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大学の未来を議論する~「ICT」「オウンドメディア」「グローバル」の視点から~ 開催レポート

7月1日の午後、25人の大学関係者が渋谷のロフトワークに集まりました。大学職員、教員、現役の学生など、参加者の立場はさまざまです。

この日のイベントは「大学の価値とブランドを考える座談会 変革への対応 – グローバル・ICT・大学メディア」。ゲストスピーカーのプレゼンテーション+全員参加による座談会の形式で、活発な議論が交わされました。ここでは、当日の議論から、示唆に富んだ発言を一部紹介します。

「情熱」「チーム」「本質」がプロジェクトのカギ

まずは、ロフトワーク プロデューサー浅見和彦のオープニングトーク。大学のWebサイト制作を手掛けてきた浅見。「プロジェクトの進行においては、<変革に向き合う情熱><賛同してくれる社内外のチーム><なぜWebが必要かという本質的な理由>を共有し、チーム一丸となることが重要です」と述べました。

ロフトワーク プロデューサー 浅見和彦

テーマ1:ICTを駆使した大学生活・教育体制の変化への取り組み

最初のプログラムでは、中央大学 情報環境整備センター事務部担当副部長の渡邉純一氏がプレゼンテーション。続いて、参加者同士がディスカッションしました。

提供する大学と使う学生の温度差(渡邉氏プレゼンテーションより)

中央大学 情報環境整備センター事務部担当副部長 渡邉 純一氏

ICTを構築する大学側は、システム、コンテンツを「基盤」「うわ物」に分けるところから、複雑な仕組みをイメージしがちです(下図)。

ところが、学生は使いやすい端末(スマホ、PC、タブレット)でアプリを使い学生生活をよりよくしたい、程度のイメージしか持っていません(下図)。

サービスを提供する大学側の考える仕組みは、実際は必要ないというケースが少なくありません。

大学でパソコンの充電ができれば……(学生)

教室や図書館、すべてのデスクに電源があり、パソコンを充電できれば幸せです。基本的な環境を、整えて欲しいと思っています。また、私たちの世代は、ビデオやオンラインで授業を受けることに慣れています。ビデオだと1.5倍速で見ることもありました。リアルの授業で先生が話すペースが、遅いと感じてしまう時も。つい、クリックして早まわししたくなってしまいますね(笑)。

昔は教職員にも“ワル”が多かった(渡邉氏)

1.5倍速で授業を受けたいなんて、ある意味今のルールにはないけれど、とてもおもしろい意見です。
大学のICTでは、ルールや決まりを守ることにばかり目が向いて、正しいと思った範囲までしか、考えない人が多いんです。「ルールを少しはみ出すけれど、うまく行くかもしれないからやってみよう!」と言える“ちょっと悪いヤツ”が求められています。

LINEをワークショップ形式の授業に活用(大学関係者)

ワークショップ形式の授業では、模造紙を使ってグループの意見をまとめます。しかし、人数が多いと、全員で紙を見ることが物理的に難しくなります。
本学では、200人近くが参加するワークショップで、LINEを活用しました。ワークで出た意見を写真に撮り、受講生が参加するLINEグループのアルバムにアップロードしました。スマホで全員が閲覧・投稿でき、情報はどんどん更新されていきます。
もちろん、2人だけスマホを持ってなかった、など難しい部分もありましたが、大変好評でした。

これから入学する学生は「大学は遅れている」と感じる(大学関係者)

小学校・中学校・高校では、電子黒板の導入が進められています。若い先生は、単に教材を映すだけでなく、電子黒板ならではの機能を活用した授業を始めています。そんな授業を受けた子どもたちが大学に入学すると、「大学は遅れている」と思うでしょう。

テーマ2:大学のオリジナルメディアの今

ICTに続くテーマは、企業でも大きな課題となっているオウンドメディアです。大学メディアの草分け「plum garden」(プラムガーデン)を運営する津田塾大学 学芸学部英文学科の郷路拓也准教授と、津田塾大学 国際関係学科生の大橋実結さんが、立ち上げの経緯と実際の運営について紹介しました。

津田塾大学 学芸学部英文学科 郷路 拓也准教授と国際関係学科生の大橋 実結さん

開始から1年半ながら、成熟したメディア運営に、参加者の皆さんは圧倒されたよう。ここでは、郷路准教授、大橋さんのプレゼンテーションを中心に紹介します。

「plum garden」(プラムガーデン)について

津田塾大学が2014年12月に開設した「オフィシャルウェブマガジン」。学生主体で編集部を組織し、毎週新たな記事をリリースしています。

エクスペリエンスを発信する大学メディア(郷路准教授プレゼンテーションより)

最初の課題は、公式サイトと新しいサイトの棲み分けでした。2つのサイトに同じ情報を載せることは、ユーザーと大学双方のムダになります。そこで、参考にしたのが企業のWebサイトです。

カメラ製品を取り扱うメーカーのサイトは、カメラの仕様、機能が網羅されたカタログです。対して、フォトヨドバシでは、スペック情報はごく一部に限られ、カメラを使った人の体験を中心につづられています。この棲み分け方は大学メディアでも可能です。公式サイトはカタログ、新しいサイトは学生や教職員の体験、エクスペリエンスを伝えるメディアとしました。学生から編集部員を募集し、記事の制作・編集・更新をゆだねています。プロへ依頼するには予算が足りませんし、そもそもエクスペリエンスを伝える役割には、学生こそが最適任です。

編集部を3つの局に分けて運営(大橋さんプレゼンテーションより)

編集部の任期は半年で、現在26人が在籍しています。半期ごとに入れ替えるのは、留学やインターンシップなど、学生が他にやりたいことを妨げないためです。文章をチェックする校閲局、写真の手配・撮影を担当する写真局、SNSでの告知やイベントを手がける広報局の3つに、組織を分けています。就活中に知った新聞社の組織を参考にしました。 毎週1回、昼休みに編集会議を行い、スケジュールや記事の企画について話し合っています。一方的に仕事を押しつけるのではなく、宿題を出して皆で同じテーマを考え、話し合うなど、会議でモチベーションが上がるよう工夫しています。

大学メディア運営で得た3つの成果(郷路准教授プレゼンテーションより)

まず、これまで大学広報で出てこなかったことに光が当たりました。例えば、大学職員はふだん目立たない存在ですが、プラムガーデンの記事にはたくさん登場しています。 また、プラムガーデンの記事が、学生や教職員の共通の話題になっています。共有できる人や建物があることで、私たちの間につながりができました。 文化をつくる効果もあります。学生たちは、「田舎の学校」「モテない」と、自虐的に津田塾大学を語ることが少なくありません。日本人らしい謙遜の美徳もありますが、「そんな風にばかり思わなくて良いんだよ」という役割を、プラムガーデンが担っています。 今回のテーマである「大学の価値」にもつながるのではないでしょうか。

情報発信を学生に任せる懐の深さ(大学関係者)

学生の目線を、大学運営に取り入れようという動きは、本学にもあります。しかし、高い自由度で運営を任せることは、先生方の懐が深くないとできないな、と感じました。

学生の入れ替わりで、むしろ良好な組織が維持される(ロフトワーク矢橋)

企業は、学校ほど人材の新陳代謝がありません。同じ人が同じ業務をすると、安定する反面停滞するリスクもあります。ですから、人事異動などで意図的に入れ替えが行われるわけです。 大学の学生は、確実に新陳代謝します。危うさでもあり、自動的に組織を維持する仕組みが整っているとも言えます。モチベーションやクオリティが途切れない仕掛けを、どのようにつくるかが重要だと感じました。

テーマ3:国際的な競争力醸成の取り組みとWebの活用

最後のプログラムは、ロフトワーク矢橋がファシリテート。「グローバル」のキーワードを中心に据え、フリートークで議論が交わされました。

ロフトワーク 取締役 兼 CMO 矢橋 友宏

日本の大学は世界で競争できる土俵に乗っていない(大学関係者)

政府は、日本の大学の「世界大学ランキング」を上げることを目標としています。しかし、現実には難しいことです。研究の成果は、人の質と量に依存します。米国は以前から、最近では中国やシンガポールでも、大学がガンガン人を雇っています。日本の大学は、たくさんの人で研究を回そうとはしていません。ランキングを上げるどころか、中国やシンガポールの大学に追い抜かれていく可能性があります。そんな中で、日本の大学でもグローバルに開かれた人材を育てることはできます。しかし、今の状況では、世界のより良い環境に学生を送り込む、予備校のような存在になってしまいます。

グローバル人材の育成システムはある。課題は発信すること(大学関係者)

本学では、アジアを視野に入れたグローバルな人材育成を目指しています。日本の学生が留学し、行き先の大学から留学生を受け入れています。
1年生の間に英語を徹底的に学習し、及第点を取れなければ留学もさせないので、語学のレベルは高いと言われています。こうした素材はあるのに、大学として上手に発信できていないことが課題です。

海外の協定校と学生レベルのオンラインイベントを開催(学生)

どの大学も、海外に協定校がたくさんあるのに、学生レベルで活用されていません。学生同士の交流が増やせないかと考え、スカイプで海外の大学の授業と、日本の授業をつなぐイベントを立ち上げました。
お堅いプログラムをつくろうとすると大変です。非公式でよいので、学生が企画を立て、ボーダレスな学びの場を増やしていきたいと。

世界中から優秀な学生が日本へ(ロフトワーク矢橋)

当社は岐阜県に「飛騨の森でクマは踊る」という関連会社を立ち上げました。5~6月には、飛騨の森林資源と伝統の組木技術、最先端のIoTを活用した、3週間のデザインキャンプ 「Smart Craft Studio Hida 2016」を開催。ニューヨーク、トロント、台湾から優秀な学生が参加してくれました。
インターンシップでも、日本の企業へ来る海外の学生が増えてきました。従業員100名前後しかいないロフトワークのような企業にも、ハーバードやスタンフォードなど、有名大学の学生が働きに来ています。

まとめ:これからの学びを考える

大学は、「教育を与える」という視点から、学生が主体的に「学ぶ」「学び合う」場に変わりつつあるようです。ICTは、その環境と仕組みを整えるひとつの手段。大学のグローバル化に目を向けることで、学びのスケールは拡大します。
もちろん、オンラインだけで学びは完結しません。学生や教員がコミュニケーションを深め、モチベーションを維持するにはリアルの場が必要です。学生が熱意を持って運営するプラムガーデンの事例には、大学の情報発信というだけでなく、これからの学びを考える上でも大きなヒントがあります。

クリックで拡大します。

イベント概要

ロフトワークでは過去3年にわたり、大学のWeb活用をテーマにしたセミナーを開催してきました。これからの時代の大学広報の役割や、自学らしさの発見とWeb活用など、学習院女子大学、芝浦工業大学をはじめとした多くの大学広報担当者をスピーカーにお迎えし、取組みをご紹介いただきました。

今回は、これまでよりインタラクティブなディスカッションを目指し、座談会形式で「大学の価値とブランド」を考えます。

座談会の主なテーマは、「グローバル」、「ICT」、「大学メディア」

世界における競争力の獲得や、情報通信技術の有効活用、そして大学の取り組みを発信する新しいメディア型Webサイトなど、変革を求められている各分野について、議論していきます。

参加者のみなさんにも、ぜひ自校で取り組まれている施策や課題などを共有いただきながら、実践的な議論をしていきたいと思います。他大学の担当者同士の交流、つながりを作りたい方はもちろんのこと、課題解決の糸口を考える場としてご活用ください。

開催概要

セミナータイトル 大学の価値とブランドを考える座談会 変革への対応 – グローバル・ICT・大学メディア
開催日時 2016年7月1日(金) 15:00 – 17:30(開場:14:30〜 懇親会:〜19:30)
場所 loftwork COOOP (ロフトワーク渋谷10F)
[東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7 道玄坂ピア10F loftwork COOOP]
※井の頭線渋谷駅 アベニュー口より徒歩 5分
  JR渋谷駅 玉川口より徒歩10分 地図
対象 ・教育機関の広報担当者、Web担当者、ICT担当者
・IT、デジタルコミュニケーションを活用する大学広報戦略を学びたい方
参加費 無料(懇親会は別途3,000円)
懇親会の費用は受付にてお預かりします。
同一会場で開催します。
定員 30名
主催 株式会社ロフトワーク
ご注意 ※プログラムは、予告なく変更される場合があります。
※本イベントは、大学の業務に関わる方々を対象としております。
 広告代理店・Web制作会社など競業にあたる方、フリーランスなど個人でのお申し込みは
 お断りすることがございますので予めご了承ください。
※当日の参加者の皆さんのお写真は、後日公開するレポートなどに掲載させていただきます。

プログラム

15:00~15:10
オープニングトーク
大学の変革の今
15:10~15:20
アイスブレイク
15:20~17:30
座談会
テーマ1:ICTを駆使した大学生活・教育体制の変化への取り組み 15:20 – 16:00
ゲスト:渡邉 純一/中央大学 情報環境整備センター事務部担当副部長

テーマ2:大学のオリジナルメディアの今 16:00 – 16:40
ゲスト:郷路 拓也/津田塾大学 学芸学部英文学科 准教授

休憩:16:40 – 16:50

テーマ3:国際的な競争力醸成の取り組みとWebの活用 16:50 – 17:30

中央大学
情報環境整備センター 事務部 担当副部長
渡邉 純一

津田塾大学
学芸学部英文学科 准教授
郷路 拓也

17:30~19:30
懇親会

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