EVENT Report

オープンな共創プロジェクトの進め方とは?
〜前編:良い関係性を築き上げるために〜

環境・社会課題はその大きさと複雑さゆえに、1社の取り組みだけでは解決が難しいものです。そのため、サステナビリティ推進のためには、他社との共創が求められます

GREEN×GLOBE Partnersでは、そのように組織を超えた共創プロジェクトに取り組む方に向け、具体的にロフトワークが行ったプロジェクトの事例を扱いながら、他社と共創するとはどういうことなのかについて理解を深める全2回のトークイベントを開催しました。

第1回目のテーマは、「共創プロジェクトのマインド」。株式会社MIMIGURIのデザインストラテジスト/リサーチャーである小田裕和さんと共に、ロフトワークのLayout Unit シニアディレクターの松本亮平が、共創プロジェクトには、どのような姿勢と意識で取り組めば良いのかについて、トークを行いました。

第2回のテーマは、「共創プロジェクトの具体的な進め方」。ロフトワークの松本亮平さんに加え、ILY,株式会社 代表取締役 辻原咲紀さんが、共創プロジェクトを推進していく過程で大事なことについて、トークを展開しました。

本レポートは、第1回目のトークのポイントをまとめた内容です。

執筆:銭 宇飛(ロフトワーク クリエイティブディレクター)

GREEN×GLOBE Partnersについて

GREEN×GLOBE Partnersは、環境・社会課題解決のためにSMBCグループが2020年7月に設立した事業者コミュニティです。『環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させる』ことを目的に、事業者に向けた情報発信や、仲間を見つけるための機会の創出など、事業者に向けた支援を行っています。コミュニティ内外の志をともにするパートナーをつなぎ、プロジェクトの組成と推進を支援することを通して、環境・社会課題解決に必要な活動や関係者が増えていくことを目指しています。

GREEN×GLOBE Partners:https://ggpartners.jp

共創パートナーとして、 プロジェクトの未来図を提案する

松本 まず、事例から説明します。以前、Layout Unitで鈴与株式会社(以下、鈴代)のオフィスをリニューアルするプロジェクトを実施しました。このプロジェクトでは、若手の採用施策を考えるところから始まり、オフィスの場づくりとして、働く環境を設計しました。プロジェクト内で、みんなでアイデアを出し合いシェアするなど、ボトムアップなプロセスを通じ環境設計を行いました。

このプロジェクトを通じ主に伝えたいことは、共創をはじめるために心地の良い関係を中長期的に築いていくことが大事ということです

ーーこのプロジェクトでボトムアップのプロセスを上手く進めることができた要因はなんでしょうか?

松本 このプロジェクトで良かったのは、社長自らが、最初から少し体制を見直し、誰を巻き込むとプロジェクトが面白くなりそうかということを俯瞰的に考えていた点です。共創プロジェクトはボトムアップ型とよく言われるのですが、実際のところ、プロジェクトリーダーとなる人の目利き力が無いと、ボトムアップの体制が上手く機能していきません。こっちばかりが「一緒にやりましょう」というのではなく、「あなたに入ってほしい」というトップの味方も居ないと難しい入り口になってしまいます。

ーートップとも目線を揃えることが大事ということですね。共創のメンバー同士の目線を合わせることについてはどのように考えていますか?

小田 この人と組むと面白いプロジェクトになりそう、という人がプロジェクトリーダーになることは多いと思います。しかし、いざプロジェクトが始まり、そのリーダーの面白さへの期待ばかりが高まると、きっと良い方向性を示してくれるはず、と受身な人が出てきてしまうことも多いのかなと。お互いに「どういったものを作っていきたいんだろう」と共に考えるプロセスがすごく大事だと思います。しかし、意外とそこをじれったく感じてしまう方々が多いです。

松本 そうですね。まさに、建築関連のプロジェクトのコンペでは、近い状況がになりがちかなと思っています。通常、建築関連のコンペでは、最初にプロジェクト全体のゴールのイメージとなる絵を提出します。そしてプロジェクトの実施が決定した後に、詳細な企画を設計していくことが多いです。しかし、ロフトワークではまず抽象度は高くとも「こういうことを大事にする場所が必要ですよね」というような、未来図やコンセプトを提案し、最終的な表現は一緒に築いていくということを理解してもらうようにしています。コンペの時点では、仕上がった内容をプレゼンするというよりは、共創パートナーとして一緒にプロジェクトを進める姿を想像してもらい、楽しそうだなと思ってもらい、プロジェクトをスタートすることが多いかなと考えています。

依頼されたものを作るだけの関係ではなく、 一緒に考える関係性づくりから始める

ーーしかし事業者の視点からすると、知らない方と一緒にプロジェクトをやることは、そもそもリスクである上、アウトプットを一覧して比較できるコンペが安心と思ってしまいます。そこはどのように考えていますか?

松本 その通りです。僕らも常にどう上流から参画できるかを考えて動いています。例えば、もし自分が事業者としてコンペを開くのであれば、評価軸を増やしたいなと思っています。アウトプットはもちろん実績で担保する一方で、プロジェクトにおけるプロセスのアプローチは多種多様です。プロジェクトを進めていくプロセスでは、こういうことを一緒に実験できそう、みたいなところも見てもらえたら、単純なアウトプットだけの比較だけではない評価をしてもらえるのではないかと考えています。

ーー小田さんの場合はどうでしょうか?

小田 僕らもコンペで上手くいくときは、大体の場合、相手の中に無かった評価軸をこちらから上手く提案できたときです。こんな視点もあるよとか、こういうところも大事だねというところに気づいてもらえたときは、納得してもらえます。そのために、最初のヒアリングの段階では、コンペの要件を問い直しに行くことをひたすらにやります。このプロジェクトは、本当はどんなことを大切にしたいのか、様々な仮説を立てながら考え、コンペの提案の中にきちんとその軸を載せていくことを意識しています。

ーー先ずは”どのようなことを大切にするか”を問う姿勢そのものが、共創プロジェクトにおける第一歩なのかもしれませんね。

松本 そうですね。だからこそ、問いかける力や、どのような問いを立てるかが共創プロジェクトでは大事な評価軸だと考えています。

小田 おそらく鈴与さんと作ったリアルな場の中でも、色々な関係性が築いていたと思いますが、共創プロジェクトでは、そもそもそういったことを「一緒に考えられる関係性を作る」ところから始めなければならないですね。

プロジェクトをオープンにして、 関係性をフラットにする

ーー共創プロジェクトを行う関係づくりのために、松本さんが大事にしていることはありますか?

松本 プロジェクトでは情報や関係性ををオープンにすることより生産性を優先してしまい、閉じがちなところが特性としてはあります。しかし、そこを敢えて関係をオープンにしていくことをいつも心がけています。

具体的には、そこに行けば、プロジェクトの状態と何を議論しているかに触れることができるようなプロジェクトのベースキャンプを作ったりしています。プロジェクトのメンバーではない人たちも片足を突っ込めるというか、覗き込めるような場所に展開することが多いです。

小田 社内のコミュニケーションも同じだな、と聞いてて感じました。悩みをオープンにできる関係性を作っていくことはすごく大事だと思います。

松本 プロジェクトのベースキャンプの部屋では、全部フラットに扱われるというルールをつくることで空間づくりからアプローチしています。社員として、肩書きではなく、これから場を利用するいちユーザーの声として、シンプルに参考にするくらいの前提があるからこそ、聞きやすいのかもしれません。

ーーいきなりマインドを変えろというのは難しい。だから「ここに来たら、とりあえずみんなフラットだよ」というルールを設けることで、少しずつジャンプしていくことが望ましいのでしょうか?

松本 はい。そういったセーフティゾーンとなるルールは社内で作っても良いし、外から来た人が設けても良い。それはどちらでも良いと思います。セーフティゾーンとしての場所がここにできたということ自体が、心理的安全性を高められる仕掛けなのかもしれません。

ーー心理的安全性を保つことが、まず第一歩だということですか?

小田 そうですね。少し言いにくいことでもきちんと言い合えるような、関係性になるということですね。

松本 馴れ合いというよりは、利用者同士が対等な関係であることが大切だと思います。

問いを起点として、 学びと創造を積み重ねる

小田 「アイデアを一緒に考える活動」を共創だと思っている方が非常に多いと思いますが、僕らMIMIGURIでは「ある対象に対して、どのような眼差しを向けるのか」を重視しています。

ーー”眼差し”とはどういうことでしょうか?

小田 社会の価値観の変化が、多様化、加速化している中で、社会は何に良さを感じているかを一生懸命調査して定めていったとしても、何を良いとするかという社会の価値観自体が、いつのまにか変わってしまうということが起きます。そのため、「常に何を良いとするかを、自分たちの内側から探しに行く」という姿勢が求められています。

そして、その姿勢と向き合う上で、大切なのが何を良いとするのかを考える「問い」です。「問い」をきちんと掲げ、一緒に探究し続けられる関係をいかに築き、良さに関する学びと創造を積み重ねることが、共創活動においては重要です。

ーープロジェクトのメンバー内では、お互いにこれまで守ってきたルールや、価値観が異なる可能性がある状況で「良さの基準」を探索することが難しいこともあるかと思います。

小田 そうですね、しかし価値観の違いがある方が探求は面白いです。価値観が違うということは、そこにそれぞれの考えのギャップがあるわけです。そのギャップがあることで、お互いに学習できる余地が生まれます。そこが重要で、共創する中でも、こういうものを大事にしてお互い学び合える関係性のプロジェクトは、大体上手くいく気がしています。

ーー異なる立場や価値観の者同士がその違いを学び合うためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか?

小田 会話・対話・議論をする上で、「結局、何を目指すか」の前提にある葛藤やお互いの考え方の違いを相互に理解していくことは大切です。社会が多様化している環境の中で、議論の横幅が広くなければ、質の高い内容にはならないと考えています。その価値観、相互理解を深めることが対話ですが、対話ができる関係性を、きちんと会話の中で作っていくことができるかが大事です。対話は違いから始めなければならない、「その違いが面白い」や「分かり合えないことが楽しい」という関係性を築くことが必要があります。

最後に

ーー今日のトークのなかでは、「共創のマインドとしての安全性」という話も出てきました。。プロジェクトを進める上で、余白を残すより、ある程度のルールを決めた方が安心できるという場合もあると思います。では、どうしたら余白があっても大丈夫というところに自分の気持ちを置けるのでしょうか?

松本 プロジェクト内に二段階あると安心すると思っています。プロジェクトの最初は何かしらの旗振り役が、プロジェクトに入ったばかりで不安な人たちに対して、こことここでは自由に行き来しましょうと引っ張ってくれます。そして徐々慣れてくれば、その人たちがまた回す側になるなどという段階は必要です。

ーーいきなり参加側から回す側に行くことはできるのでしょうか?

松本 回す習慣づくりというか、何を良いとするものかを考えた上で、それを実現するためのアイデアという行き来を段階的に行う練習は必要です。

小田 自分の視点からは、いま出している解答が、常に、暫定的なものであるということを共有することを心がけています。一度決めたら、もう決定を戻すことができないわけではないという共通認識が重要です。また、不可逆な結論ではなく、問い直し可能な前提を積み重ねている部分に着目するということですね。できあがったものを評価するだけではなく、活動の中で、何を学び得たのかということを評価していくことも大事です。会社の評価制度では、そういった未来につながる学びも、評価できるような仕組みにしていくことも重要になっていきますね。

松本 そうですね。いきなり売上を上げるというミッションをこなすのは、なかなか難しい。しかし、もう少しブランディングの側面や、中長期で、今すぐに売上にはつながらないが、社内の評価としてプレゼンスやリーダーシップとして認められるということと紐づけることができれば、本業の傍らといった形などでも、共創プロジェクトに挑戦する人が増えていくのではないかとと思います。

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