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GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.5 グッドデザイン大賞受賞 デンソーから学ぶプロダクトデザイン 開催レポート

“グッドデザイン・ベスト100”に選ばれた商品にフォーカスし、イノベーションのヒントに迫るシリーズイベント「GOOD DESIGN BEST 100とその未来」。KOILのオープンを機にスタートしたこのイベントも、今回で5回目。デンソー社をゲストに迎え、イノベーティブな商品開発とデザインの関係について考えました。

KOILから世界を変える!イノベーションの新拠点に期待

ロフトワークの君塚美香によるオープニングトークのあと、三井不動産株式会社の加藤慶氏が、会場となったイノベーション拠点「KOIL」を紹介。KOILが位置する柏の葉は、「公民学連携と住民参加により、地域のポテンシャルを活かしながら社会的課題を解決する新しい街づくりを目指している」と加藤氏。街づくりのテーマ「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」の3つのうち、KOILは新産業創造の核になる施設として誕生したのです。

KOILを象徴するスペースは次の3つ。
KOIL Park:170席の日本最大級コワーキングスペース。
KOIL Studio:イベントなどを通じて人々の交流を促し、化学反応を起こす場。
KOIL Factory:最新のデジタルファブリケーション機器を揃えるものづくり工房。

利用者は起業家に限りません。大学の研究者、エンジニア、クリエイター、ベンチャー企業の支援者などを巻き込んでコミュニティを作り、イノベーションを起こすのが狙いです。KOILは“あなたが世界を変える場所”として、柏の葉から世界へ羽ばたくステップになろうとしています。

イノベーティブな挑戦を加速するのは、プロトタイプする力

2014年度グッドデザイン賞で大賞を受賞した「医薬・医療用ロボットVS050-S2」。冒頭でプロモーション映像に映し出されたのは、うっとりするほどなめらかで美しいロボットの形と動き。デザイナーとして開発に携わった株式会社デンソーの折笠弦氏はその開発経緯をこう説明します。

「自動車部品を作ってきたデンソーは、事業領域を拡大しつつある。その源は、なければ作るという文化。今回のプロジェクトはロボット事業の販路拡大が狙いですが、着目したのはクリーンルームという特殊な環境です。防護服の着用と滅菌処理にはコストと手間がかかる上に、危険な薬剤を扱うリスクを伴う作業。当初これを代替するロボットが普及していなかったため、市場進出を決めました。」

開発上の最大の課題は「清潔さの維持」。「汚れを蓄積させない」「バクテリアの繁殖を防ぐ」「特殊な洗浄に耐える」の3つの具体的課題に対し、次の2つの方向性で解決していきました。

<表面>
耐久性・抗菌性の観点から特殊な3層めっきの採用が決定。問題は多数のネジ穴、ボディの溝やエッジが汚れの溜まる場所になること。汚れを溜めない構造と洗練された見た目を両立させるため、詳しい設計要件を聞く前にスケッチを描いてエンジニアと共有した。

<形状>
こだわったのは「軸の接合」。多軸間接ロボットのシンプルな構造を素直に形に表すとともに、間接の断面を汚れの溜まりにくい真円にしたのもポイント。ロボットはどんな構図でも美しく、その動きが魅力的であってほしいというのが折笠氏の考え。すべての間接の断面を真円にしたのには、動きの気持ちよさを実現する狙いもある。

プロジェクトの成功要因を振り返り、「エンジニアの理想とデザイナーの理想を極めて早い段階から刷り合わせ、最終的に優れたデザインにつながることを理解してもらい、ビジョンを共有できたこと」と語る折笠氏は、「昨今、デザインエンジニアリングという言葉が聞かれるように、デザイナーとエンジニアの境はなくなりつつある」と指摘。

「より多くの人が極めて低いハードルでクリエイターになれる時代に、我々デザイナーが担う役割は何か?」と自問自答し続ける折笠氏の一つの答えが、“プロトタイプする力”=無から有を生む力です。優れたアイデアは共有しなければ意味がありません。見えない理想や概念に形を与え、それを完成像につなげ、共有する力。折笠氏は、ここにデザイナーの役割があると考えています。

眠っている技術に出口を見つけてあげるのがデザイナーの役割

続くトークセッションでは、モデレーターを務めた東京藝術大学美術学部デザイン科准教授の藤崎圭一郎氏が、株式会社デンソーの吉田佳史氏と折笠氏のお二人と、事例を交えながらデザイン部門のあり方についてディスカッション。その一部をご紹介します。

東京藝術大学美術学部デザイン科准教授 藤崎 圭一郎氏

藤崎氏:デンソーは長いことデザインの本質を追究してきた組織として大変興味深いものがあります。まずはデザインのフィロソフィーから語っていただきたい。

吉田氏:デンソーのデザインポリシーは、そもそもデザイン、ないからデザイン、すっぴんデザイン、といかけデザイン、からくりデザインの5つ。この軸は常にブレないようにしています。たとえば、そもそもデザインの事例を挙げるなら、ナビを作ろうというときに、ナビではなく地図を考えることから始まります。人は地図を見て何を考えるのか?人自身を研究してアイデアを出すというアプローチです。

最近は、デザインの領域が広がりつつあり、新しい価値の創出、新事業領域でのデザイン、ブランディングの3つに力を入れています。

藤崎氏:エンジニアを目指す若い世代の美的センスも昔とはずいぶん変わってきている気がしますが、 デザイナーとエンジニアがビジョンを共有するコツなどはありますか?

吉田氏:言語が違うので、理屈で言っても伝わりません。デザイナーなりの理屈で“作って提案する”ことから始まります。目的を共有できれば、いろいろありつつも、ゴールに向かって進むことができます。

株式会社デンソー デザイン部 担当部長 吉田 佳史氏

折笠氏:感度の高いエンジニアと仕事をするときは特に注意が必要です。美しさに対する関心の高さはある意味ミーハーさでもあるからです。もともとデザインが施されていなかったものを見栄えよく整えるだけで喜んでもらえますが、それはマイナスをゼロにしているだけであって、我々はその先を追求しなければならないからです。

藤崎氏:部品メーカーのデザイナーに何ができるのか、自分たちの技術を使って社会に対して何ができるのかを真摯に問い続ける中で、初めてイノベーティブな発想が生まれてきているのでは?しかも、それを狙っているのではなく、美しい結果論になっているところがデンソーのいまの面白みだと思います。

折笠氏:当社は技術の会社です。開発していく中で眠っている技術もたくさんあります。そういう技術に対して出口を見つけるのがデザイナーの役割。進行している事業は売上を上げることが優先され、常に走り続けることを要求されます。そこで客観的な視点から、「この技術をこんな風に組み合わせたら問題を解決できるのでは?」ということを見つけ出すのが、我々の重要な仕事の一つではないかと考えています。

ストレスだったインターフェイスや体験をどうリデザインする?

トークセッション後は、ロフトワークのグロースハッカーの原、クリエイティブディレクターの松永が中心となって「レガシー(遺産的)なものをデザイン指向でリデザインする」ワークショップを実施。

ワークショップをファシリテートしたロフトワーク原(左)と松永(右)

5人で1つのチームを作り、個人ワークでスタート。一人ひとりが「気持ちよかったインターフェイスや体験」と「ストレスだったインターフェイスや体験」を書き出し、チーム内で共有したあと、「ストレスだったインターフェイスや体験」の中から解決したい対象を1つ選択。「気持ちよかったインターフェイスや体験」をヒントに解決策をディスカッションし、チームごとに発表する流れです。

発表では、「醤油があけ口から垂れる→イクラの形をしたジェル状の食べられる醤油差しを開発」「高機能トイレの複雑なインターフェイス→センシング技術の活用で簡素化」「満員電車内での濡れた傘の心地悪さ→広告塔の役割も併せ持つ無料かつ返却を促す特典付きのレンタル傘を設置」といった個性的なアイデアが発表され、参加者たちがそれぞれに化学反応を楽しんでいる様子が伺えました。

イベント概要

優れたデザインとは何か?

”GOOD DESIGN BEST100”のプロダクトに焦点をあて、開発背景やプロセスを紹介し、デザインについて考える本シリーズイベント。今回は、2014年度グッドデザイン大賞に選ばれたデンソー社をゲストをお迎えします。

デンソーにおけるデザインの役割は、従来そして、多くの日本メーカーとは異なります。技術方針が決まった上で、形をつくるという領域を超え、「どんな方向に技術や商品を発展させ、将来的に生活者にどのような価値提供を行っていくべきか?」までをも考える幅広い役割に変化しつつあるといいます。昨今の成熟した市場では、企業は自ら問題定義を行い、コンセプトを想像し、新たな市場を創り出す必要があるのかもしれません。

今回、グッドデザイン大賞に選出された「医薬・医療用ロボット VS-050S2」。「衛生状態の維持」と「自動化」という医療業界のニーズを的確にとらえ、クリーンルームなどの滅菌環境下で生産性向上、コスト削減、安定した品質の維持を実現しました。デンソーのもつ既存技術をベースに新たな市場をつくりだし、産業用ロボットの可能性をも大きくひろげた商品といえます。

本イベントでは、グッドデザイン大賞「医薬・医療用ロボット VS-050S2」を事例としてとりあげながら、業界を牽引するプロダクトがデンソーの中でどのようにうまれるのか?をデザイン部門の在り方、研究技術を商品化するまでの社内プロセス、イノベイティブな商品開発をするための組織文化などの視点からご紹介いただきます。

開催概要

セミナータイトル GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.5
グッドデザイン大賞受賞 デンソーから学ぶプロダクトデザイン
開催日時 2015年2月6日(金) 13:00〜17:10(12:30受付開始)
場所 KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)
最寄駅:つくばエクスプレス線 柏の葉キャンパス駅 「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分
対象 ・既存技術の可能性を広げるデザインに興味のある方
・デザインやテクノロジーに携わる方
・大手、ベンチャーのものづくり企業
参加費 無料
定員 50名
主催 株式会社ロフトワーク
共催 三井不動産株式会社、公益財団法人日本デザイン振興会
ご注意 ・参加者の皆さんの聴講・作業風景などのお写真や、発表いただく内容は
後日弊社サイトにて掲載させていただく可能性があります。予めご了承ください。
・プログラムは予告なく変更される場合があります。

プログラム

13:00~13:10
オープニングトーク
13:10~13:30
柏の葉イノベーションラボ「KOIL」とは?
三井不動産株式会社
ベンチャー共創事業室 主査
加藤 慶氏
13:30~14:00
– 既存技術をベースとしたイノベーション – グッドデザイン大賞受賞プロダクトの開発プロセス
・産業用ロボット/医薬・医療用ロボット VS-050S2
・開発背景とプロセス
・ロボットアームが及ぼす社会的価値と医療業界への影響
株式会社デンソー
デザイン部 市場開発室
折笠 弦氏
14:00~14:20
休憩 & KOIL見学
14:20~15:00

パネルディスカッション
デンソーカルチャーからみる、優れたデザインを創造する仕組み
・新しいデザインをうみだすためのカルチャーと取組み
・エンジニアリングとデザインの融合
・ひろがるデザインの領域

株式会社デンソー
デザイン部 担当部長
吉田 佳史氏

株式会社デンソー
デザイン部 市場開発室
折笠 弦氏

藤崎 圭一郎氏

15:00~17:00
ワークショップ
17:00~17:10
クロージング

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