鈴与株式会社 PROJECT

空間から働く人の⾏動や思考を変える
鈴与本社リニューアル

Outline

そこで働く人の⾏動や思考さえも変えるための居場所と居心地のデザイン

2019年10月、鈴与株式会社はリニューアルした本社5階講堂スペース(CODO)にてプレス発表会を開催しました。

ロフトワークは、鈴与株式会社との共同プロジェクトとして2018年5月より、オフィス改革プロジェクトに取り組み、本社5階の講堂空間リニューアルと別館オフィス新築計画を実施。

安心して挑戦できる本拠地「HOME GROUND」をグランドコンセプトに、働く環境を⼤胆に変え、働く人の⾏動や思考さえも変える、社員が誇りに思えるオフィス空間を目指しました。プロジェクトの概要と共に、空間デザインに凝らした様々な工夫や、家具やカーテン、サインデザインをご紹介します。

  • プロジェクト期間
    ・ オフィスリニューアル:2018年5月-2019年9月(16カ月)
  • 体制
    ・クライアント:鈴与株式会社
    ・プロデュース:松井 創 高橋 卓
    ・プロジェクトマネジメント:高橋 卓
    ・クリエイティブディレクション:
     コンセプト策定:高橋 卓 松本 亮平 岩倉 慧
     空間デザイン:高橋 卓 宮本 明里
     空間実装:高橋 卓 宮本 明里 河合 美咲
    ・建築監修 / 内装設計 / 家具設計:後藤周平建築設計事務所
    ・木材コーディネーション / 家具製作 / 家具製作ディレクション:飛騨の森でクマは踊る 岩岡 孝太郎
    ・カーテンデザイン:Studio Akane Moriyama
    ・サインデザイン:hokkyok
    ・写真撮影:長谷川 健太、藤本 一貴

Outputs

新しい発想が生まれるための余白をデザインする

コンセプトともに策定したキーワードを講堂と別館オフィスの2つの空間に落とし込んでいきました。

①豊かな表情|これまでとこれからの鈴与の顔
②集中と発散|働くスタイルに合った居場所が見つかる
③安⼼感|地域と働く人に安⼼と安全を提供
④時代への応答|社会の変化に応じたアップデートを想定
⑤可変性可動性|ひとりで動かして変えられる手軽さ
⑥寛容さ|実験してもいい。「やってみたい」が実現できる空間

CODO:ワンスペースに居心地のグラデーションをつくる

大講堂と中講堂としてパーティションで仕切られていた講堂は、社内外の式典や多人数の会議を行うための会場として月4回程、それ以外ではお昼休憩の食事スペースとして利用されてきました。様々な使い方をマルチに受け入れる、グランドコンセプト「HOME GROUND」を体現するために注目したのは居心地とグラデーションでした。

リニューアルまえの大講堂と中講堂

デスクワーク、ランチ、休憩、ミーティング、式典、講演会、プレゼンテーション、様々な使い方をマルチに受け入れる可能な、鈴与で働く社員のための「いつもの居場所」。

ランダムに積み重ねた段差は、人が歩くと床や階段、パソコンを開くと机、座ればベンチ、アイデア次第で様々な使い方ができます。「段差」という家具と建築のどちらでもない余白が、オフィス空間に新しい風景を描き、働くヒトの行動に変化を促します。

集中と発散|働くスタイルに合った居場所が見つかる

高低差:人の気配を感じつつも居心地のよい距離感を生む

壁がなく天井が高い既存の空間は、社員が日常的に使うにはガランとして落ち着きがありません。居心地が良く、多機能。一見矛盾する2つの課題を、段差の積み上げで解決を試みました。段差が生む高低差は、近くにいてもお互いが気にならない距離感を生み出し、遠くに人の存在も感じます。大空間に散りばめた様々な居場所を高低差がゆるやかに繋ぐことで、集中⼒やそのときの気分に合わせて自由に居場所を選ぶことができます。

素材:居心地の多様さを手触りで伝える

さらに段差での過ごし方を自然に促す仕掛けとして、素材からもアプローチしています。普段人が行き来する一番低い床はタフなコンクリート素材、段差の床は広葉樹フローリングを採用。一部の段差ではカーペット素材で、下足から上足に切り替わるタイミングを暗示しています。その先は畳素材の座れる場所を設え、段差を登りきった先の床はルーバーにしたことで浮遊感を演出したブリッジがあります。低いところから高いところへ、集中からリラックスへ、居心地のグラデーションを手触りと素材でデザインしています。

カーテン:気分に美しく呼応する

カーテンもオリジナルにデザインしました。低いところはアクティブに気分を高揚させる暖色を、段差を登るにつれて集中できるようにクールな寒色、段差の高低に対応したグラデーションになっています。遮光カーテン+オーガンジーのレースカーテンを重ね、太陽光を調整できるだけでなく、より美しくグラデーションを魅せています。朝焼け〜夕暮れの空色の移ろいも表現され、カーテンを締め切った場合でも太陽の光のなかにいるような心理的な開放感があります。

キッチンカウンター

簡単な飲食ができるキッチンカウンター。イベント時はケータリングを並べるテーブルに。

ロングカウンター

窓際の27mに及ぶロングカウンターは、樹種による色の違いを丁寧に組み合わせることでグラデーションを表現しました。

安⼼感|地域と働く人に安⼼と安全を提供

機能:段差の形状と特徴を最大限に活かす

座ればベンチ、囲めばテーブルという具合に、段差の形状を生かした仕掛けを空間のそこかしこに仕込んでいます。張り出した段差下のテーブル収納、防音性能のあるフォンブース、折りたたみ椅子や下足をしまう引き出しも用意しています。沿岸部という立地から、地域の災害避難拠点としての機能も想定し、避難場所を清潔に保つ上足エリアに加え、床下に災害用品の備蓄も可能です。

寛容さ|実験してもいい。「やってみたい」が実現できる空間

ステージ:大規模イベントも小規模な社内プレゼンも

イベント時にはステージとして使うことができる3つの段差を用意。他の段差との組み合わせ次第で、会場のレイアウトは格段に自由になります。3つの段差は高さがそれぞれ異なり、登壇者と客席の距離感によって選択できます。

可変性可動性|ひとりで動かして変えられる手軽さ

家具:動かすことも組み合わせも自由自在

オリジナル家具にも空間のコンセプトが反映されています。限られたスペースを有効活用するために、家具は可動で重ねたり分割することもできます。組み合わせによって何通りにもマルチに使えるようにもデザインしました。

豊かな表情|これまでとこれからの鈴与の顔

サイン:機能と共にアイデンティティも表現する

空間に馴染みつつ社員が誇りをもてるようなサイン計画を行いました。空間のコンセプトから引き継いだグラデーションを色で表現しました。床のラインは、イベント時に椅子を並べる際のガイドになるだけでなく、通常時のテーブル配置への現状回復を容易にします。

エントランスに掲げた帆のモニュメントは、創業200余年の廻船問屋から生業がはじまった鈴与の歴史を伝えます。追い風を受けた帆の膨らみは、鈴与の新たな門出を表現しています。

別館:これからの鈴与をつくるために働き方を実験する

時代への応答|社会の変化に応じたアップデートを想定

ヒトをつなぐ

別館は、これからの鈴与での働き方を実験するためのオフィスです。これまでの個人スペース中心から、シェアスペースへとシフト。部屋と廊下の区別を無くし、奥や行き止まりのないワンルームを用意しました。中心にあらゆるオフィス機能を集中させることで、働く社員がモノやコトをシェアする機会が増えるようにデザインしています。

ライフとワークをつなぐ

始業前の気分転換や終業後の活動など、ライフとワークをゆるやかに繋げるための場所を用意しました。フロアの周囲に人のたまりをレイアウト。社員の活動や賑わいが建物の外からよく見えるようになります。またフロアの中心にある共有スペースは、エントランスから訪れる来客カウンターとしても機能します。

1Fマルチエリア

フロアの中心に共有スペース、フロアの四隅にそれぞれ設えの異なるミーティングスペースを計画。空間とも家具ともつかない箱によって、収納だけでなく、ベンチ、ハイカウンター、大テーブルなど、使い手が積極的に工夫できるような余白をデザインしています。

2F3Fオフィスエリア

1Fと同様にフロア中心を共有スペースとし、外周を収納キャビネットで囲むように配置。コモンとパーソナルを明確にゾーニングし、その間を満たすように、部署/役職/動線/人数を制限しないフラットなデスクレイアウトを実現しています。

集中⼒や気分に合わせて選べるようにイスの素材や形にバリエーションをもたせています。買い足し/買い増しがしやすいようにあらかじめバラツキをもたせた選定です。また前扉のないキャビネットを採用することで、しまったままで埋もれてしまう書類を無くす工夫も。既製品キャビネットにオリジナルで製作した個人ロッカーを組み込んだ、既製品の拡張も試みています。

外壁ロゴ

鈴与の新しいチャレンジを表現するために、外壁ロゴをあえてモノトーンとすることを提案しました。見慣れている地元企業のロゴだからこそ、カラーを変える単純な操作でも生み出せるインパクトがあります。また建築デザインとの調和、清水港の景観にも一役買っています。実験精神を表現するための提案を受け入れてくれたクライアントの懐の深さを感じる試みです。

Member

松井 創

株式会社ロフトワーク
Layout CLO(Chief Layout Officer)

Profile

高橋 卓

高橋 卓

株式会社ロフトワーク
Layout Unit ディレクター

松本 亮平

松本 亮平

株式会社ロフトワーク
Layout Unit シニアディレクター

岩倉 慧

株式会社ロフトワーク
バイスFabCafe Tokyoマネージャー

Profile

宮本 明里

株式会社ロフトワーク
Layout シニアディレクター

Profile

河合 美咲

株式会社ロフトワーク
Layout ディレクター

Profile

岩岡 孝太郎

FabCafe LLP / 株式会社飛騨の森でクマは踊る
FabCafe創設メンバー、ヒダクマ代表取締役社長 兼CEO

Profile

後藤 周平

後藤 周平

後藤周平建築設計事務所

藤井 北斗

藤井 北斗

Hokkyok

森山 茜

森山 茜

Studio Akane Moriyama

メンバーズボイス

“エントランスやロビーなどのお客さまの目に付く場所をデザインするのではなく、本社ビルの最上階(社屋のもっとも奥にある場所)を社員が毎日使える場所にすることからスタートしたオフィスリニューアル。鈴木健一郎社長の考える「もっとも大切にしている企業価値=社員」を体現したプロジェクトだということを、依頼されたときにひしひしと感じたことを覚えています。

我々は「どんな働き方がしたいか」よりも「その場が個人や組織にとってどのような意味を持つべきか」ということを、社長のもつ企業ビジョンのもとに未来逆算的に仮説をつくり、プロジェクトをデザインしました。

ワークショップやアンケートなど、空間をつくりあげるプロセスに社員を巻き込みながら、社長のビジョンが浸透するように進めることで、まさに鈴与のみなさんがつくりあげた空間となりました。

また社員にとって身近な場所からプロジェクトを行うことで、現在と未来のどちらにも通じる企業価値づくりに貢献することもできました。鈴与のすべての社員が誇りをもって、安心して挑戦できるホームグラウンドをつくることができたと確信しています。”

株式会社ロフトワーク Layout Unit 高橋 卓

“本社最上階にある講堂の改装と、隣接して新築された別館の内装について、それぞれ同時に設計しました。講堂と別館の各フロアで少しずつ用途は異なりますが、共通して中央の共有スペースに、形状を変えながら積み重なったドーナツ状のボックスを配置しました。これらは別館では主にカウンターや収納など、フロアにおいて少し大きめな共有家具として機能します。本社講堂では大きく引き伸ばされ、ひとつひとつが少し小さめの段状のフロアとして機能しています。どちらも家具としては大きく、建築としては小さいスケールで、家具や建築のどちらとも言えるしどちらとも言えない、中間くらいの存在となるように設計しました。

この独特なスケール感によって、ベンチになったりカウンターになったり床になったりと、視点によって見え方も機能も揺れ動くような状態が生まれました。固定化されたオフィスのための機能がただそこにあるのではなく、使い方も定義も自由に更新していけるような余白として機能します。この少し変わった大きなドーナツと小さなドーナツが、オフィスの日常に新しい風景と働き方をもたらすことを期待しています。

通常はクライアントの要望を手掛かりに設計が始まります。ロフトワークによるサーベイやワークショップは、クライアントの要望が生まれるかなり前の源流にまで遡り、プロジェクトの前提条件をデザインするためにとても有効なものでした。その結果、複雑な与件がクリアになり確信を持って設計を進めることができました。”

後藤周平建築設計事務所 後藤 周平

“「こう見えて、木を一枚ずつ選んでます」ヒダクマとしては過去最大規模のコラボレーションでした。完成した空間を眺めると、主張しすぎず、バランスが取れ、見事に「木がワークプレイスのベース(基礎)」としての大役を果たしたと感じます。空間規模こそ最大でしたが、木の最小単位へのこだわりは変わらぬものでした。特に窓沿いに設置された約27mの長さのグラデーションカウンターは、森山さんのカーテンの色の変化と呼応する様に、樹種の選定から木の板一枚ごとの仕上り表情を見定めて配置決めをしました。この変態的なプロセスを共にした設計者の後藤さんやLayoutチームメンバー(もちろん飛騨の職人さん達)に感謝しつつ、小さなこだわりの総体として、最大規模の空間の基礎を作り上げられたことが嬉しいです。”

飛騨の森でクマは踊る 代表取締役社長 岩岡 孝太郎

“サイン計画の肝となったのは、シンボルサインの「常に追い風を受ける帆」でした。このオフィスは、江戸時代に海運業から始まった鈴与にとって、長い歴史における次の時代への新しい船出となります。この場所を訪れた人には、これまでの伝統とこれからの未来への推進力を感じてもらえたら嬉しいです。

今回ほど自分だけではできなかったと感じた仕事はありませんでした。「帆」を作りましょうと言うのは簡単ですが、こうしたアートワークに近いデザインを実現するのは難しいのが常です。提案を快く受け取ってくださった鈴与さん、実現への筋道をつくってくださったロフトワークさん、そして、難易度の高い造形制作に尽力してくださったniumaさん、ジェネレーションXさんにこの場を借りて心より感謝致します。”

Hokkyok 藤井 北斗

“この空間のカーテンは、薄いオーガンジー布と遮光性のある布の二重でできており、フロア全体を天井約5mの高さから、ぐるっと囲っています。カーテンを広げてみると、100m以上にわたる淡いグラデーションになっており、場所ごとに色温度が異なります。

例えば、西側は夕焼けに同化するように朱色〜黄色、東側は夜明け前の空のような青緑色に色が変化しています。場所ごとの背景色が微妙に異なるので、それぞれの空間にいるときは大きなグラデーションの変化の中にいることに気づきません。しかし、ふと全体の空間を見渡していると実は色が繋がっていて、時間や空間の流れのようなものが色の変化を通して眺められるようになっています。それぞれの空間と全体を、色という次元を通して繋げられたら、と思い制作しました。”

Studio Akane Moriyama 森山 茜

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