株式会社QUICKが主催する「QUICK Data Design Challenge 2023」の受賞作品を発表しました。

データの“新しい見せ方”に挑戦し、データ表現の新領域を開拓すべくはじまった今回のアワード。ロフトワークは本アワードの企画運営を行い、2023年4月21日(金)〜6月18日(日)までアイデアを募集しました。約2カ月間で、インフォグラフィックや立体作品など多様な表現による176作品の応募がありました。

田川欣哉氏、尾形真理子氏、エキソニモらによる最終審査会で、応募作品を「着眼点」「メッセージ」「表現力」の3つの基準で審査した結果、グランプリ1点、準グランプリ3点、また、株式会社QUICK内の社員投票で決定したQUICK特別賞1点の受賞作品が決定しました。

全ての受賞作品の説明と審査員コメントは、こちらからご覧になれます。

「QUICK Data Design Challenge 2023」結果発表

176作品から選ばれた受賞作品

グランプリ

いちご見本帳

いちごの形を単純化し、品種・生産地・その品種が生まれた年・品種の交配などを統合的に見ることのできるサイトです。ぜひ、マウスを動かしたりクリックしたりしながらいちご情報の面白さを体感してみてください。

審査員コメント

田川欣哉
Takram Japan(株)代表取締役/デザインエンジニア

スーパーで日常的に見かける「いちご」。どの産地やブランドを選べば良いのかいつも迷ってしまいます。作者はそのようなごく普通の生活のシーンに対して、興味と好奇心を持ち、さらにそこにリサーチと可視化を持ち込むことで、見事なツールに仕上げました。「いちご見本帳」では、時間の関係・空間の関係・要素同士の関係の3つが、データビジュアライゼーションの基礎的な手法を用いて端的に表現されています。可視化のオリジナリティやグラフィックデザインの品質については、より高いレベルへの向上の余地がありますが、このツールを触っていると、いちごのことがよく分かった気がしますし、明日からの自分の消費行動が変わりそうな気がします。データビジュアライゼーションならではのファクト駆動型の認知変容・行動変容の起点としての可能性を大きく評価しました。

尾形真理子
コピーライター / クリエイティブディレクター

いちごの情報を可視化してみる。「いちごっていろんな種類があるんだよね」で終わらせないモチベーションがまずもって愛らしいです。ビジュアライズとしては必ずしも斬新ではないですが、いちごに興味を持てる仕様が、データとして優れていると感じました。いつまでも見ちゃいます。そして小さないちごにも、受け継がれていく努力の結実があると教えてくれます。

exonemo(エキソニモ)
アーティスト

最初に見た時は、大きな組織が作ったプロジェクトなのかと思っていましたが、審査会で実はこれが個人制作のものだと知って驚きました。データの表現の仕方自体はオーソドックスでもあるけど、個人でこれを仕上げていく、モチベーションや胆力のようなものに希望のようなものも感じられました。データビジュアライゼーションのアワードということで、データから表現を立ち上げていくという基本原則をしっかり押さえ、見る人に気付きを与えるというところも評価のポイントになりました。

準グランプリ

VALUES MAP – 価値観でみつける、わたしの街 –

このVALUES MAPは一人ひとりが自分らしく、Well-beingな生活ができる街を発見できるツールを目指しています。私たちは人の判断基準である “価値観”と“Well-being”調査を結びつけた独自調査を首都圏を中心に実施し、約30000件を回収し、集まったデータを分析することによって、ユーザーと近い価値観を持った人がどの街(駅)でWell-beingに生活しているのかを探せる新しい地図を作成しました。

審査員コメント

田川欣哉
Takram Japan(株)代表取締役/デザインエンジニア

企業ならではのコンセプトの質、そしてデザインとエンジニアリングの投入量と質の高さに脱帽しました。グランプリ候補でもあったのですが、操作時に必要とされる入力項目数と、その結果得られるインサイトの質についての納得感に若干の不釣り合いがあるのではないかという議論になりました。その部分が惜しかったです。ユーザーがこのサービスを使うことによって、時間・空間・関係性についてのインサイトを獲得し、それが認知変容や行動変容につながるような、よりよいデザインへの飛躍を期待しています。

日本における役割の性差―OECD各国との比較

世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数において、日本の順位はいつも驚くほど低い。2022年は146か国中116位という結果で、ニュースを見た私のイギリスの同僚は「日本はいろいろ進んだ国という印象なのに、どういうこと?」と少なからず衝撃を受けていた。あらためて思えば、内閣発足の集合写真で見る顔ぶれは毎回だいたいが男性だし、女性役員や管理職が少ないことも、具体的な数字は知らずとも十分に実感がある。性差をあらわすデータの見え方を工夫することで事実にはっきりとした輪郭を与え、更には「どういうこと?」という疑問にたいするヒントが見つけられるかも、という思いつきが今回の2枚のポスターのきっかけだった。

審査員コメント

尾形 真理子
コピーライター / クリエイティブディレクター

世界各国の中で日本は、政治、職場、家庭においてジェンダーによる役割に偏りが大きい。この事実を知らない人はいないでしょう。だけど水平を軸にしたグラフを使うことで、シンプルだからこそ、その歪みの大きさが気になる。バランスの悪さに違和感を持てる。ファクトと感覚を結びつけるコロンブスの卵的な見事なデータビジュアライズだと感じました。

Ocean Pandæmonium -The Noisy Plasticscape-

私が海の底に住むことはできないが、水の膜に穴をあけ、海の住人に耳を澄ませることはできるかもしれない。本作品は、人新世における人間の位置付けと、海の生物に及ぼす影響についてのサウンドインスタレーションである。現代、海洋環境におけるプラスチックの有害性が議論されているが、人間が陸から眺める海は穏やかで美しく、微塵も問題を感じさせない。しかし水の膜を隔てた海では、生命にとって危機的な状況が広がっている。我々人間は海に住むことはできず、その境界を超えることはできない。そこで、仮想的な海を創り上げ、音というレンズを通じて海の状況と歴史を覗き込む。

審査員コメント

exonemo(エキソニモ)
アーティスト

2次元的な表現が多い中で、立体的に五感に訴える表現を完成度高く行っている点が評価されました。審査会での議論の中では、データから表現を立ち上げているというよりは、語りたいストーリーが先にあり、そのためにデータを利用していると感じられる点が指摘され、データビジュアライゼーションのアワードとしての評価の仕方が問われる一面もありました。そういった点も含めて、新しく始まったこのアワードが今後、より多様性のある表現の受け皿としてユニークな存在になっていくための一つの試金石のような作品とも言えるでしょう。

QUICK特別賞

SPEED CONVERSION

車の走行速度を、別の単位に換算して表現したスピードメーターです。交通事故に関するデータをスピードメーターの数値に置き換えることで、一目でアクセルを踏み込むリスクを喚起できると考えました。普段見慣れているメーターを4つの異なる視点から捉え直すことで、安全な走行速度について理解を深めていただければ幸いです。

審査員コメント

株式会社QUICK

「スピードメーターという見慣れたUIで、スピードとリスクの関係性をわかりやすく可視化したことに評価が集まりました。

  • 説明文を読まなくても表現したいことが明確に伝わってきた。デザインとしては一般的な速度計と同じでも、表示するデータを変えるだけで伝わる印象がガラリと変わるということを認識させられた点も優れていると感じた。
  • 自身の行動を見慣れたスピードメーターで表現し、その際のリスクを可視化して意識を変える思考が良い。社会貢献度が高い。」

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