プラスチックごみのマテリアルリサイクルを考える
「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜」
MTRL FUTURE SESSION vol.6
素材起点のイノベーティブなプロジェクトを多く手掛けるMTRL(運営:株式会社ロフトワーク)が立ち上げた「プラスチックごみを楽しく分別しよう」にコミットメントするためのコミュニティ「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜」。
2024年6月4日に第2回目となるイベントを開催しました。
今回のテーマは「プラスチックごみのマテリアルリサイクルを考える」です。
私たちの生活にとても身近で便利でありながらも、埋立地の減少や石油資源の枯渇・再利用化といった課題も多いプラスチックという素材。プラスチックの資源循環に、私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。会場には登壇企業の製品や取り組み動画などが数多く展示されており、プラスチックの資源循環のこれからに興味のある参加者のみなさんとさまざまな意見交換が行われていました。
本レポートでは、異なるアプローチでプラスチックの資源循環に取り組む、株式会社REMARE 代表取締役 / 元航海士&機関士 間瀬 雅介さんと、エンバリオジャパン株式会社 用途開発マネジャー 宮崎 隼人さんの2名のゲストセッションを中心に、イベントの模様をお届けします。
触れて・見て・知って!プラスチックを楽しく分別しよう
イベントのトーク内容に入る前に、まずは「クイズ!プラスチック資源箱」をはじめとしたデモ・ブースの数々をご紹介します。
今回は、登壇者のREMARE間瀬さん・エンバリオジャパン宮崎さんの持ち寄ったサンプルに、長瀬産業「plaplat」、ヤマト・インダストリー「モールドロック®」、山本製作所「ぷらしる」が加わり、会場での展示を盛り上げました。
クイズ!プラスチック資源箱
「クイズ!プラスチック資源箱」は、MTRLがプラスチックを使用した後のデザインと向き合うなかで生まれたプロダクト。きれいなプラスチック資源を分別して捨てると、プラスチックの分別方法や社会課題に関するクイズが出題されます。
山本製作所「ぷらしる」
ぷらしるは、近赤外線分光法による、ハンディタイプのプラスチック材質判別装置です。 読取センサが内蔵されたセンサ部と、判別結果を表示するタブレットで構成されています。 手ざわり・弾力・匂い・燃え方など、ベテランの経験則に依存しがちだった材質判別業務を 「誰でも」「簡単に」「同じ基準で」行うことができます。
ヤマト・インダストリー「モールドロック®」
卓上小型射出成形機モールドロック®を使用した成形実演を実施。実際に回収した廃プラスチックを材料にして整形した、彩り豊かなサンプルも展示されました。
PLASTIC SCANNER
「PLASTIC SCANNER」はプラスチック製品にかざすと、そこに含まれているプラスチックの種類を識別できる、スマートフォンサイズの小型デバイスです。今回はMTRLチームがプロトタイピングした実機を展示しました。
REMARE
ご登壇いただいたREMARE間瀬さんからの出展では、さまざまなリサイクルプラスチックのサンプルが参加者の目を引いていました。
長瀬産業「plaplat」
プラスチックとサステナビリティ、二つをキーワードにしたメディア「plaplat」の社会的な役割や、取り上げている事例について紹介しました。社会課題は一つのソリューションだけで解決できるわけではありません。「plaplat」が情報のハブとなり、解決策のヒントを得ていただければと思います。
マテリアルリサイクルの特徴を活かした製品で環境に貢献
では、いよいよエンバリオジャパン株式会社 用途開発マネジャー 宮崎 隼人さんによるゲストセッションに入っていきましょう。
エンバリオ株式会社は、世界をリードするオランダの国営化学メーカー「DSM」の樹脂部門と、ドイツの特殊化学メーカー「ランクセス」の樹脂部門の合併によって、2023年4月に誕生したナイロン(ポリアミド)およびポリエステルの材料を提供するメーカーです。同社で主に取り扱うのは、プラスチックの中でも半結晶性樹脂かつ耐熱性の高い材料であり、自動車部品や電気電子関係、食品包装などの領域で多く使われていると語ります。
環境問題への意識が高いと言われる欧州の施策に造詣が深い宮崎さんは、プラスチックに関する課題とと対策として以下の3点を挙げました。
- 気候変動…温室効果ガス排出の削減(製品カーボンフットプリント)
- プラスチック廃棄物…循環型ソリューション(リサイクル由来材料)
- 資源の枯渇…循環型経済ソリューション(植物由来材料)
また、マテリアルリサイクルという言葉は日本特有の使い方でああることから、『プラスチックリサイクルの基礎知識2023』(プラスチック循環利用協会)をもとに、「マテリアルリサイクル=再生利用(プラ原料化・プラ製品化)すること」であると解説した宮崎さん。これは欧米ではメカニカルリサイクルと呼ばれているそうです。
そんなマテリアルリサイクルのプロセスをPETボトルで見てみると、「回収→選別→粉砕→洗浄→フレーク→ペレット化→結晶化→除染→PET樹脂」と進んでいくとのこと。「ペットボトルの蓋はポリプロピレンでPETではないので選別が必要です。押出機という機械にフレークを入れるとスパゲッティのようになって出てくるので、水で冷やして裁断するとペレットになります。最後のPET樹脂を溶かして再びペットボトルにすれば『水平リサイクル』、また別の用途で使うために形を変えると『カスケードリサイクル』と呼ばれます」(宮崎さん)
マテリアルリサイクルはケミカルリサイクルと比べ、熱可塑性樹脂しか対象にできない、低品質(バージン材に劣る)といったデメリットがある一方、新規設備投資が不要で価格に影響が少なく、CO2排出量が低いメリットがあると語ります。
そんなマテリアルリサイクルの例として、宮崎さんはエンバリオで製造されている、廃棄漁網をマテリアルリサイクルした「Akulon®️ RePurposed」を紹介しました。この材料は、サーフボード・メーカーStarboard社のサーフボードのフィンや、サムスン社のGalaxyシリーズの機構部品など、徐々に採用事例が増えているそうです。
プラスチックの再資源化で地域創生を目指すREMARE
次に、株式会社REMARE 代表取締役 / 元航海士&機関士 間瀬 雅介さんによるゲストセッションです。
間瀬さんは航海士と機関士として南極に向かう途中で、フィリピン海沖に浮かぶ大量の海洋プラスチックごみを目の当たりにしたのをきっかけに、新しい資源循環のかたちを創ろうとREMARE(リマーレ)を立ち上げたと語ります。
そんなREMAREで主に取り組んでいることのひとつには、焼却や埋め立て以外の処理方法が難しい、漁業ごみ(海洋プラスチック)をはじめとする難処理プラスチックの再資源化があります。回収した廃棄プラスチックをマテリアルリサイクルして内装用の化粧材やプロダクトに変換。それを社会に貯蔵しておき、必要なタイミングでエネルギー化することを目指しているのです。
そのためにREMAREでは、回収・洗浄・粉砕・成形・加工の全工程を一貫して行う自立分散型マテリアルリサイクルプラントを構築。自社開発した可変式加熱器と4,000超の成形データ(融点の違う素材の配合率や熱のかけ方、圧力の強さ、タイミングなど)を掛け合わせることで、難処理プラスチックの再資源化を可能にしているとのことです。
そうしてできあがった100%廃棄物を使用したマテリアルは、3×6サイズ(900mm×1800mm)の合板と同サイズのもの。使用済みの漁具をからつくられた「GYOG」や、包装材など日々の生活から生じた廃棄物からつくられた「Gomi」があり、原料となった廃棄物の色味が活かされた多彩な表情を持っているのが特徴です。また、木材と同じように加工することができるため、既存の切削加工機を使って、さまざまなプロダクトにアップサイクルすることが可能だそうです。
REMAREの主な取り組みのもうひとつは、本社を構える三重県鳥羽市を舞台にした地域資源循環事業です。人口の減少によって財源が減少するなかで、年間300万人を超える観光客からの収入は増加傾向にあるという同市。観光客が廃棄した一般ごみの焼却には多額の費用がかかり、財源を圧迫している課題があったと語ります。
そこで間瀬さんは地元のスーパーや行政を巻き込み、償却されるはずだったプラスチックを用いた住民参加型の外貨獲得産業を生み出そうと考えました。具体的には、住民が集めたプラスチックをREMAREが買い取って板材をつくり、それを地元企業が加工してプロダクトをつくり、おみやげやふるさと納税の返礼品として提供することで収入を得る仕組みです。
「日本には100万人以上訪れる市が792あります。47都道府県で4つずつこの事業モデルを展開したら、100億くらいのビジネスになると見ています」(間瀬さん)
なぜプラスチックのマテリアルリサイクルで“漁具”が注目されるのか?
ここからはゲストのおふたりとロフトワーク長島によるクロストークです。
長島:先ほどのセッションの中で、両社とも“漁具”のマテリアルリサイクルをされているとのことでしたが、そもそもなぜ漁具に着目されたんでしょうか。
間瀬:日本の海ごみの6割は漁業ごみだと言われています。漁具には海洋付着物がたくさんついているので、再資源化するのが難しいとされていて、これまで中国・タイ・ベトナムなどに輸出していました。しかし、2017年からそれらの国々で廃プラスチックの禁輸措置が始まり、廃棄費用は年々高騰しています。加えて、昨今は海水温上昇の影響で漁業従事者の収入が大幅に減少していることもあり、使われなくなった漁具はとりあえず海岸に保管されるようになっていて、それが台風で流れ出てしまうんですね。だからと言って、漁業従事者を責めてどうにかなる話ではない。それならば、サプライチェーンとバリューチェーンの組み合わせによって、僕らがどうにかこの課題を解決しようということで、漁具の再資源化に動き出したわけです。
宮崎:弊社はちょっとまた文脈が違っているのですが、弊社が取り扱っている素材は複合品が多くて、マテリアルリサイクルには向いていないんですね。けれども漁網であれば、あまり余計なものが入っていないし、環境のダメージを受けにくい。再利用するうえで好ましい素材だったということですね。
長島:なるほど。漁具って普段の生活のなかでは関係ないと思っていましたが、みんなお魚は食べますし、そういう現状があるというのは、心に留めておくべきだなと思いました。ちなみに禁輸措置以外にグローバルでプラスチック関連の法規制の動きはあるのでしょうか。
宮崎:2022年4月に日本でもプラスチック資源循環促進法が施行されていて、まだ何か罰則があるわけではないと思いますが、政府からの援助が積極的に入る状況になってきているという理解です。一方で、弊社の本社がある欧州ではもっと積極的な法改正提案が進んでいて、マテリアルリサイクルに関するもので言うと、興味深いものが2つあります。
ひとつ目は2024年5月に承認されたEUのエコデザイン規制の立法化です。簡単に言うと、EU圏内で生産・販売される製品は、設計段階からマテリアルリサイクルできることを前提にしなさいというものですね。違反すると罰則もあります。ふたつ目は、いわゆる廃車指令(使用済み自動車指令:ELV指令)の改正(案)です。新車に必要なプラスチックの25%以上を再生プラスチックにしなさい、しかもそのうち25%は廃車由来25%にしなさい、というものです。こちらはまだ正式に改正されたわけではありませんが、今後も継続してチェックしておく必要があると思っています。
クロストークでは会場からの質問も次々とあがり、プラスチックという素材に対するみなさんの関心の高さが窺えました。
「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜」の第3回は名古屋開催となります。どうぞお楽しみに!