Company Mtg

2016年12月10日、ロフトワークでは株主総会と毎年恒例のクリスマスパーティを開催しました。その冒頭で行われた、ロフトワークの株主の北野宏明さん(ソニーCSL代表取締役社長)とジョイこと伊藤穰一さん(MITメディアラボ所長)、ロフトワーク代表の諏訪光洋と林千晶の4人でトークセッション。次のステージに向けて転換期を迎えつつある、ロフトワークの現在と未来について語り合いました。

今、ロフトワークは完全変態の過程にある

北野宏明(以下北野):今ロフトワークは、変貌を遂げつつあるよね。最初はデザインから始まったものが、企業のクリエイティブ面のサポート、Fab、新規事業支援、そして地域創生のプロデュースまで事業範囲が広がっている。この会社は何なんだろうな? と。

昆虫がさなぎの中で完全変態する時って、いったん身体の構造がドロドロになる。目や手や足の元になる成虫原基という核ができ、それを中心に新しい身体全体が作り直されていく。

同じように、ロフトワークでも新しい事業という成虫原基ができて、それをコアに完全変態する、つまり会社全体が作り直される過程にあるんじゃないかな。これからどういう会社になるのか、すごく楽しみだね。

伊藤穰一(以下伊藤):ロフトワークは企業文化に惹かれて集まる人の質の点で、デザイン会社IDEOと似ていると思う。どちらもメンバーとなる人間の質、クリエイティビティと頭の良さ、コミュニケーション能力がずば抜けていて、それがアイデンティティになっている。

ただ、IDEOの事業内容のコアはあくまでデザイン。制約がある一方でブレがない。ロフトワークはIDEOよりいい意味でいい加減だから(笑)、いろいろなことにチャレンジできる可能性があるよね。ただその分、中心が見えづらくなって、何屋だか分からなくなるリスクもある。今すぐじゃなくても、ビジョンを明文化して共有する合宿や、コンテンツを作るといったプロセスを持った方がいいかもしれない。

もうひとつ考えるべきは、メンバーが会社を卒業するのを応援するのかどうか。みんな働き盛りの年齢で、流動性も高いじゃない? ロフトワーカーたちが会社を離れた後、社会のいろいろなところに広がっていって、「成功する会社のイノベーションには必ずロフトワークの卒業生がかかわっている」という風になったら面白いよね。

林千晶(以下林):確かにこれだけフィールドが広がってきた今、ロフトワークのアイデンティティは、まだうまく言葉にできていなくて。でもクライアントもクリエイターも垣根なく「それぞれがいいアイデアを持っているんだから、みんなで集まって面白いことをやろう!」というスタンスは、創業時から変わっていないの。

諏訪光洋(以下諏訪):僕はよく「コミュニティファースト」という言葉を使うんだけど。今、多くの企業でコラボレーションが重視されるようになって、新規事業をつくる時には、コミュニティも同時につくる必要がある。そのノウハウを求めて、ロフトワークに依頼する企業も少なくない。

伊藤:ロフトワークには、クライアントを少しレベルアップさせるような独自のセンスや視点があるよね。お客さんに言われた通りの未来を形にするのではなく、むしろ自分たちの思い描く未来にお客さんを巻き込んでいく。つまりロフトワークは、組織というよりムーブメントなのだと思う。

システムを変えるにはゴールを変えないといけない

伊藤:「自己適応型複合システム」という考え方があるのね。たとえば、お風呂の蛇口を開けるとバスタブに水が入ってくる。排水口に栓をすると水が溜まる。必要な水位まで水が溜まったら蛇口を閉める。お風呂に自分が入ると、また水位が上がって水がこぼれる。

インとアウト、ストックとゴールがあり、それをコントロールするというシンプルな仕組み。でも温度もコントロールしたいとなれば、ボイラーや電気のシステムが必要だから、少し複雑になる。そういうシステムがたくさんつながっているのが、社会や経済や自然だったりする。全部、ループ構造とコントロールによって動いているわけ。たとえば環境問題もそう。

MITのドネラ・メドウズという人が『世界はシステムで動く』という自著で、複雑なシステムのいじり方には12種類あると言ったんだけど、一番効果の無いいじり方は、たとえば「税率を変える」というようにインとアウトのパラメータを変えることなんだって。ところが、9割の人はそこに手を加えてしまう。

でも実は重要なのは、ゴール。たとえばモノポリーは、1903年にできた「The Landlord’s Game」というゲームが原型。ルールはまったく同じだけど、いかに資本主義が悪いか、いかに今の経済原理がアンフェアかということを子どもたちに教えるゲームだったんだよね。
ところがモノポリーの販売元であるパーカー・ブラザーズは、ルールはそのままに、ゴールを変えた。自分がキャピタリストになって、友達をみんな破産させるというゴールを設定したら、ゲームがまったく変わった。つまり本当にシステムを変えるためには、ゴールを変えなければならないということなんだよね。

多くの企業のゴールは、敵を全部殺してリソースをすべて自分たちのものにする、まさにモノポリー(独占)を作ること。とはいえ複雑なシステムでフィードバックがあるから、ちゃんと競争を生みマーケットになっているけど、一方で自然が破壊されるようなことも起きている。

この間、大好きな日本の天ぷら屋さんに行ったんだけど、そこは2部屋しかなくてお客さんが少ししか入れない。「こんなに美味しいんだし、もう一軒お店を作ったら?」と提案すると、店主は「なんで?」と言う。その時に、今自分が言ったことは、成長することが正しいという価値観に囚われているのかもしれない、と気づいた。

戦後の日本が持ち続けていた「成長のためなら何でもやる」という考え方。環境問題の解決のためにも、我々の生活の幸福感のためにも、今一番変えなきゃいけないのはそこだと思う。

歴史を振り返ると、人々の価値観が大きく変わるときには、ビートルズやパンクロック、ヒッピーカルチャーなど必ず音楽やアートが関係していた。繰り返すけど、ロフトワークの仕事やみんなを見ていると「これはムーブメントだ」と思う。創業時のロフトワークのコンセプトは、クリエイターとクライアントのグローバルなネットワークを作ることだった。それって「文化を変えよう」ということなんだよね。
僕たちは、必要以上に事業規模を大きくしたり収益を上げたりする、という世の中の価値観からパラダイムシフトをしなくちゃいけない。だから、がんばって(笑)

林: 16年前に、まさにこの4人からロフトワークは始まったんだよね。ジョイ(伊藤)に投資をお願いするために初めて会いに行った時、ジョイが言ったことを今でも覚えてる。「君たち本当に儲からなそうだね。だから投資する」って(笑)

伊藤:寄付したんです(笑)

林:その約束通り、16年も経ってたいして儲かってないよね(笑)。私はロフトワークが売上で成功しているベンチャーだと思ったことはないけど、楽しくて幸せなベンチャーとしては日本一だと思ってる。 だから「ロフトワークと仕事がしたい」というお話をいただく時はいつも、「楽しい!やってよかった!と思えるプロジェクトなら一緒にできます。でも“儲かればいい”というプロジェクトなら、他の会社に依頼して下さい」と伝えるようにしていて。そこは、創業からあまり変わっていない。

伊藤:昔から、楽しそうだったよね。みんなで楽しく働きながら、世の中を良くしていく。文化的で楽しいところには、人が集まる。そういうところが最終的には生き残ると思うよ。

北野:いかにポジティブな影響を世の中に与えるか、ということが、会社の価値を測る指標のひとつだと思う。しかもそれが持続可能で、有機的に成長していけるのがいい。僕はたとえ千晶ちゃんから「株を買い取ります」と言われても、絶対に譲りたくない(笑)。お金の問題じゃなく、ロフトワークのファミリーでいたいから株を持っていたいんだよね。

伊藤:組織や事業というものは、どこかのタイミングで、ちょうどいい大きさになるもの。その後は、いかにそれを維持していくか。だから成長よりも「適切なサイズか」ということも、企業の価値を測るひとつの考え方だと思う。

林:ロフトワークも、2017年は売上を伸ばすことよりも、質を高めることを大事にしたいと思っているところ。さらにインパクトのあることを、もっと効果的に、もっと情熱をこめて、より良い仲間たちと取り組んでいきたい。だから来年の株主総会では、売上が伸びていない予定なので、よろしくお願いします(笑)。

後編

後編はこちらから

詳細

(文:高橋ミレイ)
(編集:石神夏希、原口さとみ)

Next Contents

企業が「創造性人材」の育成に取り組むには?
国内企業19社から学ぶ、事例とヒント集が経産省サイトに公開されました