EVENT Report

地域経済/エネルギー循環の理想郷はどこにある?
「地方と都市の新たな関係性を探るオンライン討論会」開催レポート[第四回]

これまで二項対立で語られることの多かった「都市」と「地方」の関係性が、コロナ禍を契機に変わりつつあります。この先、都市と地方の関係性は、どう再構築されていくのでしょうか。

多彩なゲストを迎えてディスカッションを重ねるシリーズイベント「地方と都市の新たな関係性を探るオンライン討論会」、第四回のテーマは「地域経済/エネルギー循環のイノベーション」です。

地方に住みながら地域経済/エネルギー循環のイノベーションを実践されている、平野彰秀さん(NPO法人地域再生機構副理事長)、ニールセン北村朋子さん(AIDA DESIGN LAB理事)、岡野春樹さん(一般社団法人 長良川カンパニー代表理事)の3名をゲストに迎え、林千晶(ロフトワーク 共同創業者 取締役会長)とともにクロストークを行いました。

執筆:野本 纏花

郡上市(日本)とロラン市(デンマーク)、2つの地方から見えたリアル

これまで3回のイベントを通じて、「地方と都市はそれぞれの役割を分担しながら、互いに補完し合う関係を目指すべきだ」ということが見えてきました。それは今回のテーマである“地域経済/エネルギー循環”についても、同じことが言えるのでしょうか?まずはゲストの3名が日頃どんな活動をされているのか、ご紹介します。

小水力発電で地域経済/エネルギー循環の復活に挑む、平野彰秀さん

平野さんが住む岐阜県郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)は、最寄りのスーパーまで車で約40分かかる辺境の地。岐阜市出身で、大学入学と同時に上京し、32歳まで東京で暮らしていた平野さん。平日は会社員をして、週末は岐阜に戻る二拠点生活を開始。岐阜では、仲間と立ち上げたNPO法人で、まちづくりの活動をしていました。

そこで出会ったのが、石徹白です。最盛期には約1300人だった人口が、250人にまで減少している様を目の当たりにし、「自然資源が豊富な農山村から、これからの時代の在り方をつくっていくことはできないだろうか」と考えるようになりました。

かつては、当たり前のように自給自足が行われていました。自分たちの手で暮らしをつくり、村をつくることは、ごく自然なことだったのです。しかし今はどうでしょう。石徹白でも年間約1200万円が、電気代として、地域外に流出してしまっています。「このお金の流れを変えるために、自分たちで電気をつくれないだろうか」。そう考えた平野さんたちは、石徹白の人々に、「一緒に小水力発電所をつくりませんか」と話を持ちかけたのです。

「石徹白の人たちは、何もエネルギー問題のために発電所をつくろうとしたわけではありません。『人口減少で村が消滅してしまうかもしれない』という危機感が、彼らを動かした。集落のほぼ全世帯が出資する形で、2016年に小水力発電所をつくることができました。今では移住者も増えて、人口推移も横ばいになっています」(平野さん)

▲平野さん使用のスライドより提供。

先進的なデンマークの取り組みを日本に伝える、ニールセン北村朋子さん

デンマークのロラン島に住むニールセンさんは、デンマークと日本をつなぐ仕事をされています。

デンマークの中でも地方の最たるところだというロラン島は、かつて“金食い虫”と思われていたと言います。しかし、実はそうではないと都市が気付き、2017年には、デンマーク最大の都市であるコペンハーゲン市とロラン市は「サステナブル協定」を締結。これは「エネルギーシステムやツーリズム、食やバイオマスに関して、互いに協力しながら需要供給を満たし合おう」というパートナーシップです。

驚くべきことに、風や太陽など自然資源が豊かなロラン島では、島内で使用する電気の800%を再生可能エネルギーで生み出しているのだそう。そのため、電気をたくさん使用する産業が移転してきていたり、電気を熱に換えて貯蔵する施設が建設されていたりと、さまざまな取り組みが進んでいると言います。「地方は自分たちのことだけを考えていればいいわけではなく、グリーンシフトを進める国の政策を進めるために、地方にしかできない役割を果たしていく必要があります」(ニールセンさん)

▲ニールセンさん使用のスライドより提供。

ロラン島という地方から都市を見てみると、実は「都市というのは保育器に入った赤ちゃんのようなものだ」と気づいたニールセンさん。都市は地方から食糧・エネルギー・水などの資源を供給してもらわないと、1日も生きていられないからです。

「デンマークは、『どんな国でありたいか?』というビジョンをかなり明確に見据えていて、『そのために何が必要か?』と議論を重ねながら、必要なものを炙り出して教育で実践しています」。(ニールセンさん)

源流域の価値を都会に届ける、岡野春樹さん

平野さんと同じく岐阜県の郡上市に住む岡野さんは、広告代理店で働く傍ら、2つの一般社団法人を経営されています。中でも、一般社団法人のうちのひとつである長良川カンパニーは、「いのちよろこぶ源流域を、次世代につなぐ」をミッションに、「源流遊行」という源流域の風土と溶け合うような旅を提供しています。

▲源流遊行のプログラムでは、長良川の源流域に滞在しながら、森遊びやボディワーク、田植えやテントサウナ、ナイトウォークなど、その季節にそこでしか味わえない“豊かな源流域体験”をすることができます。
https://genryu-yugyo.com/(引用元:一般社団法人 長良川カンパニー 公式サイト)

「郡上では中世の時代から、多くの人々が白山という山を目指して、禊をしながら源流域を上っていました。その文化をどう現代に甦らせようかと考えているのが僕たちです。源流遊行を通じて、都会の人々を地方に誘い、みんなで楽しみながら経済を回しく活動を続けています」(岡野さん)

地域経済/エネルギー循環を考える上で、日本に足りないものとは

ここからは、クロストークの模様をお届けします。

 

林:最初に、みなさんの“エネルギー”という言葉の捉え方を聞いてみたいと思います。エネルギーにはさまざまな側面があると思うのですが、エネルギーをたとえるとしたら、何になりますか?

平野:なくてはならないものという意味で、“人の営み”ですかね。エネルギーはシステムとして捉えられがちですが、もう少し自分たちが関われるような手触り感のあるものだといいなという願いを込めて。

ニールセン:私は“血液”みたいなものかなと。ちゃんと巡っていなければ、いろいろな物事がうまく前に進まないし、滞ると病気になってしまう。だから恒常的に循環するような取り組みをし続ける必要があると思っています。

岡野:僕は、エネルギーを広義で捉えると“いのちの贈り物”だなと思っています。都市から源流の森に企業経営者を連れて行ったときに、数字で表せない感動を、自然のエネルギーから受け取ってくださるんですね。分厚い企画書よりも、現地で自然を体感することで、「この川を守りたい」と意思決定が変わっていくところを目撃しているからです。

林:デンマークでは、ギフテッドな人たちが血の巡りを良くしようと動いているようだけど、そうじゃなくて「俺がつくったんだから、とにかく高く売りたいんだ」と考える人も世界にはいるじゃないですか。

ニールセン:デンマークはエネルギーの自給自足を目指してはいるけれど、再生可能エネルギーでそれを実現するのは無理だとわかっています。だからヨーロッパ中にグリッドをつなげて、夏はノルウェーやスウェーデンの水力、冬はドイツの原発をありがたく使わせてもらうといったように、シーズンごとにそれぞれの得意分野を活かそうとしています。デンマーク国内でも風力だけで電力消費量の6割くらいは賄えているんですけどね。

地方と都市を横断しながら考える、エネルギーの未来

林:なるほど。次の質問からは、本イベントを共催している日建設計の羽鳥さんと、パシフィックコンサルタンツの中川さんにもお話を伺ってみたいと思います。2030年にエネルギーがどうなっているのが理想か、そしてそこに向けたハードルはどこにあるのか、お答えいただけますか?

中川:現状、日本はエネルギーの原料をほとんど海外から買っていて、7割くらいの自治体はエネルギー収支が赤字になっています。そうしたところで再生可能エネルギーを活用していくには、今までの集中管理から分散管理に変えていく必要があるため、「誰がどこで管理するのか」、「地方と都市をどうつないで循環させていくのか」、まちづくりと一体で考えていかなければならないと思っています。

羽鳥:僕らは都市の設計を担っているので、まさにエネルギーを使う場所をデザインしていることになります。滞りなく循環するスマートな社会を実現するために、全体を俯瞰して影響範囲を見極めながら、「誰がどうエネルギーを使うべきなのか」、「いかにエネルギーの使用量を減らせるのか」といったことを常に考えています。未来がどうあるべきなのか、正直、正解はまだわからないです。しかし、技術はどんどん進化していて、使用量を7割削減したビルも設計できるようになってきました。いろいろな葛藤はありつつも、都会にはそんなイノベーションが生まれる可能性が秘められていることは確かだと思います。

林:羽鳥さんは、「都会はエネルギーを使う場所だ」って言っていたけど、それはまだやっぱり都会を中心に考えていて、「都会は地方からエネルギーをもらうものだ」という発想が根底にあるからだと思うのだけど、ニールセンさんは、どう思いますか?

ニールセン:そうなんですよね。どうしても都会中心で考える癖がついてしまっているのだと思います。日本でまず取り組まなければいけないのは、熱のダダ漏れをなくすこと。発電所や廃棄物処理場で熱を捨てずに使い回す仕組みをつくる。それに建物の断熱を世界基準にまで強化して、熱を漏らさないようにする。日本がエネルギーを自給自足できるようになるためには、何よりも断熱の見直しが最優先事項です。

林:地方と都会の関係は絶対に描かないといけない問題だし、石徹白で使用する分だけつくって終わりではなく、ロラン島のように800%のエネルギーをつくって販売できたら、流出した資源を取り戻すことにつながると思うのだけど、平野さんはどうお考えですか?

平野:おっしゃることはよくわかりますが、エネルギーは“つくる”よりも“使わない”ほうが大事な気がしているんですよね。無理をすると、自然破壊につながってしまうから。

林:では最後に、岡野さん。これまで都会の人は、ある意味、上から目線で「地方創生してあげなきゃ」といった見方をしていたと思うけれど、それは都会の人が知らないだけで、「本当は地方にこそ価値があるんだぞ」という気づきを与えるのが岡野さんのお仕事ですよね。そんな岡野さんは、今後エネルギーに関して、どんなことを心がけたいと思っていますか?

岡野:まさにおっしゃる通り。源流域には豊かな暮らしがあります。一方で、中山間地域に住むことほど、エネルギー効率の悪いことはないとも思っていて。どこへ行くにも、車を使ってエネルギーを使うから。だからこそ、僕が大切にしたいのは“Learn by doing”、実践しながら学んでいくことです。これからの至高の遊びは、行政や企業にはできない実験をボトムアップでしていくことだと思っているので、どんどん源流で巻き込む人たちを増やしながら、僕も一緒に学び続けていきたいと考えています。

林:なるほど。地方に住む人は、エネルギーをつくるだけじゃなく使う立場でもある、と。それならやっぱり、地方と都会の両方でエネルギー問題を大きく捉えて、一緒に考えていくことが大切なんだなと思いました。

今回の議論を通じて、デンマークのように日本の地方と都会が手を組まなければ、さまざまな社会課題を解決できないことは明らかであるとわかりました。互いに立場を超えて協力し合うためには、同じゴールを目指すことが大切です。まずは日本の目指すべき未来を大きく描き直すところから始める必要があるのかもしれません。

オンライン討論会の他レポートはこちらからご覧ください。

「地方と都市の関係性はどのように再構築されていくか」について議論した全5回のレポートサマリーは、以下のプロジェクトページにまとまっています。

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