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loftwork "DAY 2015" IMPACT - イノベーションが与える影響 - 開催レポート 前編

年に一度のカンファレンス「loftwork “DAY 2015″」が、2015年1月30日に開催されました。今年一年を占うこのイベントに、ビジネスの新しいヒントやきっかけを求めて、今年も大勢の参加者が集結。テーマは「IMPACT」。イノベーションが与える影響を見据え、夢物語ではなく、成果を真摯に追求することの重要性と向き合いました。

イノベーションは、やがて当たり前になる

ロフトワーク 代表取締役 林千晶

オープニングトークで、「今、新しい価値を生み出そうとしている私たちは何に注目したいのか。それを考えたとき、インパクト以外浮かばなかった」と切り出したロフトワークの林千晶は、「重要なイノベーションは未来には当たり前のものになっている。これこそがインパクト」と強調。「今日議論したいのは、新しい価値を生み出すための活動が、社会にどんな影響を与えられるのか。これからご紹介する6つのプロジェクトが、5年後には当たり前になることを目指したい」と語りました。

続くセッションでは、テクノロジー、ローカル、グローバルの3つの視点から、新しい価値創造への挑戦を紹介。そのインパクトを考えていきました。

Technology 技術からひろがる

Hack&Makeでまったく新しいカメラのあり方を探求

最初のセッションでは、オリンパス株式会社石井謙介氏、オリンパスイメージング株式会社佐藤明伸氏、ロフトワークの松井創の3人が、約2年前に始動したプロジェクト「OPC Hack&Make Project」を紹介。

OPC Hack&Make Projectを紹介するオリンパス 石井謙介氏(左)、オリンパスイメージング 佐藤明伸氏(中)、ロフトワーク松井

●プロジェクトの概要
「OPC Hack&Make Project」は、社内外の熱意ある人と共創することで、新しい映像体験を探究するプロジェクト。「OPC」はオープンプラットフォームカメラの略で、ユーザは、アプリ開発キット(SDK)や3Dデータを活用し、OPCを自由に“Hack&Make”できます。佐藤氏は、「ユーザとのコミュニケーションが積み重なることでイノベーションが生まれると信じている」と説明します。

●プロジェクトの背景

スマホの普及により、写真がコミュニケーション手段として使われるようになる中、オリンパスでも、市場の変化に応える新しいプロダクトの創出が戦略課題となっていました。MITメディアラボとの協業やロフトワークとのハッカソンなどを通じて、社外の力を活用することへの手応えを感じた同社は、2014年11月Engadget Fes 2014 WinterにてOPCを正式に発表。プロトタイプ機30台を用意し、Webサイトで全国からアイデアを募集したところ、104件ものアイデアが集まりました。

もちろん、すべてが順調だったわけではなく、「オープンプラットフォームの考え方を社内に説得するのに苦労したし、最初に何をどうオープンにしていくか、手段の選択にも時間がかかった」と石井氏は振り返ります。

●今後の展開

「5年以内くらいに、自分に合ったスタイルで持ち歩いたり使えたりするのがカメラです、と言えるようにしたい。共創の仕組みはほぼ整ったので、我々から共創のテーマを提示し、ファシリテートしていく」と佐藤氏。また石井氏は、「従来製品と違い、このカメラはユーザと一緒に成長していく可能性がある。プロダクトが成長することによって、コンシューマビジネスのライフサイクルが長くなればいい」と期待を覗かせました。

75ものプロトタイプアプリが結集

続いて、オリンパスと同様にオープンイノベーションに取り組むプロジェクト「Sensing Egg Project」を、オムロン株式会社寺川裕佳里氏とロフトワーク森内章が紹介。

「Sensing Egg Project」を紹介するロフトワーク森内章(左)オムロン株式会社寺川裕佳里氏(右)

●プロジェクトの経緯

オムロンが1995年から開発してきた技術に、人の状態を認識するセンシング技術「OKAO(R) Vision」があります。今までは組み込み系ソフトウェアとして企業に提供してきましたが、画像センサーを一般にも広く使いやすいものにすべく、人体検出・顔検出・属性推定・表情推定といった「OKAO(R) Vision」の特徴的な機能と、カメラモジュール、アルゴリズムをセットにしたヒューマンビジョンコンポ コンシューマーモデル(以下、HVC-C)の開発に着手。

しかし、「社内の開発リソースだけでは限界。外部の力やアイデアを借りる必要性を感じていた」という寺川氏は、メーカーの思いだけで開発を進めることに疑問を感じ、オープンイノベーションの採用を決意。「ロフトワークと共同でベータ版キャンペーンを実施したところ、短期間で194人の開発者による75ものアイデアを集めることに成功。発売前にいただいた意見を商品開発や企画に反映し、昨年末、商品の発売にもこぎつけました。」(寺川氏)

●ロフトワークの支援内容

ターゲットの可視化、全体像の整理、ロードマップの提案、KPIの設定、プロジェクトの世界観の策定、キャンペーンの設計などを支援。また、WebサイトとFacebookページをオープンさせ、後者を中心にデベロッパー目線で情報を発信。さらに、リアルの場でHVC-Cをより多くの人に認知してもらう機会や、オムロンの開発者とデベロッパーのダイレクトな意見交換の場なども設けています。

「イベントやアワードなど、引き続きデベロッパーの熱量を高める仕掛けを用意しながら、優れたアイデアの創出を促していきたい」と語る森内は、最後に、「前例がなく、どう転ぶかわからない取り組みでは、チームのあり方がカギを握る」として、次の4つのポイントを強調しました。

1. 小さなチーム(タスクを分散しない)
2. ユーザの声を聞くチーム(主観や周囲の声に惑わされない)
3. 好奇心が強いチーム(まずやってみる、回数を増やす)
4. 柔軟なチーム(臨機応変に対応する)

Local 地域からはじまる

マチに寄り添いながら一緒に生活文化を創る、イオンモールの新しい挑戦

2つ目のキーワードは「Local」。岡山で地域の持つ価値と真摯に向き合うイオンモール株式会社の高須賀大索氏を招き、ロフトワークの諏訪がイオンモール岡山の新しいチャレンジに斬り込みました。

イオンモール岡山の新しいチャレンジを紹介するロフトワーク諏訪とイオンモール株式会社高須賀大索氏

●ハレマチ特区365とは?

西日本最大級かつ岡山駅直結型施設として誕生したイオンモール岡山。そこにある「ハレマチ特区365」は、約100の小さな地元ブランドが出展するセレクトショップです。

「本来地域産業であるべき商業が、外からみると地域とどんどん離れてしまっている印象がある。イオンと聞くと、せっかく全国にあって、一番ローカルに近い会社であるはずなのに、その真逆のイメージがある。そこで今回はまちと寄り添いながら一緒に生活文化を創ろうと考えた。地元の人にこそ自分のまちの楽しさに気付いてもらい、買うこと自体がまちを創ることにつながるように、地元と一緒に伸びていくことをめざしている」と高須賀氏。

●プロジェクトの背景

新しい都市を提案するにあたり、地元の人が何を欲しているかを知るために3日間約50人にヒアリング。意外にも「まちのシンボル」「誇り」「集う場所」「岡山がひとつになる場所」という声が多数を占めました。これが今イオンモールに求められていることだとして、新しいチャレンジをスタート。岡山をキャッチアップするだけでなく、自分たちのまちは面白いんだ!と、地域と人々がJumpしつづける場所になるのが目標です。

ハレマチ特区365 岡山のものづくりを体験体感できるエリア。約100の地元ブランドが並ぶ

●ロフトワークの提案

「Make! in OKAYAMA」をコンセプトに、創り手と出会い、セレクト品に触れ、岡山のものづくりを体験・体感できる岡山発のものづくり発信拠点「ハレマチ特区365」を提案し、実現。「たった5個しか商品を置いていない小さな地元ブランドにも、イオンモールと話すチャンスが生まれる。そこに大きな可能性がある」と諏訪。イオンモール岡山の誕生を機に、地域がJumpを始めています。

飛騨から世界へ、組み木の技術ではじまるイノベーション

「Local」にフォーカスしたもう一つのプロジェクトは、株式会社トビムシとロフトワークが飛騨の森に滞在型のFabCafeを作るという壮大な計画。トビムシは、地域資産としての森林に光をあてることで持続的な地域再生の実現を目指し、森林価値を高める事業を展開する企業です。

飛騨の森に滞在型のFabCafeを作るという壮大な計画を披露した、株式会社トビムシ竹本氏(左)とロフトワーク林(右)

●プロジェクトの経緯

一本の木を根こそぎ使って、あの手この手でデザインし、商品化する一方で、竹本氏がいま取り組んでいるのは、地域と都市、森と都市空間、地域内の人と人、生産者と消費者といった関係性のリデザインです。「地域の中に眠っている人やモノに触れ、その関係性をリデザインしていくことで、森に光が入るようになる」と語る竹本氏が、今回光を入れる場所として選んだのが「飛騨古川」です。

関係性のリデザインにより光が入るようになった森

●プロジェクトのインパクト

着目したのは、飛騨の匠が持つ組み木の技術。「その技術をクリエイティブやデザインと結び付け、世界中の人たちと新しい木材の使い方を生み出せないか?」と考えたのです。相談を受けた林は、「これはFabCafeにしかできないと思った」と言い、「組み木の3次元データを世界中の建築家とデザイナーが共有すれば、大工さんに教わらなくてもその構造や強度を知り、新しいものを試作することができる。そこで価値を知った人の何割かは実際に飛騨に足を運ぶでしょう。今までにない人の流れが生まれ、組み木が生まれ変わり、森が生まれ変わり、デザインのイノベーションが起こるわけです」と説明します。

●今後の展望

現在は、実現に向けてビジネスフレームワークの検討段階ですが、「未来への投資だとして森をこのプロジェクトに拠出しようとしている飛騨市と、林業・木材業をコミュニケーションも含めてデザインしているトビムシと、ロフトワーク。この三者が連携する仕組みに、世界中のクリエイターが参画することになる。これにより、森とモノ、モノとコト、地域と都市がどんどん回転するようになってほしい」と竹本氏。飛騨の成功を皮きりに、他の地域への連鎖も予測されます。

イベント概要

「それは、六歳の子どもに50キロのリュックを背負わせるようなものである。イノベーションのための活動をただちにゆがめてしまう」

かつてP.F.ドラッカーは、その著書『マネジメント』の中で、「イノベーションにおいては既存の事業のための尺度とは別のものを用意すべき」だと説きました。あらゆる組織活動、プロジェクト、取り組みには、目指すべき目標があり、何らかの価値を創出しようとするもの。ではその測り方は?

新しい価値を生み出そうとするとき、単純な売り上げや既存数値の上下だけではなく、新しい「ものさし」が必要なのかもしれません。わたしたちの活動は、どのような成果や価値を、どれほどの影響を社会や市場に対して与えられているのでしょうか。今年のloftwork “DAY 2015”では、未来をつくる「IMPACT」をテーマに掲げました。ロフトワークにおける最新プロジェクト/テーマを題材に、「イノベーションと成果」に向き合うカンファレンスを開催します。2015年、新しい飛躍のために、ロフトワークと一緒に考えてみませんか?

開催概要

セミナータイトル loftwork “DAY 2015” IMPACT – イノベーションが与える影響 –
開催日時 2015年1月30日(金)13:30〜(13:00受付開始)
場所

六本木アカデミーヒルズ オーディトリアム
地図

対象 ・新しい価値提供を考えているビジネスマンの方
・イノベイティブなプロジェクトに興味をお持ちの方
・事業責任者、R&D、プロダクト開発、マーケティング、ウェブ担当者など
参加費 無料
定員 130名
主催 株式会社ロフトワーク
ご注意 ・個人、同業のご参加はご遠慮いただく場合がございます。
・当日のお写真、レポートは後日弊社サイトに公開いたしますので
参加者の方は予めご容赦ください。

プログラム

13:30~13:40
Opening Speech
13:40~14:40

Technology 技術からひろがる
「共創プラットフォームへの挑戦 – OPC Hack & Make Project」
オリンパス 石井氏 × オリンパスイメージング 佐藤氏 × ロフトワーク 松井

「Human SensingとIoT – Sensing Egg Project」
オムロン 寺川氏 × ロフトワーク 森内

オリンパス株式会社
研究開発センター デジタル技術開発本部画像技術部研究1G 課長
石井 謙介氏

オリンパスイメージング株式会社
IBP推進本部 IBP推進2部開発G 開発グループリーダー
佐藤 明伸氏

オムロン株式会社
エレクトロニック&メカニカルコンポーネンツビジネスカンパニー アプリケーションオリエンティド事業部 事業推進部 HS企画課 課長
寺川 裕佳里氏

14:40~15:40

Local 地域からはじまる
「 地域とクリエイティブの力 – イオンモール岡山」
イオンモール 高須賀氏 × ロフトワーク 諏訪

「森づくり、ものづくり、コミュニティづくり – 飛騨 Project」
トビムシ 竹本氏

イオンモール株式会社
開発本部 建設企画統括部 ディベロッパー企画部 マネージャー 兼 岡山物件プロジェクト担当
高須賀 大索氏

株式会社トビムシ
代表取締役
竹本 吉輝氏

15:40~15:50
Break
15:50~16:50

Global 世界へつながる
「日本商材の価値を世界へ – More than Project -」
ロフトワーク 秋元

「FabCafe & Loftwork グローバル拠点とその可能性」
FabCafe Taipei / Loftwork Taipei co-founder
Tim Wong

16:50~17:00
Break
17:00~18:20
Interactive Talk & Workshop:IMPACT
18:20~18:30
Closing Speech

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