製造業のヘソの地から生み出すムーブメント
- FabCafe Nagoya Opening Day レポート
2020年9月18日(金)にグランドオープンを迎えたFabCafe Nagoya(ファブカフェ ナゴヤ)。これに先立ち9月15日に開催した「FabCafe Nagoya Opening Day」のトークセッションおよびタジマ工業によるデジタル刺繍ミシン「TAJIMA SAI -彩-」のデモンストレーションをレポートします。
FabCafe Nagoya(ファブカフェ ナゴヤ)
FabCafe Nagoyaは、自動車産業をはじめとして、織物、セラミック、食品、伝統工芸など多様な産業を持つ、世界有数のものづくりの中枢圏域である東海エリアで、FabCafeのクリエイティブと製造業の架け橋となり、共創による新しい価値を生み出していくことを目指します。
地域のデザイナー、エンジニア、アーティストや、企業、自治体、教育機関などのさまざまな人が集うコミュニティを可視化し、繋げ、東海エリア発の新しい「コト」を起こすムーブメントを作っていきます。
https://fabcafe.com/jp/nagoya/
「FabCafe発のイノベーションが世界中で起きている」
ロフトワークの代表でありFabCafe Globalのファウンダー、諏訪光洋がイベントの口火をきりました。
FabCafeをきっかけに生まれたイノベーションの一つが、今年7月にアシックスと共同開発したランナー向けのシューズを発表、予約が殺到している「ORPHE」です。音楽・動き・光・最先端テクノロジーの要素が組み合わさったこのスニーカーは、かつてFabCafeがYAMAHAと共同開催したハッカソン「Play-a-thon」で生まれたアイディアが発端となっています。
また、最近の取組みから「Yaoya Project」を紹介。日本のものづくりを支える優れた技術を持つ中小企業が多い大阪府八尾市。その技術とクリエイティブを繋ぎ、これまでにない商品開発とプロモーションに取り組むプロジェクトから生まれたシリコーンロックグラスは、クラウドファンディングサイトで目標金額の900%を達成し、継続生産が決まっています。
日本のものづくりと世界のクリエイティブが出会う場所へ
世界12拠点めとなるFabCafe Nagoya。日本、アジア、ヨーロッパ、中米と世界に点在するFabCafeの各拠点は、それぞれ地域の文脈にもとづく固有のキャラクターをもっています。
「東京はエッジがきいた様々な領域のクリエイターが、台北には比較的若いクリエイターが、エアバスの本拠地 トゥールーズ(フランス)には広大なMakersスペースに一流のエンジニアが多数集まっているーーFabCafeは、地域の文脈を活かしそれぞれ独自のムーブメントを生み出しています。日本の製造業の中心地である名古屋ではどのようなコミュニティができ、ムーブメントが生まれるのでしょうか?」
と諏訪は問いかけます。
共にFabCafe Nagoyaを立ち上げた大垣共立銀行(OKB)がもつ中部地区の広くて深いネットワーク、企業が”困っている”ことに寄り添える力、そしてFabCafeが持つイノベーションを生み出すデザイン・クリエイティブの力、グローバルのネットワーク。
「ここから生まれるものとコミュニティにいまからワクワクしています。世界のクリエイターに名古屋とつながってほしいし、逆に名古屋のクリエイターの皆さんには世界のFabCafeにアクセスしてみてほしい。FabCafeはグローバルに接続するチャネルになる」と締めくくりました。
インハウスデザイナーと新たな価値を生み出す
つづいて、「『製造業×クリエイティブ』で名古屋からイノベーションを起こす架け橋をつくる」と題し、FabCafe Nagoyaが描くビジョンについて、FabCafe Globalファウンダー 林 千晶がモデレーターとなり、大垣共立銀行 常務取締役 土屋 諭氏とFabCafe Nagoya 代表取締役 矢橋 友宏がが語り合いました。
若手経営者を中心にビジネスとクリエイティブをつなぐ
FabCafe Nagoyaのコミュニティと活動を通して東海エリアで眠るポテンシャルを引き出したいと話す矢橋。「この地の多くのデザイナーは企業のインハウスとして活動している。優秀なデザイナーの集積地なのに、個人として発信したり、外部とのコラボレーションで新しい価値を生み出すことは難しいのが現状。これはすごくもったいない状況だと思う。FabCafeができたことでデザイナー同士の交流が活発になり、オープンなコラボレーションが生まれてほしい。これからの企業にも必要なことだと思う。」
一方、銀行に対する企業のニーズが、資金調達から人材や情報へと変化してきているとOKB 土屋常務は話します。「私自身もそうですが、40-50代で事業承継している若手経営者は新しいこと、先代と違うことに挑戦したいという意識が強い。銀行としては、川下で資金面の支援をするだけはなく、ビジネス・製品企画という川上から支援することに可能性を感じています。今回オープンしたFabCafe Nagoyaを通して、ロフトワークという正解のない世界で一緒に答えを探していくクリエイティブ企業と組むことになり、新たな価値提供が可能になりました。」
エンジニアリングを強化し、機能による差別化を追求してきたこれまでの経営に対し、デザインとエンジニアリングが協働し新たな価値を生み出す「デザイン経営」がこれからの経営に必要となると話す林。「カフェもどちらかというと川下だけど、FabCafeとOKBさんがタッグを組むことで、FabCafe、そしてロフトワークとして、他が提供できない価値を名古屋でも提供していけるといいなと思っています。」
オープンな場所があることで、名古屋はもっと面白くなる
最後に、「ローカルとグローバル。テクノロジーとデザイン。イノベーションを誘発する『場とコミュニティ』」 と題し、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)とヒダクマ / FabCafe Hidaという先行して東海地域に根付く2つのコミュニティから、小林茂教授と岩岡孝太郎がそれぞれの活動から生まれた変化などを紹介しました。
地域滞在から生まれた思わぬ組み合わせ
まず事例として、小林先生の協力のもとヒダクマが2016年から2年間にわたり開催した「Smart Craft Studio」を紹介。世界各地から集まった学生30名が飛騨古河に3週間滞在し開発合宿を行うプログラム。「木工xIoT」「木工xAI」というテーマでしたが、まとまった期間地域に滞在し交流することで、思わぬプロトタイプが生まれたと言います。
「そもそも木工とAIというのも普通掛け合わせない面白い組み合わせだけど、3週間も滞在していると、心の底から地域に共感したアイデアが生まれるんですよね。この街の魅力をどうしたら伝えられるか。困っていることを解決できるか、っていうアイデアが生まれたのがとてもよかった。」
「飛騨の街では、3代住んだら飛騨人だねって言われるんですが、最初は外部の人間がたくさんやってきて何なんだって言われたんですけどね。」
IAMASも、前身の学校ができた20年前は周囲から何をやっているかわからず、距離があったと言います。
「毎年展示会をする中で知ってもらえるようになり、企業や自治体から協業の声かけをもらうようになりました。都心から勉強しにきた学生が大垣に根づき起業する人も出てきて、地元の企業と新しいコラボレーションが生まれています。ここ10年くらいで、サイクルが回り始めてきたと感じています。」
「飛騨の場合、カフェの隣の味噌煎餅屋さんが新しいメニュー開発しはじめたり、大工になりたいという人が出てきたり。これもFabCafeのオープンさから生まれたのかもしれません」
FabCafe=セレンディピティの生まれる場所
「カフェとして朝から晩までオープンしているのが大きいですよね。ものづくりの場所だけでなく、美味しいコーヒーを飲んで寛げる場所。そんなカフェで出会ったつながりが次の取り組みにつながる。だからまずは、カフェだと思って気軽に訪れてほしいです」と岩岡。
「先ほど矢橋さんも触れていたけど、名古屋にはインハウスのデザイナーが数多くいます。人の家の中は見えないし、面白いことやっててもつながれない。でも、カフェでものを作っていれば、ひとから見られるし、声をかけられるきっかけが生まれる。潜在的にインハウスでいたひとが混じり合っていくことに期待をしています。」と小林氏も名古屋に生まれたFabCafeへの期待を伝えました。
デジタル刺繍ミシン「TAJIMA SAI -彩-」デモレポート
当日は、FabCafeNagoyaでも利用できるタジマ工業のデジタル刺繍ミシン「TAJIMA SAI -彩-」のデモンストレーションが開催されました。
デジタル刺繍ミシン「TAJIMA SAI -彩-」
業務用の刺繍機を世界130カ国以上の国々に展開するタジマ工業が小型化と簡単な操作を実現したコンパクトモデルが「TAJIMA SAI -彩-」です。プロユースからクリエイターまで多くのひとにお使いいただいける「彩」は、名古屋だけでなく渋谷・京都のFabCafeにも設置しています。
タジマ工業 マーケティング部 販促広報グループから佐久間さん、嶋田さんが登場、タジマ工業の歴史と「彩」についてご紹介いただきました。
「タジマグループは、1944年に愛知県で創業しました。1964年には多頭式刺繍機という日本初の自動刺繍機の製造・販売を開始、その後も世界初の技術を次々に開発。世界各地の工場でタジマのミシンが使われています。2017年に発売開始された「TAJIMA SAI -彩-」は、これまでの大量生産とは異なり、小ロットにフォーカスしました。多彩な商品をつくることができ、市場の多様化する価値観へのアプローチが可能です。刺繍の精度の高さや、仕上がりの早さも特徴です。プロの方にも十分使っていただけるスペックです。」
例として、ハイカットスニーカーへのスパンコールの縫い付け、革へのパンチング加工、特殊な糸を使用した作品が実物で紹介されました。
「コンピュータと彩をネットワークで接続すれば、直接刺しゅうデータを送ることができます。手描きの絵から刺繍をすることもできるんです。デジタル刺繍は初めてという方には、弊社が運営する「Digital Stitch House」でいろいろ講座を開催していますし、こちらのFabCafeのスタッフの方にもサポートいただけるので、まずは試してみてください。」
当日訪れたお客様たちは、実際にサンプル展示品に触れ、刺繍の凹凸感などやデザイン性の高さを実感されていました。