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XSからXLまで、スケールを横断して考える
これからの都市づくりの方法論 レポート vol.1

去る3月13日、イベント「XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論」が「Shibuya Hack Project」主催で開催されました。Shibuya Hack Projectが目指すのは、市民一人ひとりがまちを使いこなすこと。渋谷の公共空間を舞台に、ボトムアップの手法で実験的な活動を展開しています。 これは、都市の中でのXSやSサイズの短期的な小さな実践から、より大きなLやXLサイズの都市計画までの長期的な波及効果を与える試み。その際重要なのは、「いかにスケールを横断できるか」という点です。

今回のイベントでは、XSからXLまで様々なスケールで都市デザインに取り組む実践者たちを招き、まちづくりの最新の潮流を、スケールを横断しながら議論しました。

プログラムの第一部は、6名の登壇者が各自の活動を紹介した後、「XSからXLまで、スケールを横断する都市デザイン」についてディスカッションを行いました。

第二部は、個人の視点から地域資産を再発見するワークショップとして、渋谷川近郊にフィールドワークに出かけ、自分だけのパブリック空間、「パーソナル屋台」を考えました。当日の様子を3回に渡ってレポートします。

テキスト:吉田 真緖
写真:萩原 楽太郎

目指しているのは、ポジティブな「割れ窓理論」

会場は、未来をつくる実験区として日々若いエネルギーが集う「100BANCH」です。登壇者を囲むように参加者が着席し、カジュアルな雰囲気でイベントがスタートしました。

ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer) 松井 創

まずは、ロフトワークLayout Unit CLO(Chief Layout Officer)松井が今回のイベントのテーマにについて説明します。Layoutは、「Participatory Urbanism(参加型アーバニズム)」をテーマに、XSからXLまで様々なスケールにおける都市の体験を立体的にプロデュースする実験ユニットです。

割れ窓理論(英: Broken Windows Theory)

「みなさん、『割れ窓理論』をご存知でしょうか?」と会場に投げかけセッションがスタート。『割れ窓理論』は、まちのなかで一つの窓が割られているのを放置すると、ほかの窓もほかの人によって割られ、まちの犯罪率が高くなる現象のこと。割れ窓理論は、XSからXLへの展開のネガティブな例ですが、これを逆にしてポジティブな展開をすることが、Hack My Cityの目指すところだといいます。

松井は普段から大事にしている横断のイメージとして、イームズの映像作品「Powers of Ten」を紹介しました。映像は10m四方のピクニック風景から始まり、上昇しながら範囲を拡大。宇宙の果てまで到達します。すると再び最初最の風景に戻り、今度は人物の体内の、原子レベルの世界を映し出します。まさにXSからXLの視点を旅する作品です。

今回のゲストは、自由に、ダイナミックにスケール横断する実践をしている方々。暮らしのデザインから、ディベロッパーと行うコミュニティづくり、不動産や仕事のリデザインまで、様々な活動領域の実践者の話を振り返ります。

市民が自ら都市を更新していく

松井の話すポジティブな「割れ窓理論」の考えは、アメリカをはじめ近年日本でも注目されつつある「タクティカル・アーバニズム(戦術的都市計画)」にも通じています。行政や企業が主導するトップダウン型の都市計画とは逆のアプローチであるタクティカル・アーバニズムは、「ゲリラ」「DIY」「シティ・リペア」などといったキーワードで語られることが多いです。

「行政がやるような大きな都市改革がXLだとして、私たちがやっていることはXS。ヒューマンスケールで、身近な範囲でできる都市への関わり方です」

ロフトワーク クリエイティブディレクター 石川 由佳子

こう話すのは、Shibuya Hack Projectのディレクター 石川。Shibuya Hack Projectでは、これまでオルタナティブな都市の公共空間の活用実験として、道玄坂の花壇をHACKしパーソナルサイズのコンテナを設置しコミュニティガーデンをつくる取り組みや、道路空間の活用の実験として道路封鎖をした道玄坂や渋谷中央街にオリジナルのストリートファーニチャーを設置するといった試みを、デザイナーやクリエイターなど多様なタレントとともにしてきました。

これらのプロジェクトは、市民が自身で手を動かしながら、自ら都市のあり方を更新していくモデルケースとなり得るものです。そして、個人の小さなアクションを大きな都市につなげるポイントは、XSからXLへの横断。「都市の役割が変わった。ひとつのアイデンディティで語れなくなっている都市に、今後はもっとやわらかく更新性のあるデザインが必要、それを作っていくのがこのプロジェクト。」であると、石川は語ります。100年に一度の再開発が行われる渋谷で、どのようにスキマをみつけ、都市の自由度を高めるのか、Shibuya Hack Projectの挑戦はまだまだ続いていくようです。

“暮らし”というXSの場が、まちへ広がる(nest Inc. 青木 純)

大家を営む青木さんは、住人が自ら部屋をリノベーションするという、賃貸住宅の新しいあり方を実現したことで知られています。

「賃貸住宅というつまらないと思われている暮らしの場を、どれだけ豊かに楽しむか。住人一人ひとりが考えて空間を変えていくことが、XSじゃないかと僕なりに思っています」
青木さんの賃貸住宅では、住人が屋上で家庭菜園やヨガをしたり、住宅の下に子連れで利用できるシェアオフィスや飲食店をつくったりするようになり、やがてイベントでまちの人々が集まる場となりました。

「暮らしの場とまちがつながった。XSからSにスケールアップしたのだと解釈しました」

nest Inc. 青木 純

青木さんは2016年、リニューアルオープンを控えた南池袋公園から、オープニングレセプションの制作・運営をしてほしいと依頼され、音楽演奏やヨガレッスンなど、さまざまな催し物を手配。公園に人々が集う魅力的な風景をつくりあげました。

「割れ窓理論に似ているけれど、いい雰囲気がひとつあると、それが連鎖して全体の雰囲気を作ってくれるんじゃないかと信じてやってみました」

翌年には南池袋公園につながる「グリーン大通り」などに賑わいを創出するプロジェクトを実施。マルシェや映画上映、ウェディングなど、前例のない試みを実現してきました。公共空間の使用許可を得るにあたっては、行政機関との調整に苦労を強いられたそう。しかし、行政職員もイベント当日の風景を見て心を動かされ、徐々に協力的になってきたといいます。

“暮らし”というXSから出発した大家の活動は、前例をつくりながら都市空間へとスケールを広げていったのです。

人々の関係性つくるコミュニティビルダー(YADOKARI ウエスギ セイタ)

YADOKARI ウエスギ セイタ

「YADOKARI」の共同代表を務めるウエスギ セイタさんは、これまで培ってきた “コミュニティビルド”のノウハウについて話しました。たとえば大手ディベロッパーと行った日本橋のコミュニティスペース「BETTARA STAND 日本橋」では、施工をDIYのワークショップ形式で行い、オープン前から人々を巻き込んできたと言います。400名が参加したそのワークショップで旗振り役をしたのはYADOKARIサポーターズの「コミュニティビルダー」と呼ばれる人たちでした。

「YADOKARIにはウェブ上に4000人くらいのコミュニティグループ(YADOKARIサポーターズ)があって、小屋作りや小商いなど多種多様なイベントを生んでいます。そのなかで、企画を進めるには、まちや空間に入って人々の関係性をつくる先導者(コミュニティビルダー)が必要だと感じるようになりました」

YADOKARIが年間を通して開催しているイベント数は300本ほど。自分たちだけでは回しきれない場の運営やイベントの開催を続けていられるのは、コミュニティビルダーが活躍し、まちの人を巻き込んでいるから。その仕組みによって、YADOKARIの活動はスケールを広げています。

ウエスギさんは最近、コミュニティをつくるだけでなく「複数のコミュニティが横断する場づくり」を目指しているといいます。大事にしているのは、“界隈性”という言葉。たとえば地元のお年寄りと外から訪れた若者が自然と会話を始めるような、別々のコミュニティにいる人々が交流できる場は界隈性が高いと言えます。そうした場では、出会いによる化学反応でイノベーションが生まれやすいのだそう。

Lサイズのスケールに必要な「都市経営」という発想(東京R不動産 林 厚見)

東京R不動産, SPEAC共同代表の林 厚見さんは、お馴染み「東京R不動産」を15年ほど前に立ち上げ、当時の古い価値観に縛られていた不動産業界に一石を投じました。東京R不動産は「Sの方法で、人々の常識にちょっとずつ影響を与えていく」試みです。

林さんは、ここまでのプレゼンで出たXSやSの実例をふまえ、「これからの都市には、これまでのような”管理する”発想でなく、マクロでは産業戦略や人材戦略を含めた経営の発想が、そしてミクロでは創造的な場づくりの試みが重要です。いかに両面からまちを形づくっていけるかなのです」と話します。

「市民の力で面白いことが小さく起こったときに、それを大きいスケールの地域持続性とつなげいく戦略を持つことが重要です。」例えばポートランドで創造的な街場の文化が盛り上がるのも、インテルなどの大手企業が経済を回しているからでもあるといいます。LとS、あるいは経済と文化が互いに支え合うような都市戦略を、林さんは仲間と立ち上げたセミコロンという会社で実践していこうとしています。

SPEAC / 東京R不動産, SPEAC/ 東京R不動産 林 厚見

都市を経営するには、条例などのまちのルールを変えていく必要もあると林さんはいいます。現在、まちのルールを決めるのは行政の仕事です。行政の立場からすると、『楽しいから』などという個人的、XS的な理由でルールを変えることは、世の中が許さない。そこで大義として有効なのが「社会の課題を解決する」ということ。公のルールを変える提案は、社会の課題を解決する提案とセットにすると通りやすくなるのです。

さらにその提案をビジネスチャンスとしてデベロッパーに持ちかけ、ともに動くことができれば、世の中が前身していくのではないかと、林さんは考えています。

人々が“生きるように働く”まち(日本仕事百貨 ナカムラ ケンタ)

「日本仕事百貨」代表のナカムラケンタさんは、「都市のデザインは、時間のデザイン」と考え、都市に住む人々の一日の大半を占める仕事の時間のあり方について問題提起します。

「仕事を選ぶとき、給料や勤務地といった条件も大切ですが、それ以上に大切なことは、どんな価値観をもって働くか。仕事の時間もそうでない時間も自分の時間。生きるように働く仕事を紹介している求人サイトが『日本仕事百貨』です」

日本仕事百貨/シゴトヒト ナカムラ ケンタ

印象的だったのは、だるま糸の染工場に取材をしたときの、工場長のエピソード。「色を触っているのが好き」という工場長は、仕事以外のときでも、例えば朝ご飯にたくあんを食べてるときでも、「あの染料とあの染料を混ぜたらこの黄色をつくれるな」と想像してしまうのだそう。ワークとライフが切り離されていない、連続した時間にあるのです。取材に応じた工場長のほがらかな様子からは、生きるように働くことの豊かさが伝わってきたそうです。

都市に生きる一人ひとりがこうした時間を過ごすようになると、まちのあり方も幸せなものになっていくはずです。個々人の時間の過ごし方をより有意義なものにすることから、まちのあるべき姿を描いていくのもひとつの方法です。

以上、それぞれの活動とスケールの横断についての考察を語っていただきました。次回は、トークセッションの模様をお届けします。

>>XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論 レポート vol.2

イベント概要

XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論

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