考えるよりまずは試しに動かしてみよう!
実践で学ぶ空間づくり「CO-SHA ワークショップ」イベントレポート
文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。
今回は、初の試みとなる「CO-SHA ワークショップ」を開催しました。「そのうちなんとかしたいと思っている余剰空間があるけれど、日々の業務に追われて、なかなか重い腰が上がらない」とお悩みの学校関係者のみなさんに、「試しに家具や什器をちょっと動かしてみるだけで、空間の使い方を変えられることを知ってもらいたい」という想いで企画したイベントです。
当日は、栃木県大田原市立金田南中学校、愛知県名古屋市立稲永小学校、三重県名張市梅が丘小学校、京都府立命館小学校の全4団体をオンラインで繋ぎ、CO-SHA Platformのアドバイザーの先生方にアドバイスをもらいながら、その場で模様替えやレイアウト変更など、学校内の学びの空間づくりを実践していただきました。
ワークショップは40分という短い時間でしたが、参加団体のみなさんからは、「多くの気づきが得られた」「これからもいろいろと試しながら、子どもたちと一緒に空間づくりを継続していきたい」と、喜びの声が聞かれました。
イベントの様子は、こちらから(YouTube へ移動)ご覧いただけます。
大いに盛り上がったイベントの模様をご紹介します。
*本記事は、ロフトワークが支援する、文部科学省 学校施設設備・活用のための共創プラットフォーム 「CO-SHA Platform」のWebサイトから転載しています。
廊下を走るのは教育のせいじゃない。アフォーダンス理論を用いた空間づくりとは?
ワークショップに入る前に、まずはアドバイザーの東京学芸大学 非常勤講師 佐野亮子先生によるインプットトークがありました。
今回のワークショップのテーマでもある「オープンスペース(多目的スペース)」は、1984年(昭和59年)に当時の文部省がつくった多目的スペースの補助制度が由来となっています。全国にオープンスペースを持つ校舎が建てられている一方、使い方に目的や意図がなければラーニングスペースとして機能せず、“ランニングスペース”になってしまっているという批判もあると言います。
では、オープンスペースを「学びを誘う、居心地の良い、楽しい、豊かな空間」にするために、どのような工夫ができるのでしょうか。
そこで佐野先生が紹介したのが、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが提唱した「アフォーダンス理論」です。アフォーダンス理論とは、“モノ(物体)は、ユーザーにメッセージを発している”という理論のこと。つまり、建築はもとより空間を形成する物理的な環境は、人に対してある行動を誘発する可能性を持っているという考え方です。
たとえば、「廊下は走らない」と貼り紙をしても、走る子どもはいなくなりませんよね。アフォーダンス理論では、その原因を子どもの素行や教師の指導に求めるのではなく、廊下という(一直線で見通しが良く硬くて寒々とした)物質的な空間が、走る行為を導いているのだ、と捉えます。
そのうえで、「豊かな学びの空間にするためには、2つの『とまり木(足場)』をつくることが大切だ」と語る佐野先生。2つのとまり木とは、①家具や衝立などを配置して場づくりをする(活動や居場所のとまり木)と②知的好奇心を刺激する掲示や展示をする(思考のとまり木)のことです。
具体的なオープンスペースの活用例をいくつか紹介しました。
最後に、子どもの動きや目線に合わせた空間づくりのアイデアをまとめた資料をご紹介いただき、佐野先生のインプットトークが終了しました。
40分の限られた時間でも、こんなに変わった!ワークショップの様子
さぁ、次はいよいよワークショップの時間です。団体ごとにブレイクアウトルームに分かれて、それぞれにアドバイザーの先生とオブザーバー(視聴者)のみなさんにも入っていただき、1ターム20分×2回の時間を使って、課題を相談しながら実際にモノを動かして空間づくりに挑戦していただきました。
また、今回のイベントだけで終わらせるのではなく、明日以降の日常の中でも継続してより良い学校づくりをしていただきたいという狙いから、ワークショップの後に振り返りの時間も設けました。
<栃木県・大田原市立金田南中学校>
オープンスペースを学びと憩いのスペースに
- 参加者:有志の生徒10数名、教員2名
- アドバイザーの先生:栗崎真一郎先生、倉斗綾子先生
- 解決したい悩み:オープンスペースを探究の学びや憩いのスペースとして有効活用できるようにしたい。
ワークショップの取り組み:
アドバイザーの先生方からの助言もあり、窓側と壁側は個人で集中できるような席を設置。中央には机にもなる卓球台を置きました。椅子など一部の家具は近隣の廃校で使われていたものを再活用しています。
ワークショップの感想:
さまざまな助言をいただき、生徒たちもいろいろなアイデアが浮かんできたようです。教頭先生が家にあるソファーを提供してくれることがわかったので、これから壁を移動させてソファーが来る準備をしていきます。まだまだこれからだと思いますが、学びの場を変えることで学習の質が変わるとともに、生徒の学習意欲の向上にもつながるのではないかと感じました。
ワークショップ開催後の生徒/教員の反応:
1年生の教室前に置いた卓球台に対する生徒たちの反応が良く、休み時間の利用が絶えません。また、今回の取り組みを見た3年生から「自分たちも空間の使い方について話し合いたい」という声が上がり、学級会活動で使用する畳スペースを新たにつくりました。他にも、2年生の教室前に置いたソファーの前に、2年生の担任がマットを持ち込み、昼休みに生徒たちが集まり、トランプなどをして遊ぶ様子が見られるようになっています。今回の取り組みを通じて、学校内で生徒がくつろぎ、笑顔で過ごす姿が増えたように感じています
<愛知県・名古屋市立稲永小学校>
余裕教室を個別最適な学びの空間へ
- 参加者:教員数名
- アドバイザーの先生:上野佳奈子先生、垣野義典先生
- 解決したい悩み:体育の着替えや作品置き場としてしか使えていない学年ごとの空き教室を、現在の機能も維持しながら、個別最適な学びを充実させる空間へと変えたい。
ワークショップの取り組み:
更衣室の機能を残しながら、少人数向けの学習空間としても使えるよう、手軽にレイアウトを変えられるよう配慮しました。台形テーブルは、あえて1テーブル抜くことで、生徒と教員のコミュニケーションを取りやすくしています。
ワークショップの感想:
学習の目的に応じて子どもたち自身が選択できるよう、機能性の異なるスペースを設けて使い分けることが大切だと気づきました。今後は、余っている布や行事でしか使わない合唱台など、眠っている資材をうまく活用しながら、子どもたちと一緒に空間の上手な使い方を考えていきたいと思っています。
ワークショップ開催後の児童/教員の反応:
ワークショップ後も、今は使われていないけれど使えそうなものを探して、新たに合唱台やローソファなどを持ち込み、子どもたちが自由にレイアウトできるようにしています。子どもたちは、この空間を教室以外の“第二の学びの場”として捉えているようで、自分たちで居心地の良い空間にするために、自宅から持ってきた観賞魚の飼育も始めました。
また、教員や子どもたちにワークショップで学んだアフォーダンス効果について紹介して、廊下を走ってしまわないようにするためはどうしたらいいかを考えてもらったところ、廊下に台形の机を配置して、“走りたくならない環境”を子どもたち自らつくり始めています。
本校は2年後に統合があるため、校舎改築に伴う仮設校舎への引越しを控えています。そのため、今回の学びを活かし、これからも学校職員全体で話し合い、試行錯誤しながら、より良い学びの場づくりを進めていきたいと考えています。
<三重県・名張市立梅が丘小学校>
玄関前のオープンスペースを読書スペースへ
- 参加者:事務職員、教員5〜6名
- アドバイザーの先生:倉斗綾子先生、上野佳奈子先生
- 解決したい悩み:児童玄関前にあるオープンスペースを「ふらっと学べる・学びあえる読書スペース」に変えたい。
ワークショップの取り組み:
オープンスペースが複数あるため、一気に完成を目指すのではなく、いったん家具を配置してみて、それぞれの場の使い方をイメージできる状態を目指しました。子どもたちの動線を想定しながら、それぞれの場の目的に応じた家具を選択・配置しています。
ワークショップの感想:
今日は教職員の大人だけで参加しましたが、これからは子どもたちの意見も取り入れながら、子ども目線でアップデートしていきたいと思っています。また、足りないものは地域の方にご提供いただけないかお声がけもしつつ、地域の方々にも使っていただけるスペースにしていけたらと考えています。今回のワークショップで中々改装の踏ん切りがつかなかったところを乗り越えることができました。
ワークショップ開催後の児童/教員の反応:
当初は家具の配置を変更しただけだったので、子どもたちの様子は、最初は「ちょっと変わったな」くらいでした。しかし、その後、机・椅子・棚をリメイクしたり、計50名ほどの児童と一緒に座布団を制作したりしたほか、職員のアイデアから、自由に顕微鏡を使えるように「ストリート顕微鏡」を仕掛けてみる」といった取り組みも始めています。
児童や職員を巻き込みながら、こうした活動を進めていくことで、徐々に子どもたちが集まる空間へと変わってきました。今は、読書活動につながる活動ができる空間へと改良を重ねている最中です。これからも「子どもたちの学びのヒントとなるような仕掛けをどう組み込んでいくか」「子どもたち自身が活用したいと思うスペースづくりをするために何ができるか」という視点を大事にしながら、空間の有効活用に向けた取り組みを継続していきたいと考えてます。
<京都府・立命館小学校>
1年生のオープンスペースを集団or個別で活用できる可変レイアウトに
- 参加者:教員4〜5名
- アドバイザーの先生:垣野義典先生、栗崎真一郎先生
- 解決したい悩み:1年生のオープンスペースを、ハウス活動(異学年集団活動)やリッツタイム(個別最適な学びの時間)など、活動に応じて最適なレイアウトに変えたい。
ワークショップの取り組み:
1年生の子どもたちの目線の高さを意識して、教室内のレイアウトを見直しました。また、オープンスペースの中央に動かしやすい軽めの家具(給食台など)を配置することで、異学年の集団活動に対応できるスペースを確保しています。
ワークショップの感想:
とてもワクワクしながら参加させていただきました。アドバイザーの先生方の助言によって、これまで大人目線で考えてしまっていた部分があることに気づかされ、もっと子どもたちの動きやすさや過ごしやすさを考えてアップデートしていきたいと思いました。また、子どもたちに「どんどんモノを動かしていいよ」というメッセージをあまり送ってこなかったので、すぐにでも伝えていきたいと思っています。
ワークショップ開催後の児童/教員の反応:
最初のうちは、入っていいのかと戸惑っていた子どもたちも、今ではごく自然にオープンスペースを横切るようになっています。また、1年生以外の児童も休み時間や放課後に行き来して、一緒に遊んだり触れ合ったりする姿が見られるようにもなりました。常に扉が開いていることで、朝から素敵なあいさつの声が響き渡り、みんなが気持ちよく1日を始められています。
教員からも「他クラスの授業や指導の声が聞こえて、授業・指導方法の参考になったり、クラスを超えて自然に児童と触れ合えたりと、安心感を得られるようになった」と好評です。
今回のようにとりあえず環境を変えてみることで、偶発的にアイデアが生まれたり、新たな発見があったりすることがわかり、空間づくりのおもしろさや奥深さに気づくことができました。
最後に、CO-SHAスーパーバイザーの上野淳先生より、次のような講評をいただきました。
「(イベントのスーパーバイザーの立場として、)自画自賛になってしまいますが、今日のイベントは非常にエキサイティングで、本当に素晴らしかったと思います。アドバイザーの先生方から大変有意義な示唆をたくさんいただき、私も含め、参加されたみなさんも大いに触発されたのではないでしょうか。今日の試みが、今後どのように展開して根付いていったのかを発表していただく機会を、今後ぜひ設けていけたらと思っています。本当にありがとうございました」。
今回オブザーバーとして参加されたみなさまからも「専門家と現場の先生が試行錯誤しながら一緒につくっていくプロセスが刺激的でした」「空間は自分たちで能動的に変えられることが伝わったと思う」「参加団体とオブザーバーの双方に有益な場だった」「机の位置ひとつを変えるだけでも、新しいコミュニケーションのきっかけをつくることができるとわかった」といった感想が届いています。
次はワークショップを企画されたアドバイザーの倉斗先生のインタビュー記事をお届けします。そちらの記事では、より具体的な空間づくりの工夫についてご紹介しますので、どうぞお楽しみに!
倉斗先生のインタビュー記事の記事はこちら