ロフトワーク京都の入谷聡です。

プロジェクトマネジメントの世界標準、PMBOK® の第6版が、米国で9月6日に公開されました(英語版のみ。日本語版を含む翻訳版は10月公開予定)。

コンパスの絵が配された表紙もかっこいいですね!

ロフトワークが『Webプロジェクトマネジメント標準』を上梓した2008年時点の最新版は「第3版」。その後まもなく発表された第4版、2013年の第5版に続く、大幅な改訂になります。「10の知識エリア」に大きな変更はないものの、新章の追加や、各知識エリアの内容に様々な変更があります。この「変更点」に注目することは、世界のプロジェクトマネージャーたちがどんなことを考えていて、プロジェクト成功の秘訣がどのように変化しているかを知る上で、重要です。

このコラムでは、PMI本家の事前告知記事 Coming Soon: PMBOK® Guide – Sixth Edition | PMI にある動画の内容に基づいて、気になるアップデート箇所について紹介したいと思います。

※なお、本記事記述時点で筆者は第6版の内容をまだ読んでいませんので、その点ご了承ください。

(1) 「ビジネス戦略」とプロジェクトマネジメントの接近

冒頭で、プロジェクトを「ビジネス戦略」に適合させることの重要性が語られています。また、「スコープマネジメント」の中に、BA = ビジネスアナリストとの連携を強化する記述が加わるとされています。

実は、この「ビジネスアナリシス」という分野は、私も特に注目している領域の一つ。ビジネス戦略を分析する手法については、昔からIIBAの “BABOK” (バボック、ビーエーボック) という別の知識体系がありますが、PMIはこれをPM向けに再編した『実務者のためのビジネスアナリシス:実務ガイド』を発行しています。プロジェクトが提供する「価値」を見きわめ、プロジェクトスコープをしっかり固めるために役に立つアプローチを、BAの世界から引っ張ってくる潮流があります。

今年7月に行われた、プロジェクトマネージャーの一大カンファレンス「PMI日本フォーラム2017」で、私はロフトワークが実務で取り入れているビジネスアナリシス的な手法をまとめ、発表しました。他のセッションでもBAにまつわる話題は多く、プロジェクトマネージャーに対する「成果」の水準が、どんどん高くなっている傾向を感じます。

参考:PMI日本フォーラム2017の講演スライド

(2) ステークホルダー「エンゲージメント」マネジメント

細かい表記変更ではありますが、ステークホルダー「マネジメント」という考え方を、ステークホルダー「エンゲージメント(Engagement = つながり・かかわり)」に変えた、という言及があります。ステークホルダー自身をコントロールすることはできないが、「どのように関係性をもつか」をコントロールすることはできる、というわけです。これは、示唆深い指摘です。

第5版で「ステークホルダーマネジメント」が10個目の知識エリアとして切り出されましたが、ステークホルダーとの関係づくりは、プロジェクトの成功に欠かせない、特に重要な領域の一つ。プロジェクト立ち上げ時の「特定」から、エンゲージメント計画、エンゲージメントの実行。これはPM仕事の最も難しく、かつやりがいのある部分かもしれません。最新の知識体系で語られるノウハウに要注目です。

(3) 過去の教訓を織り込む「ナレッジマネジメント」プロセスの追加

プロジェクト統合マネジメントの一部として、”Manage Project Knowledge” (プロジェクト知識の管理)というプロセスが追加されます。過去のプロジェクトにおける教訓(lessons learned)を十分引き出して、プロジェクト計画に反映されるプロセスです。

この点にスポットが当たることは面白いと思います。ロフトワークでも、毎年何百というプロジェクトが動いていて、さまざまな教訓が蓄積されていきますが、忙しい毎日の中で必ずしも全ての教訓が全社に共有されるわけではなく、属人的な「暗黙知」に留まりがちです。この点に注目することで、プロジェクトの終盤における「振り返りMTG」のあり方も、変わっていく余地があるはずです。

その他、以下のような点が変更されているようです。

– プロジェクトマネージャーの役割(Role of the project manager)章追加
– 品質マネジメント “Perform Quality Assurance” を “Manage quality” に変更(品質管理業務をPJ外の別部門が担当するという傾向から)
– 「タイムマネジメント」を「スケジュールマネジメント」に改称(タイムはコントロールできないから)
– 「人的資源マネジメント」を「リソースマネジメント」に改称(人以外も含む概念に一般化)
– リスクマネジメントの中に、「上位者にエスカレーションする」という考え方を追加
– 調達マネジメントを北米限定の内容からグローバルに通用する内容へ

本記事は以上ですが、私もこれからPMBOK® 6th Editionをしっかり読み込んで、業務に活かしていかねばと思っています。

ちなみに、PMPホルダーである私は、PMI日本支部関西ブランチ「PM創生研究会」のメンバーとしても活動しています。PM創生研ではさっそく第6版の勉強会(輪読など)のワークグループが立ち上がっており、他業界のPM仲間と議論しながら学びを深める機会があります。プロジェクトマネジメントを掘り下げて学びたい方は、こういったグループを探してみてもいいかもしれません。

ロフトワークでは、書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』を全文PDF無償公開していますので、まだ読んだことないかたは是非ダウンロードしてみてください。

入谷 聡

Author入谷 聡(クリエイティブディレクター)

東京大学工学部社会基盤学科卒。ITベンチャー企業等を経て、2012年よりロフトワーク京都に所属。20代で青木将幸氏にファシリテーションを、西村佳哲氏にインタビューを学ぶ。2015年、PMP®取得。プロジェクトでは最序盤のプロジェクト計画立案・探索・戦略設計プロセスと、最終盤の怒濤のたたみ込みを得意とする。近年は大学Webサイトの構築を担当することが多く、医学系・芸術系・国際系など幅広い知見を有する。通称は「いりー」。

文章術は独学。ブログ・noteでのコラム執筆を断続的に続けている。

Keywords

Next Contents

2050年の京都市の都市構想への道筋を描く。
「創造的都市、京都」を提唱する、最終報告書を公開