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「デジタルテクノロジーありきでものづくりを考えても、
本質的なものは生まれない」──YouFab2018キックオフレポート

2012年のスタートから7年目を迎えるYouFab Global Creative Awards 2018(以下YouFab)。2018年9月14日、今年もスペシャルなキックオフ・イベントが開催されました。

本年度の審査委員長を務める編集者・若林恵氏、SFCソーシャルファブリケーションラボ代表・田中浩也氏が登壇。本年のYouFabのテーマである「Polemica!!(ポレミカ!!)」に込められた意味、そして進化するFabが社会に投げかける「新しい問い」について、過去から未来を見通しながら議論を繰り広げた第一部。

そして第二部からは、ライオン株式会社イノベーションラボの藤村昌平氏らが参加。本年度の特別賞として設置された「ライオン賞」の背景や、アワードを企業とクリエイターが「merge(融合)する装置」と捉え期待することなどを語り合った模様をお届けします。

テキスト=庄司里紗
写真=Aya Suzuki

“権威にタテつく道具”としてFabを再定義する

本年度から元『WIRED』日本版編集長の若林恵氏を新たな審査委員長に迎え、次なるステージに一歩を踏み出したYouFab。そんな新体制のもと、テーマもさらに挑戦的なタイトルに刷新されました。

新テーマとなる「Polemica!!(ポレミカ!!)」は、スペイン語で「議論好き」を意味する言葉です。若林氏は「Fabが社会に実装されつつある今だからこそ、Fabの本質的な意義に立ち戻り、その価値を問い直す。YouFabがその機会になればと思って、テーマにポレミカを選んだ」と意気込みます。

「今の日本って、誰もが『答え探し』をしている状態だと思うんですよね。これからの100年を安泰に生きていくための答えがどこかにあるはずだ、と。だからFabが世の中に登場したとき、みんな『答え』が見つかったと思った。でも現実には、世の中はそれほど変わっていない。だからこそYouFabも、今のFabのステータスに『なぜ』を問いかけるところから始めるべきなんじゃないか、と」

一方、過去3年にわたり審査委員長を務め、YouFabの歴史とともに歩んできた田中氏は「Fabにはもともと、“持たざる人々”が社会の不平等と戦うための武器という意味合いを秘められていた」と語ります。

「“権威”が作り上げた現状にタテつく道具としてのFabに、いったん立ち戻る必要がある。それは3Dプリンターで銃を作れ、ということではなく、これまでものづくりの圏外にいた人々に新しい力を授け、その可能性を広げるものとしてのFab、というオリジンの文脈への回帰です」

田中氏は、そんなFabの原点を象徴する事例として、ファブラボ仙台での体験を紹介しました。

「雑居ビルの4階で、タトゥーアーティストがUVプリンターを使って実験していたり、おじいちゃんがイノシシの捕獲装置を作っていたりするらしいのです。生活あるいはストリートと、テクノロジーとが遭遇している。外部から見ると不思議な遭遇ですが、内部から見ると自然な接触でもある。アワードは、そうやってあちこちで自然に発生している、ストリートのFab文化をつなげる装置として機能するのが理想的だと思っています」

Fabから「デジタル」の接頭語を外してみる試み

田中氏は、デジタルテクノロジーを前提として語られる現在のFabのあり方についても疑義を投げかけます。若林氏はそんな田中氏の問いを受けて、社会学者ジグムント・バウマンの著書『コミュニティ 安全と自由の戦場』を引用しながら次のように答えました。

(2017年のグランプリ 『Regenerative Reliquary 再生可能な聖遺物』 Amy Karle)

「本の中でバウマンは、僕らが感覚的に理解している世の中の変化をテクノロジーに触れずに説明しているんです。今の社会はテクノロジーを引き算しても社会的な動態だけでほぼ説明がつく。つまり、新しいテクノロジーがもたらした変化は、それ以前から起きていた社会の変化と接続しながら起きていて、決してテクノロジーがもたらした変化の結果として、社会の変化があるわけでもない。だからデジタルテクノロジーありきでものづくりを考えても、本質的なものは生まれない。壺とかヘアピンのIoT化なんて、特段必要ないじゃないですか」

若林氏は、クリス・アンダーソン(『WIRED』US版の元編集長)が唱えた「メイカームーブメント」のルーツを紐解きながら、Fabの未来についても新たな視座を投げかけました。

「クリスは、既存の音楽産業にタテついたパンクムーヴメントの渦中で学生時代を過ごしました。音楽の民主化をもたらしたパンクの精神は、クリスが唱えたメイカーズのコンセプトにつながっていくわけだけれど、それは一部の例外を除いてほぼ男たちの専売特許だったんですね」

言うなれば、男たち(ムーブメントに関わったのは男ばかりではないはずです)、は1980年代から社会にタテついてきた。そのため「ほとんどのアンチテーゼは言い尽くしてしまった感がある」と若林氏。

「現に今、インディー・ミュージックの世界は完全に女の子たちの占める範囲が広がっています。こういう時間差で訪れる民主化が、今後あらゆる領域で起こる可能性がある。そうなったら、例えば「女性でも扱いやすい軽量化エレキギター」みたいなものが生まれるかもしれない。そんな世界こそ、Fabがかつて夢見た未来だったと思うんです」

Fabを拡張する概念としての「分散化」

「Fabはもう、“ものづくり”ではない」。

YouFab 2017の授賞式で、そう語った田中氏。今回のYouFabでは、そんな実感を踏まえて「モノに縛られず、パフォーマンスや、アクティヴィズムなども含めたFabの新しい世界観を伝える作品に期待したい」と話します。

その上で田中氏は、Fabを再定義する上で重要な概念として「分散化」に言及しました。その背景には、今年7月にフランスで開催された世界ファブラボ会議で示された一つの指針があると言います。

「会議の中で、ファブシティ(*)を表明するパリやバルセロナの市長たちが、“the mass distribution of almost everything”というキーワードを掲げているのです。つまり彼女たち(両市長とも30代の女性)は、中央集権型ではなく分散型なやり方で、食料からエネルギー、教育まであらゆるものを身近で自律的につくれる世界を目指す、と言っているわけです。Fabはすでに、ものづくりでも民主化でもない。キーワードは「分散化(Distribution)」です」

(*)ファブシティ:ファブラボが、個人のものづくりの場所であることを超え、まちの課題を住民自身が解決し、皆で使う新しいモノやシステムを生み出していくという都市政策の考え方。

膨大なコストと巨大なインフラを要する物流に関して、人々は国家をはじめとする中央集権的なものに依存してきました。しかし今、ファブによる分散型ネットワークが「それに取って代わろうとしている」と若林氏。思想家イヴァン・イリイチが示した「社会の目指すべき姿=コンヴィヴィアリティ(自立共生)」を引用しながら、こう語りました。

「イリイチの言うコンヴィヴィアルとは、モノやテクノロジーに依存しすぎず、周りの環境に対していかに自立して生きるか、ということ。それはまさに、ファブの本質に通じる考え方の一つだと思うんです」

ただし、コンヴィヴィアリティをYouFabのテーマにするのは「来年以降にしたい」と若林氏。

「なぜなら、今年はめちゃくちゃ怒っている人の作品が見たいから(笑)。世界がFabに根ざしたコンヴィヴィアルな方に向かうのなら、Fabは何と戦えるのか、社会のどこに楔を打てるのか、そういう部分にとことん向き合った強烈な「問い」が、今以上に必要になるでしょう。そこに頭の良さや行儀のよさは要らない。社会にタテつく、自立した“ポレミカ”たちのスピリットを見せて欲しいですね」

YouFabは企業とクリエイターがmerge(融合)する場

第一部の議論の熱気も冷めやらぬ中、壇上にはライオン株式会社イノベーションラボの藤村昌平氏、ロフトワークの柳川が加わり、第二部がスタートしました。

今回、新たに設置された特別賞「ライオン賞」について、藤村氏は「ライオンが据える“仕事と暮らしが溶け合う未来”について、新しい視点やアイデアを得るきっかけにしたい」と話しました。

 今、働くことと暮らすこと、個人と組織、デジタルとリアルなど、あらゆる物事の境界はかつてないほど曖昧になってきています。それらが継ぎ目なくつながる社会を、藤村氏は「溶けた(MERGE)」社会と定義しています。

藤村氏は、ライオンのこれまでのものづくりについて「家の中の生活シーンからアイデア発想することがメインになっていた」と振り返ります。

「今は働き方や生き方を含め、統合的にものづくりを捉え直す時期にきている。そのための一つの試みとして、私のチームでは「ホーム」の再定義に取り組んでいます。YouFabでは、表層的な工夫にとどまらない本質的なものづくりのアップデートを、クリエイターの皆さんと共に模索していきたいです」

仕事と生活の境目とともにホームの輪郭も溶け出した今、働く人と企業、消費者の関係はどのように問い直されるべきなのでしょうか。

若林氏は「時代の変化とともに企業は人々を成長させるという教育的な機能を失いつつある」と指摘します。

「だからこそ、企業が組織の枠を超え、アワードという仕組みを利用してオープンに個人と“助け合う”のは、望ましい形でしょう」

一方、田中氏はそんな現状もまた「あらかじめ予測された未来だった」と言います。

「女性が働きながら子育てをするのも、副業やフリーランスとして家の中で働くスタイルも、ずっと以前からあったわけです。それらが閾値を超えたから、今まで見えなかったものが見えるようになっただけのこと。未来はいつだって、私たちの生きる今の中にある」

ライオンが創業した1891年から120年以上の時間が経ち、家族のあり方や人々の暮らしに対する価値観は大きく変化しました。今や、人の数だけ「ホーム」のかたちがあると言っても過言ではありません。そんな時代にあって、私たちはどうやって「ホーム」を再定義することができるのでしょうか。

若林氏と田中氏は「一度、家という概念を全否定してみたらどうか」と大胆な提案を投げかけました。

「いわゆる家というパッケージが不要になっても、歯磨きしたい人はいなくならない。ならば、歯ブラシと歯磨き粉を、街中のいたるところにディストリビューションすればいい。民間企業には、そういうドラスティックな発想が求められている。既存の社会的枠組を脱却したところから発想することが求められている」(若林氏)

新旧の審査委員長を中心に繰り広げられたトークは、日本のものづくりやFabの状況を鋭く問いながら、アワード作品への期待を残しつつ終了しました。変化の早い今の時代に、絶対の正解は存在しません。私たちに必要なのは「答え」ではなく「答えのない世界で問い続ける姿勢」であると、改めて気づかされた一夜となりました。

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