EVENT Conference

空間づくりのメソドロジー
──「場」と「しなやかなコンセプト」のつくり方 レポート

4月24日、ロフトワークの新事業部であるLayout Unitが主催して、トークイベント「空間づくりのメソドロジー ──「場」と「しなやかなコンセプト」のつくり方」を開催しました。

ロフトワークがこれまで手がけてきた、未来をつくる実験区「100BANCH」、ボトムアップ型の都市づくりプロジェクト「Shibuya Hack Project」、富士通ソリューションスクエア内の共創実践の場「FUJITSU  Knowledge Integration Base PLY」などを事例として取り上げながら、ロフトワーク流の「空間づくり」の方法論を解説。都市開発や建築・設計にたずさわる方、自治体関係者の方など、さまざまな立場の方にご参加いただいきました。当日の様子をお伝えします。

テキスト:相澤 良晃

先の見えない時代だからこそ「しなやかなコンセプト」が必要

まずは、ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer)の松井が、今回のイベントの大きなテーマである「しなやかなコンセプト」について説明します。

[ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer)松井 創]

松井 「いまの時代を一言で表すと、『坂の上の雲』というメタファーが当てはまるのではないでしょうか。

『坂の上の雲』は、小説家・司馬遼太郎の代表作のひとつ。混沌とした社会情勢でありながらも、近代国家へと突き進む明治時代を舞台にした物語です。

現代も明治時代と同じよう混沌としていて、“未来=坂の上の雲”に何があるかはわかりません。でも、たとえ未来が予測困難であっても、先に進まなければいけないことはわかっています。そのとき、予測困難なことに怯えるのではなく、それに耐えうる“強い”コンセプトを持つことで、ポジティブに、楽しく前に進めるようになると思います。

松井の言う“強さ”とは、金属にイメージされるような「剛性」ではありません。「柔軟さ」や「しなやかさ」といった、ゴムやスポンジのような“強さ”です。「柳に雪折れなし」という言葉がありますが、これは「堅い木は雪が降るとその重みに耐えられず折れてしまうが、しなやかな柳の木は折れることはない。柔軟なもののほうが、剛直なものよりも耐える力は強い」という意味。松井の提唱する「しなやかな強さ」は、この柳のイメージに近いかもしれません。

「しなやかな」強さのイメージ

そして、この「しなやかさ」を前提とした考えは、空間づくりのコンセプトを立ち上げる際にも生かされるといいます。

松井 たとえばクライアントから、「オフィスを“イノベーションが生まれる空間”にリノベーションしたい」という依頼があったとします。しかし、経験上、こうした“ひとつのコンセプト”に基づくだけでは物事は前に進みません。クライアントの話をよく聞いてみると、「ブランディングもしていきたい」「新入社員のリクルーティングも行いたい」「福利厚生も改善したい」などさまざまな希望があることがわかってきます。それらのアイデアを取り入れ、 “アイデアの総和として”しなやかなコンセプトを設定したほうが、結果よい空間ができます。

オフィスリニューアルのコンセプト

松井は、従来型のコンセプトを「ツリー型」と形容します。これは、中心に幹のような強いコンセプトがあり、枝葉のように周辺にアイデアがついているイメージです。しかし、「今後はそれぞれのアイデアの結びつきとしてコンセプトを考える時代」と松井はいいます。いわば「ネットワーク型」のコンセプトの時代です。

ツリー型とネットワーク型のコンセプトイメージ

「ツリー型」は、何かの外的要因などで幹のコンセプトが折れてしまった場合、修復は難しく、プロジェクトが総崩れになる恐れがあります。しかし、複数のアイデアの結びつきからコンセプトが生成されているネットワーク型では、たとえ一部のアイデアが実現不可能になったとしても、総崩れすることはなく、多少の軌道修正でプロジェクトを進行できます。

松井 先行きの見えない“坂の上の雲”の時代だからこそ、これからはさまざまなところで、“ネットワーク型のしなやかなコンセプト”の考えが大切になるのです。

「しなやかなコンセプト」づくりのための、3つのアプローチ

では、実際に「しなやかなコンセプト」をつくるためには、どうすればいいのでしょうか?それには、次の3つアプローチが大切だと松井は言います。

1. Reframing(リフレーミング)

物事の既成の枠組み(フレーム)を外して、新たな枠組みで捉えてみることです。そのためには、物事を「別の視点から見てみる」「展開してみる」、そして「再構成する」というプロセスが必要になります。

2. Hack (ハック)

「限られたメンバーだけ」や「トップダウンの指示」で物事を解決できることはあまりありません。仲間を集めたり、外部の優秀な人を招き入れたりして、「ハックしてもらう」環境をつくることが重要です。

3. New Combination(ニューコンビネーション)

「一見、関連がなさそうなものを、あえて結びつけてみる」という考え方です。たとえば、「馬に翼をつけてみる」というような柔軟な発想で、アイデアが広がります。

さて、この3つのアプローチと「しなやかなコンセプト」が、空間づくりの現場では具体的にどう生かされるのか。ここからは、クリエイティブディレクターの石川も登壇し、ロフトワークがこれまで手がけてきた3つのプロジェクトをケーススタディとして紹介します。

[ロフトワーククリエイティブディレクター石川 由佳子]

ネットワーク型のしなやかなコンセプト、様々なアイデアの総和 CASE 1:100BANCH(ヒャクバンチ)

「100BANCH」は、2017年7月7月にJR渋谷駅新南口エリアに誕生した“実験区”。パナソニックの100周年事業がきっかけとなり、「次の100年を豊かにする、100のプロジェクトが集う場所」をコンセプトに、35歳以下の若者の活動を支援しています。

もともとこのプロジェクトは、「若者が集まるカフェ的な場をつくりたい」という要望からスタートしました。しかし、そのコンセプトだけでは「ツリー型」になってしまう。「ネットワーク型のしなやかなコンセプト」に変え、プロジェクトを進めていく方法として、次の「21の要素」に基づいてコンセプトを深掘りしていきました。

しなやかのコンセプトをつくるための21の要素

たとえば「01背景」では、クライアントの要望の裏側にはどんな思いがあるのかを探ること。パナソニックさんの担当者と対話したところ、「次世代を担う若者との共創の場」「パナソニックが大事にする250年成長計画」「世界文化を進展させる社是」などのさまざま視点が出てきました。また、「14ゾーニング」では、3階建て建物の各フロアにコンセプトを反映して、どのような役割にするかを具体的に考えたといいます。

「21の要素」に基づき、ソフト面とハード面の両方のアイデアを同時平行で考えながら、総和として「100BANCH」の“しなやかなコンセプト”をつくりあげたのです。

プロジェクトはいつも、「は?」から始まる CASE 2:Shibuya Hack Project

「Shibuya Hack Project」は、2015年からスタートしたボトムアップの都市づくりプロジェクト。もともとクライアントからの「渋谷にシビックプライドをつくりたい」というお題から始まりました。

プロジェクトを主導する石川は、「私たちの仕事は、前例がなく、ゼロからすべてつくりあげなければいけないことが大半。最初はアイデアを言葉で伝えるのが難しいケースがほとんどで、クライアントも、チームのメンバーも、『は?』という状態からスタートする」と話します。

「Shibuya Hack Project」では、「は?」という共通言語がない状態から一歩前進する方法として、「自分たちで都市を使いこなす」というコンセプトを掲げ、個人レベルでできる、とても小さなサイズ(XSサイズ)のまちづくりプロジェクトを実践し形にしてみることから取り組みました。

石川 「XSサイズのまちづくり」を積み重ねていくことで、「XLサイズの都市開発」のヒントが見えてきます。これまで、「シブヤヒミツクラブ」「STREET FURNITURE HACK!!」「渋谷極小特区計画」などの実験的なプロジェクトを平行して実施。複数のプロジェクトを同時に進めることで、街の抱える課題を多角的に捉えられるようになります。

最初に絶対的なゴールを設定しないこが大切です。ゴールを設定すると、人は安易にそこに向かってしまう。1個1個プロジェクトを重ね、予期せぬ要素を受け入れながら、コンセプトの更新性を担保しながらプロジェクトを進めています。

松井 100BANCHを進める際も、スパイルアップな行為を意識していました。アクションもコンセプトづくりの1フェーズに過ぎません。さまざまなアイデアやアクションが結びついて、「しなやかなコンセプト」をつくりあげていくんです。

今後、さらにXSサイズのプロジェクトを積み重ねれば、「自分たちで都市を使いこなす」というコンセプトもまた、変化していくはずです。

企業の外と内をシームレスにつなぐ、「活動のショーケース」 CASE 3:PLY

「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(以下PLY)」は、富士通株式会社がロフトワークと共に作り上げた、企業内の共創空間スペース。ロフトワークは、PLYのグランドコンセプトデザイン、空間設計・インテリアデザインのディレクション、プロモーションのための映像・コンセプトブック・各種プロモーションツールの制作を支援しています。

このプロジェクトを企画運営する富士通株式会社マネージャーの日高 豪一さんは、「ITベンチャーが次々と業界を覆している流れのなかで、当社のSEも変わっていかなければいけない。SEがお客さんと共創して、新しいことに挑戦していく実践の場としてPLYをつくりました」と設立の経緯を話します。

SEを中心に毎月約1500人以上が利用し、これまで8000人以上のSEがアイデアソンなどを開催して、共創活動を実践しています。

2018年の3月9日には、大阪の富士通関西システムラボラトリ1階にも「FUJITSU Knowlege Integration Base PLY OSAKA(以下 PLY OSAKA)」がオープンしました。デザインを手がけた古市淑乃建築設計事務所の古市 淑乃さんは、「街路に面したガラス張りの空間だった為、屋外の目を引きつけ、富士通さんの取り組みを表現できるようなデザインとしました。SEさんが外側に発信していこうという意識も高まるのではないでしょうか」と話します。

石川 PLY OSAKAのコンセプトは、「活動のショーケース」。富士通さんのこの取り組みを内外に浸透させていく機能も持たせたくて、大阪に拠点を置く建築集団「dot archtects」とコラボして、中に“屋台”をつくりました。きれいな空間に、何か違和感を生み出したいという思いもあって提案したのですが、日高さん、無理を聞いてくれたんですよね?

日高 ええ、さっそくオープン当日に内部から指摘を受けました(笑)。「きれいな空間なのに、あの屋台、いつまで置くの?」と言われて。たしかに、最初は違和感があったんですけど、いまはかなり馴染んできていますね。

石川 PLY OSAKAを知ってもらうためのツールとして、屋台を活用していきたいと思っています。いろんな方に一夜かぎりのオーナーになっていただいて、イベントなどを開催して、ショーケースとして運用をしていくと面白い活動が生まれるな、と。まだ始まったばかりなので、さまざまな使い方を試していきたいですね。

Reframing(リフレーミング)体験で「場」のコンセプトづくりに挑戦

イベントの最後には、ワークショップ形式で「場のリフレーミング」のプロセスを参加者のみなさんに体験してもらいました。

前述したように、「物事を別の枠組みで捉える」というリフレーミングは、“しなやかなコセプト”づくりにおいて最初に行う作業であり、とても大切な思考法でもあります。本来は何時間も、何日間もかけて行うプロセスですが、今回は1時間の短縮版。「場」の可能性を広げ、新たな価値を創造し、それを仲間と共有するという楽しさに触れてもらいました。

参加者全員が、「場のサイズ」によってS、M、Lの3つのカテゴリーに分かれた上で、チ-ムごとに下記のミッションが課せられました。

  • Sチーム:「タバコ部屋」に変わる機能をつくろう!
  • Mチーム:「公民館」を街の顔にせよ!
  • Lチーム:訪れたくなる「空港」をつくろう!

与えられた課題を解決するために、大きく以下の流れでワークションプは進みます。まずは、対象となる空間の現状や前提条件を分解し、考えなおしたい課題やテーマを発見します。その上で、「メタファーカード」というアイテムを使用しながら、発想を転換し、「物事を別の枠組みで捉える」ための新たな要素を考えていきました。

 

[ワークショップについて説明するロフトワークLayout Unit 杉田真理子]

メタファーカードに記載されているのは、屋台、縁側、図書館、研究室など、インスピレーションとなる場の事例。また、寝る、座り込む、集う、食べる、など、その空間で行われる人間の活動など様々。

一見、どのメタファーも今回の課題とは関係がなさそうですが、実はそれが重要とのこと。既存の場所に、思いがけない要素やアイデアを取り入れることで、まったく新しい価値を生み出すことがこのワークショップの目的ですが、メタファーカードは発想の転換に役立ちます。このことが、松井が説明した「ニューコンビネーション」のトレーニングにもなるのです。

最後に、取り組むべき既存の課題と新しいアイデアを組み合わせて、「場」を再構成。今までにはない場所の機能や価値のアイデアを生み出します。シーンをスケッチして、全体に発表しました。

ひとつとして同じ結論にいたったチームはなく、短時間でも場のコンセプトづくりの奥深さ、楽しさを感じられたのではないかと思います。ありきたりな「場」でも、リフレーミングのプロセスを経ることで、新しい価値が生まれ、新たな可能性が広がることも実感してもらえたのではないでしょうか。

「しなやかなコンセプト」をキーワードに、ロフトワークLAYOUT unitによる場づくりの手法を公開した今回のイベント。ケーススタディの紹介、ゲストによるディスカッション、ワークショップなど、盛りだくさんの内容でした。

イベント概要

空間づくりのメソドロジー
──「場」と「しなやかなコンセプト」のつくり方

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