サステナブルな事業成長を生み出すためにリーダーが持つべき視点とは
2020年12月23日に開催した、「建築、金融サービス、デザインの経営者と考える、“持続する社会と人中心イノベーション”が創発する組織と場づくり」。ネットプロテクションズ、SUPPOSE DESIGN OFFICE、ロフトワークと異なる事業のリーダーが集まり、持続的な成長のためにこれからのリーダーが持つべき視点や意識について、それぞれの取り組み事例をまじえて話していただきました。
“混ぜる” ことで新しいアイデアが生まれる
「社食堂」という場所を知っていますか?
“We design cell – 細胞をデザインする” をコンセプトに、社員だけでなく社会の健康とそこから生まれる健全でクリエイティブな暮らしを実現しようとする社員+社会の食堂で、建築事務所であるSUPPOSE DESIGN OFFICE株式会社が運営しています。
「外部には閉じられた設計事務所の仕事の間口を開き、建築の仕事を知ってもらえたら、また新しいアイデアが生まれるんじゃないかなと思う」と、SUPPOSE DESIGN OFFICEの共同代表であり建築家の吉田愛さんは話しました。
オフィスの中央に設けられたオープンキッチンとそれを囲む大きなテーブル。壁には建築、デザインを中心とした書籍が収められた本棚に、アート作品。昼間は食事を楽しむ人たちで満席になり、まさに「食堂」といった感じだが、夕方には静かに思考を巡らす人や手を動かす人など、建築事務所のオフィスとしてこの場は機能します。
「場所は名前によりその役割を規定されていますが、これにとらわれる必要はないと思っています。外に開き、異なるものが出会うことで生まれる “ノイズ” が刺激となって、今までにない設計プランが生まれる。 “混ぜる” が設計のキーワードとなっています。」
成長企業が軽やかに超える “組織はこうあるべき”というセオリー
後払い・かけ払いサービスを提供し事業成長を続ける株式会社ネットプロテクションズの社長である柴田紳さんは、自社を “ほぼ” ティール組織であると紹介します。日本において、この規模の企業がティール組織であると言えるような組織運営が本当に可能なのか?柴田さんの話をきくと、「成長するにはこれを実践すべき」というフレームワークがあまり見当たりません。そこに事業成長のポイントがあるようです。
「マネージャーは廃止、カタリストという役割を設け、同僚をサポートするアドバイザーとして社員の成長を担っています。彼らは育成とチーム成果に責任を負いますが、承認・決定なその権限は明確に持ちません。評価も360°、社員同士で行います。
配属や異動も自己決定、社長である私が打診しても断られますよ。でも、それがいいんです。全員がモチベーション高く仕事をしていることが、事業成長につながっています。」
たしかに、キャリアを積んでいくとそれを人に渡していきたいという思いは強くなりますが、本当に、そんな “野放し” ともいえる状態でサボる人や、責任の押し付けあいは起きないのでしょうか?まだ少々疑心暗鬼になってしまいます。
「マネージャーがいないとダメ、というのも固定概念ですよね。怖かったけど、ない方がうまくいくとも感じていたので、無くしました。結果、みんながマネージャーの意識で動いています。」
価値観を反転させることで生まれる新たなビジネス価値
「これまでのR&Dは定量的なゴールの枠組みの中だけで動いていました。例えば、サイズを小さくする、動きを早くする。しかし、すでに10万回擦っても大丈夫な0.2mmのフィルムがあったとして、これを20万回でも大丈夫にしたり、0.1mmにすることにビジネス的な芽はあるのでしょうか。これから紹介するプロジェクトの起点は、こうした課題感からスタートしました。」
株式会社ロフトワーク 代表の諏訪光洋が紹介したのはロフトワークがある素材メーカーと取組んだプロジェクト。プロジェクトのテーマは素材の「エイジング(経年変化)」でした。
「これまでの価値観では、経年変化は劣化であり退化と同義でしたが、人の感性はこれを美しい、心地よいと感じる場合もあります。定量的なゴールだけを見ていては気づけません。価値観を転換することで、新しいビジネスの芽が生まれるでしょう。」
では、既存の枠組みや固定概念を超え、持続的な成長を実現するためには具体的に何を大切にすればよいのでしょうか?
持続的な事業成長のためにリーダーが取り組むこととは?
私は、会社のビジョンをよく話します。現状、社長の仕事はこれくらいかもしれない(笑)。一方で、社員も自己をオープンにするような仕組みがあり、キャリアプランや複業も開示し共有しています。自分がやりたいことと会社が向かいたい方向はときに相反もしますが、それでも社員みんな、会社が好きなんじゃないかな。(柴田さん)
自分の中にないものを拒絶しない、ということですね。ときに、これは…と感じる要望を受けることもありますが、排除せず、いったん受け取ります。合気道の精神というか、対立する意見は敵だと思わず、そこからよいものを生み出すよい機会。(吉田さん)
ネットプロテクションズも、競争や勝ち負けを排除するようにしています。それぞれがもつ熱意こそがモチベーションとなるべきです。(柴田さん)
意見のぶつかり合いこそ、変革の糸口。意見をどう引き出すかのファシリテーションが重要です。(諏訪)
“ノイズ”を生み出すって、設計しづらいですよね。自然発生するものをどう受け止めるかだと思うんですけど、性善説で考えることと似ているかもしれません。(吉田さん)
社員の育成において、スキルだけでなく、人間としての成長も重視しています。育ててもらった恩を次の世代に伝えていく、サステナブルな育成のシステムが非常に重要です。(柴田さん)
持続的な成長のための第一歩は、異なるものを受容すること。そのためには、内と外とが自然に接続されるリアルな場や、モチベーションを高める組織の仕組みに、皆の健康を考えたり、恩を感じることといった、精神的な要素を意識的に取り入れることが不可欠であるようです。定量的なものから定性的なものへと価値基準が広がる中、改めてリーダーが持つべき視点や意識を確認できるセッションとなりました。
ロフトワークによる企業の持続的な成長支援のアプローチ
最後に諏訪より、ロフトワークによる企業の持続的な成長支援のアプローチについて、紹介をさせていただきました。
「企業の持続的な成長支援に関して、最近は要望に変化を感じています。従来は企業によるイノベーション創出支援を求められ、既存の組織の力学から離れた “飛地” をつくることを提案することが多く、100BANCHやTORCHなど、インキュベーション・アクセラレーションプログラムの企画・運営をサポートしてきました。この動きも続いていくと思いますが、一方で、SDGsへの取り組みやCOVID-19の影響などから、これまで新規事業創出に関わっていた方が、従来の本業をどう成長させ続けられるか、というところに戻ってきている印象があります。彼らが飛地で活動することで培ってきた新たな価値創出への挑戦の力を、従来の本業とどう接続するかがテーマとして増えてきています。
本業中心でやってきた人たちの変化に対する挑戦のモチベーションを高め、硬直化した視点の変化を促すにはどうしたら良いかーーこれをデザイン思考の導入や、セレンディピティの発生する場への更新、ビジョン作りからその浸透の伴走など、企業の現状にあった形でプロジェクトを組成し、持続的な成長のための企業変革を支援してきます。」
持続する社会と人中心のイノベーションを創発する組織と場作りのための9つの要素
今回のイベントでは、議論の軸とするべく9つの要素をキーワードとして提示しながら進めました。この9つの要素をどのように融合させ、同時に進めていけるのか。
皆さんの組織とも照らし合わせて、ぜひ考えてみてください。