はじめまして。この7月に入社したばかりの石神です。
以前からフリーランスの劇作家・文筆家として活動しています。ロフトワークのオフィスにいるのは週3日。まだ「名刺がない」とか「プリンタの場所がわからない」とか、そんな状態です。

まだ、異邦人

よく、仕事のために知らない土地へ旅します。その土地でコトを起こすにあたっては、そこにあるものを素直に見ることから始めます。特にファーストインプレッションはとても大切です。
今の私にとってはこの渋谷オフィスも、初めて来た慣れない土地みたいなもの。後になって読み返せばおおいに誤解も誤算もあるでしょうが、異邦人である今のうちに、感じたことを言葉にしておこうと思いました。

私にとってロフトワークは長いこと「世界のどこかにある素敵な会社」でした。
渋谷にあることは知っているけど、行ったことはない。Loftwork.comとかFabCafeとか部分的には知っているけど、詳しくは知らない。

話は変わりますが、小学校6年生の時、2つ年下の女の子に憧れたことがあります。彼女は美人で背が高くて、ドラムが叩けたんです。かっこいいでしょ。他にドラムをやっている子はいなかったので、全校イベントの合奏に抜擢されていました。まぶしかった。学年が違うから授業も一緒じゃないし、教室のある階も違う。何の期待も悩みもなく、ただ遠くから眺めてうっとりしていました。

何が言いたいかというと、私にとってロフトワークはそのくらい遠い存在でした。素敵だなと思ってはいたけど、手をつなぐことなんて、ましてやお付き合いする日が来るなんて、思いもしなかったのです。

入社初日のこと

入社初日は午後から「クリエイティブ・ミーティング」という全社会議でした。これはメンバーが仕事をする上で得たナレッジ(知恵)を、全社員に向けて紹介するプレゼン大会、のようなもの。

「ナレッジ」って普段はあまり使わない言葉ですが、はるか昔に新卒で某R社に勤めた私にとってはほろ苦い響きです。ダメリーマン時代を思い出してお腹が痛くなっちゃうから、できたらあまり近寄りたくない。でも入社前日になっても「ロフトワークって何してる会社なの?」という問いに「いやー私もよく分かってないんだよね!」とごまかしていた自分(だって色々ありすぎて、ひとことで言えないんだもの…)を反省し、まじめに参加することにしました。

その日の夜。

「今日、初出社だったよね。どうだった?」

「楽しかった。…うん、すごく楽しかった」

「そんなこと言うの、珍しいね。何が楽しかったの?」

「うーん…今日クリエイティブ・ミーティングっていうのがあって、それが面白かった。自分のプロジェクトのこととか、好きなこととか考えてることを他の社員みんなの前でシェアするの」

「それは面白そうだね。みんなクオリティ高そうだもんなー」

「うーん。それはそうなんだけど、面白かったのはそこじゃなくて…」

最初は、どちらかといえば後ろ向きな気分で参加したクリエイティブ・ミーティング。でも見るもの聞くこといちいち意表を突かれすぎて、気づいたら映画に夢中になりすぎて椅子からずり落ちた子どもみたいになっていました。退屈したり眠くなったりするヒマも、全然なかった。

引きこまれた理由はたぶん、ひとつひとつの発表の「面白さ」の質がぜんぶ違ったこと。内容はもちろんプレゼンの仕方も、舞台での立ち方も、かっこよさやユーモアのセンスも、はにかみ方やごまかし方(人が出ますよね)も、自由すぎる。あまりに個性がバラバラだから「クオリティが高いか・低いか」という単純な軸では、はかれない。

そして私が席からずり落ちるくらい惹きつけられたのは、それぞれのプレゼンターが持つ「必然性」とか「強度」みたいなものだったと思います。

「みんなちがって、みんないい」というみすずの声が聞こえてきそうですが、「その人がその人でしかない面白さ」って、実はとても孤独で厳しいことです。外にある軸を基準に測ることができないから、他の人に分かってもらうのがすごく難しい。これは本当に面白いのか?と自問自答し続けても、永遠に答えが出ない。自分が面白いと思うものを信じるしかない。

そしてバラバラな個性をどーんと受け止めて、垣根なく面白がれている客席(つまり社員のみんな)の雰囲気も、すがすがしかった。

たぶんここにいる一人ひとりが「自分が面白いと思うものを信じる」という孤独な道を必死で、なんとかかんとか歩いている。だから他の人が「これが面白い」って勇気を出して世界に表明していることを、心から応援できるんだろう。私なりの感じ方だけれど、そう思いました。

もちろん最終的に誰かに届ける時には、相対化する視点も必要でしょう。でもはじまりの瞬間は、その人がその人でしかない面白さに恋したい。みんながピアノを習ってる中で、ドラムを選んだ彼女に憧れたみたいに。

何をしている会社かは、まだうまく答えられないけど。
「みんながピアノを弾いていても、私はドラムを叩いていたい」
まだ慣れない渋谷の坂の上で、私もそんなふうに働いてみよう、と思っています。

石神 夏希

Author石神 夏希(劇作家)

1999年より劇団「ペピン結構設計」を中心に劇作家として活動。近年は横浜を拠点に国内各地の地域や海外に滞在し、都市やコミュニティを素材に演劇やアートプロジェクトを手がける。また住宅やまちづくりに関するリサーチ・企画、林千晶らと立ち上げたアートNPO「場所と物語」運営、遊休不動産を活用したクリエイティブ拠点の起業およびプログラムディレクションなど、空間や都市に関するさまざまなプロジェクトに携わる。
2016年よりロフトワークに参加。「言葉」というシンプルな道具で、物語を通じて場所を立ち上げること/場所から物語を引き出すことが得意。

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