EVENT Report

事例で見る、地域や社会との共創を生み出す学校建築とは(後編)

現在、学校教育の場では、子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る「令和の日本型学校教育」の実現、および、そのための施設整備の推進が求められています。その一方で、施設整備の現場では、改修ノウハウや専門職員の不足など様々な課題を抱えているのが現状です。

このような背景の中、文部科学省は、あしたの学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」を立ち上げました。この事業の一環として、「地域や社会との共創空間としての学校」をテーマに第二回目となるイベントを開催。今回の後編では、イベントの第2部の模様をお届けします。

執筆者:野本 纏花

*本記事は、文部科学省 学校施設設備・活用のための共創プラットフォーム CO-SHA Platformから転載しています。

当日の動画アーカイブ

探究学習との掛け合わせで地域との共創を継続する

第2部では「学校が継続的に地域連携していく運用」をテーマに、福島県立ふたば未来学園の事例をご紹介します。

<福島県立ふたば未来学園>中学校・高等学校 副校長 南郷 市兵さん

ふたば未来学園は、震災で避難地域となった原発近くの双葉郡に所在しています。福島第一原発から30キロ圏内にある複数の学校が存続できなくなった中で、どのように教育復興を進めるかという議論から誕生したのが、このふたば未来学園です。

2015年に開校した同校の校訓は、「自らを変革し 地域を変革し 社会を変革する『変革者』を育成する」。教科書から知識を学ぶだけでなく、地域に山積する解のない課題を解決していける人材育成を目指しています。

そんなふたば未来学園の教育課程の柱は、中高全学年で取り組む、地域をフィールドとした探究学習。探究活動は調査研究にとどまらず、地域課題解決の実践をおこなっているとのことで、常時約300のプロジェクトに取り組んでいるそうです。

ふたば未来学園は2015年に開校していますが、校舎は2019年に竣工しました。つまり4年ほどは仮設校舎で運営されていたのです。「学校施設というハードは教育活動のソフトを制約しないと思っています。むしろ、ソフトを先にしっかり作っていたからこそ、こんな素敵な校舎の設計ができた。そして、校舎ができることでソフトは加速していきます。そういう意味では、ハードはソフトを伸ばす重要な鍵だということは申し上げておきたい」と南郷さんは強調しました。

<福島県立ふたば未来学園>認定特定非営利活動法人カタリバ 横山 和毅さん

横山さんはカタリバからふたば未来学園に派遣されて、学校支援統括コーディネーターとして「コラボ・スクール 双葉みらいラボ」を運営されています。この双葉みらいラボは、探究学習の実践の場であるとともに、地域協働スペースでもあります。ふたば未来学園の生徒の居場所にもなっており、放課後〜20時くらいまでカタリバのスタッフにいろいろ相談することができるのだとか。年間のべ約8,000名の生徒が利用しているそうです。

双葉みらいラボができたのは、2017年のこと。当初は空き教室を使って、心のケアや居場所支援、学習支援を行うところからスタートしたと言います。そこからプレハブ校舎に移り、放課後の探究学習支援や学習イベントを開催するように。そして2019年に校舎が完成してからは、学校の中心にある地域協働スペースになり、今は創発が生まれるプラットフォームへと進化を遂げている最中だそうです。

「双葉みらいラボでさまざまな活動をしてきた生徒たちは、卒業してからも年間のべ100名以上がボランティアとして後輩の学びの伴走者になってくれている。地域・教育の担い手として学校に戻ってくる循環が生まれています」という横山さん。双葉みらいラボの生徒に対して行なったアンケート結果によると、「『地域と出会う・つながる』という越境体験や、『問う・対話する』という機会が、生徒の社会参画への意識を育んでいくことがわかってきている」と明かしました。

学校と地域の両方に共創のメリットをもたらすことが継続の秘訣

ここからは千葉⼯業⼤学創造⼯学部デザイン科学科 准教授の倉⽃ 綾⼦さんをモデレーターに招き、南郷さんと横山さんと行ったクロストークの模様です。

倉⽃さん ふたば未来学園では、学校から地域に向かっての働きかけを強く行っているようですが、地域の方々には共創によってどのようなメリットがもたらされているのでしょうか?

南郷さん 地域の方々のウェルビーイングにつながっているという肌感覚はあります。双葉みらいラボでは、解体業者の方とNPOの方、東京電力の方と一次産業の方、といったような、生徒という媒介がなければ出逢わないような方々が同じ場に居合わせることがしょっちゅう起こります。生徒は大人のように、しがらみやタブーに囚われていませんから、率直な問いを発するんですね。それによって新しい議論が生まれる。たとえば、「第一原発を、原爆ドームのような震災遺構として残せないか」と。これは生徒から出てきた問いです。大人たちだけでは決して口にできなかったことが、今やオープンに議論できるようになっている。若者が入ることによって、何かしらの変化は生じるものだと感じているところです。

横山さん そうですね。生徒はどんどん地域の中に入り込んで実状を掘り下げていくので、大人がなかなか気づけなかったり、手つかずだった課題を発見することも、結構あります。まちの未来をつくっていく上で、すごく意味があることではないかと思っています。

倉⽃さん 学校建築の現場では、予算の関係もあって、先にハードを決めてから教育方針や運営などのソフトをつくっていくケースが多いように思うのですが、ふたば未来学園のようにソフトから先につくったことが有効だったと思われますか?

南郷さん 間違いありません。第1部で村地さんもおっしゃっていましたが、やはり設計の早い段階から学校が関与させてもらうことがとても重要です。施設の所管をされている教育委員会のみなさんには、ぜひがんばって早めに学校へボールを投げていただきたい。絶対にそのほうがいい施設になりますから。

倉⽃さん なるほど。ちなみに、学校の先生方は日々大変お忙しい中で、学校と地域との共創を続けていくための秘訣はあるのでしょうか?

南郷さん 地域との共創と言いますか、探究学習の指導そのものが先生方にとって初めての体験だったので、最初は恐る恐るだったと思うのですが、今となっては「継続しよう!」と意気込まなくても、すでに文化になっていると思いますね。子どもたちと一緒に一度やってみたら楽しいことがわかって、先生自ら子ども会の会長をやってみたり消防団に入ってみたりしているようです。

倉⽃さん 先生方にも共創によるメリットが伝わったからこそ、自然と続けられているんですね。では最後に、横山さんから、これから共創に取り組もうとしているみなさんにメッセージをお願いします。

横山さん 共創は学校の中に地域が越境してくることで、学校の中だけではできなかったような体験があちこちで生まれることだと思っています。双葉みらいラボも最初から今のような形が完成していたわけではありません。紆余曲折があって今ここまで辿り着いているので、肩の力を抜いて少しずつ育てていくイメージで取り組んでいただけたらと思います。

Related Event