EVENT Workshop

不確実さと対峙するためのツールボックス#3
右脳と左脳を行き来し、話すようにつくるコンセプトメイキングの裏側

フィールドというある種《不確実さ》の固まりと対峙し、様々な人と交流しながらリサーチを重ね、ユニークな解釈や発見を紡いで価値を作り出す方をゲストに招き、みんなでビール片手にゆるく議論しあう、不確実会。過去2回、MTRL KYOTOで開催されてきました。

このイベントではゲストとの対話を通じて、「新たな視点」や「小さなメソッド」を「ツールボックス(道具箱)」と呼び、参加者が自分たちのツールボックスをつくっていくことをゴールとしています。

第3回のゲストはプランナーの松倉早星さん

こんにちは。ロフトワーク京都でインターンをしている下岡です。3回目となる「不確実さと対峙するためのツールボックス」。今回は私下岡がレポートいたします。

今回のイベントには、大学生・教育、メーカー、まちづくりなど様々な業界業種の仕事に携わる方々、14名が参加しました。自己紹介からそれぞれの参加者が気づきを持ち帰ろうとしている思いが伝わります。イベント序盤、雑談で場が和んだところで、本日のゲスト、松倉早星さんのお話へと移ります。

プランナーとしてアイデアを作る仕事に長年携わり、現在は企業や行政、宗教法人のクリエイティブに関するコンサルティングを行う松倉さん。2017年7月には自身の会社であるNue incを新たに設立しました。今回は「仕事でリサーチは必須のスキル」だと言う松倉さんが普段から実践しているリサーチと、そこからアイデアを作る思考法について、事例を交えながらご紹介します。

松倉 早星 / Subaru Matsukura

1983年 北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。 東京・京都の制作プロダクションを経て、2011年末ovaqe inc.を設立。2017年7月より、 プランニング、リサーチ、クリエイティブに特化したNue inc設立。代表取締役就任。 これまで領域を問わないコミュニケーション設計、プランニング、 戦略設計を展開し、 国内外のデザイン・広告賞受賞多数。(Nueinc. HPより引用)

日頃から興味のアンテナを広く立て、思考をストックする

日頃の観察から生まれるアナロジー

多様な文化が混ざりあった、ジャンルレスな音楽フェス「OKAZAKI LOOPS」で全体のクリエイティブを統括した松倉さんは、アーティストのしたいことをどう表現するかにフォーカスしました。ロゴを拝見すると、モアレがモチーフとされています。モアレとは、規則正しい模様を重ねた時、それらの周期のずれにより発生する縞(しま)状の斑紋のこと。文化というレイヤーが重なったときに生まれる新たな文化の風景として、モアレをみせられないかと考え、ロゴに採用したとのことでした。

松倉さんがこのプロジェクトで「モアレを使おう!」と、すぐに思いつけたのは、日頃の観察から見つけたモアレを使って、いつか何かを作りたいと常々思っていたから。広告の仕事を10年していると、急にアイデアを提案しないといけない場面が多く、日頃から色々と見ておかなければという環境があったそうです。なぜか気になる、から、なぜ起こるのだろう?と一歩思考を深め、成り立ちまで理解しておく。すると、他の事象へもアナロジーな置き換えができる。こういった日々の思考のストックが、オリジナルで素早い提案に繋がるのですね。

松倉さんにとって、日々の観察もリサーチの1つ。この姿勢は、今すぐにでも参考になりますね。そして、案件ごとに行うリサーチについて、話は進みます。

なんでもフラットに受けとめてみる

自分が普段しているリサーチはサーベイに近い

松倉さんが行うリサーチは、ある課題解決のために現状を把握することが目的のため、物事を俯瞰して大きな流れを掴むことが多いとのこと。そして、これはリサーチというよりサーベイに近いのだそうです。例えば、アフリカの民族について調べるとすると、リサーチが彼らの居住空間や食生活をピンポイントで解明していく作業に対して、サーベイは地区の文化全体の動きを把握するといった、純粋な実測や全体像の把握が目的となります。また、サーベイをする時には、自分が知らない価値観をフラットに受けとめられるように、自分の価値観をできるだけなくし、中立な立場を保つことを意識されているそうです。

例として、コミュニティースペースとしての屋台村「崇仁新町」を企画した際のリサーチのご紹介がありました。

「現地を練り歩き、この街でながれている空気感や、ここに住む人達がふっと熱くなるものは何だろう?と思いながら、1日中街を歩きます。1番古い喫茶店を見つけて、マスターと話して、街のことを教えてもらったり。迷子になることもある。ある日、鴨川で休憩していたら、日雇いのおじいさんに話しかけられました。ちょぼ焼きというものがあって、子供はおやつに、酒飲みはアテとして食べるということを教えてもらいました。その時のおじいさんの表情がめちゃくちゃよかったんです。それを見て、地区一帯の人がわかるものを作りたいと思ったんです。」

多方面からヒントを集める

リサーチからヒントを集め物事を立体化、チームメンバーでどの側面を見せるか決める

リサーチをするなかで、たくさんの人から話を聞き、ヒントを集めることで、物事が立体的になり、色々な側面があることがわかります。その上で、どの側面で捉えると一番美しいか?を自分だけでなく、チームメンバーで考える作業を必ず行うそうです。リサーチの中で掴むべきことは、メンバーが立ち帰れるヒント。長い目で見た時に、何を基軸にしていくのか慎重に時間をかけて考えるそうです。

今回の舞台、崇仁地区は少子高齢化や市芸移転の町。地域の活気を取り戻すために、みんなでテーブルを囲んで食事をすることで、地元と地元以外の人がお互いを知るきっかけを作りたい。そんな思いで、屋台村は作られました。

当時のことをとても楽しそうに振り返る松倉さん。飲みの席から、仕事が決まることも多いそうです。自身を常にメタな視点で把握する冷静さと共に、不確実なものを楽しんでいるような、そんな軽やかさがありました。

腑に落ちないことはとことん追求する

意見の相違をアイデアの核に

サーベイでは、自身の価値観をできるだけなくし、物事の全体把握に注力しているそうですが、アイデアを考える際には戦略的にコミュニケーションを考える松倉さんの姿がありました。

自分だけのデジタル合成AKBメンバーが作れる「AKB推し面メーカー」のプロジェクトに携わっていたときのお話。

「クリックするとかわいい子が画面に現れるという、完璧なプログラムを作ったんです。けれど、どんどん冷めている自分がいる…なぜだろう。そんな時、深夜の仕事終わりにメンバーと飲みに行って気づいたことがありました。自分はこういうタイプが好き。あなたはこういうタイプが好き。相手のタイプを1mmも理解できない時がおもしろい、この相違がおもしろいのだ、と思いました。それで、プログラムを崩す作業を始めました。もしかすると、市場には受け入れられないと判断して初期に淘汰していたクリチャーパターン(=現実にはあり得ない恐ろしい顔)もよしとする人がいるかもしれない。

ローンチした後、自分が可愛いと思う顔のキャプチャーを2ちゃんにあげる人が出てきたんですが、その顔に対してそれぞれがわーわー言って揉め出し、全体が盛り上がっていったんです。」

かわいい子ができたことをゴールとするのではなく、ユーザーがSNSで意見を交わすという次のステップを想定すること、この気づきは合っていたと語る松倉さん。この経験から、どういう思考で行動に至ったのかという、人間の気持ちの設計をプロジェクトの初期段階で増やすようになったと言っていました。そして、理想と現状のギャップをどう乗り越えるのか、どれだけギャップを拾いながら改善していくか。この姿勢は忘れてはいけないと感じました。

今回のイベントでは、リサーチからアイデア出しまでを事例と共に辿ってきました。リサーチやサーベイで得られることは今までのことでしかなく、先の情報はない。でも未来を描くためのヒントにはなる。できるだけ多面的なヒントを集め、どのような未来を描くのか。クライアントのパートナーとして、チームで出した未来を答えにしていくということが大切なのだと感じました。

松倉さん、会場にお越しいただいた皆さま、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

「不確実さと対峙するためのツールボックス」は今後も継続して開催していきます!次回イベントは内容が決定し次第、イベントページにてお知らせします。どうぞお楽しみに!

イベント概要

不確実さと対峙するためのツールボックス 第3回 「デザインの前のデザイン 」【ゲスト:松倉早星さん】

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