創造性をドライブさせる! 佐藤ねじさんの習慣
ロフトワーク展 01 – Creators Talk#5
2017年12月に行われたトークセッションでは、「こうきたか!」と思わせる斬新なWebコンテンツを多く発表している佐藤ねじさんをゲストに迎え、ロフトワークの原亮介が「創造性の源」という本展示のテーマに迫りました。
「創造性はどこからやってくるのか」をテーマに、インスピレーションの種となった書籍やデザインやプロダクトが赤裸々に展示された「ロフトワーク展」。一般的には外に出すことはない、むしろ出したくないようなアイデアソースの数々は、つくり手の痕跡でもあり、生み出すまでの苦悩や泥臭さのようなものを感じさせるかもしれません。
2017年12月に行われたトークセッションでは、「こうきたか!」と思わせる斬新なWebコンテンツを多く発表している佐藤ねじさんをゲストに迎え、ロフトワークの原亮介が「創造性の源」という本展示のテーマに迫りました。
テキスト:内海 織加
自分に合う方法をみつけると強い、アイデアを生み出しやすい習慣
「アイデアの神様って、祈っていても降りてこないんですよね」
トークショーの冒頭、原はこんなふうに切り出した。
日々、新鮮なアイデアを求められるクリエイティブ職の人ならば、この発言に心の中で深く頷いたはずだ。そう、アイデアの背景には、日々の情報収集があり、分析があり、気づきの視点があり……クリエイターそれぞれが、それぞれの方法で積み重ねている膨大な作業がある。(その見えない作業が、まさにこのロフトワーク展で大胆に展示されていたわけだが!)
しかし、その積み重ね方は十人十色。だからこそ、ヒットメーカーやアイデアマンの方法は、正直、気になる。誰にも思いつかないようなユニークなWebコンテンツを次々と生み出す佐藤ねじさんは、一体どうやってそのアイデアを生み出しているのだろう。その問いを受けた佐藤さんは、普段は人に見せることはないというiPadの画面をスクリーンに映し出した。
佐藤:ずっと続けていることなんですけど、「Evernote」に毎日ネタを貯めています。「今週のアイデア」というハコを作って、思いついたことをとりあえず書き込んでいます。精度も量も、その時によってまちまち。あとでキーワードで検索かけたりしながら見返して、よさそうなアイデアはあらためて手書きでスケッチに起こして別のノートに貯めていくんです。「Evernote」は、2軍メモとして使っていますね。
見たものの感想やそこから派生したイメージや素朴な疑問など、自分から生まれた小さな発想の欠片を、まずメモに残す。恐らくそのポイントは、自分でいいとか悪いとか判断する前に記録することにある。思いついたことをメモする作業は、一見、簡単だが、それがイケてるか否かという思考に到達する前に、一度アウトプットするのは意外と難しいこと。目の前にある種を、発芽するかどうかを判断せず全て植えてみる。そんな作業に見えてくる。
佐藤:どこでアイデアが出たか、その場所やタイミングをライフログとして残すようにしています。そうすると、自分はどこでアイデアが出やすいのかが、少しずつ見えてくる。展示を見て刺激を受けた後に出やすいとか、ミーティングしている時に出やすいとかね。
アイデアを生み出すばかりでなく、出やすい状況を把握するという佐藤さん。その自分自身を知る作業も、アイデアが出やすい環境を作ることにつながっていく。その作業は、作品をアウトプットした後にも行われる。
佐藤:仕事にしてもライフワークにしても、なにかを作っているときって、ひとつのものを「点」として見てしまうんですね。長い時間そのままにしておくと、自分がどんなことをしているのかを大きく捉える視点がもち辛くなる。だから、作品をグループ化するようにしているんです。例えば、「変なWEBメディア」という独自メディアを立ち上げて、変わったギミックを使ったものはここにアップしています。自分の今やっている軸、今後やっていく軸が理解できるようになって、結果的に、創造性が降りてくるハコの役割も果たしてくれています。
原:なるほど。2軍メモも作品のグループ化もそうですが、ねじさんはアイデアが生まれるための仕組みづくりを意識していますよね。
佐藤:昨年は、仕事環境そのものや作業時間を見直しました。『天才たちの日課』(2014、メイソン・カリー著)という本で著名な方たちの日課が紹介されているんですけど、みなさん比較的早起きで。6時に起きて朝食前にひと仕事終えて、午後からは長い散歩に出る、みたいな人が多いんですね。僕も、自宅近くに借りたシェアオフィスで朝7時から仕事をはじめてみたら、お昼くらいには大事なタスクがほぼ終わるんです。
でも昼食後はどうしても眠くなってしまって作業効率もよくない。そこで一旦家に帰って昼寝をすることにしたら、頭がスッキリしてすごくいい。会社勤めの方なら、昼寝場所を探すのもいいかもしれません。創造性を高めるための環境を作る、って大切ですよ。
発想という「点」を積み重ねて、どこまでも「線」を伸ばしていく
後半は、佐藤さんの発想そのものに焦点を当てる。なぜ、佐藤ねじさんの作るものは、こんなにもおもしろく、心を掴まれてしまうのか。
原:ここ数年、“わかる”っていうことが、いかに素敵なことか、楽しいことかということに関心があります。ねじさんの作品って、基本的に難解なものがなくて、僕らが気づけそうなのに気づいていないことをうまく使っていたり、わかる楽しさを教えてくれると思っていて。
前にお仕事でご一緒した時、ねじさんが「まずは、その対象はそもそもどういうものなのかという“前提”を作る。例えば掃除なら、“きれいにする行為”という前提を作って、そこからパーツをずらすことでおもしろさを生み出していく」とおっしゃっていて、それが大きなヒントになりました。
佐藤:そうそう。「要素を分解する」という作業は、毎回と言っていいほどやりますね。作り方そのものもそうで、WebならWebの作り方とかルールとか、そのスタンダードを高い解像度で理解してはじめて、面白かったり奇抜なものを作れると思っています。型を知らずして型破りはできない。
原:確かにねじさんの作品って、見たこともないものというより、普段から目にしているものがベースなものが多いですね。ねじさんが所属するバンド、「1980YEN(イチキュッパ)」の作品として六本木アートナイト2017に出品したインスタレーション作品「館内放送GIG」も印象的でした。
佐藤:あれは、ショッピングモールや百貨店の館内放送を使って、GIG(ライブ)をするっていう発想でしたね。音楽ライブでよくある「セイホウ」(コール&レスポンス)を、館内放送のアナウンス口調でやってみるっていう。みなさんノリがよくてテンションあがりました(笑)
原:「5歳児が値段を決める美術館」もおもしろいなぁと。億とか、ついてる値段も大胆だし、価値について考えさせられます。
佐藤:子どもが作った作品を、子どもが決めた価格で販売するっていうだけなんですけどね。値段を子ども自身が決めてるので、高すぎたり数字じゃなかったりはちゃめちゃで(笑)
原:それがこのサイトの魅力だと思います。何気ない日常生活にあるものへの眼差しが、ねじさんのアイデアの種ですよね。
しかし、身の回りにあるものがベースになっているとはいえ、クリエイティブには、もっと引いた目線で時代やムーブメントを捉えることも必要。それらをどんなふうに感じ取っているのか。会場から投げかけられたそんな質問に、佐藤さんはこう答えた。
佐藤:AIすごいぞ、VRすごいぞっていう話を聞いても、実際自分ができることは限りがある。だから、情報をキャッチした上で、自分が何ができるのかをベースに考えてみたり時流を分解してみたり、情報を“消化する”ことにエネルギーを割こうとしています。たくさん知ることがあってもアウトプットが変わらなかったら、あんまりいいことじゃないと思うんですね。だから、得たものを出していこうと、インプットとアウトプットをセットで考えるようにしています。なにか出すと返ってくるっていうケースもありますし。
見えないものに思いを馳せるのではなく、情報も事象も、目の前にあるものとまず真摯に向き合ってみる。それが、佐藤さんのやり方なのかもしれない。恐らく、彼の軸足は常に「今」にあるのだろう。だからこそ、あえて将来のことを聞いてみたくなる。長期的に見て、目指している大きな方向性はあるのだろうか。
佐藤:僕は、ずっと一本の軸は持ちながら、スタイルを変えていける人が好きなんです。糸井重里さんとか。コピーライターをやっていて、ほぼ日をつくって、ステージを変えながらいろいろな展開があるのに、糸井イズムはちゃんとある。そういうのがいいなぁ、と。
今は、Webコンテンツを多く作っていますけど、いずれWebがなくなる可能性だってある。だから、Webに固執するのではなく、自分らしい発想や視点をもって何かを作ることは変えずに、自分の年齢や時代の流れに合わせながら作り続けていきたいんですね。実際、ジャンル問わずに作った数をカウントしていて、いくつ作って死んでいくのかっていう感じで考えています。大きなプロジェクトにはそんなに魅力を感じていなくて、とにかく点を作って長くやり続けることを考えていますね。
原:だから、習慣化っていうのが大事っていうことですよね。
アイデアを生み出すために行う佐藤さんの数々の習慣や環境づくりは、同時に、作ることを持続可能にするためでもある。それを念頭において紹介されたさまざまな習慣を振り返ると、全てが腑に落ちる。すべての「点」は、伸びていく長い「線」の一部なのだ。
目の前の点を見ているようで、どこかもっと引いたところから全体をみていたり、動いている自分の他に、その自分をマネジメントしているもう一人の自分が存在していたり。佐藤氏の視点は、常に立体的だ。こうしてミクロとマクロのふたつの視点でものごとや自分自身を捉えることが、「アイデアの神さまが降りてこない」というあの苦しみから解放され、創造につながる一歩なのかもしれない。
登壇者プロフィール
- 佐藤 ねじ
1982年生まれ。プランナー/アートディレクター。面白法人カヤックを独立→Blue Puddle Inc.設立。「空いてる土俵」を探すというスタイルで、WEBやアプリ、デバイスの隙間表現を探求。代表作に『Kocri』『しゃべる名刺』『貞子3D2』『本能寺ストーブ』『レシートレター』『世界で最も小さなサイト』など。日経BPより『超ノート術』を出版。
https://blue-puddle.com/ - 原 亮介
関西のファッション/カルチャーマガジン編集長、ロボットテクノロジー関連ベンチャー、戦略PRコンサル会社を経て、2014年よりロフトワーク所属。クライアント企業のオウンドメディア、サービスのグロース戦略・戦術の企画を主に担当。ヒトの心を動かすコミュニケーションをテーマに、その本質的なメカニズムと最先端の手法を研究中。