EVENT Report

“フェミニン”な進め方から生まれる創造性
ロフトワーク展 01 - Creators Talk#4

約3年前にスタートした渋谷の都市づくりのプロジェクト「Shibuya Hack Project(以下、SHP)」。そのクリエイティブディレクターとして数々のユニークな企画を立ち上げるロフトワークの石川由佳子と、アートディレクター兼ご意見番(?)として参加している河ノ剛史さんによるトークイベントが行われました。テーマは、通常のクライアント案件とはひと味違うSHPの創造性。作品づくりや実験にも近いこのプロジェクトは、どんな風にまわりの創造性を刺激しながらクリエイションし続けているのか。日々多様なアーティストと関わるフリーライターの内海織加が、トークの模様をお届けします。

絶対的なゴールは決めない、 だから別のゴールにたどり着いてもいい

「渋谷にシビックプライド(*)をつくりたい」というクライアントの思いからはじまった「Shibuya Hack Project(以下、SHP)」。壮大なイメージよりも、まずは手の届く範囲での具体的な体験をと考え、「シブヤヒミツクラブ」「360°ラヂオ」「STREET FURNITURE HACK!!」など、さまざまな企画を立ち上げては、1ヶ月~3ヶ月スパンで実行している。

“「自分たちの手で、都市を使いこなす。」
ボトムアップから創造する、新しい“都市体験”の編集プロジェクト
個人の小さなアイデアやアクションの連続性が、やがて大きなうねりとなって都市や公共空間の在り方を変容させていく──。
ボトムアップ型の都市づくりを行うShibuya Hack Projectでは、トップダウン型ではなく、個人の力から、都市の自由度をいかに設計できるのか実践していきます。クリエイターや地域住民と共に、渋谷に眠るリソースを発掘し、価値を読み替え、クリエイティブに「ハック」していくことで、渋谷の日常を更新していきます。”

Shibuya Hack Peoject

しかし、SHPのような「都市づくり」に関わるプロジェクトは、何をもって達成とするのかが非常にわかりにくい分野。だから、どこに向かっていくのか、なにから手を付けるのか、その見定めはとても難しい。数々の企画は、どんなふうに見出され、どう進められたのだろう?

(*)住民が街に誇りを持ち、自発的に動いていくこと

STREET FURNITURE HACK終了後の振り返り会は、約3時間に及んだ

石川:一般的なプロジェクトって、ゴールをある程度決めて進んでいくことが多いと思うんですけど、SHPの場合は、ゴールを決めないで走り出すことが多い。クライアントも含めて、一緒に悶々と悩むところからはじまります。

河ノ:現実的にゴールがつくれないんですよね。何をもって社会にアプローチしたことへの成果とするのかはとても計り辛い。ある軸から見れば達成できているし、別の軸から見れば達成できていないし。それに、そもそもお題として出されるゴールって、本当のゴールじゃないことが多いですよね。

石川:そうですね。別の案件でも、提案すると、「このゴールはなんですか?」って聞かれることはよくありますが、ゴールからはじめるとそれありきになってしまって、予期せぬなにかを受け入れられなくなっちゃう気がするんです。
SHPでは、プロジェクトを進めながら時折本質に立ち戻って、再度ゴール“っぽいもの”を決めながらまた進む。途中で「違ったね」となればそんなものは捨てて、新しくアップデートしながらさらに進んでいく。必要ならチームを再編成することもありますし、そのくらい柔軟。

SHP初企画前に行った、終電も過ぎた真夜中の渋谷フィールドワークの様子。

河ノ:建設や行政といった都市のシステムをつくる世界って、男性的だなと思うんですよね。合意形成の仕方とか。だから、こういう論理性よりも感性や関係性によって駆動していくようなフェミニンな進め方って珍しいのかもしれませんね。僕は普段からコスメとかファッションとか、比較的女性っぽいものを扱う仕事が多くて、男性性と遠いところにいるから違和感ないけど。

石川:“フェミニン”な進め方、なるほど! ふわっと進めていく中でも、河ノさんて「これでいこう!」って決まったものに対して、明後日の方向を提案してくるところもありますよね?(笑)

河ノ:基本的に、最初の目標は無視!(笑)。最終地点を想定してしまうと、個人的に楽しめなくなってしまうし、どれだけ不確定要素を織り込みながら、可能性がある方向にボールを蹴られるかに賭けたい気持ちがあって。絶対こうしたいという思いがあると、どうしても完璧を求めたり、潔癖になったりするから、「絶対」という意識はあまり持たないようにしているんです。いろいろなものを受け入れながら、形を変えながらゴールの方向に向かっていければと。

石川:アイデアがある程度まとまった時って、最初の「これよさそう!」と思ったものに飛びつきがち。でもそこにちょっと斜めから見る人が入ることで、さらに選択肢が広がりますよね。それを繰り返し、いろんな属性の人を巻き込み、小さくてもアウトプットを沢山し続けるうちにブレイクスルーしていく。

河ノ:正解かどうかわからないけど、こういう未来があってもいいんじゃない?って別のゴールに辿り着くのが、通常のクライアントワークとはちがう、SHPの在り方ですよね。

石川:自分たちがつくるものへの期待感はあるけれど、決めつけないで、そこで見えてくるノイズを受け入れたりはじき飛ばしたり、色々咀嚼しながらつくって。

河ノ:何が求められているのかわからない、何もかも自分で決めなくてはならない、何を成果とするのかもわからないという点では、作品をつくる感覚に近いものがあると思います。前に、石川さんが「生み出すのが辛い」と言っていたけど、それすごく理解できるんですよね。通常のクライアントワークの方が精神的には楽じゃない?

石川:そうかもしれない。でも、私の表現を見て欲しい!とかではないんです。見せたいのは、私の内にあるものではなくて、外で起こっている事象。0から1を生み出したら、それが育つように見守って、また新しい軸をつくったり適任な人を巻き込んだり、そういう動き方からまた面白いことを起こしたいですね。

街を知りたい時は、目的地を決めない方がいい。こっちに行ってみようかな、この路地に入ったらどこに繋がるんだろう、こんなところに公園あったんだ。そんな風に、歩きながら色々な人やものに出会うことで、その街の雰囲気や特長を肌感覚で理解することができる。行き止まりになったら、「あれちがったな、戻ってみよう」と身軽に方向転換をする。そんな無駄足も、本当の意味では無駄ではなく、知ることに繋がるプロセス。むしろ、創造性を刺激するチャンスは格段に増えるのだ。

不確かさも衝突も、 楽しんで期待感につなげる

現在SHPに関わっているのは、ロフトワークのメンバー4名と、含む外部スタッフ2名。そこに、テーマに応じてさまざまなアーティストや専門家が加わっていく。そもそも、河ノさんをチームに招いた理由は何だったのだろうか。

石川:SHPのようなプロジェクトは、ゴール設定が緩やかでも走れる人、寄り道を厭わない人の方が向いていると思いました。河ノさんをこのプロジェクトに誘ったのは、不確かなものを一緒に楽しめる予感があったから。私は、仕事とプライベートの境があまり明確になくて、この人となにか一緒にやってみたいと思う人と、公私構わずプロジェクトをやりたいタイプ。実際、その方が圧倒的にアウトプットがいいんですよね。
河ノさんも、もとは仕事外の企画で関わった人。好奇心から繋がっているような信頼関係ができているので、意見が噛み合わない時でも本質はぶれないし、柔軟に方向転換できる気がします。

あえてカチっと決め切らない、ゆるやかに進める案件とは言っても、いつまでもフワフワとしているわけにはいかない。寄り道しても、歩は進める。その鍵には、しなやかで強く、前向きなコミュニケーションがある。

石川:コミュニケーションといえば、メンバーとぶつかることも創造の源ですよね。SHPに関わるロフトワークのメンバーはそれぞれの思いが強い分、ぶつかることもあります。それも楽しみ、真面目になりすぎないラインをとりながら、不確実なものもとにかく形になるまで実行し続けます。フェミニンだけどタフ。そんな感じでやってます。

河ノ:そういえば石川さんて、大学で社会学を専攻していますよね? シニカルな視点を持つと、社会ってそんなにいいものじゃないように思えそうなんですけど、一緒にプロジェクトをやっていると、石川さんていつも社会を希望的に見ているじゃないですか。なんで、そんなふうに見ることができるの?

石川:良くも悪くもだと思うんですが、物事に対して常に期待感を持つクセがあるんです。まだ見たことがないものに到達できるかもしれないっていう期待のもと、妄想を膨らませながら形作っていく感じで。

河ノ:(社会を知ることで)絶望することはない? なぜ実際に社会に入り込み、当事者側としても活動するようになったんですか?

石川:不満足になることはあります。でも、絶望とは違いますね。そういう時は、またちがう選択肢があるんじゃないかっていう別の期待値に繋がる。社会学って観測者的な感じで、特に自ら動こうとはしない気がして。その実が伴わないところへのもどかしさ、何もしないと何も変わらないっていうフラストレーションが、自らが動いて手触り感のあるものをつくりたい、目の前で変容する様を見たいっていう欲望を駆り立てるのかもしれません。

通常の案件は、基本的にある方向に向かって直線的に進んでいく。しかし、SHPはあっちへいったりこっちへいったり、最終的なゴールに辿り着くまでにさまざまな方向に進む。形で表現するならば円形が近いだろうか。進めば進むほど、迷えば迷うほど、議論すれば議論するほどに、その円は丸く大きく成長する。円がひとつから、ふたつ、みっつと増えていくこともあるのかもしれない。もはやSHPは、フェミニンな制作現場から生まれ、シブヤの街に自由に生息する生き物のようだ。

SHPは、現在もまだまだ進行中。すでに、今年もさまざまな実験的企てが決まっている。ゴールを決めずに走ってきた企画が、最終的にどんなゴールに辿り着くのか、どんな生き物が生まれるのか、今年も目が離せない。

3月13日〜17日開催! 全11組のクリエイターが「似て非なる渋谷」を表現する「似非シブヤ展(エセシブヤテン)」

“仮”の渋谷を全11組のクリエイターが表現する企画展「似非シブヤ展──都市を書き換える5日間の仮設」を開催します。3年前からスタートした渋谷の都市づくりプロジェクトでは、「渋谷がこうであったら嬉しい」という個人の想像力から始まるクリエイションを街中に立ち上げてきました。今回はその集大成。ぜひお越しください。

似非シブヤ展(エセシブヤテン)

登壇者プロフィール

■ 河ノ 剛史
ビジュアルデザイナー、アートディレクター、フォトグラファー、好事家。千葉大学デザイン工学科意匠系卒。FABRICA、Communication Design Laboratory、NOSIGNERを経て独立。ビューティー、ファッションの分野で培った感性をもとに、パッケージから、広告、都市のソフトウェア開発まで幅広く行う。最近の仕事は、漢方ブランド“DAYLILY”のアートディレクション・デザイン、慶應義塾大学と“Kanebo”のアプリケーション開発、横浜DeNAベイスターズのサイン計画など。 “SHIBUYA HACK PROJECT”では、アートディレクションを担当。
http://www.kawanotakeshi.com/

■ 石川 由佳子
上智大学卒。ドイツで暮らしていた経験から、日本の都市のあり方や人の営みについて、その現象が起こっている“源”に関心を持ち都市社会学を専攻する。広義の「場」のデザインを得意とし、渋谷の都市づくりをボトムアップ型で実践していくShibuya Hack Projectや、共創空間のディレクションを中心にプロジェクトを推進する。

内海 織加

Author内海 織加(エディター、ライター)

新潟生まれ。広告制作会社を経て2009年よりフリーランス。雑誌や広告プロモーション分野で企画・編集・執筆・コピー制作などを行う。ライフスタイル提案やカルチャー記事、インタビュー記事を中心に幅広いジャンルで執筆。ネーミングを担当した池ノ上のギャラリー&コーヒースタンド「QUIET NOISE arts&break」にて、展示キュレーションも行う。音楽のライブ、ダンスやお芝居の舞台にも頻繁に足を運ぶ。
https://www.instagram.com/ori_/

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