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「感情移入するUI」としてのチャットボットのUX
企業サイトの担当者が考えておきたい、AIとUIの今。開催レポート

WebサイトにおけるAI活用が進んでいます。これまでのWebサイトは、訪問者に対して画一的な情報の提供を行うのが一般的でした。しかし、チャットボットに代表される「対話」という新たなUIは、AIにしろ人力せよ、訪問者にこれまでにない体験の提供を可能にしています。では、Webサイトに「対話」というUIを取り込んでいくにはどうしたらよいでしょうか。

6月1日開催されたイベント「Webmaster Camp 企業サイトの担当者が考えておきたい、AIとUIの今。」は、自社サイトの担当者やマーケティング担当者などが集まり、「AIとUI」をテーマに、Webサイトと人のコミュニケーションの変化などについて考えました。

講師には、HCD-Net認定の人間中心設計専門家であり、AIにも精通する羽山祥樹氏をお招きし、チャットボットをテーマに、Web担当者がどのように自社のサイトやサービスにこれを取り込み、顧客とコミュニケーションするべきかを学びました。

「楽しい」「使ってみたくなる」インターフェース

羽山氏は、まず「ツール導入についての誤解がある」と述べました。

「とりあえずチャットやAIを入れてみようというのは危険です。Webサイトの課題を解決するには、たとえば、サイトの情報構造を見直し、FAQを使いやすいよう改善することや、問い合わせフォームのUIを改善する方が効果的な場合がある」と羽山氏。

また、チャットボットの導入で見落とされがちなのが、「チャットボットを継続的に運用・管理・報告する」という新しい業務が発生する点です。

「チャットボットには日々、さまざまな会話が入力される。なかには回答の精度の低下につながるデータや、ひどいときは、攻撃コードが入力されることもあり、人によるメンテナンスは必須だ」と羽山氏は説明します。

もちろん、チャットボットの質問や回答、教師データなどのシナリオなど、データの整備も大きなポイントです。こうした課題にもかかわらず、なぜ我々はチャットボットの導入を望むのでしょうか。それは「チャットボットにしかないユーザー体験(UX)があるからだ」と羽山氏は述べます。

たとえば、ローソンの「あきこちゃん」は多様なジャンルの会話に対応します。この「リアクションに対して人は“楽しい”と感じる」と羽山氏は指摘。その根底にあるのは「対話による感情移入」です。「楽しむ」ことで「感情移入」が生まれ、その感情移入は、UIで、対話を「演出する」ことで、より深まるというのです。

UIによる対話の「演出」10のポイント

羽山氏は、チャットボットのUIにおける対話の「演出」に必要なポイントを10種類紹介しました。

ポイント1:「顔」があること

チャットボットには、たいてい「顔」、すなわち「アバター(キャラクター)」があります。顔があることで、「そこに存在している」感じを演出することが可能です。さらに「キャラクター設定」を行うことで、より深みを演出し、親しみのあるコミュニケーションが生まれます。「キャラ付け」によって、会話の設計を行う際の会話のトーン&マナーの指針にもなります。

▲羽山氏の資料より。アスクル(マナミさん)には綿密なキャラクター設定が存在

ポイント2:デジタル的でない、人肌感のある会話

チャットボットのユーザー体験を大きく左右する要素に、「デジタルで無機質な会話でなく、まるで人と接しているような、心地よい会話」というポイントがあります。たとえば、マイクロソフトの「りんな」は、対話の「賢さ」より「心地よさ」に重点が置かれています。

たとえば、ユーザーからの回答の選択肢を「はい」「いいえ」ではなく、「やってみる」「今はやめとく」などのように会話調にすることでも、人肌感は強められると羽山氏は説明します。

ポイント3:オウム返し

ユーザーの発言をそのまま繰り返す「オウム返し」は、ユーザにとっては自分が入力した言葉を返されることで、よりコミュニケーションをしている感じを強く生む効果が期待できます。

ポイント4:雑談に応じる

本来の目的以外の「雑談」にも回答することで、よりキャラクターへの親しみや感情移入を促すことができます。たとえば、アスクルの「マナミさん」は、「眠い」という言葉にも「あ、起きてください!」などのように反応してくれます。

逆にいえば、雑談ができないと、ユーザーからは「ただのシステム」のように見えてしまうのです。「これもチャットボットのユーザー体験を大きく左右する要素だ」と羽山氏は指摘します。

ポイント5:アニメーションする

キャラクターの表情や身動きを、こまかくアニメーションさせることで、「生きている感じ」が高まり、親しみが増します。たとえば、三井住友銀行では、キャラクターの細かいアニメーションで、ユーザーに対する親しみを演出しています。

ポイント6:予想外の反応

挑戦的な質問を投げかけてくるユーザーというのも一定数、存在するものです。そういう挑戦的な質問にも“うまい返し”ができると、「予想外の反応」に対して驚き(=感動)を与えることができます。

たとえば、質問の代わりにユーザーが攻撃コードを書いてきたとする。そのときに「攻撃はやめてよ」などのように切り返すことができれば「スゴい!」という驚きを生むことができるでしょう。

ポイント7:回答まで一息いれる

機械的に「ミリ秒」で即答せず、あえて人間のように「考えている間」を演出するテクニックです。あまりに回答が早いと、ユーザーはシステムと会話している気持ちになってしまいます。たとえば、リクルートジョブズの「パン田一郎」は、回答までに0.6秒の遅延をあえて設定しています。

「会話入力中」のアニメーションを挟むのも効果的ですし、回答に「うーん」「えー」「!」などの相槌を入れることでも、似た効果が得られます。

ポイント8:入力を助ける

入力フォームで入力項目を想起できる工夫を施すように、チャットボットでも入力を助ける工夫は有効です。

  • 選択肢を出す

たとえば、典型的な質問がすでにあるときは、画面に選択肢を表示し、クリックすれが進めるようにします。検索フィールドにおける「入力例」「人気の検索キーワード」と似た役割です。

  • サジェストを出す

入力候補を示す意味では、入力例のサジェストも効果的です。AIには、教えた学習データの範囲しか対応できないという「フレーム問題」という課題がありますが、サジェストを表示することで、ユーザーに、このチャットボットが何の質問に答えられるかという「フレーム」を伝えることができる効果も期待できます。

ポイント9:ヘルプを表示する

「ヘルプボタン」を設置して、クリックすると操作方法を表示することも、ユーザーの操作を助けることも有効です。

ポイント10:より回答できるようにするための演出

羽山氏は「あらゆる質問に回答できるチャットボットを作るのは、仮にAIを導入しても現実には不可能」だと述べ、チャットボットがより多くの質問に回答できるための工夫を紹介しました。

たとえば、「検索エンジンやFAQとの連動」です。質問される頻度の少ない「ロングテールの」質問に対しては、検索エンジンやFAQに誘導するのも一つの方法です。三井住友銀行では、チャットボットで回答できない質問には、FAQを案内しています。

同じように、ロングテールの質問に対しては「有人チャネルに誘導」する方法もあります。

このほかにも、性格診断など、さまざまな機能をつけることでユーザーとのコミュニケーションをより楽しくする工夫や、過去の会話履歴などからユーザーごとに会話を学習し、パーソナライズする事例などが羽山氏から紹介されました。

体験全体の中で、AIやチャットボットが果たすべき役割をデザインする

羽山氏は、「感情移入しやすい」以外に、AIやチャットボットにどんな特性があるかについても言及。チャットボットは「機械であるがゆえに、人間よりも判断が正確であることが期待される」と羽山氏。

一方で、アルゴリズムの限界ともいうべき課題もあります。AIに自意識はなく、コンテキストを持たないAIによる「対話」は、人間の対話とまったく同じ体験にはならないことを、ユーザー自身は知っているのです。

それでも、チャットボットは、しっかり作り込んで運用すれば既存のUIにない「ユーザー体験」を提供できるのです。たとえば、「NORTHFACE」の例では、「Mt.Fuji」と入力すると、登山に適した男性用アウター商品を提案してくれます。これは、通常のECサイトの検索UIではまだ実現できていない体験です。

富士山という細分化された個別のニーズに対し、100%の回答ではないにせよ、提案として回答を返せるかどうか。この違いは日々0.数%のコンバージョン率を改善している現場の担当者にしてみると非常に大きな差なのではないでしょうか。

引き続き、会場では質疑応答が交わされました。まず、「チャットボット導入のために、最初の一歩はどう踏み出したらよいか?」という質問がありました。

羽山氏は、「まず、手元にチャットボットに生かせるデータがあることが大事」と説明。社内にデータが整っていない場合は、「どこに情報があり、どのように集め、整備したらよいか、まずはそこから始める」「自力ではどうにも難しいときは、専門のコンサルティングを受けるなどして整理することも選択肢」と回答。

また、「対話のインターフェースに必要なテキスト量はどの程度か」という質問もありました。羽山氏は「50問くらいの質問に答えられれば、ある程度やり取りできる実感はある」と述べました。

「UIを含めた適切な体験の評価はどうしているか?」という質問に対しては「2つの評価がある」と説明しました。

「1つは、作っている最中に、どういう指標を新しい評価として扱うかを決めること。2つめは、完成したあとに、どういう評価を行うかを決めることです」(羽山氏)。

「たとえば、コールセンターのような人が対応していたサービスの代替であれば、解決率や回答数が改善したかかなど、評価を事前に定義できます。ただし企業サイトのような一般的な情報サイトの場合は、これまで可視化されなかった訪問者の声などが見えてくるため、事前の評価指標の定義が難しい場合もあります。運用しながら評価していくというのも現時点ではありではないか」と羽山氏は説明しました。

羽山氏は最後に、「ユーザー体験」全体のなかで、AIやチャットボットがどんな役割を果たすべきか、AI がどう振る舞ったらユーザーは嬉しいのかをデザインしていく必要があると述べ、「テクノロジーの進化によって登場した新しいUIをユーザーが体験する一連のプロセスの中でうまく活用して欲しい」と締めくくりました。

羽山氏の当日のセッション資料

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企業サイトの担当者が考えておきたい、AIとUIの今。

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