EVENT Conference

XSからXLまで、スケールを横断して考える
これからの都市づくりの方法論 レポート vol.2

「XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論」をテーマに3/13に開催された本トークイベント。レポート vol.1では、様々なスケールで都市デザインに取り組む実践者たちを招いた第一部の様子をお伝えしました。

後編のレポートでは、各登壇者のプレゼンテーションから見えてきた、XSとXLのスケールが互いに支え合う都市のあり方について、より踏み込んだディスカッションをお届けします。

テキスト:吉田 真緖
写真:萩原 楽太郎

人を巻き込み活動を広げるために必要な存在"ファーストペンギン"とは?

みなさんが言っているような“ポジティブな割れ窓理論”に、名前があるといいのですが・・・

ゲストのプレゼンテーションでさまざまな先端事例を聞いた後、パネルディスカッションの冒頭でロフトワーク松井がこのように切り出しました。XSサイズの実践から大きなインパクトを生み出していくことに焦点を置いた活動を、より広く認知させることができるのではないか、という意図です。

そこで話題に出たのは、「ファーストペンギン」や「ファーストフォロワー」といったキーワード。

ファーストペンギンは、ペンギンの群れの中から、危険かもしれない海へ飛び込む最初の1羽のこと。転じて、リスクを負ってでも新しいことにチャレンジする人のことを指します。ファーストフォロワー(First Follower)は、文字どおり、一番最初に先駆的な活動に賛同をする人達のこと。とあるお祭りの場で、広場にいる1人の男性が踊り出したところ、徐々に周囲の人が一緒に踊り出し、最終的に大きな集団となるに至った動画が有名です。一番最初の先駆者だけでなく、そのあとに続くフォロワーの存在の重要性を指摘しています。

まちづくりにおいて、まさにファーストペンギンといえる存在の青木さんは、「白髪が増えました」と先陣を切る大変さについて語ります。青木さんは現在、豊島区役所からの委託で、南池袋公園とそこへ通じるグリーン大通りに賑わいをもたらす事業を手掛けています。

青木
通りに賑わいをつくろうとすると、警察からは事故が起きやすくなるから止めてくれと言われるんですよ。役場の人に、イベント中は通りを歩行者天国にしたいと提案したら、実現するのはほぼ不可能と言われました。立場が違う人たちは、話が通じにくい。みんな僕が行くと『面倒くさい話はしたくない』と、PCで顔を隠します(笑)

より多くの人を巻き込み、活動を広げるには、共感や理解を得るために立場が違う人たちと対話をする必要があるのです。

理解を得るには行政にも伝わる言葉で丁寧に......

L、XLのパブリックな空間を管理している行政は、何かの提案があったとき、その話題に興味がない人やマイノリティの人を含め、あらゆる人々に説明できる判断を下さなければいけません。許可を得るには、行政にも伝わる言葉で、行政の人にとっても価値があるようにきちんと話すことが必要だと青木さんは話します。

青木
昨年開催したイベントでは、夜ムーディーな雰囲気をつくるために、街灯の灯りを消しました。そのときは、『これからの街路樹計画を考えるうえで、適切な明るさを調査したい』と言ったら許可がおりました。だから、『こんなときは、こんな大義を使おう』という大義のラインナップがあったら便利なんじゃないかな。それをレシピのように使えれば、いろんなまちでボトムアップの動きがしやすくなる可能性がある


Lサイズの民間の世界においても、『これ面白いですよ、カッコイイですよ』と言うだけではなかなか実現しないけれど、『それがこういう人たちにとって価値があるから、これだけの経済価値を生むでしょう』と説明すれば納得されて、実現できる。行政に対しては利益でなく大義ですよね。説明をする努力を怠るわけにはいかないので、がんばらないとですね

大事なのは共感して一緒に踊り出す人、彼らが現れると一気に流れが変わる

東京急行電鉄 山口 堪太郎

XLのスケールであまねく人々に受け入れてもらうには、大義を考える方法のほかに「事例をつくることを、一つひとつ積み重ねていくのも大切」だと、トークセッションから参加した東急電鉄の山口堪太郎さんはいいます。

山口
社会課題の解決からスタートしても、新しいことを広い範囲でみんなが『よい』と言うものにするには、かなりの労力がいるとShibuya Hack Projectをしていて感じます。先ほどのファーストフォロワーの映像では、最初に踊り出した人はリーダーシップを発揮していたわけじゃなくて、どちらかというとちょっと変わった人。大事なのは、それに共感して一緒に踊り出した何人かです。彼らが現れてから一気に流れが変わった」

この日のイベントの参加者も、先駆的な事例に対していち早く共感し行動を起こす人たちとして、日本のまちづくりの流れを変えてくれる存在なのかもしれません。

情熱をもって活動を牽引する担い手が疲弊しないためには......

ロフトワーク 石川 由佳子

共感してくれる人の存在もさることながら、そもそもプロジェクトや場の運営を継続できなければ、スケールの横断もありません。

石川
最近よく感じるもどかしさとして、情熱をもって仕掛けてきた担い手が、だんだん疲弊してきてしまうこと。その人がいなくなってしまったら、その場所でおこったことが止まってしまい、何もなかったことになってしまうのではないかという怖さ。この現象をどうするかが課題だと思っています

ナカムラ
僕も、虎ノ門にリトルトーキョーという場を運営していたけれど、移転せざるを得なくなって、続けていくにはどうすればいいか考えるようになりました。リトルトーキョーはもともと定期借家契約でデベロッパーから安く貸りていた物件でした。デベロッパーや行政に頼っていると、先方の事情やルールが変われば追い出されてしまう。だったら、自分で全部ハンドリングできる場をつくりたい。そう考えたとき目指したいと思ったのは、30年以上続いている表参道のスパイラルです。あそこは、企業だから成立している。企業がつくる場というのは、林さんがお話されていた都市経営という意味でも、これから役割が大きくなるんじゃないかな

約2年間という期限付き条件で「BETTARA STAND 日本橋」の運営をしていたYADOKARIのウエスギさんも、「最終的には全て自己資本で、期限付きではなく長く続けていける場所を作りたい」という結論に至ったそう。

ウエスギ
BETTARA STAND 日本橋では本当にたくさんのイベントを開催すると同時に、この2年間は人生で一番地域の皆さんに挨拶周りをしました。日本橋は日本でも有数の老舗企業が立ち並ぶ由緒ある土地柄。だからこそ期限付きの僕らのような新参者はどうやったら街の皆さんに少しずつでも受け入れて頂けるか?をコミュニティビルダーと共に考える毎日でした。やはり期限付きとなると長く深く関係性を作って行くことができないため、やりきれない気持ちがありました。、今後は全て自己資本で長く続けられる場をつくりたいと感じています。

青木
企業として続けていくには“稼ぐ”ことも不可欠ですよね。しかし、稼ごうという気持ちが先行すると、思いや情熱などお金に換えられない価値が失われていき、まちの風景がつまらなくなってしまう。そのバランスが悩ましいです

デベロッパーの仕事は不動産だけじゃないはず

場をつくる人にとって、稼がなければ続けられない理由のひとつに、家賃など場所代の負担があります。

ナカムラ
デベロッパーには、志のある人に対して賃料を安くしてもらいたいですね。ヒカリエの8階はそういうフロアじゃないですか。ああいう風に、場を志がある人に貸していくことはすごく大事だと思う


商業施設も単なる消費の場だけでは人が来ないから、文化や出会いが起こる企画にフロアを提供する発想はだいぶ進んだし、もっと増えて欲しいとは思います。でもそれも企業にとってはちゃんと集客と商売につながらないと続かないわけで、実際にそうなっていくかは、まだあまり楽観視できない状況だと思います。こうしたことを考えていくと、そもそもデベロッパーが不動産の仕事だけしているのがよくないのだという話になるんですよ

日本のデベロッパーの多くは国外に進出していません。国内で、建物を建てることだけで稼ぐには、次々と建て続けるしか方法がありません。コミュニティづくりなどと言っている余裕はないのです。


デベロッパーが建てた箱(建物)の床を売るだけの仕事をしていると、各々の空間で最大限商売するしかなくて、結果として街は均質化していきます。もし他にITなりエンタメなりでイノベーションを起こす産業をも担っていたら、そのための人材や面白いコミュニティを育てる場所をつくって安く貸すことにも企業として意味が出てくるわけです。その方がディベロッパーの評価も未来もよくなるんじゃないかと。

市民がオーナーシップを持つ「共同組合」というあり方

さらに林さんは、市民の都市への関わり方として、“共同組合”というあり方を提案します。


市民が活動のオーナーシップを持って事業としてやっていこうとしたとき、会社を立ち上げるだけが答えではありません。生協のような共同組合の考え方がもっと増えていくといいのではないかと思っています。まちを“自分ごと化”するということを、どんどん広げて巻き込んで共有していくのです。そうした方法のイメージをもっと学び合っていくといいと思います

松井
いま、保育園と高齢者施設を隣接させて、おじいちゃんおばあちゃんにこどもの面倒を見てもらう仕組みがあったりする。そういう、『一つの課題と、別の課題があって、自分たちが合わせて解決することで、社会をよくしたい』という単体の組合が増えていくのがいい。昔の日本では、当たり前にあったと思う。いま、改めてできるといいんじゃないかな

課題を解決するために、市民がオーナーシップを持つ共同組合がいくつも生まれ、まちの風景を変えていく。そんなXSからXLの横断が、これからの時代は理想的なのかもしれません。

事例をアーカイブし共通項を抽出

続いては参加者からの質問タイム。コミュニティ活動をしている人からの悩み相談や、長く海外で生活していた人から、日本の市民制度の可能性についてなどの投げかけがありました。とくに興味深かったのは、「つくった前例を集めて、ボトムアップの知識や経験をまとめることに次のステップがあるのではないか」という質問に対するロフトワーク石川の話でした。

石川
渋谷は、事例はすごくたくさんあるのですが、アーカイブされていなかったり、アクセスできない状態で保管されていたりします。そうした情報を集約して、誰もがアクセスできる状態に整えるべきです。まだ漠然としていますが、都市のデータベースとか、都市をつくる評価軸をみんなでつくっていきたいですね

いま起こっている一つひとつの事例から抽出される共通項が見えてくれば、場やコミュニティの継続、XSからXLへ横断する方法論などの道筋になるはす。この記事もアーカイブのひとつとして、志がある方々に少しでもヒントになれば幸いです。

以上、イベントの第一部の様子をお届けしました。登壇したみなさんが、自らの活動と、そこから見えてきたスケールの横断方法についてプレゼンテーションをした前半。それを踏まえて、次のステップへ向けた悩みや発見を、各人が共有、ディスカッションをした後半。みなさんの活発な議論から、ここから社会が変わっていく予感を感じられた2時間となりました。

次回は、参加者が渋谷のまちへ飛び出した、第二部のワークショップの様子をレポートします。

イベント概要

XSからXLまで、スケールを横断して考えるこれからの都市づくりの方法論

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