日本から世界へ。
継続的な海外挑戦を生み出す、ジャパンブランド戦略の"これから"
日本の魅力あふれる商材が海外にも販路を開拓する、そんな取り組みが特別なことではなく「当たり前」になるようにと始まった「BE STANDARD プロジェクト」。JAPANブランドプロデュース支援事業「MORE THAN プロジェクト」(2014-2016)の事務局として海外販路開拓に3年間伴走してきたロフトワークが次に挑戦したのは、海外展開を一時的なイベントで終わらせないための取り組みでした。
東西の文化が交差し、文化と商業のるつぼとして急成長を遂げている香港を舞台に2018年12月始動。公募で集った10社とともに展示会やビジネスツアーを行い、香港市場のみならずアジア進出をも視野に入れた挑戦を行いました。
世界において「ジャパンブランド」はまだ通用するのか?海外販路開拓に求められるポイントとは?そして、支援事業や補助事業はどのようにあるべきか?たった約4か月間ながらも多くの気付きを得たBE STANDARD プロジェクトは、2018年度の総括として挑戦者と先駆者、そして経済産業省 関東経済産業局からスピーカーを迎え、本音でぶつかり合う濃密なトークセッションを開催しました。
海外進出における、チームづくりと取り組み
イベント前半は、実践者の経験に学ぶプレゼンテーションから。MORE THANプロジェクトではプロジェクトマネージャーとして、また事業者として採択を受け、今回のBE STANDARDプロジェクトにも参加した株式会社more trees designより代表取締役・水谷伸吉氏が登壇。林業の衰退と対峙しながら国内外で活動を展開する同社は、森林資源の有効活用を目的に、国産材を活用した商品開発に取り組んでいます。
北米、EU、アジアと海外に挑戦を続けるなかで水谷氏が直面したのは、「世界はそこまで日本に注目していない」という現実でした。たとえば、世界数十か国から個性豊かな商材が集まるメゾン・エ・オブジェにおいて、日本はそのうちの一カ国に過ぎません。日本のプロダクト品質の良さは世界でも知られるところですが、「ジャパンだから」といって買ってもらえるわけではありません。商材についてどのようなストーリーが語れるか、商材をどのように見せていくかが重要なポイントのひとつになると語りました。
水谷氏が掲げる、海外展開で大切にしたい5つのキーワード
「寄らば大樹の陰」
ゼロベースでのブランディングはハードルが高い。先行しているバリューをうまく活用しよう。
「コバンザメ」
海外出展する百貨店に商材を託したり、同じ目的を持つ人に便乗させてもらうことで負荷を軽減。
「ブーメラン効果」
海外の展示会で評価を受けたものが日本のバイヤーや消費者を刺激し、国内でのセールスにつながることも。
「産地のモチベーション」
商材を送り出してくれた産地の人に何をモチベーションとして還元できるか、常に意識して動くことが事業の継続的な展開につながる。
「PDCA(OODA)」
現地に行く前に描いた仮説はだいたい外れるもの、ためらわずスピーディーに軌道修正を図ることが重要。
続いて、支援事業を活用して国産ガラス食器の海外展開に取り組むジャパンブランドの第一人者、木本硝子株式会社代表取締役・木本誠一氏が登壇。高度経済成長を期に大量生産、大量消費へと移行した1960〜70年代には「問屋無用論」が謳われた中、同社は職人の強みを活かした体制づくりや顧客の動向・ニーズを汲んだプロダクト開発など、現場と市場を行き来する問屋ならではの視点で独自の販路を開拓しています。
木本氏がビジネスにおいて大切にしているのは「チーム」。一人勝ちというものはあり得ない、と断言しました。問屋が儲かるということは、職人や工場に仕事が発生するということ。そして顧客や消費者にも新しい価値が提供できます。たとえば、木本氏はワイングラスのように、場面や銘柄によって装いの異なる日本酒グラスの使い方を提案。ガラス職人だけでなく、酒蔵、飲食店、その先のお客さままでハッピーになれる価値創造に取り組んでいます。「私がやっているのはグラスを売ることではなく、みんながプラスになる提案なんです」と語りました。
木本氏が掲げる、支援事業活用で忘れてはいけない5か条
「補助金は目的でなく手段」
本来自分たちは何がしたいのか、明確な意識を5W1Hに基づいて整理しなくては本末転倒になる
「1/3以上は自己負担」
2/3補助に目を奪われないこと。売ることを考えて戦略を立てないと最終的にはマイナスに
「展示会出展がゴールではない、スタート」
補助金がつくのは展示会出展までだが、利益が生み出せるかどうかはその後のアクション次第
「補助金や公的機関は販売支援のアシストはできない」
税金なのでプライベートカンパニーの利益に直接つながる支援はできない。最終的な売上をつくるのは自社の力
「ジャパンブランド4社以上の連携を」
ビジョンを共有できるパートナーと利害関係を整理しつつみんなで利益を生み出す
両名が共通して語ったのは、「補助金に惑わされるな!」ということ。いくら多額の補助金が下りても、全体経費の半分近くは自己負担になり得ることを肝に銘じておく必要があります。海外展開に気を取られている間に国内の売上が落ちてしまったり、継続的な挑戦ができず、最終的には疲弊しただけの海外展開になってしまっては元も子もありません。コストの回収、利益の計上を意識した事業計画を立てること、という経験に基づいたメッセージは参加者の胸に深く響いたのではないでしょうか。
"これから"のジャパンブランド海外進出のためにあるべき支援事業とは?
後半は登壇者によるオープンディスカッション。株式会社JDN取締役の山崎泰氏をモデレーターに迎え、前半で登壇した木本氏と水谷氏、BE STANDARDプロジェクトのプロデューサーである株式会社ロフトワークの二本栁友彦、経済産業省 関東経済産業局より幸物正晃氏も加わり、それぞれの立場からジャパンブランドの海外進出と支援事業について議論を交わしました。
ジャパンブランドの海外展開は、数字のトレンドとしては上昇傾向にあるものの、大成功と言うにはまだまだ多くの課題を残している、というのが一致した見解でした。ただ、支援事業を卒業した後も多くの事業者が継続的なフォローや挑戦を続けているとのことで、確実に手応えを感じられていることが窺えました。
海外に挑む事業者が年々増えていく中で、販路開拓のチーム作りにも変化が。従来は商材を買い取り、現地で販路を広げてくれるディストリビューターを確保することがセオリーでしたが、水谷氏は「上代が跳ね上がり、間口が狭められてしまうことがある」と指摘。木本氏は、注文を取り次ぐエージェントやアンバサダーに、成果報酬型でプロモーションを依頼する方法を紹介しました。
さて、今回のセミナーの大きなテーマは「海外展開における支援事業」。これまで、さまざまな補助事業が海外への挑戦を後押ししてきましたが、水谷氏は自身が3年間参加してきた「MORE THAN プロジェクト」での海外挑戦のエピソードを披露。年間を通して定期的に行われた進捗報告会が刺激になったと語りました。
「全体に向けた進捗共有の際に、(自身のプロジェクトに)進捗がないと焦りますし、他のプロジェクトの進捗を聞くと刺激になります。競争意識を煽られつつ、情報交換できる仲間も得られました」(水谷氏)
ネットワークや販路開拓のプロセス、そして海外市場に対する知見を与えてくれるパートナーに補助がつく(謝金や旅費)という珍しい支援事業だった同プロジェクト。事務局として全力を注いだ二本栁も、採択事業者からのうれしいコメントに当時の思いがこぼれます。
「報告書には商談件数、成約数をすべてありのままに記載しました。成功したことも失敗したことも共有することで、次に挑戦する人はそこから始められる。一つでも多くの成功を産み出して行きたかった」(二本栁)
一方、木本氏が振り返ったのは関東経済局による海外デザイナーとのコラボレーションプロジェクト。日本人には考えの及ばない部分に海外のセンスを取り入れることで、これまで持ち得なかった価値観が導き出される。結果として海外で評価されるプロダクトが生まれたことは、視野の広がる貴重な経験だったと語りました。
そして、このオープンディスカッションの総括であり、本イベントのハイライトにもなった議題は「これからの海外展開と支援事業に期待するアイデアとは?」個々の視点から建設的な意見が飛び交いました。
"これから"の海外展開と支援事業に期待するアイデア
木本氏は、自身のプレゼンテーションにも絡めて「ビジネスの成功」を見据えた補助金のあり方を模索。ビジネスとして肝心な展示会出展後に対する支援や、試作品ではなく完成品を作る段階に対するサポートの方法はないかと問題提起しました。
一方、水谷氏は時流に合わせた補助対象の考え方を提案。具体的には世界的に普及するオンラインでの購買をターゲットに、オンライン広告や越境ECへのチャレンジを支援する枠組みが今後求められると期待を寄せました。
プレーヤーではなくバックアップ側としてのアイデアを提示したのは、さまざまなプロジェクトで事務局として海外展開の支援をしている二本栁。事業者と市場をつなぐ「地域プロデューサー」が不足している現状に触れ、横で繋がっていける場づくりにはエネルギーが必要、とプラットフォーム構築を支援する体制を求めました。
これらの声を受け止める立場として幸物氏は「おっしゃるとおり」と頷きつつ、支援を提供する視点からコメント。コミュニティやネットワークが少しずつ育ち始めているからこそできる、海外展開のための底上げ施策もあるのではと提案しました。
「支援事業には税金が投入されていることから、常に厳しい目が向けられています。『事業者の方々自身ができること』と『国の支援が必要なこと』に関してもう少し議論してみたいですね。そうすればご一緒できるプロジェクトの幅も広がりそうな気がします」(幸物氏)
最後に、登壇者と会場の参加者が車座になって意見交換を行うミニワークを実施。トークセッションの中で気になったことを付箋に書き込み、全員で共有しました。終演後には参加者同士の交流会も行われ、この場だけに留まらない新たなコミュニティが生まれる予感も漂うイベントとなりました。
BE STANDARDプロジェクトの"これから"
最後に、二本栁からこんな言葉がありました。「行政のプロジェクトはダメだ、行政だからかっこよくできない。こういった言葉をよく耳にします。でも、私たちはそんなことは無いと思っています。ダメだと言っているだけでは何も変わらないし、何もはじまらない。それぞれの役割をきちんと理解をして、一緒にチャレンジを行うことができたら、日本はもっともっとできることが沢山ある。私たちは、そのために汗をかきたい。」
MORE THANプロジェクトからつながり、その先の展開を切り開くために始動したBE STANDARDプロジェクト。これからもジャパンブランドの海外進出が、海外でジャパンブランドを目にすることが当たり前になるその日を目指して、今後もチャレンジを続けていきます。