こんにちは。ロフトワークの石川です。

今月はじめ、静岡県が開設した農業の先端技術開発と新事業創出を図るアグリ・オープンイノベーションプロジェクト(AOIプロジェクト)の拠点施設となるAOI-PARC(AOIパーク)の開所式に参加してきました。
AOIパークには県内外の農業に関する民間事業者や、静岡県の農林技術研究所、慶應義塾大学や理化学研究所が入居し、最先端の農業研究開発が行われます。
ロフトワークでは、これから様々なかたちでこのプロジェクトを支援していく予定です。

開所を祝い、テープカット。

先端農業プロジェクト“AOI-Project"

今、日本の農業には喫緊なるイノベーションが求められています。 TPP交渉の大筋合意により日本産の農林水産物のグローバル化は不可避にもかかわらず、農業に携わる人々は減少しています。また一方、農業に関するテクノロジーは日々進化しているにもかかわらず、日本の農業現場はその革新に追いついていないという現実。 だからこそ、日本の農業は成長のポテンシャルが高いとも言えます。

静岡県では「世界の人々の健康寿命の延伸と幸せの増深」をスローガンに、先端的な科学技術やものづくりの技術を農業分野に応用し、農産物の高品質化、高機能化、高収量化、低コスト化の実現を目指す先端農業プロジェクト「AOI-Project(アオイプロジェクト)」を進めています。
テクノロジーの力で農業の生産性を飛躍させることは、間違いなく、可能。それには今までの農業をやり方を革新する必要があります。

農業先進国として有名なオランダの人口は日本の13%、農地面積は九州程度の面積しかないのにアメリカに次ぐ世界第2位の食糧輸出国。その輸出額は日本の28倍です。(日本は51位)
農地面積は2.4倍日本の方が大きく、農業就業人口は20倍日本の方が多いにもかかわらず、オランダの農業生産性は数字的には日本より遥かに上回っています。
例えばオランダのハウス栽培では、90%がコンピューターで環境制御をしていますが、日本ではわずか数パーセントしかハイテク技術を導入していません。またオランダではワーヘニンゲン大学と政府、そしてEUの協力を得て、産学官が一体となって農業に取り組み、そしてそこに民間の農業コンサルタントが介在して、栽培システムやマーケティングを指導しているそうです。

革新のためのスピーディな動き、産学官の連携…など、日本の農業分野におけるイノベーションは遅れているという現実は受け止めなければなりません。

課題が多い日本の農業を、 国際的競争力を持つ成長産業にするために、農業分野で技術開発・研究設備に大きな投資をして、イノベーションを起こそうとする静岡県のこのプロジェクトは、全国的に見ても例がない試みなのだそうです。

AOIパークってどんなところ?

場所は静岡県沼津市西野、三島駅から車で約40分。山の上にあって茶畑と駿河湾と富士山が見える景勝地な場所に設立された東海大学旧校舎を改修し、AOIパークとして生まれ変わりました。

AOIパークに向かうバスからの眺め。ドローンを飛ばしてみたいです。
山の上にあり駿河湾を一望できる景色は圧巻。三島出身の友人によれば、地元の人しか知らない初日の出を見るための名所なのだとか。
東海大学旧校舎を改修、地下1F、地上5階建ての建物です。
中は吹き抜けになっていて、内装もリニューアルされています。
1Fと2FがAOIパークとして稼働します。

1Fは研究エリアで、県農林技術研究所次世代栽培研究センター、慶應義塾大学、理化学研究所の3つの研究機関と、AOI機構が入居。
2Fはレンタルエリアで、有機液肥を用い閉鎖環境で育苗されたトマト大苗の定植後生育評価を行う(株)アイエイアイや、生食用ケールにおける養液栽培方法の基礎研究を行う(有)石井育種場など、農業に関する研究開発を行う7社と、新しい農業に関する事業を支援する3事業者が入居します。

開所式の日は、入居企業が一同に会してパネルや生産品などの展示を行っていました。

アイエイアイが研究する、「有機農産物安定システム開発」について。魚、肉、穀物などの加工廃液…たとえば駿河湾でマグロのツナ缶を加工するときに出た加工廃液を有機液肥として使用し、化学肥料を使わない有機農法で野菜や稲や果物などを栽培する基礎技術の研究を行っているそうです

AOIパークのこの設備がすごい!

1Fの「次世代栽培ゾーン」はこんな感じで、未来的な植物工場のようです。

「栽培ユニット」は、温度・湿度、CO2濃度を部屋ごとに固定して、植物の苗からの生育状況を検証できます。

「パラメーターフル制御式栽培装置」は、理化学研究所がAOI-PARCのために設計したオリジナル設備で、植物に照射する光の量や質、温度、風速など30万通りの環境条件の設定が可能です。
今までは新品種開発にかなりの時間と労力がかかっていましたが、この設備によって、1度に数100種の種苗を栽培し、その中で優れた機能性を持つ種苗を選抜できるようになるそうです。
また、研究設備内にある遺伝子解析・培養設備を併用することで、今までは発見できなかった高機能野菜(栄養素が高い等)の開発や、世代促進(育成期間の短期化)、発芽率の効率化を図ることが可能に。
さらに、先端計測技術(レーザー技術による計測)も導入予定とのことで、植物性のカビによる農作物(イチゴなど)が病気でダメになる(発症率14%)という課題に対し、今までは農家さんが観察や経験による勘で診断していた(そして病気を発見できず、被害を止められなかった)ものが、先端計測技術(センサー)を使うことによって、発症前・早期診断で検知可能になります。
人間でいうとガンなどの病気を、人間が吐き出すガスをレーザーで計測することで、体を切らずにガンを早期発見し、対策ができるというイメージですね。

AOIパークの慶応SFC研究所のラボでは、今年のノーベル賞受賞候補として大きく注目を集めているゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」(ゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる新しい遺伝子改変技術)を植物にも応用して研究していくそうです。さらに「メカノバイオロジー」(分子から個体に至るまでの様々な階層において、物理的(機械的)力の”機能”を記述しようとする)という、比較的新しい分野でも、植物に応用して研究が行われていく(これはおそらく世界初)とのことでした。

ロフトワークでは、イノベーションを起こしていくクリエイティブ分野のパートナーとして、これから様々なかたちでこのプロジェクトを支援していく予定です! これからAOIプロジェクトが盛り上がるにつれ、企業や大学の農業事業創造や研究開発機関だけではなく、大小様々な農業に関わるプレーヤーが参入し、ここから生まれたビジネスが静岡から世界へ展開されるようなアクセラレーションプログラムのような仕組みもいずれ構築されると良いなと思いました。

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静岡県の農業に革新を起こすことを目指すAOI-Project。 その中心的な役割を担うのが会員制の「AOIフォーラム」です。フォラムの運営を担うAOI機構では、活動体としての大きな方向性を元にした、事業内容の具体化が急務でした。ロフトワークは、関係者への綿密なリサーチを敢行し、ビジネスモデルキャンパスを作成。情報を整理し、AOIフォーラムのコミュニケーション戦略及び具体的なマイルストンとアクションを策定しました。

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