EVENT Report

民主的に働くってどういうこと?
アメリカとタンザニアから
未来の働き方を学ぶ

持続可能な社会を実現するために、世界各地で市民の手で生活や経済活動を取り戻そうという動きが広がっています。2月に開催したオンラインイベント『コモンズを民主化するvol.1 ヨーロッパの公共サービスはなぜ再公営化されたか』では、市民が運営する形で再公営化に舵をきったヨーロッパや日本の事例をご紹介しました。
第2弾となる今回のイベント『Weの時代の経済考~米国・消費アクティビズムとタンザニアのアングラ経済~』では、ニューヨーク在住の文筆家である佐久間裕美子さんと、タンザニア人たちの経済活動を研究テーマにしている文化人類学者の小川さやかさんをゲストに迎え、アメリカとタンザニア、全く異なる二つの地域に共通点を探りながら、持続可能な社会のために、私たちはどう働くか、企業や個人の働き方をどう変えるか、モデレーターのロフトワーク・棚橋弘季を交えて、たっぷりと議論しました。

執筆:池田純子
編集:loftwork.com編集部

アメリカとタンザニア、真逆のプラットフォーム経済

1980年代に新自由主義(ネオリベラリズム)が登場してから約30年。経済の自由化やグローバル化が進むことで、豊かになるはずの私たちの社会には、経済格差をはじめ、気候変動や差別問題など、さまざまな問題が生まれました。そんな現代社会にあって、私たちはどう暮らし、どう生きていくか、そしてどう働くか。本来コモンズであるべき経済活動を、私たちの手で取り戻し、民主的に働くためにはどうすればよいのか。まずは棚橋が口火を切りました。

棚橋 「アメリカとタンザニアは、経済環境も生活環境も全く異なるけれど、お二人の本を拝読しますと、市民の働き方に“自治”“共生”“民主主義”といった共通点が見えてきました。今日はそのあたりから伺えますか」

棚橋の問いかけに、まずは佐久間さんが答えます。

佐久間 「今アメリカでは、いき過ぎた資本主義の結果、労働者の立場が弱くなっています。その代表が、Uber(ウーバー)をはじめとする、プラットフォームで単発仕事を請け負うギグワーカー。『自分が自分のボス』と言えば、聞こえはいいですが、仕事の獲得から報酬の請求まで自分がやらなければならず、仕事の負担は増えるのに、労働者の権利の保障もなく低賃金。さまざまな問題が噴出しています。

そんななか生まれたのが『プラットフォーム・コーポラティビズム・コンソーシアム(PCC)』というギグワーカーの社会的立場を保障するプラットフォームの協同労働組合です。共助と共生のしくみを構築するキットやプログラムを提供し、今PCCのマニュアルで作った組合が次々と登場しています」

際限なく発展するプラットフォーム経済のなかで孤立する労働者たちの受け皿として、協同組合という存在があらわれたアメリカ。しかし同じプラットフォーム経済も協同組合も、タンザニア人たちが意味するものは、すこし違うようです。小川さんは、タンザニア商人たちのビジネス形態から説明してくれました。

小川 「香港にいるタンザニア商人たちは、母国のタンザニア人に対して、InstagramやFacebook、WhatsAppといったSNSを使って、香港で見つけた中古車や中古家電などの商品を競りにかけるということをやっています。ヤフオクやメルカリとしくみは似ていますが、『星5つ』などプラットフォームの評価経済のしくみは使いません。SNS上に投稿された商人たちの日々の出来事やつぶやきを見ながら、誰と取引するか決めています。

そこで効力があるやり方は、困った仲間たちを支援すること。親切にすることで『あいつはいいやつだ』とコメントされて、取引相手が増えます。不確実ですが、すごく包摂的な商慣行をつくっているのがタンザニアの独自のプラットフォーム経済です」

またタンザニア商人たちは、ビジネスと同じプラットフォームに暮らしの共助のための組合をつくり、日常的に支え合っているといいます。

小川 「『〇〇に連れて行ってくれ』『泊めてくれ』と誰かが頼みごとをしたら、ついでにできる人はやるし、できなければ無理をしない。“ついで”をうまく活用して、巨大なセーフティネットをつくっています。

私たちからすると、資本主義経済がいき過ぎたから、経済を人間らしくしよう、安定的な雇用のためにセーフティネットをつくろうと考えますが、もともと彼らは零細自営業者で、生活は不安定。自分たちのネットワークで互酬的に助け合いながら生きてきたのが、SNSで再現されただけなんですね。

基礎インフラが未整備の地域に、最先端技術が導入されて一気に発展することを“リープフロッグ現象(かえる跳び型発展)”といいますが、今タンザニアにもリープフロッグ現象が起きて、先進国とは似ていて似ていないシェアリング・ビジネスができたのです。彼らが助け合いのために作ってきた組合も、アメリカのプラットフォームの協同労働組合と似ています」

佐久間さん、小川さんの話を聞いて、棚橋は「アメリカとタンザニア、同時にプラットフォームの組合など同じことが起きているけれど、全く逆の方向から来ているのが面白い」という印象をもったようです。

タンザニア人の強さは“多様性”

実はタンザニアのように、開かれた互酬的なコミュニティは、多様性がないとうまくいかないといいます。

小川 「みんなが同じタイプだと、全員から返事がくるか、全くこないか、どちらかなんです。いろいろな人がいるから、スルーもされるけれど、ちょっとだけ反応してくれる人もいる。だから多様性がないところで、同じことをやってもうまくいかないんです。

でも当たり前にコミュニティをつくることのできる環境にいる私たちは、しっかりと管理運営していくコミュニティと、ゆるいネットワーク型のコミュニティと二つあったほうが、そのつながりはより確実になると思います。オプションはいっぱいあるほうがいい」

それに対して「プラットフォームをうまく使えば、コミュニティはより簡単につくれる」と佐久間さん。

佐久間 「コミュニティは、『えい、つくろう』と言って、簡単につくれるもんじゃないですよね。かつて私もインディペンデントなマガジンを0円でつくったのですが、手伝ってくれる人も無料奉仕だと優先順位が低くなってしまって、エクセキューションには苦労しました。でもそれを今やるとなったら、ニュースレターを有料にして、協同組合をつくって、って新しい形で回せるプラットフォームがあるわけです。そのシステムに支配されない程度に、じょうずに利用するという発想でやっていけば、プラットフォームが変わっても、自分のやりたいことはできるのかなと思います」

「Sakumag」佐久間さんが中心となって運営している、”Weの市民革命をアクションに。
アメリカの最前線を伝えながら、社会を変えるアクションを考えるニュースレター”

小川 「その点、タンザニアの人たちは、ずっと同じプラットフォームを使っているんです。実は今回のコロナ禍で、タンザニア商人たちも中国との貿易が途絶えて大ピンチに陥りました。そこである商人は、不景気になったら治安が悪くなるから警備業が儲かると思い始めて、同じプラットフォーム上で警備員の派遣業という全く違う商売を始めたんですね。このプラットフォームは、もともと貿易で使っていたものと同じ。商品が変わっても仲間だからOK。名目的にはフレンズなんで。みんなが中国の貿易業は無理じゃない? ってなったら、みんなで違うビジネスに移行するという感じです(笑)」

タンザニア商人のプラットフォームは、いわば仲間とつながるために成立しているのです。

棚橋 「Uberのプラットフォームが運転手を見つけたり見つけられたりといった機能限定なのに対し、タンザニア商人のプラットフォームの機能は、全く限定されていない、そこが違うなと思いますね」

「そう考えると多様性ってすごい」と佐久間さん。

佐久間 「この人にはこういう知恵があって、この人はこういう知恵があって、と人の層に厚みがあると集団として強みを増します。プラットフォームが持たせてくれるパワーって、そこだと思うんです。タンザニア商人たちの強さも、そこにありますよね」

小川 「タンザニア商人たちの携帯電話には、企業の社長や大統領の元秘書から詐欺師や囚人、セックスワーカーまで、いろいろな人のアドレスが入っています。彼らからすると、これからどうなっていくかわからなくて、起業するってなったら企業の社長のネットワークが役立つかもしれないけれど、しくじって詐欺にあったら、詐欺師の情報が役に立つ。自分たちはただの商人だけど、いろいろな種類の人たちにちょっとだけ親切にしておけば、いつか困ったときに助けてくれる。

彼らは必要になるまで、借りは取り立てないんです。たくさんの人たちを助けて、借りは受け取らないしくみにしておくことで、必要に迫られたら誰か一人ぐらいは助けてくれるだろうから、それで生き延びていこうという戦略。だからこそ彼らにとっては多様性が大事なんです。私が大学教員というと、レアキャラみたいな感じで受け取られる(笑)。大学教員は何の役に立つかわからないけれど、もしかしたらいつか役に立つかもしれないという発想で仲間に入れてもらえる。そこでの帳尻や負い目はすごくあいまいで、みんな気分は投資なんです」

多様性があるから、できることの余白が生まれる。Uberのような機能限定のプラットフォームにはない可能性が、タンザニア人たちの多様性を内包したコミュニティ型のプラットフォームにはあるようです。

助け合いが苦手な日本人

多様性があるから、そもそも等価交換は成り立たない。あいまいだからこそ貸し借りが成り立つ。そんなタンザニア人が日本人である小川さんは「ちょっとこわい」と笑います。

小川 「私が香港に行くと、タンザニア商人たちは親切にしてくれて、おごってくれたりもするんですよ。でも私が日本に帰ると、日本の天然石の市場について、ちょっくら調査してくれって彼らから頼まれたりして。あとから何がくるかわからないから、こわいですよ(笑)」

ちょっくら頼まれるのは、アメリカでもよくあることだとか。

佐久間 「私もニューヨークにいると、ちょっくら頼まれることがあります。でも、そういうちょっくらお願いってことをやっておくと“貸しイチ”になって、こっちが困ったら頼むね、みたいな感じで善意の交換が生まれる。

アメリカでは最終的にコミュニティで助け合うというのがあります。私の住んでいるところは、もともと労働階級が暮らすエリアで、災害が起きたとき、行政のヘルプが来るのが遅いんです。行政が頼りない分、何か起きると、外に出かけられない老人に食べ物を届けるネットワークがぱぱっと組織されるとか、地元の組織力がすごくあるんです」

小川 「日本人からすると、アメリカ人は個人主義というイメージが強いけれど、全然知らない人を信頼する能力は、日本人よりも高いですよね。日本人は、知っている人は信頼するけど、知らない人は簡単に信頼しない。それこそタンザニア人も個人主義ですが、何かあったときに信頼してやる能力は高いですね」

助け合う能力が高いアメリカ人とタンザニア人。それに対して、日本人はどうしても「自分にできることはない」と思いがち。それが日本人特有の自己肯定感の低さにもつながっているように思えますが、お二人の目にはどのように映っているのでしょうか。

佐久間 「日本人は人を助けることに躊躇があるのかなと感じます。私自身、大けがで半年間、松葉づえ生活をしていましたが、アメリカ人にはドアをあけてくれる人がいたり、電車で席を譲るように促す人がいたり、ちょっと暑苦しいぐらいの善意がある。でも日本人は助けをオファーしてもいいのかなと思っている感じがあります。知らない人との壁が一つあるのかな。助けてもらうほうも、どこか申し訳ないと思っちゃいますよね」

小川 「日本人は助けてもらったら、すぐさまお礼を届けなくてはいけないって思いますよね。タンザニア人たちは、権力者なら何かを払えば、すぐに許可を出すし、一般市民でもバスの運転手が知り合いに無賃乗車させたり、私たちからみるとズルって思うようなことを日常的にするんです。でも彼らは知り合いなら親切にするのが当たり前だと思っていて、それはどんな人にもできると思っている。みんな『君が困ったら、俺が何とかしてあげる』って言うんですよ。それで無賃乗車したあとに、君と仲良くなっておいてよかったって言う。それが彼らにとっては、すごい自己承認になっているんです。

重要なポイントは、彼らがスペックを評価して仲良くするわけではないこと。社会が不安定だから、一週間先のその人のコンディションがどうなっているかわからない。偶然の助け合いが回っているから『コネを探して権力者と仲良くなった』というような、いやらしさはないんですよね」

小川さんの著書「チョンキンマンションのボスは知っている」に登場した
チョンキンマンションとタンザニア人たち

タンザニアは、社会自体が不安定だから「それに期待しても」というところがある。逆にアメリカや日本は、社会が安定しているからこそ、スペックを考えて人とつき合うという価値観に固まっているのかもしれない。それゆえ何かが変わったときに対応できないのではないかと棚橋は語ります。

棚橋 「今まで日本の企業は、ある機能やある物をつくるために、それに見合ったスペックの人をそろえて効率化して生産性をあげてきました。でも、これだけガタガタと状況が変わったら、スペックが合う人を集めるよりも、むしろいろいろな人、いつ役に立つかわからない人とのつながりがあったほうが、うまく変化に対応できるのではないかと思うんです。企業としては、固定した人たちがいる状況をつくっておくのか、いざというときにいろんな人が集まれる状況をつくっておくのか、どっちがどっちではなくて両方できるといい。小川さんのいうように、オプションはたくさんあったほうがいいと思いますね」

一人一人が強みを生かす

一方、個人としては、どうあるべきでしょうか。佐久間さんと小川さんは、こう答えます。

佐久間 「今までの固定の人数で会社の利益を最大限にするやり方は、無理がきています。だったら、いろいろな人がそれぞれの強みを持って集まってやればいいと思います。個人として一人一人が強みを生かす。

それから私たちがすぐにできることは善意の循環。いつそれが返ってくるかわからないけれど、先に善意を払っておけば、コミュニティや他者に対する信頼感につながり、それが社会の中で生きていくことの安心感をもたらしてくれますよね」

小川 「日本だと資本主義は厳しいのでコミュニティと考えがちですが、逆に資本主義にどうやって互酬性を埋め込んでいくかということを考えてみるといいのではないでしょうか。私たちがどうして助けてっていえないのか、おせっかいかなと思うのは何なのか、そこから考えてみるといいと思います。

それからタンザニアの人たちって失敗してもOKなんです。失敗して責められる環境だと、どうしても自己肯定感が低くなるけれど、失敗しても次!って流して、それでも見捨てない人やネットワークがあれば、自己肯定感も育ちやすい。だから私たち日本人も一人一人が失敗を恐れずにチャレンジして、誰かが失敗しても責めない環境をつくる、そういうことが大事かなと思います」

アメリカとタンザニア、二つの国を比べながら、最終的には日本の企業や個人としての働き方のポイントが見えてきました。

棚橋  「企業でも個人でも求められるのは“多様性”。多様性をどうつくり、その多様性のあるコミュニティの中で、どう助け合っていくか、それが大事なことと改めて思いました」

最後に棚橋がそう締めくくり、盛況のうちにトークセッションは幕を閉じました。

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