2016年2月に発足し、ロフトワークの取り組みとして今これから表面化しつつある「サイエンス」や「テクノロジー」への視点と活動についてご紹介します。

こんにちは、石塚千晃です。昨年よりロフトワークにジョインし、「BioClub」というコミュニティとFabCafe MTRLに併設された「バイオラボ」の運営/ディレクションをしています。今日は、ロフトワークの取り組みとして表面化しつつある「サイエンス」や「テクノロジー」について「BioClub」と「バイオラボ」2つの活動から紹介します。

BioClub 〜私たちの生きる世界に最もインパクトを与えうるテクノロジーに対するオープンな議論と実践の場

何故今バイオなのか

2017年2月に発売された雑誌『WIRED』VOL.27「Before and After Science サイエンスのゆくえ」の中で「CRISPR – Cas9 遺伝子編集・科学とビジネスと倫理の迷宮 」という特集が掲載されました。「CRISPR – Cas9」とは従来の遺伝子編集技術よりも格段に容易に、低コストで短時間で操作できる最新の遺伝子編集技術の一つで、数年前に開発されてから多くの議論を呼んでいます。この技術の誕生で、人間が病気にならない世界、人間が欲しい機能をもった生物のデザイン、自分の子孫に優れた遺伝子を導入するなど、SFで描かれていたような未来像へまた一歩(大股で)近づいたことになったからです。(詳しくはWIREDをお読みください!)

そのほかにも、サイエンステクノロジー、とりわけバイオテクノロジーは日本でもiPS細胞技術をはじめ再生医療研究開発に国を挙げて多額の投資をしている現状からわかるように、世界的に見ても経済的、政治的に大きな比重がかかりつつあります。バイオテクノロジーは目に見えにくいものでありながら、私たちの生活に密着していて生命観やライフスタイルに直結する影響を与えうる技術です。農業、食、医療、創薬、新しい素材の開発、また、一見関係なさそうですが「衣・ファッション」でいえば私たちが着るコットンも遺伝子改変されたものも中には含まれています。動物を殺さず細胞培養で皮を作ろうという提案すらあります。このように、生命の操作・改変が大きな目的の一つである技術なので、その矛先には私たち人間も含まれている点で、今まで機械や人工物を相手にしてきたテクノロジーやエンジニアリングとは質が違うのかもしれません。

前置きが長くなりましたが、バイオ/サイエンステクノロジーは私たちの世界に大きなインパクトをあたえうる分野でありながら、その議論は理系の大学や学会などの場に限定されていました。それは議論をするにも膨大な知識や前提を知っておく必要があるという現実もありますが、現にわたしのような理系のベースがない人間には現実に何が起きているのか知りたいと思っても、どう現状を把握したらいいのか、誰と話せばいいのかもわからず、結局「バイオって難しいしよくわからない世界だ…」という具合で、サイエンスと普通の生活の間は大きく分断されてしまっている現状があるように思います。

waag society / pieter van boheemen

そんな中、わたしが出会ったのはFabLabのようなアカデミア外の場所で運営されるラボに集まるバイオハッカーと呼ばれる野生の研究者やエンジニアの人々、作品を通して科学やテクノロジーに言及する芸術家たち、そして早稲田大学の岩崎秀雄研究室が主催するmetaPhorestのように研究室を分野外にも開いていくコミュニティ作りでした。そこで生まれるプロジェクトや議論に影響されるかたちで個人的に生物学をフォローするようになり、技術を学び、現在も自分のプロジェクトを続けています。
そしてサイエンスとテクノロジーと人間について考え続けるために、2016年12月より、BioClubの運営にジョインしました。

ロフトワークの関わり

ロフトワークはFabの文脈を取り入れたものづくりや新たなアイディアや議論が交流するための場である「FabCafe」 「株式会社飛騨の森でクマは踊る」のような場を展開しつつ、個人で活動するデザイナーやディベロッパーと企業組織、研究機関、省庁など、別々の分野を繋ぐプラットフォームを作ってきました。そうした動きの延長の中で、世界中のFabLabやものづくり系の大学でバイオラボが併設されはじめ、ものづくりやデザインの領域がバイオテクノロジーも視野に入れたものになっていく現状に呼応する形で、もっと様々な領域のクリエイターがバイオテクノロジーにアクセスする場を作ろうという目標のもと、2016年2月にバイオラボを設置し、バイオアートの文脈で長らく活躍してきたアーティストユニット、BCLのGeorg Tremmel(写真中央)とともにバイオテクノロジーのオープンな議論の場、BioClubの運営をスタートさせました。

BioCLubの現在

現在BioClubでは渋谷のFabCafe MTRLを拠点に、毎週火曜日に部活のような形でメンバーが生命科学や生物学の勉強会をしたり、ラボを使って個人プロジェクトを行ったりと自律的なコミュニティが動いています。

edX(エデックス:マサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって創立されたMassive open online courseのプラットフォームで、オンラインで多様な分野のレクチャーを無料でことができます)を活用した分子生物学の勉強会や、現在はオランダのFablabアムステルダムを運営するWaag Society と提携してBiohack Academyというパーソナルバイオラボを作るためのレクチャーを開講しています。

また、月1~2回のペースで有識者やバイオテクノロジーに関して先鋭的だったり独自の視点を持って活動している方々をお招きし、トークイベントやワークショップを行っています。

今年の4月からは東大の研究室に属しながら新薬開発のための技術開発と特許取得を目指すバイオベンチャー企業がバイオラボに入居します。彼らの進めるリアルなバイオの研究開発とBioClubの野生的な活動が交流してくという現場は、ここにしかない貴重な場になっていくでしょう。

外部との接続・コラボレーション

山口情報芸術センター(YCAM)のバイオラボ
小倉ヒラクさんによる発酵デザインワークショップ

BioClubは、山口情報芸術センター(YCAM)や初台のICC、オランダのWaag Society、オーストラリアのSymbioticA、早稲田のmetaPhorest、インドネシアのLife Patch,スイスのハクテリア、FabLab浜松、それからロフトワークの社内でも部員になる人続出の「菌活部」改め「渋谷菌友会」という 菌と人間の関係性の中で培われる食文化をテーマにしたコミュニティ とも、今後一緒に食や生活にサイエンスを取り入れていく活動をしていく予定です。

バイオハッカーコミュニティ、アカデミア、FabLabなどそれぞれ属する場所は異なれど、似たような考えや場を運営する人々とグローバルに繋がりながら様々な分野、コミュニティと交流し、プロジェクトを行っていきます。ご興味のある方は、ぜひ毎週火曜日のオープンミートアップやイベントに覗きに来てください。

BioClubでの役割はコミュニティの「庭師」だと思っています。BioClubでは組織のイニシアティブを取る中心人物は基本的に置きません。また、何かを提供し、提供される環境でもありません。ある程度のフレームを設け様々な人々や組織、企業とのコラボレーションは積極的に企画・運営しますが、このコミュニティに賛同する誰しもが自分が学ぶ側にも発信する側にも立てるような空気へとフレキシブルに導くことをモットーにしています。

4月にはWebサイトも今までの活動のアーカイブが整備された形でリニューアル予定なので、ぜひ今後そちらでBioClubの動きをチェックしていってください。
わたし自身、毎週火曜日、みなさんにお目にかかれるのを楽しみにしています。ここに自然に集まり行われる自律的なコミュニティの、半分放置プレイなオーガナイズに今後も邁進していきたいと思います。

BioClub 
http://www.bioclub.org/
毎週火曜日 18:00-20:00 場所:FabCafe MTRL
オープンミートアップ(どなたでも参加可能。その日のイベントはBioClubのフェースブックページhttps://www.facebook.com/pg/bioclubshibuya/events/?ref=page_internalでご確認の上ご参加下さい)

Keywords

Next Contents

「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2024」内関連イベントに
Layout シニアディレクター宮本明里とバイスMTRLマネージャー長島絵未が登壇