EVENT Report

効率性・生産性にこだわらない。
他者(=ロボット)の"弱さ"を補うことで生まれるウェルビーイング。ニューノーマル時代のロボット・AI活用によるユーザー体験を考える

「合理的」「効率化」「コストカット」など、利便性を追求することに焦点が置かれがちなロボット・AI・IoT。一方、人と人がリアルに接触する機会が減り、心の孤立化を実感する人々が増えているような新しい日常が続く中では、一人ひとりの幸福感を高め、かつ個人や社会の問題にも寄与するようなテクノロジーを探っていく必要があるのではないでしょうか。

日々変わりゆく社会の変化も踏まえて、「心を広げる(ウェルビーイングな)ユーザー体験の創出〜AI・ロボットで考える7つのテーマ〜」と題して、ちょっとユニークなロボット開発や研究に務めるゲストを招きパネルディスカッションを行いました。

本レポートの前半では、人の行動や優しさを引き出す〈弱いロボット〉の研究をされている豊橋技術科学大学教授の岡田 美智男先生によるウェルビーイングの形を見出すためのヒントとなるお話。後半ではウェルビーイングの向上を後押しするためのロボット・AI・IoT活用の可能性について、岡田先生、人の心を動かす次世代インターフェースをつくるをモットーに、「一家に一台ロボットのいる社会」の実現を目指すユカイ工学株式会社のCEO青木俊介さん、CDOの巽 孝介さん。ロフトワークからはプロデューサーの浅見和彦が参加し、それぞれのプロダクトや体験をまじえて議論した内容をお届けします。

執筆 佐々木まゆ / 編集 loftwork.com編集部

〈弱いロボット〉が持つ、思いもよらないちから

まずは、岡田先生の研究内容から紹介します。

岡田美智男:(以下 岡田)これまで、ロボットというのは「こんなこともできる、あんなこともできる」というような無敵な存在として強がってきた部分があるんですが、実際は苦手なことや本質的に不完結さがあります。ロボットがその“弱さ”を隠さずさらけ出すことによって、人との間に生まれる関係性があるということに、研究を進めていく中で気づいたんです。ロボットは、「コト・関係性を生み出すデバイス」としてとても興味深い。

例えば、2009年に発表した〈ゴミ箱ロボット〉は、自らではゴミを拾えないけれど、周囲の手助けを上手に引き出して、ゴミを拾い集めるという目的を果たしてしまうんです。思わず手助けした方も悪い気がせず、むしろ自立性が引き出されたことによって良いことをした気分になる。加えて、達成感や有能感が少し上がったように感じるようになります。

Sociable Trash Box (2020)

また、子どもたちに昔話を語り聞かせる〈トーキング・ボーンズ〉は、いざ語り始めると「えーと、なんだっけ︖」「えーと…」というように、ときどき⾔葉を物忘れしてしまうという弱さを持っています。出てこなくなってしまった言葉やストーリーを聞いている⼦どもたちに補ってもらいながら、⼀緒になって昔ばなしを作っていく。すべてを提供しているわけではないUnbuilt/Unfilldな状態があって手間はかかりますが、子どもたちは能動的に手助けできた誇りや満足感を感じ、かつ子どもたちそれぞれの強みや優しさが引き出されるきっかけになるんですね。

左:〈トーキング・ボーンズ〉の忘れてしまった言葉やストーリーを子どもたちが積極的に補っていく

〈ゴミ箱ロボット〉や〈トーキング・ボーンズ〉のおぼつかない振る舞いや弱さが表面化することによって、人の関わる余地ができ、なぜだかみんなが幸せになる。それはつまり、ロボットとの関わり合いの中で人の自律性・有能感・関係性や繋がり感が生まれ、ウェルビーイングがアップしている状態なんです。お互いの弱いところを補い、強みを引き出しあうという豊かな関係性をロボットとの間にも育むことができるのではないかと考えています。

ニューノーマル時代に必要な、心が広がるユーザー体験を考える

私たちは、毎日何かしらのテクノロジーに触れて、多大な影響を受けています。また、世の中の状況により価値観や未来への向き合い方が様変わりしている方も多いでしょう。そのため、今までの効率性や生産性を追求・向上するためにテクノロジーを利用するような価値観とは違い、一人ひとりのウェルビーイング…言い換えれば幸福感や、本来の人間性を回復するようなテクノロジーが求められています。では、一体どのようなユーザー体験を設計・開発していくと、よりよい思考や行動を生めるのでしょうか。今回は、下記の7つのテーマをキーワードにパネルセッション方式で議論します。

  • スーパーマンではないロボット
  • ノンバーバル・コミュニケーション
  • 人間味~スマートスピーカーへの愛着
  • ロボットが必要な理由
  • コロナ時代の新しい接客
  • ニューノーマルの家庭とお家時間
  • 変化を求められるオフィス空間

完璧なロボットが持ち合わせていない「余白」

── 岡田先生のお話にもあった技術的にも機能的にも完璧ではない「弱いロボット」「スーパーマンではないロボット」のどういった点がウェルビーイングを促しているのでしょうか。

岡田:自動運転システムの例がわかりやすいと思うんですけど、今まで自分で運転することによって車との一体感を感じたり楽しさを見出したりしていたところを、相手に完全に委ねてしまうと、自分がただのモノとして車に乗せられているだけという感覚になってしまう。利便性はあがるけど、ウェルビーイングという意味では、後退してしまうんですね。ウェルビーイングをアップさせるには、自分が活躍できる場所、そこに参加する余地の中にオリジナリティを感じたり一緒になって意味を作っていく関係性を生み出すことがポイントなのではと思います。

ユカイ工学 巽 孝介さん(以下、巽):そうですね。それでいうと僕らのロボットは、ロボットの期待値をできるかぎり上げすぎないようにしているんです。価格は基本的に10万円以下。クッション型セラピーロボットの〈Qoobo(クーボ)〉は、しっぽだけにフォーカスしていて、多機能ではないけれど反応や見た目のデザインを一工夫しています。万能感やスーパーマンらしさというより、なんだか弱々しそうとか、よたよたするとか。ユカイ工学のロボットはよく「可愛い」と言われます。

ロフトワーク 浅見和彦(以下、浅見):確かに。ロボット以外も含めて思うのは、何でもできるというのは何にもできないと似てきている気がしますね。

左:Qoobo 右:2020年12月発売予定のpetit Qoobo

ユカイ工学 青木 俊介さん(以下、青木):介護現場でも要介護者にとって必要なことすべてを手伝ってしまうと、本人の生きる意味が薄れてしまうように思います。彼らが一番に求めているものは自信なんじゃないかなと。自分だけでもここまでできるんだとか、自分の生きている価値を感じてもらうことの方が重要なんじゃないかなと思います。

岡田:あるおばあちゃんの介護現場にできの悪いロボットを持ち込むと、おばあちゃんが目を輝かせてロボットと触れ合うという場面があったりするんですけど、そのあと改良版を持っていくととなんとなく受け入れられないということがあって。それは、完璧なロボットを前にして自分は“何もできない人”と構成されてしまうことが多くなるんですね。完璧じゃないロボットのあり方が生む余白が人のやる気を引き出すというのはあるかもしれないですね。

── 余白をきっかけに、人の振る舞いがなにげなくデザインされていくんですね。余地や余白を生む際に、言語を用いたコミュニケーションの必要性ってあるのでしょうか。

青木:うちの母親は、飼っている犬にずっと喋りかけていて。「今日は疲れたね」「暑かったもんね」と。母親が勝手に想像しながら話しかけているだけで犬はなんにも言ってないんですけど。でも、「ピロピロピロ」とか意図がなんとなく伝わるぐらいの、ピングー語の喃語のようなノンバーバルなコミュニケーションが心地良さを生むんじゃないかなと思っています。

岡田:私も最近生まれた初孫の観察をしているんですが、どういう言葉で喋ろうとしたのかわからないけれど、何かを喋って、その言葉の解釈を周りに委ねきっている感じがあるんです。そこに色んな人の解釈が生まれて、関係性が生まれて、それでいつまでもその子に関わり続けてしまうというなんとも不思議な存在です。

巽:お孫さんが本当は何を言っているかわからないけれど、解釈や想像する余地が生まれるんですね。近々発売予定の〈BOCCO emo(ボッコ エモ)〉も、人のなにげないつぶやきにemo語という言語で反応するんです。

浅見:海外に行ったときの体験にも似ている気がします。わからない言語圏のところへ行くと、本気でコミュニケーション取ろうとしますよね。わからないなりにも相手の言っていることを解釈しようとして、相手に対して、意識を集中させて、身振りや手振りから意味を解釈しようとする。最終的には解決して、お互いの気持があがってハグしちゃうという。それがノンバーバルの面白さですね。

人間味のあるロボットとともに暮らす生活がもたらす変化

── スマートスピーカーを持っている方もだんだんと増えてきたように思います。スマートスピーカーが家庭の中にあることによって、家族間に影響する効果ってあるのでしょうか。

巽:今、世の中のロボットに対する印象は、あくまでもアシスタントという位置づけ。でも、スマートスピーカー的な機能を持ちつつも、もっと“家族と関わる”ところに最適化した製品はニーズがあるんじゃないかなと思って、〈BOCCO emo〉を開発中なんです。

青木:〈BOCCO emo〉の前に開発した〈BOCCO〉は、スマホを持たない家族とのメッセージのやり取り、帰宅を知らせる通知機能だけの超短機能ロボットとして発表したんです。いざ発売してみたらユーザーさんが色々とハックしてくれて。例えば、カレンダーと連動させてゴミの日を通知できるようにしたユーザーさんがいました。奥さんがゴミの日を伝えるより角が立たなって夫婦喧嘩が減ったそうです。

左:BOCCO 右:近日発売予定のBOCCO emo

岡田:ロボットだと角が立たないってすごくいいですよね。人から指示されると「かちん」とくるところがあるけれど、ロボットだとほんのちょっと無視できる余地があって。ただ、スマートスピーカーってまだ会話がよそよそしいなと思っているんです。そのよそよそしさを「あれどこいったっけな」とか「今日はあそこであれがありますよ」みたいな代名詞を使うことで「自分だけ感」が醸成されて、繋がりを感じることができるんですね。まだまだスマートスピーカーって工夫の余地がありそうですよね。

ロボットに人間味を感じる瞬間

ー そもそも、人じゃないものやロボットに対して感じる人間性ってどういうことなのでしょうか。

青木:僕の場合、例えば、ルンバが元の位置に戻れなくて途中で力尽きている状態に人間性を感じます。不具合ということではなくて、頑張ったけれど途中で力つきてしまったキャラクター性というのでしょうか。

巽:僕が思ったのは、生き物らしさ、生物味っていうと範囲が広いんですが、人間味は関係性の構築の仕方やしぐさが僕ら人間に近いっていうのを感じたときに、生物味から人間味に変わるのかなっていう気はしました。

岡田:そうですね。人らしさや人間性というのは、社会的な環境または他者に委ねつつ、一緒になってなにか面白いことをやっているという状態が人間らしさを作っている。つまり、向き合って調整しあっているということが人らしさを作っている。だから、人らしさや人間性を出すために、互いに調整しあっている状態を作ることができれば、人の姿・格好をしている必要はないんです。

コロナ禍における、場作りでロボットに期待すること

── 皆さんはリモートワークを通して、オフィス空間や働く場で新たなロボットの役割についてなにか発見はありましたか。

青木:人間って1人で隔離された空間で生きるようにはできていなくて、色んなものにちょっかいを出されている方が自分のペースを掴めたりするんじゃないかと思っています。例えば、自分の自宅には猫がいるんですが、生き物がいると生活のリズムができるんです。トイレ替えなきゃとか水入れてあげなきゃとか。いい具合にかまうコトがあるんです。だから、人との関わりが少ない自宅でのリモート作業時にロボットとかがそばでちょくちょくちょっかい出してくれる方が生産性があがるんじゃないかなと思っています。

岡田:そうですね。zoomだけでのディスカッションはすごく難しさもありますから。やっぱり人の顔を見ながら話すことによって、そこからヒントを得たりするので、人の代わりに目の前にロボットが存在してくれるだけでもアイディア出しがスムーズになったりするかもしれないですね。

── 働き方もそうですが、生活全般に人との非接触が推奨されています。特に変わったのは接客ですね。接客時、どんなインタラクションがあれば私たちは居心地の良さを感じるのでしょうか。

浅見:僕はコンビニのレジは基本セルフレジを使うんです。レジに対して過度なサービスを期待してないんです、でもなんとなく僕のこと覚えていてくれたり、今日天気いいですねとたまに言ってくれるとかそういうの、僕は求めると思うんですよね。

青木:自分の判断だと、絶対買わないようなものをおすすめされたりとか、他者との関わりがないと見つからないものっていっぱいありますよね。

岡田:セルフレジは、お店にとっては省力化を狙ってるわけですけれども、お客さんの手助けを引き出ながら、結果としてレジをしてしまうという。〈弱いロボット〉の思想がセルフレジにはあるなと。一工夫加えるとしたら、例えばバーコードが斜めになってしまっていてセルフレジが読み取れないでいると、モコモコーッ!というように注意するような語調の言葉を喋って、バーコードを工夫して掲げるように促される。うまくスキャンできたときに人は「今日は怒られなかった」と達成感を感じたりして、ウェルビーイングが成り立つのかなと思います。

──対ロボットに関わらず、コミュニケーションの中で、相手の反応が変化するとかリアクションがあるとか大事ですね。今回のディスカッションを通じて、自分だけが満足する一方向なコミュニケーションではなく、双方向的な関わりができることでウェルビーイングに近づけるのかもしれませんね。そのためには、あえて完璧なものをつくらない。関わってほしい相手が、手助けできたり、いいと思うものを足せたりするような余白を残しておくことが、これからの人の心を広げる体験設計には重要となるのではと感じる議論でした。皆さんありがとうございました!

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