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トーク|評価を“つくる“という選択
技術や着想を社会実装するための”ものさし”とは
Recorded 録画配信
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既存の評価を問い直す──社会実装のための“ものさし”とは
2025年5月22日、「トーク|評価を“つくる“という選択
技術や着想を社会実装するための”ものさし”とは」と題し、持続可能性に関わる国際政策データの分析ツール「RuleWatcher」を手がける小田一枝さんと、株式会社大阪鉛錫精錬所代表取締役社長であり、バイオアートの背景を持つ廣末幸子さんをお迎えして、技術や着想が経済のエコシステムの中で機能するためには、どのような評価基準が必要か、それらをどのような視点でデザインし社会に提案できるのかをディスカッションしました。
循環型経済を支える技術やビジネスアイデアは、これまで多く発信されてきました。しかし、それらの多くが意図したサプライチェーンに取り込まれにくかったり、既存の調達・評価基準と整合しないといった課題に直面しています。そもそも、従来の経済循環を再定義する発想だからこそ、既存の価値軸に則るのではなく、自ら新たな「評価のものさし」を提示する必要があるのではないでしょうか。

ディスカッションサマリー
イベントで行われたディスカッションサマリーは以下のとおりです。全編の様子はお申し込みいただいた方にURLを共有いたします。
評価を作るという選択 ——見立て、対話、そして兆し
2024年5月、FabCafe Osakaにて開催されたイベント「評価を“つくる“という選択 – 技術や着想を社会実装するための”ものさし”とは」。サーキュラーエコノミーを軸に、見えない価値の兆しに光を当て、新たな評価軸を探索する場として企画された本イベントは、サーキュラーアワードの巡回展示にあわせて開催され、産業・ルール・感性の三者が交わる貴重な対話の時間となった。
産業の現場から 素材に宿る複雑な価値
最初のゲスト、廣末幸子氏(大阪鉛錫精錬所)は、「100年後の空の色を思いながら」と題して登壇。鉛やタングステンカーバイドといったヘビーメタルのリサイクルを通じ、都市に蓄積された資源を再生し続ける企業の視点から、素材の循環とその評価の複雑さを語った。
特に印象的だったのは、「鉛=有害」という単純な評価軸を問い直す視点。鉛は毒性を持つ一方で、再生利用のしやすさから“リサイクルの優等生”とも呼ばれる。その単純な構造が循環を支え、多様な元素が交錯する精錬過程においては、他の貴金属を回収する起点にもなる。だが、流通や輸出入、為替の変動によって循環がゆらぐ現実もある。「資源は単体で存在していない」という言葉が示すように、素材同士、産業間、社会との関係性の中で初めて“価値”が立ち上がる。
廣末氏は、そうした構造の可視化を通じて「評価されるべきは結果だけでなく、プロセスの複雑さや関係性そのもの」と語り、組織内でも「一人ひとりの進化を支える評価制度」の試みが始まっていると紹介した。
世界のルールの変動を追う 評価の不安定性と人間性
続くゲストは、小田一枝氏(株式会社オシンテック)。世界各国の政策・ルールの変化を可視化する「ルールウォッチャー」を開発・運用しながら、サステナビリティをめぐる規制・情報の地殻変動を日々追いかけている。
小田氏は、「評価とは常に“その時の選択”にすぎない」と前置きし、プラスチックの歴史的変遷をユーモラスに紹介。元は象牙や鼈甲といった生物資源の代替品として登場し、かつては“環境にやさしい素材”として讃えられたプラスチックが、今や環境汚染の象徴となっている。この逆転劇は総合的な妥当性ではなく、メディア・政治・市民感情といった多層的な要因によって起きているという。
また、近年注目されるEV用バッテリーも、コバルト依存から脱却する動きの中で、かえってリサイクル不可能な新素材(リン酸鉄系)への移行が進んでいる例を挙げ、「“評価の根拠”が短期間で揺らぎ続ける時代に、私たちは何を信じて意思決定すべきか」を問いかけた。
クロストーク 見立てから兆しへ、評価をどう“使いこなす”か
後半のクロストークでは、モデレーターのハモ(FabCafe Osaka)が進行を務め、ゲストと共に「新たな評価軸を社会に浸透させるためには何が必要か」が探られた。
印象的だったのは「ルールメイク」ではなく「ルールを使いこなす兆し」という視点の転換である。小田氏は、「ルールはしばしば“正しさ”で設計されるが、実際に機能するかは人々に受け入れられるかどうかで決まる」と語り、過剰な規制が“闇取引”のような副作用を生む事例(ケニアのレジ袋禁止など)を紹介。大事なのは、「程よい強度」や「納得感のある伝え方」だという。
廣末氏も、素材や産業の評価において「技術や制度だけでなく、体験や対話を通じて“共感される評価軸”に変換していく必要がある」と応じた。
また、観客との対話から浮かび上がったのは、“一人ひとりの感じ方”が評価の多様性を支えるという視点。「お茶の席」のように、共通の場で異なる解釈を許容し合う余白の存在が、これからの評価には不可欠だという指摘が印象深かった。
評価はつくるだけではなく、 感じ取り、育てていくもの
イベント終盤では、評価の構造を
- 物差しを放棄する(アート)
- 物差しを新しく創る(デザイン)
- 物差しを使いこなす(体験)
の3段階に整理する見立ても共有された。評価とは、完成されたルールを当てはめることではなく、見立てと体験を通じて“使いこなす”プロセスなのかもしれない。
予定調和を避け、即興性に満ちたクロストークの中にあったのは、「評価は常に変化する」という前提への実直な向き合いと、それを恐れず扱うための“兆し”のデザインだった。
今後もこのような場が、「自分たちのルールは自分たちで育てる」ための実践として、広がっていくことを願いたい。
こんな方におすすめ
- 素材調達において、新たな基準や評価する視点を得ようとしている企業のサステナビリティ担当および資材調達・技術開発を担当されている方
- 新規素材でブランド&事業戦略を再構築したい事業企画部門・ブランド責任者
- 循環型社会やエコシステム視点で未来都市/インフラを設計する開発事業者・デベロッパー
- 企業横断プロジェクトに取り組むCSR/サステナビリティの統括者
Program
- 10min
-
イントロダクション
- 小島 和人(株式会社ロフトワーク プロデューサー / FabCafe Osaka 事業責任者)
- 15min
-
crQlr Award 2024の受賞作品の見どころとサーキュラーバイオエコノミーについて
- 浦野 奈美(株式会社ロフトワーク SPCSオーガナイザー)
- 15min
-
ゲストプレゼンテーション1
- 廣末 幸子(株式会社大阪鉛錫精錬所 代表取締役社長)
- 15min
-
ゲストプレゼンテーション2
- 小田 一枝(株式会社オシンテック RuleWatcherシソーラス総責任者)
- 50min
-
クロストーク
- 廣末 幸子(株式会社大阪鉛錫精錬所 代表取締役社長)
- 小田 一枝(株式会社オシンテック RuleWatcherシソーラス総責任者)
- 小島 和人(モデレーター)
- 5min
-
クロージング
Information
- 配信
- YouTube
- 対象
-
- 素材調達において、新たな基準や評価する視点を得ようとしている企業のサステナビリティ担当および資材調達・技術開発を担当されている方
- 新規素材でブランド&事業戦略を再構築したい事業企画部門・ブランド責任者
- 循環型社会やエコシステム視点で未来都市/インフラを設計する開発事業者・デベロッパー
- 企業横断プロジェクトに取り組むCSR/サステナビリティの統括者
- 主催
- 株式会社ロフトワーク
- ご注意
-
- 本動画は、2025年5月22日に開催したイベントの録画配信です。
- お申し込みの方に、動画の視聴URLをお送りします。
自然のアンコントローラビリティを 肯定するデザインを探究する R&Dコミュニティ
Speaker

株式会社大阪鉛錫精錬所, 代表取締役社長
廣末 幸子
1970年生まれ。高度経済成長期の渦中、アートとサイエンスの世界が滲み混ざる辺縁空間を表現。人間の健康における環境の役割を提唱するべく、 DIY Open Scienceを通して、グローバル連携を推進している。The Johns Hopkins Universityで医用生体と化学工学の理学士号、MIT/Harvard HST MEMPで医用生体工学の理学博士号を取得。Mount Sinai School of Medicineでは遺伝子治療に、EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)ではバイオ・ナノマテリアルに重点を置いたワクチン開発に従事。現在は、大阪鉛錫精錬所の4代目社長として、鉛・超硬再生の未来に挑戦している。
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1970年生まれ。高度経済成長期の渦中、アートとサイエンスの世界が滲み混ざる辺縁空間を表現。人間の健康における環境の役割を提唱するべく、 DIY Open Scienceを通して、グローバル連携を推進している。The Johns Hopkins Universityで医用生体と化学工学の理学士号、MIT/Harvard HST MEMPで医用生体工学の理学博士号を取得。Mount Sinai School of Medicineでは遺伝子治療に、EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)ではバイオ・ナノマテリアルに重点を置いたワクチン開発に従事。現在は、大阪鉛錫精錬所の4代目社長として、鉛・超硬再生の未来に挑戦している。
株式会社オシンテック, RuleWatcherシソーラス総責任者 国際動向インテリジェンス専任講師
⼩⽥ ⼀枝
⼤学卒業後、証券会社、外資系損保、外資系保険ブローカーを経て現職。RuleWatcher(持続可能性に関わる国際データ収集と分析のためのツール)のシソーラス製作の総責任を負う。世界各国の政策データから海洋プラスチック問題、気候変動、サーキュラーエコノミー、淡水資源問題、ビジネス人権等を切り出す幅広い知識を活かし、社会⼈教育も多数行う。2024年より、株式会社ユーザベースとの協業にて、技術者向けのインテリジェンス講師も担当。経営情報学修⼠(MBA)
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⼤学卒業後、証券会社、外資系損保、外資系保険ブローカーを経て現職。RuleWatcher(持続可能性に関わる国際データ収集と分析のためのツール)のシソーラス製作の総責任を負う。世界各国の政策データから海洋プラスチック問題、気候変動、サーキュラーエコノミー、淡水資源問題、ビジネス人権等を切り出す幅広い知識を活かし、社会⼈教育も多数行う。2024年より、株式会社ユーザベースとの協業にて、技術者向けのインテリジェンス講師も担当。経営情報学修⼠(MBA)
株式会社ロフトワーク, プロデューサー / FabCafe Osaka 事業責任者
小島 和人(ハモ)
大阪府守口市生まれ。建築、デザイン、プランニング、アートと多分野で活動を重ね、多様な視点と未来を見立てる力を培う。アーティスト名「ハモニズム」の理念は、社会状況や人々の価値観が調和した未来を仮説し、チームで実験・実行を通じて形にすることにある。大阪では、まちづくりやエリアマネジメントに注力し、地域の文化・歴史・環境を活かした持続可能な都市モデルを提案。行政・企業によるトップダウンの構想と生活者・クリエイターによるボトムアップの活動を接続している。2025年4月オープン予定のFabCafe Osakaを拠点に、大阪・天満や南森町エリアで「アンフォルム」をコンセプトに、「都市とローカルの融合」を模索し、新たな都市の未来像を描く。
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大阪府守口市生まれ。建築、デザイン、プランニング、アートと多分野で活動を重ね、多様な視点と未来を見立てる力を培う。アーティスト名「ハモニズム」の理念は、社会状況や人々の価値観が調和した未来を仮説し、チームで実験・実行を通じて形にすることにある。大阪では、まちづくりやエリアマネジメントに注力し、地域の文化・歴史・環境を活かした持続可能な都市モデルを提案。行政・企業によるトップダウンの構想と生活者・クリエイターによるボトムアップの活動を接続している。2025年4月オープン予定のFabCafe Osakaを拠点に、大阪・天満や南森町エリアで「アンフォルム」をコンセプトに、「都市とローカルの融合」を模索し、新たな都市の未来像を描く。
株式会社ロフトワーク, SPCSオーガナイザー
浦野 奈美
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
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大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。本動画は、過去開催したイベントの録画配信です。
お申し込みの方に、動画の視聴URLをお送りします。