MIT Media Lab CREATIVE TALK
Learning Creative Learning ~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~
2013年4月10日、六本木アカデミーヒルズで「MIT Media Lab CREATIVE TALK」が開催されました。本イベントは、マサチューセッツ工科大学(MIT) メディアラボと、多様な先端テーマを共に考えて行く特別講座シリーズ。第1回目のゲストは所長の伊藤穰一さんです。
MITメディアラボ所長・伊藤穰一さんの「学び」考 〜「幼稚園で働き、変人が偉くなる世界」のつくり方〜
伊藤さんが提示したテーマは、「“教わる”のではなく、”学ぶ”」。自身の「9 Principles」(※) にも登場する考え方を軸に、学びの本質とその未来について語り、議論し、考えました。特に印象的だった5つのトピックを、伊藤さんの言葉を交えながらご紹介します。
※伊藤穰一さんは、BI(Before Internet:インターネット登場以前)からAI(After Internet:インターネット登場以後)を迎え、変貌した世界を、9つのプリンシプルで説明しています。そのひとつが、”Learning over education(教育より学び)”。
THE PRINCIPLES:Resilience over strength, Pull over push, Risk over safety, Systems over objects, Compass over maps, Practics over theory, Disobedience over compliance, Emergence over authority, Learning over education
1. 何歳の頃が一番クリエイティブだった?
「あなたが幼稚園生の頃を思い出してください。絵を描いたり、粘土をこねたり、“つくる”ことをしていましたか? では、現在はどうですか?」
5歳児は皆、自由にクリエイティビティを発揮しています。でも、「立派な大人」になると、クリエイティブなことからは離れてしまうーー。「私たちは、そういう“教育”を受けている」と、伊藤さんは言います。
Kindergarten(幼稚園)。それが、MITメディアラボが考える、最も刺激的な「学び」の場。ブロックに没頭し、友だちと喋りながら次々と発見していくように、ラボの研究者は手を動かし、創造と対話を繰り返し、学びを深めていきます。
2. 「教育」の仕組みはいつ生まれた?
「現在の教育システムの根幹には、産業革命以降の価値観があります。生産効率を上げるため、時間を守り、皆と同じ行動をとることが重視されます」
しかし今、「皆と同じことが出来る」のは、本当に必要なスキルでしょうか? AI時代(After Internet:インターネット登場以降)、社会は急速に変化しています。重要なのは、指示に従って行動する能力ではなく、柔軟性と想像力。だから、クリエイティビティが大切なんです。
3. カンニングは悪いことだろうか?
「テストでカンニングをすると先生に怒られますよね。“一人で何ができるか”が、現在の評価軸だからです。でも僕は、3.11直後にカンニングをしました。“一番できるやつ”に答えを求めたんです」
伊藤さんが例に挙げたのは、福島の原発事故を受け始まった、ボランティア・プロジェクト「SafeCast」。
「当時、僕はボストンにいて、家族は千葉県。情報も知識も無く、とても不安でした。だから僕はネットで呼びかけ、世界中の専門家と繋がりました。一週間後には放射能関連の膨大な知識が集まり、一ヶ月後にはオープン・ハードウェアのガイガーカウンターが完成し、各地で測定開始。SafeCastは、国よりも速く、世界各地の放射線量をオンラインで公開できました」
ひとりで考え続けるよりも、人や知識をネットワークし、素早く実行すること。重要なのは、「The power of pull(必要なときに引き寄せる力)」。
4. 「先生」って誰を指すの?
「学ぶのに先生は必要でしょうか? そもそも“先生”とは誰を指すのでしょうか?」
伊藤さんの学歴は、大学中退。それでも、MITメディアラボの所長に抜擢されたのは、「自分なりの学びを重ねてきたから」だと言います。キーワードは、「Interest(関心)」。
「子どもにギターを買い与えた後、あなたなら、何をしますか? 多くの親は、子どものために”先生”を探します。でも今の子どもたちは、YouTubeであっという間に弾き方を覚え、仲間とSNSで教え合うんです」
学び合いのためのオンライン・コミュニティは、現在、無数に存在します。その参加動機は、純粋な好奇心。学位が欲しいからではありません。MITメディアラボでも「Learning Creative Learning」という、P2P(個人対個人)の学びを重視する無料のオンラインプラットフォームを開設しました。
「先生がいないと何もできない……というのは駄目。教師は、場のコーチであり、哲学を教えてくれる人。子どもにとっては触れる人全てが”先生”なのです」
5. システムを変える? ムーブメントを起こす?
トークセッションでは、会場からのコメントや質問、提案が相次ぎました。特に意見が集中したのは、教育システムの問題です。それに対し、伊藤さんが提案したのは、「システムは変えなくていい」という方法論でした。
「現在の教育システムは、とても堅牢で、複雑で、変えがたいものです。だから、MITメディアラボでは、システムの外側で実験しています。アメリカの場合は、学校教育の時間が短く、家庭教育を認める制度もあるのでやりやすいんですね。
権威に対して運動を起こし、エネルギーを消耗するよりも、システムの外側で自分がやってみること。小さくてもいい。変な人を集めて、ムーブメントを起こし、パターンをつくることが大事だと思うんです」
「学校以外に興味を持つと反対されたり、親がやって欲しいこと以外は嫌がられたり。そもそもインターネット自体が危険視されていたり……教育システムの他にも課題は山積みです。
だけど、日本って“ちょっと変な人”は認められなくても、“宇宙人クラスの超変な人”は偉くなれる。不思議な国なんですよね。変な人、柔軟な思考の人、面白いアイデアを生み出す人……『変になってもいい』というライセンスはどうやったらもらえるのかなあ。そんな”外側”のアイデアを考えてみることに、ヒントがあるのかもしれません」
幼稚園のような場所で働き、そして“変な人”が活躍する世界。ワクワクする未来のヒントは、「学びのデザイン」にあるようです。これからも「MIT Media Lab CREATIVE TALK」では、MITメディアラボ・メンバーによるセッションが予定されています。お楽しみに。
関連リンク
イベント概要
2013年4月10日(水)、MITメディアラボとアカデミーヒルズのシリーズコラボレーション講座「MIT Media Lab CREATIVE TALK」を開催します。 MITメディアラボ所長である伊藤穣一(Joi Ito)氏をゲストにお招きし、MITメディアラボのプログラム”Learning Creative Learning”をテーマに 「教わる」から「学ぶ」を実践するMITメディアラボの活動についてお話いただきます。
イベントの後半では参加者のみなさんと一緒に「Learning Creative Learning」について考えていきたいと思います。
開催概要
セミナータイトル | MIT Media Lab CREATIVE TALK Learning Creative Learning ~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~ |
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開催日時 | 2013年04月10日 (水) 16:00~18:00(開場15:30) |
場所 | アカデミーヒルズ49(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー49階) |
参加費 | 3,000円 |
定員 | 100名 ※定員になり次第締切らせていただきます。 |
主催 | アカデミーヒルズ |
協力 | MITメディアラボ 株式会社ロフトワーク |
お問い合わせ | アカデミーヒルズ スクール事務局 「Roppongi BIZ」あて 受付時間:10:00-19:00 (土・日・祝・年末年始を除く) ※お電話及びメールでの講座お申込は受け付けておりませんのでご了承ください。 電話番号 : 03-6406-6200 イベント詳細ページは こちら から |
プログラム
16:00〜17:00
伊藤穣一氏トークセッション
MIT Media Lab 所長 伊藤 穰一氏
17:00〜18:00
Q&Aを含めた参加者とのインタラクティブセッション