世界のFabCafeを実際に訪ねて「WHY」をぶつけるシリーズ(前振りはこちら)、第2回目は トゥールーズです。「トゥールーズ」ときいて場所がぱっとわかる人はどのくらいいるでしょうか。私も、FabCafeができるまで全く知りませんでした。

トゥールーズは、フランスの南西部にある、フランスで第5番目の都市です。ヨーロッパの航空産業の拠点のひとつとして発展した街で、エアバスの本社があります。人口は45万人ほど、市街はそんなに大きくなく、1時間ほど歩けば端から端にたどり着けるちょうどいい大きさ。街の真ん中にはガロンヌ川が流れ、近くの大学生たちが昼も夜も川辺でおしゃべりをしたり、お酒を飲んでいたり、あぁ青春!な風景が見られます(一瞬、京都の鴨川みたいだな、とふと思いましたが、熱烈なキスの数はフランスのほうが多かった)。街並みはオレンジ色のような褐色で美しく、夕陽に映えるとさらにバラ色に輝くことから、「バラ色の町」ともいわれるそう。

美しいガロンヌ川。終始学生たちの笑い声が。フランスといえば、ということで、私たちもバゲットを買って川辺で食べました
ホテルからFabCafeに向かう途中にあったサン・セルナン・バジリカ聖堂。現存するロマネスク教会ではフランス最大の教会だそう

今年で7年の歴史をもつ、4000平方米の広大な敷地にあるコミュニティ

FabCafeトゥールーズは、2015年の9月に誕生し、FabCafeファミリーの中でも比較的新しいFabCafeです。フランスで2009年にできたFabLab、「Artilect FabLab Toulouse」の中にあります(FabLabとFabCafeってどう違うの?という方はこちらをご覧ください)。

FabCafeをスタートするメンバーには、FabLabのメンバーが多いのですが、既に存在するFabLabのなかにFabCafeができるのは、トゥールーズが初めて。一体どんな様子になってるかか、ドキドキしながら訪問しました。

FabLab Artilectにいってみると、まず4000㎡という広さに圧倒されました。敷地は外にある飛行機も入るらしい大きな倉庫と、建物部分の2つに分かれていて、それぞれかなりの大きさがあります。

Artilectの正面。この建物だけかなと思いきや、横にまわると巨大な倉庫が現れます
じゃーん、これが倉庫。あまりに大きすぎて反対側までいく体力と時間がありませんでした

ついにFabCafeとご対面!

そして… … 建物の入り口を入ってすぐのところにFabCafeがありました!
カフェというか、フランス式にカフェカウンターみたいな感じでしょうか。

FabLab Artilectsのメンバー数は、現在1000人以上(!) 。昼はアーティストや学生、夜や休日には、仕事終わりのメイカーがたくさん集まります。私がいたときは、アーティストやギークなエンジニア的な雰囲気の人たちが、仲間と一緒にゴリゴリ作っていました。FabCafeは彼らがものづくりの合間に休んで、談笑するときに使われているそう。みんなバーカウンターや、入り口のそばにあるミーティング・スペースでコーヒーを飲んでいます。入り口近くに位置しているためみんなが必ず通る場所になっていて、自然と顔見知りに声をかける人たちが多くいました。みんなの止まり木のような感じでしょうか。

ちなみにフランスでは「コーヒー」を頼むとエスプレッソが出てきます。日本じゃあまり飲まないけれどフランスでは美味しかった!
メニューはまだ飲み物のみ。食べ物は持ち寄り。この日は誰かが持ってきたケーキをもらいました

FabCafeトゥールーズを立ち上げたニコラスとリンチーは、実生活でもパートナー。コンピューターやロボットサイエンスの専門家であるニコラスは、自分でもバリバリものづくりをするエンジニア。台湾出身のリンチーは、英語とフランス語と中国語を操るマルチリンガルで、メンバーの皆から女将のように慕われています。この二人のバランスがあってこそ、この空間が成り立っているんだなあと思える息のあったカップルです。二人にFabCafeを作ることにしたのか聞きました。

アーティスト、デザイナー、建築家、会社やラボが出会える場所をつくりたい

ー普段はオンラインだけだったけれどやっと会えて嬉しい!まずは2人のバックグラウンドを教えて。

ニコラス(以下N): 僕は、コンピューターサイエンスの博士号をとったあと、アメリカに行ってモジューラー・ロボティックスのポスドクをやっていたんだ。そこで3Dプリンターやレーザーカッターの使い方を学んだんだ。

リンチー(以下、L):私は台湾出身で、大学の時にアメリカに留学して、コミュニケーションとパブリッックリレーションズを学部と大学院で勉強したの。その後、フランスにきてマーケティングを勉強したの。

 

ー今FabCafeが入っているFabLabはニコラスがスタートしたんだよね。

N:そう。大学で勉強している時からずっと、他分野の人たちも集まる場所が欲しいと感じていたんだよ。フランスでは、専門性がはっきりしていて人が横断することがあまりないんだ。アーティスト、デザイナー、建築家、会社やラボが出会える場所がほしい、あとはその人たちが使えるツールも用意したいと思ってた。プロジェクトを行うときは異分野の人たちと道具が必要だよね。そんなとき、留学先のアメリカでFabLabに出会ったんだ。当時はまだ世界にFabLabは30位しかない頃で、フランスにはなかったから、自分で作ることにしたんだ。最初は大学の中に作ったのが徐々に大きくなってきて、今場所に移動したんだよ。

L:私は、はじめボランティアとしてFabLabを手伝っていたの。今は、総務、経理、コミュニケーション、あとFabCafeを担当しているよ。

ーこんなに大きなFabLabだけでもすごいのに、中にFabCafeを作ろうと思ったのは、なんで?

N:毎年行われている世界ファブラボ会議で、FabLabのメンバーからFabCafeの話をきいたんだよ。僕たちも、メンバーものを作るだけじゃなくて、リラックスしたり、コミュニケーションをする場所が必要だったから、FabCafeのアイデアがとてもいいと思ったんだ。

僕らはすでにFabLabのグローバルのネットワークに属しているけれど、FabCafeのグローバルネットワークに入るのもすごくいいと思った。みんなが作ったものを、ここにいる仲間だけでなく各国の仲間に共有できるからね。ここでは、ともすれば自分のものづくりだけに没頭してしまうけれど、視線を外に写して、世界でものづくりをしている人たちとシェアするのはとても大切だと思う。

今はまだ、FabCafeはメンバーの人しか使えないけれど、将来的には建物の外のスペースにカフェを広げてメンバー以外の人たちも利用できるようにしたいと思ってるんだよ。

バイオ、ドローン、音楽、ロボット、建築……専門性を深めるラボがたくさん

ー常に出入りしている人の数が多くて活気があるね。メンバーは、どんな人たちがいるの?

N: アーティスト、エンジニア、建築家、機械工学の専門家、あとはスタートアップの人たちだね。FabLabの中には、小さいラボがあって、つくりたいと思うものがある人は、そのラボに所属するんだよ。今は、建築ラボ、音楽ラボ、ドローンラボ、ロボットラボ、バイオラボがあるよ。

 

ー自分が興味のある分野ラボに属すことで、仲間と一緒に深堀りできる仕組みがあるんだね。さっき各ラボの場所を回ってきたら、みんながつくっているもののレベルが高くて、驚いた。さすがFablabはものづくりをしている人の層が厚いなあって思ったよ。

N:トゥールーズは、航空機メーカーであるエアバスがある街というのが理由かもしれないね。エンジニアやデザイナーが多くて、作りたい人たちはたくさんいる。あと学生もパリに次いで多い街なんだよ。

結構な人数が集まっていたドローンラボの人たち

ミュージックラボの人たちは触れると音やリズムを奏でる楽器を製作していました

もちろんバイオラボも活動しています

外の倉庫には大きなCNCがあって建築ラボの人たちが製作中

建築ラボの人たちが建てたオブジェ

ー東京のFabCafeは渋谷という場所柄、10代-30代が多いんだけれどここはベテラン層、シニア層の人たちも多いよね。

L: 自分の知識や経験が、他の人たちに役に立つといいな、と人を助けるためにくる人たちもいるよ。ネットワークしにきてるっていうか、この雰囲気が好きみたい。自分で何か作りたいから、というわけじゃない人もいるのよ。お酒を飲みにくるために来ている人も、結構いるよ(笑)

 

ーものづくりをするかしないかは関係なく、人が集まる場になっているんだね。イベントはどういうイベントを行っているの?

N: デジタル工作機の使い方や、電子工作のビギナー向けクラスは、ほぼ毎日あるよ。みんな初めからFabLabのメンバーになるのでなくて、一番初めは、外部の人も参加できるイベントにくる人が多い。イベントでFabLabのことを知り、その後メンバーになるんだ(年間費は30ユーロ)。そして、夜に行われている初心者向けのクラスをとり、クラスを終えたら、自分自身でマシーンを使っていいんだ。みんな忙しいから、わかる人が教えられるようにしていて、1クラスで15人位のクラスになることもあるよ。

 

L: クラスの他にも、どこかのラボが何か飲み会みたいなのをやってるの。みんな食べ物や飲み物を持ち寄って集まってる。

 

N: あとは、FabCafeが行っているFab Meetupと同じで、毎月クリエイターが自分のプロジェクトを発表する「Super Monday」というイベントを開催しているよ。FabCafe Global のネットワークで、それぞれの拠点でどんなものづくりを行っているかを発表しあうイベントを行いたいと思ってる。グローバルでどんなものが作られているかを知るのは、ここのコミュニティの人たちにも刺激になると思うよ。

いいコミュニティのために必要な3つのこと

ーいいコミュニティを築くために大切なことってなんだと思う?

L: まず一つは、場所。みんなが来やすい場所にあって、大きさが十分なこと。ここに引っ越す前の場所は、大学のなかで小さかったけれど、この場所にきてメンバーがどんどん増えたの。

二つ目は、 人を歓迎する雰囲気と、あと歓迎するだけでなく、人を巻き込むこと。自分たちだけでなんでもやるのでなく、他の人たちを巻き込み、人の手をどんどん借りる。今、FabLabで働いているのは、4人で、3人がフルタイム、1人がパートタイム。この人数で回すのは難しいんだけれど、常に50人くらい毎日アクティブに活動しているメンバーがいて、彼らが私たちを助けてくれてるの。

最後に、”シェア”に対する皆の情熱かな。アルコールも食べ物もシェアしてしまおう、と(笑)もちろん「知識」もね。FabCafeトゥールーズのゴールは、私たちだけが利益を得ることじゃない。みんなに心地よい場所を提供して、休む場所をつくることだから。もちろんもう少し収入は必要だけどね、笑。

 

ーこれから、FabCafeトゥールーズをどうしていきたい?

N:ここ1年くらいの目標は、もっとたくさんのイベントを行っていくこと。他のFabCafeが何をやっているのかを、ここにいる人にシェアしたり、自分たちも外に向けて何をやっているかをイベントを通じて伝えていきたい。さっき言ったFab Meetupのグローバル版だね。

他には、トゥールーズの他のコミュニティとも連携していこうと思ってる。トゥールーズは、とてもインターナショナルな土地で、海外からきた人がたくさん住んでいるけれど、みんなどこに出かければいいか迷ってるんだ。FabCafeは、ローカルの人とインターナショナルな人が一緒に交わる場所になるはず。

あとはワークショップ。Fabは新しいテクノロジーだけれど、決して難しくないことをもっと多くの人たちに体感してほしい。FabCafeに置く家具もどんどん自分たちで作りたい。

 

ーこの場所でならFabCafeの家具を全部作ることができそうだね。

N:それから、FabCafeゾーンももっとよくするね!再来年くらいには、建物の外にもFabCafeを拡張し、メンバー以外の人たちもコーヒーを飲みにこれるようにしたい。そして、2018年には、世界FabLab会議がトゥールーズで開催される(下のビデオ参照)ことに決まったんだよ!たくさんの人がトゥールーズに訪れるエキサイティング年になるね。FabCafeもそこに向けて連携しよう。各地のFabCafeでどういうプロジェクトがつくられているのかもっと知って、ここに招待したいよ。

「どうしてFabCafeをやっているの? ーセシリア (FabCafe バルセロナ)に聞いてきた!」編はこちら

鈴木 真理子

Author鈴木 真理子(Public Relations/広報)

大学卒業後、音楽誌や女性誌など5年間の雑誌編集を経て渡英。英国イーストアングリア大学で翻訳学修士を取得後、翻訳業界を経て、2012年よりロフトワークに所属。FabCafe主催のグローバルアワード「YouFab Global Creative Awards」の立ち上げメンバーであり、2012-2018の6年間メインディレクターを務める。他にもFabCafeを中心に、多様な文化とクリエイティブが混ざり合うグローバルプロジェクトやイベントを担当。現在は、ロフトワークのコーポレートPRのほか、FabCafe TokyoのPRを担当している。最近の日課は、「スタートレック」シリーズを必ず1話見ること。

Next Contents

「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2024」内関連イベントに
Layout シニアディレクター宮本明里とバイスMTRLマネージャー長島絵未が登壇