EVENT Report

地域に根ざし、「産業」と「文化」を生み出す企業のあり方
「地方と都市の新たな関係性を探るオンライン討論会」開催レポート [第二回]

これまで二項対立で語られることが多かった「地方」と「都市」の関係性は、これから先、どのように再構築されていくのか。本シリーズイベントは、さまざまな領域のゲストと一緒にこの問いと向き合い、ディスカッションを重ねていく試みです。

第二回目のテーマは「地方発のイノベーション」。既存のモノや仕組み、サービス、組織、ビジネスモデルなどに新たな考え方や技術を取り入れていくことで、地方は未来に向けてどのような変化を生み出すことができるのでしょうか。

今回は、地域資源を活かして新しい価値を創り出している企業のお二人、朝霧重治さん(株式会社協同商事コエドブルワリー 代表取締役社長)と、鳥居希さん(株式会社バリューブックス 取締役)をゲストにお迎えして、クロストークを行いました。

執筆:大島悠

国内都市だけでなく世界とつながる、地域発の事業

1人目のゲスト、朝霧重治さんが代表を務める株式会社協同商事は、埼玉県川越市を拠点に、1970年代から有機栽培や無農薬・減農薬栽培などの新しい農業に取り組んできた企業です。

先代から会社を受け継いだ朝霧さんは、2006年にオリジナルクラフトビールブランド「COEDO(コエド)」を立ち上げました。現在は地元のマイクロブルワリー(小規模醸造所)を起点とし、地域と共に未来を創る、新しい農業のあり方を模索されています。

▲世界の名だたる品評会において数々の受賞歴を誇る「コエドビール」。製品の一つである「紅赤」は、川越で生産されているサツマイモを原料に使用したビールです。
https://www.coedobrewery.com/jp/

2人目のゲストである鳥居希さんは、長野県上田市を拠点とし、古本の買取・販売を行う株式会社バリューブックスの取締役。「日本および世界中の人々が
本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える
」というミッションを掲げ、本のよりよい循環を目指した活動に、さまざまな切り口から取り組んでいます。

▲バリューブックスの本が並ぶ5つの倉庫はすべて上田市内にあり、2021年11月現在、およそ300人の人たちが働いています。
https://corporate.valuebooks.jp/ (引用元:株式会社バリューブックス 公式サイト)

業種・業態は異なるものの、両社とも地方を拠点とした事業を展開し、国内の都市だけではなく、世界とのつながりをも生み出しています。お二人は、地方における産業のあり方についてどのような考えをもっているのでしょうか。

これからのビジネスに必要なのは「産業」と「文化」の両立

前回のディスカッションで、私たちはある一つの問いにたどり着きました。「地方が直面している課題は、産業をどうつくっていくか。ただこの『産業』という言葉があらわしているものが、これまでとは異なってきているのではないだろうか?」

さらにモデレーターの林から、二人にこんな問いが投げかけられました。

「2社の事業についてお話を聞いていると、お金を生み出す『産業』だけではなく、『文化』も一緒につくっているイメージがあるのですが、どうでしょうか?」

企業として理念を掲げ、それを大切にしながら、地域の中で事業をつくり上げていく。最終的に自分たちの仕事がどんな人(生活者)たちに届いているのか、そこにコミットするビジネスが今強く求められていて、2社はそれに近づこうとしているのではないか、と。

「コロナ禍の影響を受けて、その視点が加速している実感はあります」と、朝霧さんはいいます。

コロナの影響を受け、ビール産業はこの2年間でEC化が一気に進みました。卸業者を通じた外食産業との取引が減少し、消費者に直接商品を販売する比率が増加したことによって、購入してくれるお客さまの顔をより強く意識するようになったそうです。

朝霧「ブルワリーがあることは、街の個性になり得ると思うんです。地域起こしのための土産物や観光物産館ではなく、地元で造られるビールを身近に感じ、ビールに愛着のある人たちのコミュニティをつくれる可能性があると思っています」

ビジネスにおける「成功」とは何か。「B Corp」認証取得の意義

バリューブックスも今、新たな文化をつくるために企業として挑戦していることがあります。それが「B Corporation(以下、B Corp)」の認証取得です。

「B Corp」とは、社会的な責任を果たしている企業を認証する世界標準の仕組みを指します。2006年に米・ペンシルバニア州を拠点とする非営利団体「B Lab」によって発足したもので、認証を得るには、環境や社会に対してどのような成果を挙げているか、高い基準をクリアしなければなりません。

ビジネスにおける「成功」を再定義するこのムーブメントは世界中に広がっており、認証を受けた企業は、世界77か国4,000社以上にのぼります(2021年8月時点)。しかし、そのうち日本企業はまだ7社のみにとどまっています。

▲バリューブックスが日本語字幕を作成した「B Corp Anthem 2018」。(引用元:B Corporation 公式YouTube) また現在『The B Corp Handbook』の日本語翻訳プロジェクトを、黒鳥社と共に進行中。
https://atarashi-kaisha.medium.com/

鳥居「もともとは、自分たちが大切にしている価値観が包括的に網羅されている『B Corp』を、会社の指針にしたいと考えたのがはじまりでした。さらにコロナ禍で会社経営と向き合うなか、きちんと利益を出していく重要性を痛感する一方で、自分たちがいい思いをするだけでは、これからの産業は成立しないと感じるようになりました」

バリューブックスでは、自社で認証取得を目指すだけではなく、B Corpの映像に日本語訳をつけたり、テキストの翻訳プロジェクトを立ち上げるなど、他企業と共に歩むための取り組みにも注力しています。

活躍する地方企業は、「発祥の地」に何をもたらすことができるのか

両社のような企業は、もともとの発祥地である地域に対してどんな影響を及ぼすことができるのでしょうか。

協同商事が運営するコエドブルワリーでは今、ビールの生産・販売だけではなく、地域に人が集まる流れを生み出す活動に取り組んでいます。

朝霧「普段は私たちが造ったビールが、例えば東京やロンドンなどの都市に旅をするわけです。その接点をきっかけに、地元の醸造所やレストラン、フェスなどに来てもらう流れをつくりたいと思っています」

実業と切り離された文化事業として行うのではなく、通常の事業活動の一貫として取り組むからこそ継続が可能となり、提供するコンテンツもどんどん磨き上げられます。そのコンテンツを求めて海外や都市から人が訪れる流れができれば、地域の経済に貢献することができるはずです。

一方、バリューブックスは、地元の名産品などを扱った事業を展開しているわけではありません。鳥居さん自身も、「私たちの仕事は、この地域でしかできないものではない」と話します。

鳥居「ただ、今のバリューブックスでは300人以上の人たちが働いてくれています。事業に関わってくれているみんなが住んでいるこの地域が、少しでも生活しやすくなったり、文化が生まれて暮らすことが楽しくなっていったりすることが重要だと考えています」

地方と都市の間に根強く残る壁。軋轢の原因は「お互いに知らない」こと

コロナ禍を経た今、地方での暮らしに惹かれ、事業創出に携わりたいと考える20-30代の人たちが増えています。しかしそこで常に課題として上げられるのが、地方と都市の対立です。「地方活性化」という看板を掲げているのに、結局お金が落ちるのは東京の企業や人に対してではないか——そんな不信感が、地方に根強く残っているのも事実です。

朝霧さんと鳥居さんは、一度、東京の大企業で働いていたご経験をお持ちです。Uターンして、都市と地方での事業両方を知った今、この課題をどう捉えているのでしょうか。

朝霧「外部から来た人がビジネスをうまくマネタイズし、人やお金が流出することは確かに地域の人から嫌がられます。ただ、地域資源を好き勝手に使ってスポイルするのではなく、それに魅力を感じているから“活用させてもらう”というメンタリティさえあれば、問題ないのではないかと思います」

軋轢が生まれるのは、いつだってお互いのことを“知らない”から。小さな地域のコミュニティには、まだ閉鎖的な部分もあるかもしれない。しかしその地域で暮らし、働きはじめると、周囲の人たちと自然に接点が生まれていくだろう、と朝霧さんはいいます。

ただ中には、例えば「同じ地域の企業や人とだけ組む」というように、地元地域だけに活動が閉じてしまうケースも見受けられます。

朝霧「ミクロなナショナリズムに閉じてしまうのはよくないですよね。活動が内輪のものになってしまい、逆に地域の排他性を強めてしまうと思います」

また鳥居さんは、地方の人たちが都市に対してへりくだった感情を持つことに違和感を感じるそうです。

鳥居「東京に住んでいた頃、ときどき地元に帰ると、周りの人が東京を礼讃するのがすごく嫌だったんです。互いへのリスペクトは必要ですが、地方と都市、もっと立場は対等なものだと捉えてほしいですね。バリューブックスが長野県上田市にあるからといって、活動が上田だけで完結するわけじゃないし、東京の方がすごいとも思いません」

現実問題として、地方と都市の間にはまださまざまな壁があります。地方に根強く残る不寛容さ、都市からなかなか抜けない無神経さ。しかし地方と都市それぞれの特性や役割を活かして、両者が交わる仕組みをつくることができれば、新しい流れが生まれるのではないかと考えます。

「都市の人だから」「地元の人だから」ということは関係ない。企業活動の目的や文脈によって、誰と一緒に取り組むのかは変化する——これから地方で活動したいと考えている人や企業にとって、今回お二人が語ってくれたことが、大きなヒントになるのではないでしょうか。

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