EVENT Workshop

不確実さと対峙するためのツールボックス#2
全盲のフィールドワーカーに聞く、触覚からのアプローチ

フィールドというある種《不確実さ》の固まりと対峙し、様々な人と交流しながらリサーチを重ね、ユニークな解釈や発見を紡いで価値を作り出す方をゲストに招き、みんなでビール片手にゆるく議論しあうイベント「不確実さと対峙するためのツールボックス」(通称:不確実会)。第2回がMTRL KYOTOで開催されました。このイベントではゲストとの対話を通じて、「新たな視点」や「小さなメソッド」を「ツールボックス(道具箱)」と呼び、参加者が自分たちのツールボックスをつくっていくことをゴールとしています。

第2回のゲストは全盲の文化人類学者、広瀬浩二郎さん。

まずは乾杯から。8名の様々な分野からの参加者と共に、軽快にゆるやかにスタートしました。ゲストは、国立民族学博物館の文化人類学者、広瀬浩二郎さん。全盲の研究者です。今回は、広瀬さんの歴史研究や現在取り組まれているユニバーサルミュージアムの活動についてお話を伺いつつ、「無視覚流」と称される触覚のアプローチを体験する盛りだくさんの2時間でした。

著書『目に見えない世界を歩く: 「全盲」のフィールドワーク』(2017)、『身体でみる異文化──目に見えないアメリカを描く』(2015)、『さわる文化への招待』(2009)、『障害者の宗教民俗学』明石書店。

京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学後、京都大学文学部研修員、花園大学社会福祉学部非常勤講師を歴任。2001年より民博。専門:日本宗教史・民俗学(日本の新宗教・民俗宗教と障害者文化・福祉の関わりについての歴史・人類学的研究)。

広瀬 フローリングを確かめるには、やっぱり僕は、寝てみたいなと思うんです。

なるほど、フローリングは本来、手で触るものではなく、足の裏やごろ寝した背中で触れるもの。触覚は全身に分布しているので、触覚を意識するということは身体全体を意識するということになります。冒頭からさっそく、触覚についてのバイアスがやぶられてしまいました。

広瀬 今日はできるだけ、みんなで色んな物に触る体験をしてもらいながらお話できたらと思います。

目に見えない世界を歩く、全盲のフィールドワーカー誕生まで。

まずは、広瀬さんが現在の研究スタイルに辿り着くまでのお話から。

中学生の頃に全盲となり盲学校に通った後、京都大学に進学した広瀬さんが選んだ専門は、目の見えない芸能者や宗教者を対象とした歴史学でした。医療技術も福祉も進んでいない昔、自分と同じように見えない人たちは、どのようにして生きていたのだろう?という好奇心から研究をはじめたものの、文献研究に苦戦したといいます。

最初のフィールドワークは山伏修行

広瀬さんは大学3年生の頃に、超人的なパワーへの憧れと好奇心から山伏体験修行に参加します。山の中の修行生活で、見よう見まねができないことに苦労する一方で、人の腕をとり一緒に歩かないと移動が困難であったり、何をしても目立ってしまうということによって、周囲の人が自分を気にかけ話しかけてくれることに気づきます。

人との距離を縮めやすいという性質は、人との心の壁を取り払う必要がある「聞き取り調査」に有効に働くのではないか。広瀬さんは文献研究から、フィールドワークに研究手法をうつしていくこととなります。

聴覚と視覚によるリサーチに目覚めた20代

大学院生時代、当時最後の琵琶法師と言われた永田法順さんのヒアリングに出かけた時のこと。法順さんは広瀬さんのリクエストに答え、特別に、座卓をはさんで1mという近距離で平家物語を語ってくれました。

その時広瀬さんは、ドラム缶を転がすような声の波動、空気の揺れが肌に触れ、文献の中の世界であった平家物語が臨場感をもって迫ってくる様子に感動します。この琵琶法師の声や音の力が、当時の人々を平家物語に惹きつけたのだと確信し、聴覚と触覚の体験を研究の軸にしようと心に決めます。

研究者は、歴史について客観的に記述することも大切だ。しかしそれだけではつまらない。昔の出来事を今まさに目の前の出来事であるかのように、ありありと伝えるためには、音や質感を伝える主観的な言葉が必要。目に見えない世界を語らなければならない。それが、広瀬さんの研究の原点となりました。

見える人と見えない人の異文化交流を目指して。ユニバーサルミュージアムのとりくみ

2001年に国立民族学博物館に就職した広瀬さんは、2002年から在来研究でアメリカへ渡り、ワシントンのスミソニアン博物館で、3日間でおよそ10の博物館をガイド付きで見て回りました。

「日本でも視覚障害者が触って楽しめるようなユニバーサルミュージアムをつくろう」。

そう決意すると、さっそく帰国して展示会を企画することになります。

バリアフリーとユニバーサルデザイン

障害をもつ人にとって、生活の中の障壁を取り除いてくれるツールは世の中に色々あります。点字のタイプライター「ブレイルメモ」、時刻を読み上げてくれる時計など。これらは障害者用のバリアフリーのツールとしてつくられたものです。しかし、ユニバーサルデザインとは、障害のある人にとってもない人にとっても良いことがあるデザインのことを指すそうです。

[広瀬さん愛用のBradley社「触る時計」はユニバーサルデザインの例。そのデザイン性から時計マニアにはよく知られているらしい。]

広瀬さんがライフワークとしているユニバーサルミュージアムの活動が目指すのは、見える人も見えない人も楽しめる博物館。そこで企画したのが、2つの企画展、「さわる文字さわる世界-触文化が創り出すユニバーサルミュージアム)」「つなぐ×つつむ×つかむ 無視覚流鑑賞の極意」でした。

展覧会1:
「さわる文字さわる世界──触文化が創り出すユニバーサルミュージアム」

2006年に開催されたこの展示は、さまざまな物に直接さわることから、触覚のおもしろさに迫る企画展。点字と通常文字を併記したパンフレットを用意し、すべての来場者に「同じパンフレット」を配布することもこだわりのひとつ。点字は通常文字の単なる翻訳ではなく、見える人と見えない人それぞれが、あるいは一緒に楽しめるような工夫が施されています。

[1ページ目:視覚情報も点字も同じ内容量のページ。]
2、3ページ目:展示物の写真があるページ。点字なし。見える人が見えない人に説明するページ
4ページ目:点字の一覧表は、見える人用の情報。実は、点字では、通常文字では書かれていない作品解説が。]

見える人と見えない人がそれぞれ、理解できる情報を説明し合うことによる“異文化コミュニケーション”を実現するためのリーフレットを目指したという広瀬さん。「見える人と見えない人が、互いのカルチャーを楽しむ思想」は、インクルーシブな社会のデザインにおいて不可欠なポイントのように思いました。

展覧会2:
「つなぐ×つつむ×つかむ 無視覚流鑑賞の極意」

展示会場の入り口ではアイマスクが配られ、装着したところからスタート。ロープをたどり、館内を歩いて行くとその先に作品があり、音声ガイドに従って“触り方”についてレクチャーを受けながら鑑賞する展覧会です。

[つなぐ×つつむ×つかむ 無視覚流鑑賞の極意]

来場者アンケートに「最後に正解を見て確かめたかった」という意見が多くあったそうですが、「触った印象」もひとつの正解。「目で見えているものが正しい」という見方に対して疑問を投げかけるために、あえて最後まで展示物を「見せない」ことにこだわったといいます。

ミニワーク:
マテリアル(素材)を触ってみる「触覚ワーク」のTips

イベントの最後を締めくくるのは、「触る」ワークショップ。素材を触りながら他の参加者に対して言葉で説明する、というシンプルなものでしたが、視覚的な表現を用いずに説明することは意外と難しいことに気づきました。

最後に、触覚ワークのTipsをまとめます。

触り方のポイント

触覚を使う時には、「よりゆっくり・より少なく」触ることが重要なポイント。スピードや量では視覚に勝てないけれど、知った気になって、記憶が定着しないことも多いような気もする。じっくり丁寧に、主観的に、ものに向き合う時間の中で、見落としていた情報に出会えるかもしれません。

言語化のポイント

素材A:「モヘモへしたカツラ」

広瀬 では、目の前の素材を僕に説明してみてください。

参加者 小学校の学芸会でカツラに使われそうな素材です。モヘモへしてます。

みんながなんとなく体験したことがありそうな具体に例えることは有効、という広瀬さん。その感覚が聞き手の身体に呼び覚まされ、質感や雰囲気を共有することができる。「モヘモへ」という独特の擬態語も触り心地をうまく表している、との講評がありました。

Tips1:共有できそうな具体的なものや体験で言い換えてみる
Tips2:擬音語や擬態語をうまく使う

素材B:「今まで触ったことがない質感の革」

参加者 日常でこういう質感になっているものに出会ったことがない。革だろうけど。

広瀬 みんなが体験したことがなさそうな素材の場合どうするか。もし、自分ならその素材を何に使うかを妄想して、言葉にしてみるといいですよ

参加者 例えば、クッションのカバーにしてみたい……とか?

今まで体験したことのない感覚のものを共有する場合は、用途を考えてみるといいそう。例えば、クッションカバーにして肌に擦り寄せたい柔らかな素材など。用途を考えてみると、自然とものに接するときの身体や動きがイメージできるようになり、具体的な言葉が出てきやすいそうです。

物を純粋な「触覚のみで捉え直し」て用途を考えるということは、意識的に既存の役割(用途)から解放する、という試みでもある。ふわふわ、といった擬態語によるだけではもうあと一歩抜け出し切れない、“視覚のバイアス”から脱するための補助線としても、この視点は有効ですね。

Tips3:自分ならどんな用途で使うかを言語化してみる。

Keyword for Toolbox

  • 触覚は全身に分布している
  • ユニバーサルデザイン
  • つなぐ・つつむ・つかむ
  • よりゆっくり・より少なく

最後に、観光やまちづくり、商品開発など様々な分野からの参加者ひとりひとりが、自分のフィールドで今日の学びをどう生かすかを共有しあい、第2回も盛況のうちに終了しました。

次回、「不確実さと対峙するためのツールボックス」は5月開催予定。詳細は決まり次第、Facebookページ等でお知らせします。お楽しみに。

参加者の声

触れることで世界を知覚するような、子ども向けのワークショップを企画したい。情報があふれる世界では、色や形のような一般化された情報よりも、主観的な触覚情報の方が子どもたちに定着するかもしれない。

旅にやって来たゲストハウスのお客さんに、触覚や嗅覚で場所を楽しんでもらうための仕掛けづくりをしたい。

商品開発の中で、お湯のなめらかさについて考えることがある。視覚優位ではなく、全身が研ぎ澄まされた状態で考えると違った視点がうまれるかも。

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