日本の魅力を世界へ - 海外進出を狙うジャパンブランドのこれから
東京オリンピックを2020年に控え、日本の魅力を海外に発信する機会はますます増えようとしています。日本ならではの技術や強みを持つ中小企業にとってはビジネスチャンス。しかし、海外進出は難しいチャレンジでもあります。そこにある課題は何か?解決への近道は?ロフトワークは2014年12月19日、経済産業省JAPANブランドプロデュース支援事業「MORE THAN PROJECT」の協力を得て、ジャパンブランドの未来を考えるイベントを開催しました。
世界を狙う中小企業×プロデューサーを国が支援
[概要]
大橋氏は、「クールジャパン政策の中で、海外に向けて日本のいいものをプロデュースする役割を担うのがこの事業。優れた商材・サービスを持つ企業をプロデューサーがサポートすることで、実際に海外展開が図れるようなスキームで進めている」と説明。現在、16の採択事業が活動中です。
[活動の特徴]
「各プロジェクトの事務的な手続きを支援するだけでは事業は成立しないので、ロフトワークはPRも含めた全体の支援のあり方を設計。このイベントもその一環です」と秋元。採択事業を絵に描いた餅で終わらせないために次のような機会を提供しているのも、この事業の特徴です。
- アドバイザリーボード
第一線で活躍するプロをアドバイザーとして招き、定期的に進捗状況の共有と課題解決に向けたディスカッションを実施。 - マッチングフェスティバル
海外販路の拡大につなげることを目的として、海外のクリエイターや流通業者とのビジネスマッチングイベントを開催。 - マンスリーレポート
各プロジェクトの月次レポートを公式サイトで発信。
[狙い]
経済産業省の狙いは2つ。吉田氏は、「1つは、補助金を支援するだけではなく、我々も一緒に海外展開していくパートナーであること。もう1つは、今回得たノウハウを、海外展開を狙う他の事業者にも広く波及させていくこと」だと説明。さらに大橋氏が、「中小企業の海外展開を支援すると同時に、プロデューサーとして参加するデザイナーやクリエイターの活躍の場を作る狙いもある」と続けます。
「作る」から「売る」までを外部の視点でファシリテートする
第二部では「MORE THAN PROJECT」のアドバイザーを務める鶴本晶子氏、栗栖良依氏が登壇し、株式会社JDN 山崎泰氏をモデレーターにディスカッション。日本で最後の魔法瓶工場の技術を使って世界ブランド「SUS gallery」を立ち上げた鶴本氏、別々のものをつなげて新しい価値を生み出す活動を続ける栗栖氏。海外展開に豊富なゲストの経験と知見が語られました。
山崎:アドバイザーとして参加されていかがですか?
鶴本:メンバーが非常に豪華だと思いました。私が商品を世界に展開した際はゼロから一人でスタートし、経験者に意見を求めながら知識をストックしていきました。「MORE THAN PROJECT」ではそれがシステム化されているので、スピードも質も高まります。作るところから売るところまでを外部の視点でファシリテートする人間が、中小企業やものづくりには必要だと考えます。そういう意味でも最高のプロジェクトです。
栗栖:国の事業でクリエイティブというのがとても斬新だと思います。しかも、スキーム自体が秀逸です。補助金を支援して終わりではなく、アドバイザーや経産省、ロフトワークを含む関係者全員が定期的に会って情報共有する機会があります。行き詰ったときにみんなで集まって情報共有できるとブレークスルーになりやすく、前に進めます。アドバイスする・されるではなく、一緒に悩んで気づきを得るフラットな関係もいいですね。
山崎:一方で、当事者の行動力、熱意は大事ですよね?
鶴本:ある海外ブランドの担当者が日本の会社と組むときに、パッション、インテリジェンス、コミュニケーションの3つが揃っていない会社とは組まないと言っていました。特に海外展開では次々と大変なことが起こるので、パッションがないと続きません。
山崎:モノを作ったら売りに行くだけでなく来てもらおうよ、という流れがあり、場づくりやコトづくりが重要になってきます。その辺りを得意分野とされる栗栖さんはどうお考えですか?
栗栖:作っているところを見せるだけでなく、実際に体験してもらうことで、五感を通して記憶に残ります。日本企業はスペックの高さを売りに世界で勝負しようとしますが、欧米はむしろ、生活シーンや体験がどれだけ豊かになるかという「コト」を重視します。海外で勝負するなら、どれだけ暮らしを豊かにできるかを考えてほしい。これは日本企業に声を大にして言いたいことですね。
山崎:最後に一言ずつメッセージをいただけますか?
鶴本:何もないところから生まれるブランドを“美しい嘘”と表現した方がいましたが、ただの嘘つきで終わらないためには努力が必要。私自身も発展途上です。一緒に考え、クリエイティブファシリテートの集団として、日本ブランドのプラットフォームとして進んでいきましょう。
栗栖:ライバルではなく仲間として進んでいける、みんなで取り組むプロジェクトに、これからも注目していただきたいですね。
現在、16のJAPANブランドが世界に挑戦中!
第三部では、「MORE THAN PROJECT」に採択された16のJAPANブランドを紹介。うち7ブランドからは、採択事業の企業担当者もしくはプロデューサーが会場に駆け付け、プロジェクトへの熱い想いをそれぞれの言葉で語りました。
04 marumasu scarves from Tokyo
丸枡染色株式会社の松川和広氏は、2011年から自社で始めたスカーフブランドを紹介。東京柴又の染色工場でデザインから手がけるストールを、まずはフランスで開催される「メゾン・エ・オブジェ」に出展するべく準備を進めています。
05 Edo Karakami project
プロデューサーの柳智子氏が、江戸時代から325年続く株式会社東京松屋の装飾和紙「江戸からかみ」を紹介。約350種類の文様があり、ふすま紙として使われてきた同製品をインテリアの素材として、歴史への理解が深いヨーロッパに展開しようとしています。
07 Washoku in the UK, ENGAWA
ものづくりを中心とする16プロジェクトの中では、唯一のサービス業であるソルト・コンソーシアム株式会社。大鳥進吾氏は、イギリスロンドンにある最高級ホテル「ハムヤードホテル」に、念願の和食レストランをまもなくオープンできる予定だと説明しました。
09 Arita Porcelain Lab Paris Launch
プロデューサーの市川由紀氏は、フランスに日本食ブームが来ていると説明。フランス人のようにライフスタイルを楽しもうとしている国民性に働きかけ、有田焼窯元のモダンブランドを世界のラグジュアリーブランド化しようとしています。
10 KANAORI: The Metal Textile
石川金網株式会社の石川幸男氏とプロデューサーの松田龍太郎氏は、従来製品のBtoC商品や生活用品などへの幅広い用途展開を考えて作った「KANAORI」を紹介。同ブランドを素材提供し、別分野や異素材と組み合わせて新しい価値を生み出そうとしています。
13 Field Sue Project
株式会社スノーピークの伊豆昭美氏は、アウトドアメーカーとして従来商品を使った【コト】づくりを進めています。【絶景スポットに期間限定で設置・開催されるワンランク上のキャンプスタイル、】新しい旅・野遊びの提案に向け、ラグジュアリーテントを開発中です。
14 Banshu Hamono
プロデューサーの小林新也氏は、日本の刃物の課題を指摘しつつ、その解決に向けて約2年前からスタートした活動を紹介。現在、世界各国の刃物の使い手を訪ね歩き、使い手の意見が反映される仕組みを構築、販路を拡大しようとしています。
もし、あなたがプロデューサーだったら?
後半は、「MORE THAN PROJECT」のプロデューサーを務めるロフトワークの伊藤薫を中心に4つの商材をピックアップしIde-a-thonを実施。もし、あなたがプロデューサーだったら?という架空の設定のもと、担当する商品をどうプロデュースするかを考えました。また、アイデアの具体化にあたっては、有名雑誌に取材されるくらい海外で評価されることをイメージ。有名雑誌に掲載されたときのキャッチコピーや大見出しなど、雑誌のフォーマットに置き換えて考える「カバーストーリー」という手法を用いてワークショップを行いました。
<ワークショップの流れ>
ワーク1:4つの商材の中から担当したい商材を選ぶ
ワーク2:4人1組のチームを作る
ワーク3:商材の新しい利用方法を考える
ワーク4:カバーストーリーを考える
ワーク5:各チーム内で発表
ワーク6:最終発表・講評
<最終発表&講評>
ワークショップ終了後は、商材を提供した採択事業者自ら、各チームのアイデアを紹介。採択事業者をうならせる面白いアイデアも飛び出しました。
丸枡染色:marumasu
アイデア1:年齢層の高い人だけでなく次世代向け商品を開発
アイデア2:ベビースリングやハンモックなど赤ちゃん向け商品を開発
東京松屋:Edo Karakami
アイデア1:和紙の効用を活かしてリラックス空間に採用
アイデア2:呼吸するベッドを開発
アイデア3:リゾート地で和紙を使ったデザインウィークを開催
播州刃物:Banshu Hamono
アイデア1:刃物のソムリエを育てて各地に点在
アイデア2:教育の現場でアピール
石川金網:KANAORI
アイデア1:繰り返し使えるラッピングとして花束に使用
アイデア2:リゾートやアウトドアで使える自律する蚊帳を開発
最後にクロージングトークに立った経済産業省の大橋氏は、「国の事業らしくないというお声もありましたが、我々は中小企業だけでなく、プロデュースする側の人たちも支援したいし、そのための場を作っていきたい。今日こうやって一緒に考えていただいたように、これを機に一緒の場でお仕事ができれば」と総括。
一方、参加者からは、「違う目線からモノを捉える貴重な経験だった」「とても楽しかった」「作られている方と一緒にやるとテンションが上がる」などの感想が聞かれ、それぞれに収穫の多いイベントとなったようです。
官民一体となって進めている「MORE THAN PROJECT」はまだはじまったばかり。ロフトワークでは今後もMORE THAN PROJECTを支援していきます。
MORE THAN PROJECTとは?
世界を狙う企業×プロデューサーの力で、「今」の日本の魅力を世界へもっと発信しよう!世界のマーケットへ展開しよう!そんな想いから始動した本事業は、日本の商材・サービスを海外へ届けたい中小企業×プロデューサーの活動を支援する経済産業省の事業です。
公募で採択されたプロデュースプランには、経済産業省「 JAPANブランドプロデュース支援事業」の補助金が交付され、プロジェクトによる情報発信や販路開拓などのサポートが提供されます。本年度は株式会社ロフトワークが事務局を務め、「MORE THAN プロジェクト」というテーマで展開していきます。
イベント概要
日本ブランドの魅力を世界へ。
フジヤマ、サムライ、スシ、ゲイシャ…これまでの日本の定番だけではなく「今」「これから」世界に伝えたい日本の魅力はたくさんあります。
本イベントはロフトワーク主催で、伝統工芸、ファッション、地域産品、食など幅広いジャンルで日本らしい強みを活かした商品に注目するとともに、海外という新たな環境でその価値を提供するにはどうすればよいのか?日本と世界の「ものづくり」の共通点や相違点はなにか?
ロフトワークが、経済産業省 JAPANブランドプロデュース支援事業「MORE THAN PROJECT」の事務局として海外展開を応援する日本ブランド16組の中からゲストを迎え、みなさんと一緒に考えていきます。
日本の強みを活かした商品やものづくりに興味がある方はもちろん、海外進出のナレッジや世界への情報発信の手法を知りたいメーカー企業の皆さん、などのご参加をお待ちしています。
開催概要
セミナータイトル | 日本の魅力を世界へ – 海外進出を狙うジャパンブランドのこれから |
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開催日時 | 2014年12月19日(金)13:00〜18:10 (12:30受付開始) |
場所 | KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ) 最寄駅:つくばエクスプレス線 柏の葉キャンパス駅 「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分 |
対象 |
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参加費 | 無料 |
定員 | 60名 ※申し込み多数の場合は抽選とさせていただきます |
主催 | 株式会社ロフトワーク |
協力 | 三井不動産株式会社、経済産業省 |
ご注意 |
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お問い合わせ | 経済産業省「JAPANブランドプロデュース支援事業 MORE THAN プロジェクト」 プロジェクト事務局(企画・運営):株式会社ロフトワーク内 お問い合わせ時間:10:00~18:00(土・日・祝祭日を除く) お問い合わせ先:morethan@loftwork.com |
プログラム
13:00〜13:40
オープニング 「日本の魅力を世界へ – 海外進出を狙うジャパンブランドのこれから」
モデレーター:株式会社ロフトワーク 秋元 友彦
経済産業省 商務情報政策局 生活文化創造産業課(クリエイティブ産業課) 大橋 礼昌氏
経済産業省
商務情報政策局 生活文化創造産業課(クリエイティブ産業課)
大橋 礼昌氏
経済産業省 商務情報政策局 生活文化創造産業課(クリエイティブ産業課) 吉田 剛成氏
経済産業省
商務情報政策局 生活文化創造産業課(クリエイティブ産業課)
吉田 剛成氏
13:40〜14:40
「海外進出の実情とヒント」
クリエイティブ&マネージングディレクター 鶴本 晶子氏
クリエイティブ&マネージングディレクター
鶴本 晶子氏
栗栖良依氏 ヨコハマ・パラトリエンナーレ 総合ディレクター
ヨコハマ・パラトリエンナーレ
総合ディレクター
栗栖 良依氏
山崎 泰氏
株式会社JDN
取締役 編集制作部長 JDN・登竜門 編集長
山崎 泰氏
14:40〜15:00
休憩
15:00〜15:40
「世界に挑む16のジャパンブランド」
・KANAORI: The Metal Textile (石川金網株式会社)
・Edo Karakami project(株式会社東京松屋)
・Washoku in the UK, ENGAWA (ソルト・コンソーシアム株式会社)
・Arita Porcelain Lab Launch Paris(有田製窯株式会社)
・Field Suite Project(株式会社スノーピーク)
・Banshu Hamono(株式会社タナカマイスター)
・marumasu scarves from Tokyo (丸枡染色株式会社)
モデレーター:株式会社ロフトワーク 秋元友彦
経済産業省 吉田 剛成氏
15:40〜17:30
商材紹介&Ide-a-thon
17:30〜18:00
サマリー
18:00〜18:10
クロージング