EVENT Report

「連続起業家×VR開発者×陶芸家」異色のクロストークから見た、
感性が飛躍させる生成系AIとの未来

2023年7月に、ロフトワークの戦略パートナーとして、連続起業家 井口尊仁さんが就任。コピーライターの佐藤真生(MAO)さんとともに、ロフトワークの新プロジェクト「FUTURE TEAM」を立ち上げました。

井口さんが率いる「FUTURE TEAM」は、最先端テクノロジーと創造的デザイン・プロセスを組み合わせた、未来社会実装プロジェクトチームです。企業の経営的ペインを捉え、未来社会のナビゲーターとして、共に事業構想を描き、実際の事業化までのアウトプットをクライアント企業と同じチームとして伴走します。

そんな「FUTURE TEAM」が「FUTURE of XYZ 感性を信じ、生成系AIで未来へ漕ぎ出せ!」と題したイベントを開催。生成系AIとUX研究開発のプロフェッショナルである白井暁彦さんと、感性を大切にしながらマルチに活動されている陶芸家SHOWKOさんをゲストに迎え、未来における人とテクノロジーの在り方について語り合いました。

執筆:野本 纏花
撮影者 : 村上 大輔
企画・編集:FUTURE TEAM、山口謙之介(loftwork.com編集部)

今の時代だからこそ高まるセレンディピティの価値

冒頭井口さんより、自己紹介と本イベントの主旨が説明されました。

井口さんは、現実世界をデジタル空間化する「セカイカメラ」や、拡張現実ウェアラブルデバイス「テレパシー・ワン」、声で人と人が直接繋がれる オーディオソーシャルアプリ「Dabel(ダベル)」などの開発を手がけ、長きに渡りXR、メタバース領域をリードしてきた連続起業家です。数多くの海外イベントでも実績を残し、The Washington Post、Forbes、WIRED、Le Mondeなど、海外メディアのカバーストーリーとして多数掲載されている、世界的イノベーターでもあります。

「このFUTURE of XYZというイベントは、社会の最先端で新しい価値軸を発見し、製品化・事業化するための語り合いの場です。ChatGPTには膨大な量の人類の叡智が投入されており、無限に対話できる環境ができているわけですが、本当に大切なものはそれだけではないでしょう。リアルな世界で我々が出逢って会話することで生まれるセレンディピティやインスピレーションの価値は、非常に大きいはずです。ここにしかない語り合いの場を持つことで、我々にしかできないことは何なのかを探っていきたいと思っています」(井口さん)

「テクノロジー×アート」異分野で活躍する変革者たち〜ゲストのご紹介〜

次に、ゲストの白井さんとSHOWKOさんの活動内容が紹介されました。

メタバースとVRとAIの未来を研究する工学博士である白井さんは、ゲーム開発、放送技術研究所、フランスでのVRによる地方創生、科学館での展示物開発と科学コミュニケーション、そして企業でのVTuberやXR・メタバース研究開発に長年従事されています。デジタルハリウッド大学大学院客員教授として「クリエイティブAIラボ(CAIL)」を主宰されています。

画像生成AIの「Stable Diffusion」など、最先端のテクノロジーを使って、さまざまなアプリケーションやサービスを生み出している白井さん。なかでもChatGPTを利用した癒し系プロトタイプボットの「全力肯定彼氏くん」は、LINEでつらいことを相談すると、何でも全力で肯定してくれるというもので、すでに多数のユーザーから沢山のお悩み相談が寄せられており、未来のUX研究のための知見になっています。

他方、京都で330年続く茶陶の窯元「真葛焼」に生まれたSHOWKOさんは、「読む器」をコンセプトにした陶磁器ブランド「SIONE」を立ち上げ、2016年に銀閣寺本店をオープン。他にも、京都の老舗企業の新規事業立ち上げやブランディング、コンサルティングや、アートホテルの空間デザイン、陶板画制作やアートワークなどを通じて、国内外で活躍されています。

また、2022年1月に発売された初の著書『感性のある人が習慣にしていること』(クロスメディア・パブリッシング)は5万部を超えるベストセラーに。2023年からは「工芸」×「文化」×「コーチング」を組み合わせた「感性の学校」をスタートさせられており、本イベントには“感性代表”としてご参加いただきました。

生成系AIと人間の関係性は、感性によってどう変わるのか?

ここからは、事前に参加者のみなさんからいただいた質問に答える形で展開された、クロストークの模様を抜粋してお届けします。

Q. 生成系AIが広く使われる未来は、どのようになると思いますか?

MAOさん ChatGPTに漫画の設定を生成させてる漫画家の友人がいて、彼はその中から『これならおもしろいものが書けそう』と思ったものをピックアップするっていう使い方をしているらしいんですね。人間の頭で考えられる設定には限りがあるけれど、AIだと突拍子もないものを無限に出してくれるじゃないですか。

とはいえ現状だと、ストーリーのプロットまで書いてもらうのは難しいみたいで。人間の感性に響くようなものはまだ作れない。私も何度か試したことはあるんですが、創作活動のすべてをAIに置き換えるのは難しいと思いました。なので今の生成系AIは、自分一人ではできなかったことや苦手なことをサポートしてくれる“相棒”みたいな感じで付き合っていくのが良いのではないかと思っています。

井口さん 現状のChatGPTはタスク型の仕事はできるけど、ビジネス系のプロセスやクリエーション全体を網羅するのは、まだちょっと難しいところがありますよね。コンピューティングパワーがまだ不足していて、処理と応答に時間がかかり過ぎるというベーシックな課題もある。

だけど、それは現時点での話であって、この質問で聞かれている「未来」、つまり5年後や10年後には、かなり解決されて実現されているのではないか?と、思っています。

Q. 人間が心で感じる恋愛は、生成系AIでどのように変わるのでしょうか?

SHOWKOさん たぶん私はAIとは恋愛はできないと思うんですよね。リアルな恋愛で受け取れる「知らなかった自分に出逢える」という価値までは生み出せないように思えるから。誰かを好きになるのって、「自分の投げかけにどう応えてくれるか」だけじゃなく、その人の周りに漂っているものが大事な気がするし、返事を待っている余白の時間にこそ本質があると思うんです。

私の大好きな女性の先輩が「45歳を越えた失恋は膝に来る」と言っていて(笑)でも推し活は、膝には来ないんですよ。痛みがないんです。それって、全力肯定彼氏くんみたいなAIボットも同じだと思ったんですよね。でも痛みを与えうるのが恋愛というか…AIと人間の関係には、恋愛の一番大事な部分が入っていない気がしてしまうんですよね。

井口さん それも期限付きの話だと思いますよ。きっと5年後、10年後には、痛みも与えてくれるAIが出てきて、恋愛できるようになっていると思います。

SHOWKOさん たしかに。そして、これからAIに取って代わられる仕事がたくさんあるなかで、人間は人間としての存在意義をどこに持っていけばいいのかなとよく考えるんですよね。そうしたときに、やっぱり私は「感じること」「感性を高めること」「感じたものを表現していくこと」になるのかなと思っていて。これから生きていくためには、感性を学んでいくことが大切だと考えています。

Q. 生成系AIは医療やその周辺分野でも威力を発揮しますか?

白井さん AIを医療の現場で使えるかというと、微妙です。なぜなら、ゴールがないことがたくさんあるし、正しいことを言わないといけないから。全力肯定彼氏くんにできるのは、本当の彼氏から返事が来なくて不安にかられている子に対して、「彼もきっと寝てるよ。彼と一緒に良い夢見たいと思わない?」と言ってあげることだけ。全力肯定彼氏くんのコンセプトは、「僕が必要なくなるくらい、現実の世界で楽しくなってくれるといいね」ということなんです。医師とかカウンセラーのような立場は絶対に取ってはいけないと思ってます。

MAOさん それはなぜですか?

白井さん 裏で分析はしていますけど、それを直接「あなたはこの障害を持っています」とレッテルを貼るのは、その人にとって不利益にしかならないから。プロの診察を受けてもらえるように持っていく、プロに引き渡す、といったところには確実に価値があるとは思っていますけどね。

MAOさん なるほど。

諏訪 私は親の介護をしているんですけど、状況に応じて必要なものを判断するサポートは、今後AIにできることが増えていきそうじゃないですか。パラメータが多すぎてまだ実現してはいないけど、何かしらのデータで不調を把握して、「こんな支援が必要ですよ」と知らせてくれるといったことは、いずれできるようになる気はしています。

白井さん そこで大事なのが「デザインと感性」ですよね。子どもに「毎日これをやれ」と言われただけでは習慣化しないけど、「これで自分のQOLが高まりそうだ」ということであれば、親も自発的にやるじゃないですか。

たとえば冷蔵庫の開閉のタイミングをIoTデバイスで感知して、離れて暮らす家族が「今日もちゃんとごはんを食べていて元気そうだな」と伝わるとか。そういった世界をデザインと感性の力でいかに作り上げていくかが大切なんだと思います。

井口さん これからの医療やヘルスケアも含めた社会インフラを構成する要素として、人間だけでなくAIも入ってくる未来が見えてきたという話ですね。

「FUTURE TEAM」とともに企業の未来を創造する

最後に、ロフトワーク代表取締役社長の諏訪が「FUTURE TEAM」にかける想いを語ります。

諏訪 「テクノロジーが飛躍する時代に、人の感性を最大限に発揮することで、私達はどこまで飛躍し、そのまだ見ぬ未来を創造できるのか?そして、それをどうビジネスにつなげていくのか?」この問いに対する答えを皆さんと一緒に考えるのが「FUTURE TEAM」の役割です。

今日のテーマであった生成系AIをはじめ、XR、サステナビリティ、デザイン経営、宇宙開発、バイオ、プロダクトデザイン、共創空間作りなど、企業の皆さんが興味のあるテーマに対して、ロフトワークやFabCafeには多彩なパートナーがいます。しかし、これまでのロフトワークでは、リサーチをして、プログラム化して、有識者を集め、プロトタイプを作り、事業化して、そこからさらに経営と統合していくという、それぞれのパーツにおけるご支援はしてきましたが、企業の未来を大きなロードマップで提示することはできていませんでした。

企業の未来をデザインし、市場に対してメッセージを届けるのが得意な井口さんとMAOさん。そしてロフトワークがこれまで培ったデザイン経営の手法。これらを掛け合わせることで、未来への目標を立て、アウトカムを設定して、そこに到達するまでの戦略的なロードマップを描いて、皆さんと一緒に未来を創っていきたいと考えています。これからのロフトワークに、どうぞご期待ください。

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主催 : FUTURE TEAM

本イベントの主催 : FUTURE TEAM

エンタメドリブンで未来を描き、テクノロジーで実装する。
私たちは、エンターテインメント(人々を楽しませること)を起点に未来を構想します。テクノロジーは、それを実現するための重要なツール。エンタメドリブンで動き出し、未来の実装にテクノロジーを活用する。多くの人の心を動かし、熱狂させるためのテクノロジーの使い手であることがFUTURE TEAMの存在意義です。

FUTURE TEAM とは

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