。

今、コワーキングスペースに入居しているメンバーは300人。エンジニア、デザイナー、建築家、スタートアップなどが入居し、私が訪問した時には、常駐しているメンバーの他にも、デザインシンキングを数週間学びに来たアメリカの大学生グループなど短い滞在のグループも多くいました。とにかく、多様な人たちがいて集中して仕事をしているけれども、休憩時間にはすぐに「何してる人なの?」と話を始められるフレンドリーさがあるのが、この場所なのです。

FabCafeに集まるクリエイターたち。この左側にレーザーカッターや3Dプリンターが置いてあります

注文はこちらのカウンターで。バルセロナは食べ物が本当に美味しい!!

先日、2つ目のMOBをオープンし、11月には3つ目のMOBもオープン予定と、コミュニティを広げているセシリア。彼女を一言で表すと、パワフルで太陽みたいな人。部屋に入ってきただけで、その場がパッと明るくなる感じです。大瓶に入ったサングリアを飲みながら「アルコール飲むと身体中が痒くなるんだけれど、そんなの気にせずのんじゃうのよ」と言い放ち、いやそれってアルコールアレルギーなんじゃと心配する私たちをよそに、がははははーと笑う、陽気なセシリア。この人にかかれば、大抵の心配ごとはなくなりそうな気がしてしまいます。二人の子供の子育てもしながら、いつも世界中を飛び回っているセシリアの話をじっくり聞いてきました。    

言葉が通じないバルセロナへ移住。そして、ミシン。

ー今までオンラインで話したりしても、じっくり話す機会がなかったから、こうやって顔を合わせて話ができるのすごく嬉しい!まずセシリアの生い立ちから教えて。

セシリア(以下C):香港で生まれて、マカオで育ったの。14歳でアメリカに留学して、その時は、生物学を勉強して医者になりたかったんだよね。でも、途中でデザインを勉強したくなって、ハーバード大学で建築を学んだの。大学で学位をとった後、南アメリカをバックパックで回っていたら、バルセロナ出身の”元旦那”に出会って、そのままバルセロナにきたんだ。それから14年間、ずっとバルセロナに住んでるよ。

 

なんと! 恋がバルセロナに導いたわけね。情熱的! FabCafeが入っているコワーキングスペースMOBには、たくさんのクリエイターが集まってるけれど、この場所をなぜつくることにしたの? 

C:初めてバルセロナにきた時、スペイン語も話せないし、知っている人もいないし、何をすればいいかわからなかった。建築事務所で働いたけれど、正直、あまり楽しめなくて。そんなとき、2006年に一番初めの娘が生まれて、仕事をやめて退屈そうにしている私に、元旦那がミシンをくれたの。

MOB1 の様子。東京と違ってスペインの人はゆるゆると仕事するんだろうな、と勝手な妄想をしていったら、皆さんすごい集中力で仕事してました。

え、ミシン? セシリアはキャラ的にミシンって柄じゃない気がするわ。

C:そうでしょ、だから彼は元旦那なわけ、ワハハハ。

 

ーえ。アハハ(ここ笑っていいんだよね)。

C:とにかく、その時初めてミシンを使ったのよ。で、その縫い目が、真っ直ぐだったの! 縫い目の間隔だってパーフェクト! もう「なんてクールなんだ、これなら私もできるじゃん!」って、とてつもない「自己肯定感」を得たんだよね。みんなもわかるんじゃないかな? 自分が作ったものを見ると「私はこれができるんだ!」って感じる。これってすごいよね。

それから、娘のために靴や服、いろんなものを作ったよ。娘は私が作ったものはあまり好きじゃなかったみたいだけどね(笑)。自分が子供のために作ったものを「これ私がつくったのよ!」って強烈に自慢してくる親や親戚っているでしょ? 私もそんな感じだった(笑)。で、そのとき思ったんだよね。「自分が感じたこの興奮を、他の人とシェアできるコミュニティを作ったらどうだろう?」って。それが一番はじめのMOBのアイデア。何をしたいのか迷っている人たちが、やりたいことを見つける場所になればいいなと思った。

MOB1は1F と地下スペースがあり、地下スペースはワークショップが行われる部屋がある

YouFab KickOff Event in Barcelonaの様子

FabCafeはミラーニューロンと同じ。他の人たちがやってるのをみて、自分もできると思える。

ーMOBにいるとみんながセシリアに声をかけてくるし、今のセシリアをみていると、スペイン語が話せず、友達がいなかった時代があったなんて信じられない。今、MOBには、どういう人たちがいるの? 

 

C: 今、メンバーは300人位。15%くらいはスペイン以外からきている人たちで、メンバーは、エンジニア、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、建築家、アーティストが多いよ。ほとんどがフリーランサーとして会社と働いていたり、スタートアップの人たちだよ。

MOB1の1Fはフリーアドレスゾーン。フリーランスの人が多い

MOB1の地下はスタートアップや建築事務所が入るほか、短期でワークショップに来ている学生たちで賑わう。

ーMOBをやりつつ、どうしてFabCafeも始めたの?

C:台湾でFabCafeを始めたティム(Tim Wong)が、私のハーバードでの同級生なんだけれど、彼からFabCafeの話を聞いたんだよね。で、2013年に東京のFabCafeに行って「これはすごいアイデアだ、絶対バルセロナに持って帰らなきゃ!」と思ったの。1年後には、FabCafe バルセロナをオープンしてた。

ーさすが、展開が早い! セシリアは東京で何を見てFabCafeを作りたいと思ったんだろう?デジタル工作機械? 

C:いや、FabCafeに置いてあるレーザーカッターは、大学で建築を勉強している時から使っていたから、私にとっては珍しいものではなかったよ。私が感動したのは、子供達がiPadに絵を描いて、レーザーカッターでマカロンに絵を彫刻しているのをみたとき。建築の学生の時はモデルをつくるためだけにレーザーカッターを使ってたけれど、FabCafeで子供たちがマカロンに使っている様子をみて、専門家がいなくても、誰でも自分の考えをビジュアライズできる、という可能性を示唆してると思ったの。

2013年のFabCafe Tokyoの様子。

バレンタイン時期はマカロンFabが人気。子供たちも体験。

「ミラーニューロン」って聞いたことある? 他者の行動を自分の脳内で「鏡(ミラー)」のように写し出す神経細胞なんだけれど、私はFabCafeはそういう場所だと考えている。カフェにいると、誰かが3Dプリンターやレーザーカッターを使ってものを作っているのを見るよね。そういう人をみていると、自分の脳の中では、まるで自分がつくっているかのように動きを再現するんだよ。もし自分の隣に座っている人が何かを作ってたら、自分だって作れるって自然に思える場所なんだよね。

コミュニティ作りで、大切にしている2つのこと

ー私がいるときも隣の人が3Dプリンターで家具を作っていたよ。確かに作っている人たちを間近にみていると、自分にもできるかもと感じるなあ。普段、FabCafeバルセロナではどんなイベントが行われているの? 

 

C: 毎月やってるのが、東京でも行われている「Fab Meetup」。バルセロナのクリエイターを呼んで、作っているものについてプレゼンしてもらってる。あとは、機械の使い方のワークショップ、そして「Expert in Residence」。アーティストやエンジニアを呼んで、1ヶ月くらい機械を使って様々な実験をしてもらって、レビューを発表してもらう、とかね。あとは、コンサートとか、バーベキューとか、ものづくりと関係ないイベントもやってるよ。

ーMOBではランチ時間になると、みんなが集まって一緒にサンドイッチを食べていたり、エントランスでもみんなが談笑しているのをよくみかける。私も数日いるだけだけれど居心地がよいと感じてる。いいコミュニティをつくるためのキーファクターってなんだと思う?

C:そうだね、2つあると思う。1番大切なのは、メンバーに積極的にコミュニティに関わってもらうこと。自分が持っている知識やスキルを他の人にシェアしてもらうことで、コミュニティへの所属意識を感じてもらうのが大切。そういう機会を与えるためにイベントを行っている。あと、私たち自身が人と人をつなげて、たくさんのマッチングをしてあげるのも重要ね。自分たちは、これをコミュニティマネージングと呼んでいる。

そして2番目に大切なのが、運営チーム。今、バルセロナのチームはすごくうまくいっている。彼らはここで単に働いているというのではなくて、ここの「魂」をつくってる人たち。

イベントマネージャーのLoreneはフランス人

Fabマシーンやワークショップ担当のSergi

Fabマシーンやワークショップ担当のDavid

コミュニケーション担当のBarbaraはイタリア出身

セシリアの人生のルール

C: 私には、人生で1つだけルールがあるの。それは、「自分をよい人間にしてくれる人だけに囲まれる」ということ。自分にとって有害な人とは、絶対にいたくない。だから、どんなに重要なクライアントだとしても、もし彼らが私を悪い人にする影響を与える人だったら、仕事はできないんだよね。一緒にいる人たちが自分をつくると信じているから、コミュニティ作りは私自身にとっても、とても大切だよ。

私は人間に限界を与えるのは自分自身だと思っている。動いているアリの周りに線をひくと、線をひいた中でグルグル動き回っている映像知ってる? 私たちは知らず知らずにそれをしている可能性がある。でも本当は線なんてない。自分自身で限界を作っているってことなんだよね。

ーうん、自分が思っている以上に、私たちは周りの影響を受けているよね。FabCafeバルセロナとMOB、どういう将来を描いてる? 

 

C:これからは、FabCafeのグローバルネットワークを使ったコラボレーションがもっともっと起きていくと思う。日本のデザイナーがスペインのエンジニアたちと一緒に働いたりね。

バルセロナは、FabLabバルセロナのおかげでデジタルファブリケーションで既に有名だし、デザインでも有名な町。そして、イノベーションとスマートシティのインフラもある。このバルセロナの町で、私たちが一番初めのFabCafeをつくることができて嬉しく思ってる。これからヨーロッパでももっとFabCafeが広がっていくと思うけれど、FabCafeバルセロナはヨーロッパのハブになりたいと考えているよ。

 

ーこれからますますヨーロッパにFabCafeは増えそうだし、楽しみだね。今日はありがとう!

センスのいいジョークが空間のいたるところにあり、遊び心に溢れているのがすごく素敵!

「どうしてFabCafeをやっているの? ーニコラスとリンチー (FabCafe トゥールーズ)に聞いてきた!」編はこちらからどうぞ。

鈴木 真理子

Author鈴木 真理子(Public Relations/広報)

大学卒業後、音楽誌や女性誌など5年間の雑誌編集を経て渡英。英国イーストアングリア大学で翻訳学修士を取得後、翻訳業界を経て、2012年よりロフトワークに所属。FabCafe主催のグローバルアワード「YouFab Global Creative Awards」の立ち上げメンバーであり、2012-2018の6年間メインディレクターを務める。他にもFabCafeを中心に、多様な文化とクリエイティブが混ざり合うグローバルプロジェクトやイベントを担当。現在は、ロフトワークのコーポレートPRのほか、FabCafe TokyoのPRを担当している。最近の日課は、「スタートレック」シリーズを必ず1話見ること。

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「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2024」内関連イベントに
Layout シニアディレクター宮本明里とバイスMTRLマネージャー長島絵未が登壇