「いつも楽しそうだね」

私のFacebookの投稿を見る友人によく言われる言葉です。そして大体そのあとに続くのは「あれって仕事なの?」という質問。

ロフトワークでは、社内外の人々が交じり合い、仕事のような、遊びのような活動が自然発生的にたくさん行われています。多様な人が集まるところにはワクワクが生まれ、発見が生まれ、面白い仕事につながっていくのです。今日はそんな活動のひとつ、私が活動している「部活」についてご紹介します!

浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

Profile

渋谷菌友会 ~菌とともに歩む活動の軌跡~

2016年2月にスタートした渋谷菌友会。月1回のペースで開催してきました。参加者はロフトワーク社員以外にも菌に興味のあるメンバーが集まり、今ではグループ登録数60名。多様なメンバーが毎月集まって、美味しい料理とお酒に舌鼓を打ちつつ、自ら料理(実験)しながら、発酵食のワークをしています。

この1年間で色々と面白い活動ができたので、特に面白かったことや出会った素敵な方々をダイジェストでご報告します!

菌の力を一番体感できるものってなんだろう?

最近、各地で発酵イベントが開催されたり、テレビや雑誌で発酵料理が特集されたり、菌の力に注目が集まっています。

以前別のコラムでも紹介しましたが、バイオテクノロジーにかかる費用は大幅に下がり、今まで関わりにくかった企業や個人のクリエイターも参入しやすくなっています。「バイオ」というと、遠い響きに聞こえていましたが、実は、太古の昔から地球上にある「菌」もそのひとつ。世界のバイオテクノロジー研究者も微生物や菌に注目し、様々な興味深い研究が行われている例を知り、一気に興味が湧いてきました。たとえば、菌を体に振りかけて体臭をなくす商品が開発されたり、健康な人の排泄物を病気の人の腸に入れて腸内細菌で病気を治したとか・・・(!)

世の中の菌のブームとバイオテクノロジーのブームに直接相関関係があるかはわかりませんが、どうやら私たちの周りに空気のように溢れている菌(※)にはすごい力がありそうです。 ※空気中には常に何千種類もの菌類がいるらしいです

菌の力を一番体感できるのは食べ物ではないか?と考えていた時、吉祥寺の発酵レストラン「タイヒバン」でシェフをしていた森本桃世さんに出会い、一緒に発酵食をテーマにした部活を始めました。桃世さんは、「現代人の健康は食事を見直すことにあるはず!今まで発酵食に興味なかった人が発酵食を食べることでどう変わるか実験してみたい」というモチベーションでした。

みんなでやると楽しい! - 醬、糠

私自身、発酵食と聞くと、味噌、醤油、粕漬、ぬか漬け、甘酒など、なかなか渋いものばかりで、いざ自分で作るとなるとちょっと尻込みしていました。でも、みんなでやるとスッと入れました。

醬(ひしお)って知っていますか?お醤油に米麹、豆麹、麦麹を混ぜて発酵させるだけのシンプルな発酵調味料なのですが、材料を混ぜたら、あとは2週間おくだけという、作るのがすごく簡単で、しかもおいしい。皆で同じ瓶と材料を使って同時に仕込み、2週間後どうなるか?という実験をしました。

全く同じ条件で、同時に仕込んだものだし、それほど変化は出ないのでは?と思いながら、蓋を開けてみたら、見た目も味もメンバーによって全然違ったのです。

どれもおいしかったけど、混ぜるタイミング、置いていた場所だけでもすごく味が変わってしまう。すごく繊細で面白いものなんだという発見があって、この会をきっかけに部活がますます楽しくなってきました。

とりあえず乾杯!各々が育てた醬でそれぞれ一品を作り、みんなで試食。発酵調味料は料理が一気においしくなります。どれも味が違って面白かった。(メニュー:醤の焼きそば、醤のそばサラダ、醤の鮪漬けとモッツァレラ漬け、生春巻き、えのき茸のバター醤、醤チャーハン、イカリングの醤炒め、鯵のなめろう醤、醤バーニャカウダ、みたらし醤)

もうひとつは、糠(ぬか)。これも、同じ条件でみんなで糠床を仕込みました。

糠床は毎日手で混ぜなくてはならないすごく手のかかる発酵食品。だから、その人の手にいる常在菌や、保存している場所で大きく味が変わってくるらしいです。実際、一か月後に、私の糠床で漬けた野菜と、他のメンバーの糠床の野菜を食べ比べてみたら、味が全然違いました。(私は比較的混ぜるのをサボりぎみでした 笑)

体が欲しているものは、本能的に体が選べるらしい

菌友会の活動を通して、多くの個性的で情熱的な方々と出会うことができました。ここからは、そんな素敵な方々との活動をいくつか紹介します。

まず、桃世さんの紹介で先生として来てくれた、tabelの新田理恵さん。新田さんは各地に伝わる薬草茶を研究していて、ある回で、「自分の体に合った薬草茶をブレンドしよう」というワークショップをしてくれました。名前と効能を伏せた薬草の中から自分がおいしいと思うものを3つ選んでブレンドするのですが、これが本当に面白い。人によって「いい匂い」「美味しい」と感じる薬草が全然違い、メンバーそれぞれがブレンドしたお茶を試飲しても、自分のブレンドしたお茶が一番おいしく感じます。ブレンドしたお茶の効能を教えてもらうと、自分の体の弱い部分を補うものが多く、体は本能的に欲しているモノを選べるんだなと実感しました。

においや味の印象を書き留めながら、好きな葉を3種類選びました

自然酒を極める造り酒屋

千葉の造り酒屋、寺田本家さんもゲストで来てくれました。寺田本家は自然酒の醸造では日本でも独自の地位を築いているパイオニア。日本酒の麹から作っているという寺田本家のお酒は、他のどの日本酒とも違う、麹そのものの味と香りがガーン!と響く味です。ああ、日本酒はお米からできているんだなあ、発酵しているんだなあというのを実感できる日本酒です。

日本酒と、チーズの組み合わせを味わうワーク

フードアーティストと世界の発酵食

バイオテクノロジー領域における新しい価値創造の可能性を追求していく実験的なプロジェクト、BioClubという活動があります。BioClubのリーダーでバイオアーティストのGeorg Tremelから声をかけてもらい、世界的に活躍するフードアーティストのZack Denfeldが日本の発酵食に興味があるということで、彼の来日時にBioClubのメンバーとともにミートアップを開催しました。

Zackのプロジェクトは、科学者やエンジニアやシェフなどと共創しながら、食を通して、菌や微生物の多様性や現代社会に対するメッセージをユーモアさをもってポジティブに発信していて、すごくおもしろいです。たとえば、メレンゲは90%以上空気という性質を利用して、大気汚染された空気をメレンゲに閉じ込めて食べてみるという作品があるそうなのですが、普通に空気として吸っていると平気なのに、メレンゲとして味覚で感じた瞬間にすごくまずく感じるのだとか。いろんな空の味を試してみたいなと思いました。

当日は発酵料理の持ち寄り。Zackが日本に来る前に立ち寄ったノルウェーの発酵料理を持ってきてくれたり、豆腐ようを持参してくれた台湾出身のメンバーや、手作りの納豆やビールを持ってきてくれる人、日本の発酵調味料を絶妙に使った創作料理を作ってきてくれた料理研究家の方などがいたり、世界中の発酵料理を味わいました。

発酵居酒屋5

青山にある発酵レストラン「発酵居酒屋5」にメンバーと食事に行き、シェフの鈴木大輝さんに、半ば無理やり菌友会に加わってもらいました(笑) 鈴木さんは、毎年琵琶湖で地元のおばあちゃんに鮒ずしの作り方を学んでおり、メンバーに手作りの鮒ずしを食べさせていただくことができました。

仕込むときに、最後、子供の手で蓋をするとのこと。単なるおまじないなのか、子供の手の常在菌が鮒ずしをおいしくする等の理由があるのか気になりました。

無理しない。 楽しむ。 自由。

毎月無理せず楽しく続けていたら、ある日、ものづくりと社会の未来を考える「ファブ地球社会コンソーシアム」のワーキンググループに菌活の活動について共有してほしいと依頼をいただきました。多くの大手企業が参加している慶應義塾大学SFCのコンソーシアムに、こんな緩い部活でいいのか!?と、ひやひやしつつ参加してきましたが、無理せず、緩く続けている活動というところが、実は大事なポイントなのではないかと思うようになりました。

社員に限定せず、それぞれに自由意志で参加し、人が人を呼び、新たな化学反応を起こす。最初は桃世さんと相談しながらお題を出していたのが、メンバーからお題が出たりFacebookのグループでも様々な話題や相談で盛り上がっています。

コンソーシアムで印象的だったのは、現代人は「育てる」という活動に飢えているのではないかという意見。確かに、醬を作った時、日々手を加えて育てる作業は単純に楽しく、毎日混ぜることが苦ではなく、料理も丁寧になりました。子供好きでも動物好きでもないし、観葉植物の世話もすごく適当な自分ですが、ある種の愛着すら感じました。

美味しいものの力はやっぱりすごい

とはいえ、ここまで楽しくみんなが楽しみに続けてこれたのは、何を言っても桃世さんのおいしい料理があったからだと思っています。良い活動と良いコミュニティには必ず良い料理がある!

薬草茶の回では、薬草を使ったお弁当を作ってくれました!
甘酒をテーマにした日は、甘酒を使った料理の数々!(天然あさりの甘酒クラムチャウダー/甘酒酵母の泡菜/甘酒酵母のあんぱん/イカと菜の花の酒粕クリーム煮/ミートローフ/甘酒プリン)

ここまで1年間の菌友会の活動を紹介してきました。まだ具体的に菌にどのような力があって、部活を始めた前と後で自分の体にどんな影響があったかなどの検証はできていませんが(笑)、発酵料理は表現できない美味しさがあるのを実感しています。体が本能的に選んでいる感覚と、昔の人の知恵や一見おまじないのようなものも。これら2つを、改めて体験して解釈することで、新たな発見が生まれるような気がしています。

これからも渋谷菌友会、引き続き活動していきますので、どうぞよろしくお願いいたします!活動に興味のある方はお気軽にお近くのメンバーまでお声がけください。(現時点では、会場のキャパシティの問題で、メンバーのお知り合いに限定させていただいています。)

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