ロフトワークの株主総会が行われた12月5日(土)夜、日頃お世話になっている方々をFabCafeにお招きして、少し早めのクリスマスパーティを開催しました。

パーティの冒頭では、ロフトワークの株主でもある北野宏明氏(ソニーCSL代表取締役社長)と伊藤穰一氏(MITメディアラボ所長)が登壇し、ロフトワーク代表の諏訪光洋と林千晶のそれぞれとトークセッションを実施。ロフトワークを設立当初から知る2人が語った、これまでの15年と未来を見据えたトークの模様をお伝えします。

テキスト=小林英治
編集=原口さとみ

Session1:「これまでの15年、これからの15年」北野宏明×諏訪光洋

PINOからPepperまでの15年

諏訪 ロフトワークを設立して今年で15年が経ちましたが、今日は株主でもある北野さんと、2000年から現在までの15年とこれからの15年について、話をしてみたいです。北野さんは肩書きがたくさんありますが、何とご紹介したら良いでしょうか?

北野 ソニーCSLの所長を務めつつ、それとは別にシステムバイオロジーの研究所を運営していて、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の教授もやっています。

諏訪 北野さんは未来を見通すとてもビジョナリーな方ですが、出会った頃の15年前には既にオープンソースのロボット「PINO」を作っていましたよね。

北野 PINOは二足歩行のヒューマノイドロボットです。当時、学会などではそこそこ動くロボットはあったんですが、論文を読んでも情報がほとんど公開されていないので「けしからん!」と思って、秋葉原で買える部品と東急ハンズの工作精度で誰でも作れることをコンセプトにしました。それで図面を全部公開したら世界中からダウンロードされまして、その時にPINOの部品を売る会社を作りました。その会社の最初の売上って、何だったと思います?

諏訪 うーん、何でしょう。

北野 2000年の年末に東芝EMIから連絡があって、「PINOをプロモーションビデオに使いたい」って連絡があったんですよ。

諏訪 ああ! 憶えています。

北野 そう。あのPVでのフィーが最初なんですよ。

諏訪 それから15年経って、今年はロフトワークにもいる「Pepper」が発売されました。ここまで15年かかったのは北野さんからすると順当ですか?

北野 Pepperを作ったアルデバランという会社は、もともとSONYがやっていたAIBOリーグのフランスチームのエンジニアたちが作った会社で、Pepperの前に「Nao」というヒューマノイドを作ってるんです。だから、全部で15年ですけど、Pepperだけだったらそこまでかかってないと思いますね。

ロボカップはオープンイノベーションの競争

諏訪 北野さんは、ロボカップの提唱者でもあるわけですが、アイデアが生まれたのはいつ頃ですか?

北野 第一回目の開催は1997年ですが、構想は1993年くらいですね。ロボカップは「2050年までに、FIFA World Cupのチャンピオンチームに勝利する完全自律型ヒューマノイドロボットのチームを開発する」ことを目標にしました。ロボカップのルールとFIFAのルールにはいろいろ違いがあって、その対照表があるんですけど、毎年その差分を減らしていって何年か後にはFIFAと完全に同じルールになる予定です。

諏訪 それはつまり、最初からロボットの進化がデザインされていたということですよね。

北野 ロボカップはつまり「オープンイノベーションの競争」なんです。毎年世界大会が終わった翌日に中身を全部公開するので、勝つためにそれ以上のものを作らないといけない。

最初は真面目な研究者から「研究費を使ってサッカーするロボットを開発するのか」といった批判もあったんですけど、ロボカップでのオープンソースから倉庫を自動的にマネージメントする荷物の管理システムが開発されて、アマゾンに7億7,500万ドルで買収されたんです。買収されたキバ・システムは、いま米国アマゾンの倉庫管理をすべてまかなっています。それから誰も文句は言わなくなって、今ではロボカップから次にどういうスピンアウトが出てくるかと多くの人が期待しています。

諏訪 ロボットの開発と北野さんが研究されているシステムバイオロジーはどう繋がっているんですか?

北野 人工知能の研究などをずっとやってきて、知能が進化の副産物であることに気がついたんです。ということは、生命自体をよく知らないと人工知能の革命は起きないと思って、生物学を勉強することにしたんですけど、従来の還元主義的な遺伝子やたんぱく質中心の研究から、システム志向へのコンセプト転換の必要性を感じました。そこで、新しい研究分野を作らないといけないと思って、1995年くらいからシステムバイオロジーについて言及し始めました。

諏訪 僕も最近ようやくわかってきたんですけど、15年前に北野さんから「システムバイオロジーに取り組んでいて」って言われた時は、正直この人は何を言ってるんだろう?と思っていました(笑)。

北野 あの頃は、理解してくれる人はほとんどいなかったですからね。

テクノロジーの進化に振り回されないためにやるべきこと

諏訪 ロフトワークは何をやっている会社なのか、ってよく言われるんですけど、設立時から一貫して目指しているのは、クリエイターや面白い人やコトを社会とつなげて、クリエイティブの力で新しい価値を作ることです。一番最初の仕事は、たくさんのクリエイターたちと年賀状を作ることでした。これは今でも継続して毎年やっています。

北野 15年前に、最初にJoi(伊藤穰一氏)のところに行く時は、まだ会社も駒場のアパートの一室だったよね。

諏訪 そこからスタートして、2015年の今、ロフトワークはいろいろな企業や行政、大学などと一緒に仕事をさせていただいています。イノベーションに取り組むプロジェクトがすごく増えているんですが、混沌としている社会の中で求められているものって何なんだろうって思うんですね。

例えば15年後の2030年はどうなっているのか。僕らはテクノロジーの進化や新しい出来事と一緒に走ることしかできないかもしれないけれど、北野さんはその先が見えているのかもしれないなと思っていて。ちょっと未来のことを聞いてもいいですか?

北野 うーん、どうでしょう。僕も見えてないんじゃないですかね。ただ、技術の進化という話でいえば、僕らの想像以上のことが起きるんですよ。確かにそれに対応しなければいけないけれど、それだけだと振り回されてしまうから、やっぱり自分で仕掛けて作っていくものがあるといいですよね。そこは自分である程度コントロールできるわけだから、新しいことをどう取り込むか、あるいは取り込まないかっていう風に考えていけるし、サプライズがあったとしてもいい方向に修正すればいい。

諏訪 北野さんにとってはその軸になっているのがシステムバイオロジーなんでしょうね。

北野 今は「これはこうした方がいい」と単一の価値観で行動するのはもう難しくて、もっと全体のエコロジーとか複雑なダイナミクスというものを見なければいけない時代です。トラディショナルな考え方のままやっていると相当痛いしっぺ返しに合うから、日本の大企業は、それこそロフトワークみたいな会社と組まないと生き残れないんじゃないでしょうか。だから、ロフトワークの役割はこれからますます重要になっていくと思いますよ。

Session2:「喜怒哀楽と楽しみな未来」伊藤穰一×林千晶

現在MITメディアラボ所長を務めるJoiこと伊藤穰一氏は、15年前、会社設立から間もない頃のロフトワークに投資を決めてくれたエンジェル投資家のひとりであり、クリエイティブの力で新しい価値を生み出そうとしてきたロフトワークの15年を語る上で欠かせない人物です。
そんなJoiに、普段メディアでは質問されないようなテーマを代表 林がぶつけてみました。

好きなことで自分のテイストを磨く

林 Joiはいつもはビジネス文脈で未来について聞かれていると思うので、今日はちょっと違う角度から……ということで「喜怒哀楽」を切り口に質問してみようと思います。

Joi はい、どうぞ。

林 まず最初は「喜」。嬉しかったことで振り返って思い出すことは何ですか?

Joi 僕は来年50歳になるんだけど、昔嬉しかったことと今嬉しいことは全然違うんだよね。昔は、例えば自分が得した時に嬉しかったりしたんだけど、そういうのはだんだんなくなってきて、今は自分の周りで面白いことが起こったり、世の中で繋がっていなかったものが繋がったり、究明されていなかったものが発見されたりすることが一番嬉しい。

林 ロフトワークって、嬉しい、楽しいっていうことしか仕事にしないんだけど、それってなかなかビジネスシーンで理解を得るのが難しいの。そういう時、Joiなら何て言うかな?って考えて、Joiが「やってみなよ」って言うだろうなと思える時はやるようにしています。

Joi お金を儲けるために会社を経営するっていうのはもう古いと思うんだよね。やっぱり良い人材を集め続けるには、お金儲けじゃなくて楽しいことをするべきであって、潰れさえしなければどんどん好き勝手やったほうがいいよ。好きなことをやっていると自分たちの美学とかテイストが磨かれてきて、それが必然的にお金にも繋がるようになるから。

だけどお金目当てにやっちゃうとテイストがないものまで手を出してしまうから、どんどんダサくなるよね。そうすると人もお客も離れてしまう。長持ちさせるには、分かりやすい文化とそれに合った人たちを集めて大事にすることがすごく重要。

硬いものに体当りしても痛いのは自分

林 では次の質問は「怒」。あんまりJoiが怒ったことって見たことないんだけど、MITメディアラボの所長になった頃に、ある教授を個別に呼び出して注意して、「久しぶりに怒っちゃった」って言ってたのを憶えてる。怒っているJoiを見たのはそれくらいかも。

Joi うーん、僕は憶えてないな(笑)。たぶんそれはさっきの喜びの逆で、僕は庭師みたいな感じでメディアラボの環境を作ろうとしていて、そこに全体のバランスを崩すような人や石ころみたいなもの(こと)があれば怒る。というよりも、美学に反してイラッとするっていうことはあるかな。

林 Joiは人に怒りをぶつけないよね。「俺は怒ってるんだ!」っていうコミュニケーションの仕方はあまり見たことがないけど、怒っている時はどう伝えるの?

Joi 本当に怒るっていうのは、自分に怒る時だよね。何か腹が立つものがあるとして、硬いものに体当りしても痛いのは自分だから。例えばメディアラボの教授たちは一人ずつ違うアルゴリズムでゲームをやってるようなものだから、正面から怒ったって効果がないんだけど、彼らのアルゴリズムを理解しちゃえば、その方向を変えるために環境を解決するそれぞれのプロセスがわかる。

それよりも腹が立つのは、個人的なことで、自分の性格の見苦しいところが出ちゃった時かな。例えば、欲とか、カッコつけるとか、今の発言は自分があまり嬉しくない理由で言っちゃったなとかね。っていう言葉もちょっとカッコつけだよね(笑)。

林 何かを言ったり書いたりする時って、カッコよく思われるからじゃなくて、自分が思っていることを少しでも共有できたらいいと思って表現することが多いですよね。

Joi 会話っていうのは相手ありきで、誰かと一緒に一つの考えを作っていくわけだよね。本当にコミュニケーションする時は、自分が何を言いたいかというよりも、相手が言ったことにどう反応して、それが何なのかということを考えなきゃいけない。その時自分の脳の中には、美学を追求する自分もいれば、お腹が空いている自分、スケベな自分、いろんなのがいて、言った後に変な自分が喜んだりすることもある。そういう時はこれは間違いだなって自分にイラッとするよね。

いつ全部無くなっても平気でいることを作る

林 では、次は「哀」。Joiにとって悲しいことって何だろう?

Joi 年を取ってきたり、あと北野さんが取り組んでいるバイオロジーや自然科学を勉強すると、悲しいものがずいぶん変わってくるんだよ。例えば進化論でいうと、弱いものが死なないと進化できないわけ。やっぱり死って結構重要で、今は永久に生きる人間を研究している人たちがいるけれど、その人たちと話しているとちょっと気持ちが悪いんだよ。死っていうのは自然なことであって、だから自然にだんだん近づいてくと、普段悲しいものってあまり悲しくなくなってきて、どちらかというと、もっとくだらないことで悲しくなる。自分に合わないことを言ってしまったとか、期待して食べてみたらおいしくなかったとか(笑)。

林 やっぱり時間は流れるから、今Joiが言ったように自然と言えば自然なんだけど、二度と戻れなかったり役割が変わってしまうことは、悲しくはなくても、切なくなることはない?

Joi これはちょっと仏教的な考えかもしれないけど、アタッチメント、つまり何かにしがみついてしまう自分って弱くて、何かが無くなってちょっと悲しい気持ちが出てきたら、それそのものがよくない。いつ全部無くなっても平気でいることを作らなくちゃいけない。もちろん愛している人がいなくなったら悲しいし、それは自然なことだと思うけどね。

面白い人とだけコミュニケーションできるのが一番の贅沢

林 では最後に「楽」。楽しいこと、楽しみにしている未来を聞いて、今日は終わりたいと思います。

Joi とにかく僕の一番の欲は学びたいこと、好奇心であって、それに一番大事なのはパッション。そうすると、常にエネルギーとアイデアを与えてくれる人に囲まれていたいというのが一番の僕の欲で、その環境は毎年どんどん良くなっていってるんだよね。だから自分の幸せの度合いが上がっていると思う。面白い人とだけコミュニケーションできるっていうのが一番の贅沢で、それってインターネットやみんなのネットワーキングのおかげ。

お金儲けのためじゃなくて自分の自由とかクリエイティビティのために生きる人って面白いことやってるから、ニューヨークとかベルリンでもすぐ見つかるし、そういう人は比較的優秀な人が多い。東京にこんなにたくさん人がいる中で、みんなそれぞれにとっての99.9%の人はきっとつまらなくて「ちょっと違うな」って思っちゃう人。でもその中で面白い人たちがすぐに見つかって、コミュニケーションを取れるようなカルチャーが日本にもできるといいよね。そういう意味で、ロフトワークがやってることが仕事になって15年間成長し続けているってことは、すごいことなんじゃないかな。

A “PLAYFUL” DAY @ Loftwork

2015年12月5日は、ロフトワークにとって少し特別で“PLAYFUL”な一日でした。

ロフトワーク社員全員が集まって、各人のアイデアやナレッジをプレゼンテーションする「Creative Meeting」が開かれたり、株主であるMITメディアラボ所長である伊藤穰一氏、ソニーCSL代表取締役社長・所長である北野宏明氏、そしてロフトワークの経営陣が集合する年に一度の株主総会で、ロフトワークの未来についてディスカッションが行われたり。夜にはロフトワークのパートナーやクライアントを170名近く招いて毎年恒例のクリスマスパーティーを開催しました。

一日の模様を、動画でぜひご覧ください。

原口 さとみ

Author原口 さとみ(パブリックリレーションズ)

慶應義塾大学SFC卒。学生時代にソーシャルビジネスや開発経済を学びながら、フォトジャーナリズムやチャリティプロジェクトの可能性を模索する。卒業後は英治出版株式会社に入社し、出版プロデューサーとして書籍企画、編集、DTPデザイン、プロモーション等を担当する。その後NPOにて新興国のスタートアップや社会起業家を支援するプログラムのPR等を経て、2015年ロフトワーク入社。

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