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「いま、ロフトワークは完全変態の過程にある」「システムを変えるにはゴールを変えないといけない」など、ロフトワークの現在と未来について語った、伊藤穰一さん(MITメディアラボ所長)、北野宏明さん(ソニーCSL代表取締役社長)、そしてロフトワーク代表の諏訪・林の4名によるトークセッション。トーク後編の模様をお届けします。

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次世代のサバイバルキットは多様性

北野:複雑系の話なんだけど、あるシステムの中に、非常に強力なプレイヤーが現れて他を圧倒すると、そのシステムってものすごく不安定になるの。

有名な例を挙げると、イエローストーン国立公園では一度オオカミが絶滅した結果、激増した鹿が草木を食べ尽くして、生態系が崩れてしまった。ところがもう一度オオカミを入れたら、エコシステムが安定して、ランドスケープも回復した。生息する生物が多様であるほど、環境変動に対して強くなる。

予測の難しい時代だからこそ、ロフトワークのような多様性が大切だと思う。組織内部の多様性、クライアントの多様性、事業の多様性。それ自体がアイデンティティになると、すごく面白いんじゃないかな。

伊藤:今の話に付け加えると、自己適応も重要だね。自己適応型複合システムで何か不具合が起きると、内側から勝手にイノベーションが起きる。社会なら科学技術のイノベーションが起きて課題を解決する。人間の身体なら他の遺伝子や物質を使って治す。まっすぐ走れている時は多様性がなくても大丈夫だけど、不測の事態が起きてバランスが崩れた時は、多様性がないと修復できない。

会社でも、ビジョンを共有してまっすぐ走っている時は多様性の価値があまり分からないかもしれない。でも変動が来て不安定になった時こそ、多様性が求められる。ロフトワークは、クライアントにせよクリエイターにせよメンバーにせよ、彼らの自発的な行動を引き出して、ボトムアップで変えていくよね。
複雑なシステムはトップダウンではデザインできない。そもそも諏訪くんと千晶ちゃんのように、こんなにも個性の違う2人が経営していることも、会社にとって大きなプラスだと思う。

林:でも「文化や多様性がますます重要になる」という北野さんやジョイの話に共感する一方で、社会ではまったく違う物語が進行しているのも事実だよね。たとえば「人工知能やロボットの時代が来る」といったもの。その物語は直線的で、経済優先で、多様性がなく、最終的には一番優れたアルゴリズムを持つ者がすべての利益を取るように見える。
そんな、まったく異なる物語が共存しているような世界で3人は未来をどう見ているのか、最後に聞かせてください。

伊藤:とある中学生が赤い紙でストップサインを作って、グーグルカーの前で動かした。すると自動運転のシステムが混乱して、動けなくなってしまったんだって。なぜなら、「ストップサインを見たら止まらなければいけない」と人工知能が学習しているから。

人工知能は、人工知能的な人間の考え方を再現できるけれど、それでは創造できないものが世の中にはたくさんある。変わったもの、とんでもない考え方はイノベーションを生み出すためにすごく重要だけど、まだ機械には作り出せない。だから紙でストップサインを作って自動運転車を妨害するようなパンクな感覚が、これからますます重要になっていくと思う。

北野:人工知能は最適化された、最も効率的な方法で問題を解くもの。でも人間の最も優れている能力は、「問題を引き起こすこと」だと思うんだよね。問題が起こることで世の中が攪乱され、次のステージに進むことができる。変なもの、とんでもないのこそサバイブできるという傾向は、今後もっと顕著になると思う。

諏訪:今年になって父が入院したので、毎週末、病院に行っているのね。彼はもう自分では起き上がれない。それで「外に連れて行きたいな」と思って車いすに乗せようとするんだけど、慣れてないし僕よりも父の身体が大きいからうまく乗せられなくて。

介護の話になると、つい「ヒューマノイド介護ロボットを作ろうぜ」といった話になりやすい。でも僕は単純に父を車いすに乗せて、一緒に散歩したいだけなんだよね。

何もロボットを作らなくても、みんなで集まって話したらもっとシンプルで、すぐにできる解決方法を見つけられるんじゃないか。そういう小さなことをクリエイティブの力で解決していくことが、結局はもっと大きな課題を解決することにつながるんじゃないかな。

林:本当にそうだね。これからも「これをやったらジョイが笑うかな」とか、「これは諏訪くんのお父さんを助けるかな」とか、何より自分は楽しいかな、とか。等身大の着眼点で、喜びが増える小さなアクションをどんどん増やしていきたいね。ジョイ、北野さん。今日はありがとうございました!

(文:高橋ミレイ)
(編集:石神夏希、原口さとみ)

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