大学WEB VOL.2 事例:立教大学「大学Webサイトの存在意義を問い直す」

2020年に見えてきた大学入試改革を受け、今の大学サイトは未来の学生の要望に応える情報を発信できているか。立教大学のWebリニューアルを実例に、これからの時代に求められる大学サイトのアプローチを紹介しました。

大学サイトのリニューアルはミッションの再定義から

戦略を俯瞰し、整合性の取れたメッセージを創る

まず初めに、ロフトワークのCOO、矢橋友宏は、情報発信にせよ、制作物にせよ、固定概念にとらわれがちな大学広報の問題点を指摘。効果的な活動を実現するヒントは、大学の外(一般企業)に沢山あるのではないかと問いかけた。また、「マーケティング」=「プロモーション」ではないとして、マーケティングミックス(4P)と呼ばれる考え方に、大学広報の仕事領域を当てはめて紹介。

成果の上がるマーケティング活動を展開するには、Webサイトをどう変えるかといったプロモーション視点だけでなく、Product、Price、Place、Promotionの4つの視点から戦略を俯瞰し、整合性の取れた魅力的なメッセージを創り出す必要があると話しました。

リサーチを通して「大学サイトのあるべき姿」を一緒に考える

全体を俯瞰する。この考え方に従って大学サイトのリニューアルを進めたのが、立教大学です。学内外向けの情報の混在、複雑な情報設計による問合せ増加。といった、よくある課題に加え、スマホの普及による閲覧環境の変化、2024年に迎える創立150周年を意識した動きなど。リニューアルに踏み切る理由は十分揃っていましたが、受験にまつわる環境変化への対応に加え、コンテンツの質を上げたいという漠然とした思いはあるものの、具体的にどうしたいのかを言語化できていない現状がありました。

そこでロフトワークは、リサーチを通して「大学サイトのあるべき姿」を一緒に考えるプロジェクトとして捉え直し、一般的なWebリニューアルのように要件定義からのスタートとはせず、リサーチとコンセプト抽出(言語化)のフェーズを追加したプロジェクトを立上げました。

本プロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当したロフトワークの寺井翔茉は、リサーチプロセス図を示しながら、次のよう紹介に説明しました。

リサーチフェーズのプロセス図

学内ヒアリングから、本当の「ターゲット」を探る

学内の担当者約30名から、信頼関係の構築の狙いも兼ねてワークショップ形式で意見を出してもらい現状を把握。「早稲田/慶応を目指す学生」や「受験生の親」、「就職先の人事やマスコミ」など。「受験生」だけでは括れないターゲット層が可視化され、従来の大くくりなターゲット認識を見直す必要性が見えてきた。

資料分析から、ターゲット層の把握・課題発見を行う

大学側の各種資料や、大学ブランドイメージ調査など、あらゆる資料を分析した結果、立教大学が特徴として打ち出しているポイントへの具体例がなく、「曖昧な印象」を持たれていることが判明。周囲の勧めで入学した学生は総じて満足度が低いという事実も。
学びたい理由を見つけ、主体性を持って大学を選ぶという「選択の重要性」が見えてきた。

現状課題ではなく、未来の道筋を発見するための、トレンドリサーチ

大学サイトのトレンドではなく、教育業界全体の傾向や動向、世の中の情勢やテクノロジー事情まで拡げてリサーチ。 教育制度の変革により、従来よりも早く進学先を意識させられるようになること。膨大な情報の中から何かを選択する際の負荷が高まっていることから、受験生の大学選びをどうサポートするかが価値を持つ時代に。
「タッチポイントの見直しの必要性」が見えてきた。 

頭だけでなく、身体でも理解する。フィールドリサーチの実践

寺井は、「キャンパスに足を運んで早朝から夜まで過ごし、学生や教員の活動を観察したり、カメラを片手に歩き回って面白いコンテンツを発見したり、デザインのためのインスプレーションを得たり、実際に現場を訪れることで、ミーティングの場では見えてこない話題を拾い上げていきました」と説明。

ターゲットの細分化のための、学内インタビュー

学内で想定しているターゲットを理解していそうな人にインタビューを実施。インタビュー結果をグルーピングして簡易ペルソナを作成。

担当者と一緒に行うことが重要。課題の整理

KJ法を使って課題の因果関係を整理、因果関係の中心を特定。立教大学の広報担当者自ら手を動かすことで、一緒に考え、一緒に作ることを徹底。

ミッションの再定義

リサーチ結果から、キャリア選択のバリエーションも少なく自分の将来像もイメージできないなかで、卒業後のキャリアを見据えた大学選びを迫られている現状。大量の冊子を通じて紹介される“大人が考えた理想の大学生像”のリアリティのなさ。大学の情報に精通していない教師や保護者たちなどが明らかに。結果、わかりやすい知名度や偏差値で大学を判断せざるを得ない状況になっており、「受験生にとっての不本意な選択×立教大学にとっての不本意な選ばれ方」の存在が見えてきました。

そこで、リアリティのない曖昧な大学選びから脱却し、大学と受験生のマッチングの精度を高めるために、「大学を選択する」という体験の質を向上させることを本プロジェクト本プロジェクトのミッションとして定義しました。

最後に選ばれるのは、スペックではなく「原体験」

再定義したミッションに照らして改めて現状のWebサイトを見てみると、「直感的によいと思えない」「見ていてワクワクしない」「書いてあることが理解できない」「自分がそこで学ぶことをイメージできない」といった問題点が明らかに・・・。

そこでロフトワークは、「Why?●●学科」をテーマに、なぜそこで学ぶのか、なんとなく訪問してきてくれた高校生たちが「学ぶ理由」に出会える学科ページを、大学視点ではなく高校生視点で制作することを提案しました。

こうして完成したWebサイトでは、興味を持ったものから学科にたどり着けるように、キーワードから「学科」を直接探せる機能を追加したほか、学部の枠を超えた関連分野の学びに誘導できるように設計。「理系・文系、または学部の枠を取り払うことで、思いもよらない選択が生まれてもいいと思うのです」と寺井。

今回のプロジェクトで最も重視したのは、よくあるスペックの提示ではなく、 “学んでみたい”と思えるきっかけをつくること。そうすることで、最終的に選ばれる大学になること。
この“学んでみたい”という知的好奇心のスイッチを入れるポイントに、寺井は次の4つを挙げ、「中でも、わかりやすすぎないバランス感が大事」と強調します。

“学んでみたい”という知的好奇心のスイッチをいれるポイント4つ

  • 伝える側の熱量
  • 自分との関連性
  • 直感的な交換
  • わかりやすすぎないバランス感

小さな試作を積み重ねて、ミッションを達成できそうな情報のあり方を特定

また、今回のプロジェクトでは、ワイヤーフレーム制作設計の前にもう1つ重要なプロセスがありました。それが、「情報のプロトタイピング」です。

実際の記事をライターとともに書き起こし試作することで、どんな「テイスト」で伝えるとよいのか。それがターゲットにどんな印象を与えるか。どんな「コト」を伝えるとよいのかを考え、ミッションを達成できそうな情報のあり方を見つけ出すのが狙い。理詰めではなく、実際に手を動かし、小さな試作を繰り返すことで、最もフィットする形を探っていきました。

「全体を通して、説得しようとしないことを徹底したWebサイトです。ターゲットにどう役に立つのかを考え、実行する。それによって納得と共感を生んでいくこと大切してきました」と寺井。最後に、今回のプロジェクトで実践してきたポイントを次の3つにまとめました。

ミッションの再定義から始めるプロジェクトのポイント

  • 頭だけでなく身体でも理解する
  • クライアントと一緒に考え一緒に作る
  • 理詰めではなく、プロトタイピングを通して思考する

もっとプロトタイピングからの体験設計に関心あるかたはこちらの記事へ

大学選びの新しい体験をデザインする 鼎談

これからの大学サイトを探る、インタラクティブセッション

寺井によるセッション終了後は、立教大学の広報担当であり、今回のプロジェクトメンバーであった小嶋氏が登壇者に加わり、プロジェクトの裏側や、それぞれの立場からみる、これからの大学広報のあり方に関わる質疑応答が行われました。

Q:Webの評価軸は誰とどう決めるべきか? 

寺井は、「定量的な評価軸は大事」としながらも、一年分の数値だけでどこまで評価できるかは難しく、また、大学の場合は広報物の一年のサイクルが決まってしまっている分、どういうPDCAをまわすかが難しい課題だと指摘。また、小嶋氏は「単純に受験者数が増えた、減ったというのではなく、質の変化をどうすれば測れるかは、これから一緒に見つけていく考えです」と語りました。

Q:どうやって学内の意思統一を図ったのか?

「9年前に行ったリニューアルでは、学内の合意形成に難航した経緯もあったため、今回のリニューアルは慎重に合意形成を行うようにしました」と小嶋氏。特に今回は、大学サイトから学内向けの事務連絡などの情報を別サイトに移すという決断があったため、関連部署には何度も足を運び、その意図を、時間をかけて丁寧に説明するようにしました。

Q:紙とWebの役割はどう分けるべきか?

紙で見たとき、Webサイトで見たときの情報の捉え方はまったく異なります。大学案内に掲載されている情報がすべて大学サイトに載っていればいいというわけではありません。
「紙媒体は信頼性や安心感を得ることに長けたメディア、一方Webは最初の興味を引くことに長けたメディア。それぞれの特性を生かして役割分担をすべき」と寺井。

Q:高校生にメッセージを届ける方法として、今後何が重要になってくるか?

「モバイルの比率が急速に高まっていることから、Webサイトがますます重要になるのは間違いない」(小嶋氏)ものの、「Webサイトは待ち受けているものであり、そこでやれることには限界もあるし、広告だけでも限界があります」と寺井。Webサイトに訪問させるきっかけとして、高校生を対象にした体験プログラムを提供するなど、実際の活動をベースに考えていく必要もありそうです。

大学広報は、若者の人生に岐路に関わる大切な活動であり、重要なタッチポイントの一つ。当然ながら、Web担当者はお知らせの更新だけがミッションではありません。目の前にある山積みの課題を一つひとつずつつぶしていく方法を考えるのではなく、ありたい姿に向けてやるべきことを考える。Webリニューアルを進めるなら、ぜひミッションの再定義から。立教大学の事例に多くを学んだ2時間でした。(ライター:佐々木みのり)

右からロフトワーク 寺井、立教大学 小嶋氏、司会担当のロフトワーク 柏木

立教大学Webサイトリニューアル プロジェクト詳細

イベント概要

2020年度から従来の大学入試センター試験に代わり、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が導入されます。評価方法が変わるとともに、大学のアドミッションポリシーなどに沿った入試が実施され、大学と受験生のマッチングを向上させるという意味合いも大きくなるといわれています。 

受験生は、偏差値や就職率だけではなく、何を学び、どんな知識と能力を身に付け、どんな仕事に就きたいのかをより深く考え、主体的に大学を選ぶことを求められます。これに対し、今の大学サイトは未来の受験生の要望に応えられる情報を発信できているでしょうか?

本イベントでは、立教大学のWebサイトリニューアルプロジェクトをベースに、これからの時代に求められる大学サイトのアプローチについて紹介。現在の魅力だけでなく、5年、10年後どうありたいのか、という未来思考のWebサイトリニューアルの舞台裏ををプロジェクトマネージャーの寺井がお話しします。

大きな変革の狭間に立たされる今こそ、「大学Webサイトの存在意義」を一緒に問い直してみませんか?

開催概要

イベントタイトル 大学WEB VOL.2 事例:立教大学「大学Webサイトの存在意義を問い直す」
開催日時 2017年10月13日(金)15:00〜17:30(開場14:45)@京都
2017年10月20日(金)15:00〜17:30(開場14:45)@東京
場所 京都:ロフトワーク京都 MTRL KYOTO
東京:ロフトワーク渋谷 loftwork COOOP10
対象 大学の広報、入試担当者
大学で新たな広報戦略、ブランド戦略を任されている方
参加費 無料
定員 各回40名
主催 株式会社ロフトワーク
ご注意 ・申込者多数の場合は、抽選となりますので予めご容赦ください
・広告代理店や制作会社など受託業務に携わる方の参加は、お断りする場合がありますので、あらかじめご了承ください
・参加者の皆さんのお写真や発表内容は、後日弊社サイトに掲載いたします
・プログラムは、予告なく変更される場合があります

プログラム

15:00〜15:15
Opening
株式会社ロフトワーク 取締役 兼 COO 矢橋 友宏

15:15〜15:55
Case 立教大学「大学Webサイトの存在意義を問い直す」
株式会社ロフトワーク 京都ブランチ事業責任者 寺井 翔茉

  • ミッションの再定義:「受験生」は本当に大学サイトのターゲットなのか?
  • 体験をデザインする:宣伝をしない、でも大切な「きっかけ」になる
  • 情報のプロトタイピング:ターゲットへの伝わり方をプロトタイプで検証する

15:55〜16:05
Break

16:05〜16:45
Interactive Session
株式会社ロフトワーク プロデューサー 松岡 大輔
株式会社ロフトワーク シニアプロデューサー 柏木 鉄也

16:45〜17:30
Networking

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