Workshop

XSからXLまで、スケールを横断して考える
これからの都市づくりの方法論 レポート vol.3

「XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論」をテーマに3/13に開催された本イベント。ここまでのレポートは、プログラムの第1部、様々なスケールで都市デザインに取り組む実践者たちによる、プレゼンテーションとディスカッションをお伝えしました。

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今回は、プログラムの第二部「個人の視点から、地域資産を再発見する方法」をテーマにしたワークショップの様子をお伝えします。

ゲストとしてお迎えしたのは、株式会社グランドレベルの田中元子さん。参加者一人ひとりが渋谷川近郊にフィールドワークに出かけ、自分だけのパブリック空間「パーソナル屋台」を考えるワークを行いました。

テキスト:吉田 真緖
写真:萩原 楽太郎

好きなことをふるまう自分だけの屋台が、まちに人を集める

田中元子さんは、「1階づくりはまちづくり」をモットーに活動をしています。ここで言う1階とは、住宅、オフィス、公共施設、商業施設などあらゆる建物の1階だけでなく、駅前、広場、公園、駐車場など、いわゆる地面に接しているところ全般です。

日本の都市の1階は、禁止事項が多い公園、人の気配がまったくない公開空地など、殺風景な場所が少なくありません。一方、海外の都市に目を向けると、例えばカラフルな商店が建ち並ぶロンドン、川辺にたくさんの人が腰掛けているデンマークのオーフスなど、まるでお祭のように楽しげな風景が日常的にあります。大きな違いは、そこに人がいるか、いないか。「賑わっているまち」というのは、人が自然と集まることができる設計になっているのです。

グランドレベル 田中元子さん

元子さんは、人の居場所が少ない日本の都市空間に、“屋台”を出すことを趣味に活動しています。きっかけは、事務所の片隅に小さなバーカウンターをDIYで設置したこと。元子さん自身はお酒を飲まないのですが、友人知人を呼んでお酒をふるまっていると、一銭もお金にならないのに幸せを感じたそう。そして、まちを歩くときに「ここにバーカウンターを持ってきたら賑わうんじゃないか」と思うようになったとか。

そこで元子さんは、バーカウンターの代わりに小さな屋台、パーソナル屋台をつくり、まちで道行く人にコーヒーをふるまってみました。すると1人目をきっかけに次々と人が集まり、集まった人同士で会話が生まれはじめまたといいます。

私がコーヒーをふるまっている間、そこはひとときの公共となりました。そのことを“マイパブリック”と名付けました。

XSサイズだった事務所のバーカウンターが、より広い公共空間へとスケールアップしたのです。

まちの見え方が変化する“陣取り”フィールドワーク

「たくさんの個人がパーソナル屋台で好きなことをふるまえば、まちのつまらない公共空間が楽しくなります」と元子さん。今回のワークショップでは、参加者一人ひとりが、自分のパーソナル屋台を考えていきます。

屋台を出すエリアは、イベント会場である100BANCHの前を流れる渋谷川周辺。暗渠により長い間地下に埋められていた渋谷川ですが、近年の再開発により、今年末には再び日の光を浴びる予定のエリアです。

フィールドワークでは、Shibuya Hack Projectとのコラボレーションも。まちのなかに自分だけの”ベストポジション”を陣取り、そこにとどまることで一人ひとりのまちの見方を変える「渋谷極小特区計画」というプロジェクトから生まれたフィールドワークの手法もワークに組み込まれました。

参加者に配布されたキット、その名も「陣取りキット」のなかには、指示書とマスキングテープ、ポストイットとペンが入っています。このキットを持ってまちへ出て、じぶんがパーソナル屋台を出したい場所、つまり自分の居場所を決めます。そしてマスキングテープでその場を陣取り、15〜30分ほど佇んで周辺の様子を観察します。感じたことや、見えてきたものはポストイットにメモし、屋台の内容を考える素材にしました。

フィールドワークから戻ってきたら、ワークシートにパーソナル屋台のアイデアを表現し、発表します。
パーソナル屋台には3つのルールがあります。

  • まちのなかにある「ちょっとさみしいな」と感じる隙間でする。
  • 人のため、まちのためではなく、自分がやりたいことをする。
  • 趣味だから、無料でする。

どこで、何をふるまうか、いざ探しに出かけましょう!

“ベストポジション”を見つけるまでには、キョロキョロ、ウロウロすることになります。視線も歩みも普段と異なり、「こんな場所からこんな風景が見えたのか」などと、知っているはずのまちが新鮮に感じられます。建物の屋上にのぼったり、路地裏に迷い込んだり、ちょっとした探検を繰り広げる人もいます。

日当たりがよい場所、緑のある場所、眺めのいい場所・・・ベスポジの決め方は十人十色です。じっと佇んでいると、時間の流れがゆるやかに感じられ、その分空間へと意識が向くような気がします。聞こえてくる音も変わってきます。五感を使い、高い解像度でまちと向き合います。

小さな段差のスペースに、腰をおろすポジションを見つけた彼。低い目線からは、人の足元がよく見えたそう。そこで考えたパーソナル屋台が、靴磨き。さらに、行き交う人に笑顔がなかったので、花を飾って笑顔になってもらおうと、名付けて「ローズシューズ屋台」というアイデアが生まれました。

交差点の隅にある、掲示板の前にベスポジを見つけた彼は、道案内や地域のニュースを自分の口から伝える、“しゃべる掲示板”になりたいと思ったそう。また、信号待ちの人たちにアメを配るなどして楽しさを与えたいとのことで、「笑顔を届ける屋台」と命名しました。

独創的な発想が次々と飛び出したパーソナル屋台

100BANCHに戻ってきたら、フィールドワークで持ち帰ったものを、参加者同士で共有しました。同じ時間、同じエリアにいたのに、一人ひとりがまったく異なる内容のワークをしていたことに、驚きや楽しさがあります。

そして、たっぷり1時間以上をかけて、元子さんのコメントやフィードバックを交えながら、全員が自分のパーソナル屋台を発表しました。

オフィスビルに囲まれた公園内でベスポジを陣取った女性は、そこに訪れる人々がタバコを吸う5分程度しか滞在しない様子をもったいないと感じ、趣味の旅行とゴルフをふるまうことに。スウェーデンのコーヒータイム「フィーカ」をイメージし世界のお菓子を提供する隣で、パターゴルフが練習できる「ゴルフフィーカ」という屋台を発表しました。

川沿いを隣駅まで歩いた男性は、緑がうっそうと茂る場所を発見。都会の真ん中なのに鳥の鳴き声が聞こえ、付近には巣箱が設置されていることから、野鳥が集まっていることを知りました。自身もセキセイインコを飼っており、鳥が好き。そこで、双眼鏡をレンタルして渋谷の野鳥を観察する「鳥見屋台」を考えました。

日当たりがよく心地よい場所を陣取った男性は、近隣に銭湯があることも鑑みて、昼寝スペースをふるまうことにしました。ヘッドフォンやアロマなど安眠グッズも用意し、周辺のオフィスビルに勤めるサラリーマンたちにやすらいでもらいます。屋台名は「フリーzzz」。

このほかにも、独創的で素晴らしいアイデアのオンパレード! まるでアート作品を鑑賞しているかのような、心おどるひとときとなりました。

まちを、等身大に考える

「本人のなかでは普通かもしれませんが、どの案も『それはあなたじゃないと思いつかないよ!』というものでしたね。パンチ力の強さに私も心を動かされました」と元子さん。

このワークショップのポイントは、それぞれのアイデアが優れているかどうか評価するものではないことだと、元子さんは話します。また、趣味なのでお金を稼ぐという目的もありません。グループ内で案をまとめることもしないので、一人ひとりの発想したことがそのまま、ダイレクトに表現されます。だからこそ、のびのびとした自由なアイデアに出会えるわけです。

パーソナル屋台では、まちのためではなく、自分が楽しいと感じることをすることが大事です。そうすることで、まちと自分というものが、等身大になれるんです(元子さん)

パーソナル屋台を通じてマイパブリックを考えることで、「自分はSサイズ、まちはLサイズ」という捉え方がとっぱらわれ、自分とまちとが同等にリンクする。これこそが、スケールを横断する体験と言えるのではないでしょうか。参加者のみなさんがワークショップで得た体験を持ち帰り、スケールを横断する視点を持って日々を過ごせば、まちの風景がボトムアップで変わっていくかもしれません。

さて、時刻は夕方。長かったイベントも終了となります。午前中はXSからXLを横断するまちづくりの実践者の話からインプットをし、午後は自らまちに出るワークショップでアウトプット。2つのアプローチからスケールの横断を感じ、Shibuya Hack Projectが目指す「市民一人ひとりが都市を使いこなす」とはどういうことか、より鮮明にイメージを共有できた一日となりました。

イベント概要

XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論

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