「CO-SHA ワークショップ」で見えた学びの空間づくりで大切な3つのこと
文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。
2024年9月13日に、初の試みとして実施した「CO-SHA ワークショップ」では、全国の学校をオンラインでつなぎ、アドバイザーの先生方にアドバイスをもらいながら、その場で教室の模様替えやレイアウト変更といった「学びの空間づくり」を実践してもらう取り組みです。
※イベントの様子は、こちらから(YouTubeへ移動)ご覧いただけます。
本稿ではこのイベントを企画した千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科 教授 倉斗綾子先生とワークショップを振り返りながら、すぐに活かせる空間づくりのTipsや考え方を教えていただきました。
「CO-SHA ワークショップ」はなぜ生まれたのか?
——まずは「CO-SHA ワークショップ」を企画された倉斗先生の想いをお聞かせいただけますか。
これまでずっと子どもたちの学校の環境をより良くするために、調査研究をしたり、対象校でワークショップを開いたりしてきたのですが、どうしても“研究者が来て、何かをやってくれて、帰っていく”というような、その場限りの取り組みで終わってしまいがちで。本当は、学びの空間づくりって自分たちがやらなきゃいけないことだし、自分たちでできることなのに、どうしたらマインドセットを切り替えてもらえるんだろう、と悩んでいました。
そんなときに、ある学校で全学年の先生と一緒にオンラインでワークショップを実施する機会がありました。そこでこんなにも学校のICT環境が整っていることを知り、手応えを感じたんです。同じような課題を持つ全国の仲間をオンラインでつなげたら、「自分たちもやってみよう」というモチベーションアップになるだろうし、新しい何かが生まれそうだな、と。
——今回の「CO-SHA ワークショップ」では、学校ごとにZoomのブレイクアウトルームをつくって、そこにアドバイザーの先生方やオブザーバーのみなさんに入っていただき、アドバイスをもらいながら、その場でレイアウトを変えてもらいました。この形式によって、どんなメリットがありましたか。
すべての学校に研究者を派遣して、1校ずつアドバイスをしていくというのは、現実的に難しいですよね。けれど、今回のように興味のある学校を集めてワークショップができたら、学習環境づくりに対して当事者感を持って取り組む人を、一気に増やすことができます。研究者に直接疑問をぶつけながら、どこに何を置こうかと試行錯誤できる機会はなかなかないので、一人でも多くの方に体験いただくには、良い方法だったと思っています。
——とはいえ、オンラインで中継しながらワークショップを行う難しさもあったのでは?
そうですね。先生方はカメラワークのプロではないので、「もうちょっとこっち側も見たいんだけどな」と思うようなことはありました。あとは、私自身がその場にいるわけではないので、「床に座ってゆっくりできるスペースをつくろうとしているけど、そもそもそこは寒くないのかな?」と気になることも。体感としての気温がわからない難しさがありましたね。
ただ今回やってみて、「ワークショップで手を入れる対象の空間だけでなく、事前に図面をもらうなどして、その周辺の環境も知っておいたほうがいいな」といった気づきがたくさんあったので、次に活かしていけたらと思っています。
ポイント①:子どもたちを巻き込もう
——参加した先生方からは「これから空間づくりに子どもたちも巻き込んでいきたい」という感想が多く寄せられていました。子どもたちを巻き込むうえで、どんなことに気をつければ良さそうですか。
ぜひ子どもたちをどんどん巻き込んでいってもらいたいですね。昨年、CO-SHA ソウゾウプロジェクトに参加された板橋第十小学校では、子どもたちの係活動で“オープンスペース会社”という係をつくって、オープンスペースの使い方を考えてもらっていました。子どもって、自分たちでルールを決めると厳格に守って自治ができるし、責任感を持ってやってくれますから。子どもたちを大人扱いするというか、ちゃんと任せることが大事。危ないところがあれば助言する程度でいいんですよ。そういう子どもたちに“委ねる”場所を、学校のどこかにつくれるといいですよね。
——なるほど。自分たちでつくった空間なら、使いたくもなりますしね。
子どもたちに空間づくりを任せると、「学校の中に、自分が使っていい場所が実はこんなにもあったんだ」と、子どもたち自身が気づくきっかけにもなります。そうすると学校に対する愛着が増しますし、自分の居場所を見つけられてストレスの軽減につながると思うんですよね。
低学年の子たちが学ぶスペースを、中学年や高学年の子たちが一緒に考えてつくってあげるのもいいかもしれません。「お兄ちゃん/お姉ちゃんになったら、自分たちも手伝ってあげるんだ!」というのが恒例になっていくと、公共の場の使い方に対するリテラシーも自然と高まっていきそうな気がします。
ポイント②:選択肢を用意しよう
——参加団体の中には、「オープンスペースが広すぎて、どう活用していいのかわからない」とお悩みの学校もありました。活用の目的に優先順位をつけるとしたら、どんなふうに考えていけばいいですか?
ワークショップの中では、「廊下に近かったり人通りが多かったりするところは立ったまま使えるように、少し離れたところでは椅子に腰掛けて話し合いができるように、最後は床座でゆっくりできるようにするなど、奥に行けば行くほど静かで落ち着けるスペースへと“モード変換”できるようにしてはどうか」とお伝えしました。大事にしてほしいのは、「モノを置く人の視点(=空間づくりをする側の視点)」ではなく、「そこの場所で過ごす人の視点(=空間を使う側の視点)」で考えることです。
——たしかにワークショップの中でも“子どもの目線で”というワードが、よく飛び交っていました。
そうですね。長年、「オープンスペースの空間づくりにはフレキシビリティ(柔軟性)が大切だ」と言われてきたのですが、そう言われると、動かす手間になるから最初から何もモノを置かないとか、特に意図もなくパラパラと同じ家具を置くだけになりがちで。自由度が高すぎると、逆に不自由になってしまうというか、人は選べなくなってしまうんです。
がらんとした広い空間に連れて行かれて、「好きなところで過ごしていいよ」と言われても、子どもはもちろん、大人だってきっと戸惑うじゃないですか。そうではなく、空間の中にいくつかの選択肢を用意したうえで「どこを使いたい?」と聞いてあげると、「ここにする!」と選びやすくなるはず。だから私は「フレキシビリティよりも“セレクタビリティ(選択可能性)”を大切にしてほしい」とお伝えするようにしています。
——「選択肢を用意する」とは、具体的にどんな工夫が考えられますか?
たとえば、これ。この形の本棚って、2つを背面同士でくっつけるか、1つずつ壁にくっつけて置くケースが多いと思うんですけど、こんなふうに机の横に置くと、ちょっとした間仕切りとして使えるんですよね。反対側も柱になっているので、この椅子に座れば他者の視線も気にならなくなると思うし、立っている人にとっては圧迫感が少なくて、空間の区切り方としてすごく上手だなと思いました。
あとは、可動式のパーティションを持っている学校では、全部片付けて完全にオープンな空間にしていたり、逆に全部出しっぱなしにして壁みたいに使っているところが多いのではないかと思うのですが、こんなふうに1枚だけ出して使うと、なんとなくこの前だけ切り取られた感じになって、周りとは違った空間をつくることができるので、試してみてもいいのではないかと。パーティションとロッカーを組み合わせて、ちょっとした小空間をつくることもできますしね。
ポイント③:“逆バザー”を学校と地域の接点に
——学校で空間づくりをしようとすると「良い家具がない」というお悩みもよく聞きます。
そうですね。公立学校は特に、「お金がないから」と最初からあきらめてしまいがちです。でも地域の方に「子どもたちのためにいらなくなった○○を寄付してくれませんか」と呼びかけたら、意外と集まると思うんですよね。“逆バザー”みたいな感じで。
——ワークショップのなかでも、たまたま通りかかった教頭先生が「うちに余ってるソファーあげるよ」ということがありましたよね(笑)
そうそう。そんなふうに地域を探せば、きっと提供してくれる人が見つかるはず。家具は捨てるのにもお金がかかりますし、「うちがあげたやつ大事に使ってくれてるわ」って喜んでもらえるじゃないですか。最近はコミュニティ・スクール構想で、地域とつながりを増やそうとしている学校も増えていますから、地域の人も使える空間をつくるための家具を地域から集めるというのは、良い接点づくりにもなりますよね。
——声をかけたら、逆に、集まり過ぎて困るなんてことはありませんか?
昔の暮らしを知るための教材で洗濯板の寄付を募ったら、ものすごい量が集まっちゃって困った、なんて話は聞きますよね。でも、寄付した人の中には「気を遣わずに捨ててくれていいのに」と思っている人もたくさんいると思うし、「もらったものだから捨てられない」という呪縛に勝手に囚われているだけじゃないのかな。先着制にするとか、最初から「いっぱい来たらこっちで選ばせてもらいます」と伝えておくとか、やり方次第でどうにでもなると思いますよ。
はじめの一歩を一緒に踏み出してみませんか?
——実は、今回参加してくれた先生のなかには、いち視聴者だと思って応募したら、実は参加者だとわかって、外部のワークショップに参加したのも初めてで、最初は戸惑っていた方がいたんです。でも、アドバイザーの先生方に相談しながら、実際にモノを動かしていくなかで、「今までの当たり前をなくすことが大事だと感じ、とても良い経験になった」と喜んでいただけました。
まさに今回のターゲットのおひとりだったんですね(笑)一度手を動かしてみると、そんなに難しいことではないとわかっていただけたと思うし、もっとやってみたくなったのではないかと思うので、今後この学校がどんなふうに変わっていくのか、とても楽しみです。
今回オブザーバーとして視聴してくださった方の中にも、「これならうちもやれそう!」「今度は参加者として応募してみよう!」と思ってくださった方がいたら、いいなぁ。そうやって回を重ねるごとに、空間づくりの実践者の方が増えていくといいですよね。きっと実際にやってみると、今後、他校の事例を見る目が変わるというか、解像度高く見えるようになるはずなので、ご自身が事例になることで得られるメリットは大きいと思います。
——では最後に、今後の展望をお聞かせください。
先生をはじめとする学校関係者のみなさんや子どもたちだけでなく、学校をもっとおもしろがってほしいんです。今はCO-SHA Platformで学校の横のつながりをつくっているところですが、ゆくゆくは学校と何の接点もなかったような企業の人たちとのつながりもつくっていきたい。「うちのこのプロトタイプ、学校で使ってみてもらえませんか?」とか「こんな素材が余ってるんだけど、学校の空間づくりに使えませんか?」といった連携が生まれてくるような場にしていきたいんです。
学校に対して、地域の人だけでなく企業や外部の大人たちも関われる機会をつくっていけば、より学校は社会に開かれ、社会の一部になっていくように思います。そのためのつながりを生み出す媒体としてオンラインという方法は有効ですし、外の風が学校に流れ込んでくることで、先生方も子どもたちも学ぶ意欲を向上できるのではないかと期待しています。だからこそ、今回のようなワークショップ形式のイベントは、これからも改善しながら今後も続けていきたいですね。
CO-SHA Platformでは、学校施設づくりを支援するプラットフォームとして、相談窓口の提供や事例記事の掲載を行なっています。2025年2月上旬には「CO-SHA ソウゾウプロジェクト」の成果発表の場として、オンラインイベントの開催も予定していますので、ぜひみなさまの空間づくりにお役立てください。