EVENT Report

部署や会社の垣根を越えて新しい価値を生み出すには?
東映「仮面ライダーを救え!暑さ対策ハッカソン」の事例から考える

「実践・デザイン経営ービジネス変革を担うリーダーのための経営とデザイン」と題し、デザインの視点を組織・事業のマネジメントに生かす実践方法を紹介するシリーズイベント、第2回のテーマは「組織に共創文化をつくる」。

東映株式会社に設置された「ハイテク大使館」というユニークなネーミングの部署横断型組織の担当者、白倉伸一郎さんと飯田友都さんをゲストに迎え、新組織発足の背景や部署間に横たわる”国境”を超えて行うプロジェクトなどのお話を伺いました。
同組織と2019年にハッカソンイベントを企画・運営したロフトワークの執行役員兼イノベーションメーカーの棚橋弘季とクリエイティブディレクターの武田真梨子が加わったディスカッションも実施。共創型プロジェクトの成果や社内外のメンバーの巻き込み方などについて議論しました。

どうすれば部署や会社の垣根を超え、新しい価値を創造することができるのか。考えるヒントの詰まったレポートをお届けします。

東映はなぜ、部署横断型組織「ハイテク大使館」をつくったのか?

ハイテク大使館は2018年6月、岡田裕介会長の特命を受けて発足しました。東映グループ内で先端技術を駆使して新規プロジェクトを遂行するために、各部署の“垣根=国境”を越えて橋渡しする役目を担っています。以前の同社は縦割り組織の色が濃く、事業が多岐にわたる中で各事業が抱える課題を横断的に解決したり、新規事業を立案したりする仕組みがありませんでした。リーダーの白倉さんに、部署を横断するプロジェクトを進めるコツや成果、目指すゴールについて伺いました。

“使いっ走り”のスペシャリスト

足から2年。組織に横串を通し、縦割りの壁をなくすために、自分たちは何をすべきか。実践の中から少しずつ見えてきました。

「2年間でうまくいったこともあれば、うまくいかなかったこともあります。分かったのは、部署を横断して何かをするのはすごく難しいということ。「どの部署に一番利益が出るのか」が話のメインになってしまうからです。それぞれ各部門の利害を背負っているため、目先の利益を求めてしまうのは当然のこと。それをどうやったら全体最適できるか、“へり下り大作戦”で考えるのが我々の役目です。

様々な部署の意見をすくい上げるため、絶対に偉そうにはしません。大切なのは、まず笑ってもらうこと。「ハイテク大使館から来ました」と言うと小馬鹿にされるので、へりくだりながら話を聞かせてもらうことができます。ハイテク大使館が担うのは、ボトムアップ型の組織改善。だからこそ、自称“御用聞き”として、“使いっ走りのスペシャリスト”を目指しています」

「明日の当たり前」をつくる

ハイテク大使館には愚痴レベルのものからインバウンド対策といった大きい案件まで、毎月2〜3の話が持ち込まれます。すぐに動けるものもあれば、同組織だけでは具体化が難しいものも。具体化したものの一つに、ロフトワークと取り組んだハッカソンがあります。

「課題が持ち込まれると、我々が中心となってバラバラの部署を横断し、みんなで解決策を考えます。我々中心の具体化が難しい場合は、「適切なるバトン回し」をします。使いっ走りの分を越えてしまってはいけないので、ある程度解決できそうな部署に任せます。ハイテク大使館は、あまり成果を出してはいけない部署なんです。

我々の使命は「明日の当たり前」をつくること。我々が一歩踏み出したことが、明日にはみんなの当たり前になってほしい。“用済み”になることが理想です」

ハッカソンにみる共創のプロセス ー事例「仮面ライダーを救え!暑さ対策ハッカソン」

東映とロフトワークは2019年秋、仮面ライダーの撮影現場における「真夏の暑さ対策」をテーマに、ハッカソンを実施しました(詳細のプロジェクト事例はこちら)。熱中症のリスクや体力の消耗といった課題を解決するため、コンテンツ制作に関わる関係者のほか、具体的なソリューションを持つ企業や有識者など約30人が参加し、意見を交換しながらプロトタイピングを実施。様々な立場の人を巻き込みながら、インプットからアウトプットまで1日に凝縮して共創しました。

様々な視点で課題を客観化する

スムーズに共創を進めるために重視したのは、インプットの設計です。限られた時間でゴールまでたどり着けるよう、参加者それぞれの知見を最大限活用してソリューションが出せるような順番を意識しました。

まず最初に行ったのは、東映のプロデューサーやスーツアクター、プロダクトの企画担当など、現場の担当者に現状を共有してもらうことによる「課題のインプット」。次に、衣服の快適性の研究者や熱中症リスク対策に関するコンサルティングを行っている産業医など、専門領域からの視点による「解決案のインプット」を実施。最後に、小型ファン付きの服を開発・販売する株式会社空調服やシャープ株式会社の社内ベンチャーで蓄冷材料を活用した研究を行っているTEKION LABなど5社の企業に各社製品を紹介してもらう「具体策のインプット」の順に進めました。

その後、グループごとのアイディエーションを経て、プロトタイピングでアイデアの具体性を高めていきました。異なる立場の人が参加するからこそ、様々な意見を混ぜ合わせてディスカッションできる場の設計を意識しました。

前提を共有してゴールを明確に描く

目指すゴールも明確に描きました。今回のハッカソンで設けたゴールは、暑さ対策について「外部の企業といっしょに考える場を持つこと」「具体的なソリューションにつながる外部企業と関係をつくること」の二つ。事前に撮影現場へのヒアリングを行ったうえで、外部の参加者を選定しました。参加者全員で「なぜ暑さ対策が必要なのか」という前提をきちんと共有できたことが、当日の盛り上がりにつながりました。

社内外の共創で課題を解決する文化をつくる

右上から時計回りに株式会社ロフトワークの岩沢エリ、東映株式会社の白倉伸一郎さんと飯田友都さん、株式会社ロフトワークの棚橋弘季と武田真梨子

後半のディスカッションでは、今回のハッカソンについて工夫した点や成果などに踏み込んで話し合ったほか、それぞれが考える「共創」について議論しました。モデレーターはロフトワーク マーケティングの岩沢エリが務めました。

客観的なデータを意識改革につなげる

株式会社ロフトワーク 岩沢エリ(以下、岩沢):実際にハッカソンをしてみて、どのような成果や変化がありましたか?

東映株式会社 飯田友都さん(以下、飯田):現場でもそれなりに暑さ対策を行ってきましたが、その場しのぎになってしまっていました。ハッカソンを通じて様々な立場の方にご意見をいただくことで、会社として暑さにどう立ち向かっていくのかという共通の課題とすることができました

東映株式会社 白倉伸一郎さん(以下、白倉):「暑い」という主観だったものが、客観になったのも良かったと思います。利害関係のない人に客観的なデータを突きつけられることで、意識改革につながりました。具体的な成果はこの夏に出てくると思います。

株式会社ロフトワーク 棚橋弘季(以下、棚橋):ハッカソンは社内にない知見を得られると同時に、外からの目線を入れられるのも良いところですね。今回の課題は暑さ対策だったので、当初は夏場の開催を予定していましたが、巻き込みたい人をきちんと巻き込むために10月に行いました。

株式会社ロフトワーク 武田真梨子(以下、武田):お声がけする人は慎重に選びました。参加者側の意識も汲みとったうえで参加してもらいたかったからです。結果的に、強い思いを持った人に集まっていただけたことが成功への近道になったと感じています。

岩沢:社内での評価はいかがでしたか?

飯田:東映としてハッカソンを行ったのは初めてでしたが、関心を持ってくれた若手が多かったです。その熱を活かして、働く人に寄り添いながら、東映の新しい事業を考えていきたいと思っています。

白倉:今回はスーツアクターの暑さ対策という非常に明確な問題でしたが、具体的な言い出しっぺをうまくつかまえて旗を振らせることで課題化することが必要だと思いました。それが、これからの東映をつくっていくことにつながります。

岩沢:共通の課題をいかにして発見していくかが重要ですね。

他社を巻き込み、社会課題として取り組む

岩沢:ハッカソンを実施するにあたり、他部署との調整など社内を説得するのに工夫されたこと、苦労された点はありますか?

飯田:今回の取り組みはある意味仮面ライダーの裏側を見せなくてはいけなかったので、世界観を守ってビジネスをしている部署とのバランスを取ることは意識しました。キャラクターを管理する担当者の理解を得て、カタチにすることができました。

白倉:ハッカソンだから良かったです。他社を巻き込めるというのは大きかったですね。本来、仮面ライダーは救う側で、暑さに困るはずがないのですが、それでは問題が矮小化されてしまいます。社内外に広げることで、そういう次元ではないと認識することができたと思います。

岩沢:自社だけの問題として抱えるのではなく、社会課題として取り組めたことも肝だったのではないでしょうか。

棚橋:意識を広げるのに、僕たちをうまく使っていただきました。

飯田:自分たちだけでは怖くてできないですね(笑)。キービジュアルとなるイラストを作って外堀から埋めていくことで、様々な立場の人と課題を共有することができました。直接的に巻き込んでいなくても、感覚的に共有できたと思います。

白倉:イラストは思いのほか旗印になりました。ハッカソンに限らず、広がりが生まれたと思います。

©2019 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

“いい使いっ走り”になるために大事なのは“部外者感”

岩沢:ハイテク大使館の職掌は“使いっ走りのスペシャリスト”というお話がありましたが、“いい使いっ走り”になるにはどうしたら良いでしょうか?

飯田:今回のハッカソンではヒアリングのために撮影現場を訪れ、現場がいかに苦労しているかを垣間見ることができました。エンターテインメントの世界って楽しく見えてしまうけれど、その裏側には苦労もあります。僕の当たり前がみんなの当たり前ではないので、御用があった時に一歩一歩、一緒に考えていけたらと思っています。

白倉:飯田のいいところは上から目線にならずに、「あなたの御用を聞きにきました」と純粋にミッションに向き合うことができるところです。

飯田:“部外者感”は大事にしたいと思っています。

白倉:ただ、社内調整は若手だけでは難しい場面もあると思います。必ずしも私のようなオヤジが当事者である必要はありませんが、若手だけでは説得力がない時に“オヤジ力”を使ってもらえたらと思っています。その点、ハッカソンは年齢や立場に関係なく言いたいことを言える雰囲気をつくれるのはいいですね。

棚橋:ハッカソンは新しいカタチの民主主義だと思っていて、様々な立場の人がフラットに意見を出し合うことで、民主主義的に変えていくことができます。必ずしもハッカソンである必要はありませんが、ハッカソンは共創する一つのきっかけになります。

共創はゴールではなく一つのルート

岩沢:共創文化とはどのようなものだと考えますか?

白倉:共創はゴールではなく一つのルートだと考えています。今回のハッカソンを通じて、問題を解決するのに有効なツールであることが分かりました。共創によって得られた知見もありますし、意識が変わったところもあります

棚橋:共創は目的ではないんですよね。必ずしも共創という言葉の定義が共有されていなくてもいいとさえ思っています。そんな中で「共創文化」と言っているのは、複雑な課題を解決するには、いろいろな専門家が集まる必要があるからです。様々な立場やスキルを持った人の仕事の仕方をその場その場で研究しながら進めていくので、それは文化だと捉えています。

白倉:本来ひとりではできないことを組織としてやっているので、壁を打ち破るためには旗印が必要で、それが共創になるのかなと思います。

岩沢:みなさま本日はありがとうございました!

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