EVENT Report

OEM・ODM企業がブランドづくりに挑む意義とは?
実践企業から学ぶ、両軸型への組織変革

ニットの産地・山形県で70年にわたり地域を牽引し、OEMを通じて良質なニットを世に送り出してきた老舗ニットメーカー、米富繊維株式会社。同社は製造請負事業を継続する傍ら、現3代目社長の大江健さんを中心に事業領域を拡張。2010年には自社ブランド「COOHEM(コーヘン)」を立ち上げ、オリジナル商品を展開。さらに、2022年8月には山形県の本社工場内に初の直営店「Yonetomi STORE(ヨネトミストア)」をオープンするなど、OEMと自社ブランドの両輪での経営を行っています。

OEM事業で多くの顧客を抱えていた同社が、新規事業に挑戦したのはなぜか。事業と組織を変えるまでの道のりはどのようなものだったのか。米富繊維株式会社 代表取締役社長を務める大江健さんを迎え、ロフトワークで数々のデザイン経営プロジェクトに取り組んできたクリエイティブディレクターの加藤修平と、Culture Executiveの岩沢エリがお話を伺いました。

聞き手:岩沢 エリ、加藤 修平
執筆:吉澤 瑠美
企画・編集:後閑 裕太朗(Loftwork.com編集部)

米富繊維株式会社について

山形県山辺町にて1952年に創業した老舗ニットメーカー。世界有数の生産体制のもと、自社内にニットテキスタイル開発部門を擁し、OEM/ODMと自社ブランドの両事業を柱に、オリジナル性の高いニット製品の企画・製造・販売を手掛けている。現在、自社ブランドとして『COOHEM(コーヘン)』『THISISASWEATER』『Yonetomi』の3ブランドを展開。衣服以外のブランディングについてデザインチーム「akaoni」と連携するなど、デザイン経営を実践する企業でもある。2022年8月には本社工場内に初の直営店「Yonetomi STORE(ヨネトミストア)」を開業、ものづくりとファクトリーの更なる可能性を模索している。

©Ko Tsuchiya
COOHEM 2021AUTUMN&WINTER ヴィジュアル

米富繊維ブランドムービー

米富繊維株式会社は、ロフトワークが制作した調査報告書『中小企業のデザイン経営』において、デザイン経営導入企業のモデルケースとして選定し、取材を実施した企業のうちの一つでもあります。また、本調査のプロジェクトメンバーとして、本インタビューの聞き手である加藤修平・岩沢エリも参画していました。
『中小企業のデザイン経営』には、大江さんへのインタビューをはじめ、デザイン経営の基礎知識や推進するうえで重要となるポイントがまとめられています。本レポートは、下記ページからダウンロード可能です。

『中小企業のデザイン経営』は、以下ページからダウンロード可能です。
「デザイン経営」実践の5つのポイントとは? 中小企業におけるデザイン経営調査報告書を公開

不均衡な依存関係からの脱却。米富繊維の考える「理想のOEM像」とは

ロフトワーク 加藤(以下、加藤) 以前に、中小企業のデザイン経営でも聞いたところでもありますが、改めてはじまりから聞かせてください。もともとアパレルのショップ店員だったという大江さんですが、米富繊維にはどのような経緯で入社されたのでしょうか。

米富繊維株式会社 代表取締役社長 大江さん(以下、大江) 僕自身が前職から転職するきっかけになったのは、自分の父親、つまり当時の社長と米富繊維について話した際に、新規事業の話題にあがったことです。弊社は祖父の代から続く山形県で一番大きいニット工場で、技術力もネームバリューもあるように見えました。それでも市場は年々シュリンクしており、新規事業に挑戦しないといけない、と。一方で「やる人がいないし、何から手をつけていいかもわからない」と社長は頭を抱えていました。僕自身、将来のキャリアについて考えていた時期だったので、自分がそのチャレンジを担おうと、転職を決意しました。

米富繊維株式会社 代表取締役社長 大江健さん

加藤 「新しい事業を立てるにしても、何から始めるの?」という疑問を抱く方も多いと思いますが、大江さん自身は入社後、どのようなことから始めたのでしょうか

大江 入社してすぐに感じたのは、社員はみんな日々の納期に追われており、「新しいことを始めるべきだ」と思っているのは社長と僕だけである、ということです。まずは自分が周りに信頼されないと、アイデアを提案しようにも誰も耳を傾けてくれません。だからこそ、最初の1、2年は現場に合流し、OEMの営業から始めました。

現場に出て感じたことは、OEM業界には取引先との不均衡なパワーバランスや不利な条件など、不合理な商慣習がたくさんあるということ。しかし一方で、「OEMをやめよう」とは全く思いませんでした。一部では、OEMを続けることが悪手で自社ブランド事業への移行が正解かのように語られることもありますが、僕自身は「理想的なOEM」があるのではないか、と常に考え続けてきました。

加藤 大江さんの考える「理想的なOEM」とは、どのようなものでしょうか。

大江 OEMの課題という側面からお話しすると、かつての弊社もそうでしたが、発注側が仕事の主導権を自分たちが握っているという感覚を持つ傾向にあり、一方で受注側のファクトリーは「毎年同じ仕事がくる」と思い込みがちです。

ただ、アパレル店員としてエンドユーザーに向き合っていた立場からすると、彼らの好みの移り変わりは激しく、常に新陳代謝が生じています。よって、流行の入れ替わりが激しいファッション業界では、同じ顧客に同じ商品を販売し続けることは不可能なはず。つまり、OEMというビジネスは、一見すると取引先が固定されるほど安定感が増すように見えますが、実際にはその分依存度が高くなり、結果的に時代の変化に対応できないリスクも高まってしまいます。

これらの状況下でファクトリーが自社ブランドを始めれば、発注側からの反発も当然生まれます。ただ、逆風を恐れていては新規事業はできません。時代も変わるし、会社も変わり続けるという意味で、これまで何十年も仕事をいただいた感謝はありつつも、やむなく取引を終了したケースもありました。

加藤 ブランドを立ち上げて、取引先の構成もかなり大きく変わってきているんですね。

大江 そうですね。なかには、弊社のオリジナルブランドの商品を仕入れているセレクトショップさんに対して、並行してOEMの取引を行っているケースもあります。ヨーロッパのファクトリーはこうした形式が多いと聞きますが、OEMの概念自体も日本とヨーロッパとでは違うのかもしれません。

現在、米富繊維ではOEM/ODM事業に加え、自社ブランドとして「COOHEM」「THISISASWEATER.」「Yonetomi」の3ブランドを展開。それぞれ特徴的なブランドコンセプトのもと、2つの事業を両立して経営を行っています。

加藤 技術を追求している会社の集大成として自分たちのブランドを持ち、その一方でセレクトショップが求める商品をプロとして作る。互いのスキルや得意なことを理解し合うのが理想のOEMの関係なのかもしれませんね。

新規事業を自分ごとに。山形に直営店をオープンする理由

加藤 今年8月には、山形県東村山郡山辺町の自社工場の中に、直営店「Yonetomi STORE」を開業しましたね。このタイミングで地元に直営店を出すことにした理由を教えてもらえますか。

“Untitled (Our Sweater Ⅲ #16–756), 2022 © Gottingham
 Image courtesy of Akaoni and Studio Xxingham”
Yonetomi STOREの内観。「『ファッションの産地直売』の可能性を模索する実験場」として、山形県東村山郡山辺町の自社ニットファクトリー内に店舗を展開。米富繊維のブランドだけでなく、さまざまなブランドの商品を取り揃えたコンセプトストアとなっている。

大江 ブランドを立ち上げてから10年ほどですが、いつかはお店を持ちたいと思っていたものの、なかなか決心がつかなくて。大きなきっかけになったのは、コロナ禍の影響でOEMの受注が一斉にストップしたことでした。取引先もお店を休業するような事態でしたので、少しでも売れればと、地元で自分たちのポップアップストアをやってみたんです。そうしたら、幅広い世代の人たちがたくさん訪れてくれました。

以前であれば、地方でアパレル店舗を開くことは無理だと思っていました。だから就職で上京したし、米富繊維のお店を開くのもきっと東京だろうと思っていたんです。それだけに、地元の方々に購入いただいた体験は、すごく貴重な気づきにつながりました。

さらに、工場の中にお店があれば、働いている人たちが普段製造の仕事では対面することのできないエンドユーザーに会うこともできる。山形県を拠点とする僕たちが直営店を開くなら、わざわざ東京にお店を構えるより、むしろお客さまに山形まで足を運んでもらい、工場を見て、作り手たちともコミュニケーションをとりながら商品を購入いただける空間にしたいという考えに至りました。

加藤 コロナ禍といえば、小売店が集客に苦労していたときに、大江さん自身がYoutubeやインスタライブで自社ブランドの商品紹介をされていて、お店の方々と一丸になった発信をされていましたよね。あの取り組みにはどんな想いがあったのでしょうか。

 

米富繊維が主催する、オンラインイベントの様子。商品紹介から業界を志す学生向けのイベントまで、積極的な情報発信を行なっています

大江 当時は取引先が店舗を開けず、弊社も注文がなくて工場を休まないといけない状況で、みんなが危機的な状況に陥っていました。そういうときに、ビジネスパートナーである取引先と、ある意味で家族のように助け合えることが大事だなと思ったんです。新規パートナーの開拓はもちろん重要ですが、それ以上に、既存の取引先といい温度感の関係を築きたいという想いがあります。

こうした考えから、「Yonetomi STORE」では、取引先のブランドのパンツやシャツを僕たちが逆にバイヤーとして買い付けて、お店を利用する人にセットで提案しています。

加藤 なるほど。直営店では米富ブランドのニットを売りつつ、ニット以外で良いなと思ったプロダクトに関しては米富繊維側がバイヤーになるんですね。

大江 「Yonetomi STORE」は「コンセプトストア」であると考えていて。自社ブランドだけでなく、違うブランドの商品も並べるというのがあるべき姿だと思っています。OEMと自社ブランドを両立するスタイルは、もともと僕たちが目指していた形なので、お店にもその考え方を取り入れているというわけです。

組織を変えるのは、社員一人ひとりの扉を開いていくコミュニケーション

ロフトワーク 岩沢(以下、岩沢) 私からは、事業や経営を大きく変えるにあたり、組織デザインの観点からご質問させていただきます。製造業に携わる多くの事業者の方が抱える課題として、自社の事業をシフトチェンジしようとしても、工場で働く社員の意識がなかなかついてこないのではないか、ということがよく話題に挙がります。大江さんは、どのような取り組みで社員の皆さんの意識を変えていったのでしょうか。

大江 一つ、印象的なエピソードがありまして。新卒社員と僕の2人でブランドをやっていた頃、某有名ファッション誌に掲載していただいたことがありました。新卒の子と一緒に2人で喜んでいましたが、雑誌を会社に掲示したところ、誰もそれを見なかったんです。一方で、その後山形新聞に掲載してもらったときには、縫製担当のおばちゃんたちが記事のカラーコピーをとっていました。この光景を見て、社員のみんなにとっては、有名なファッション誌に取り上げられることよりも、自分たちに馴染みがあるメディアに掲載されることの方がインパクトが大きいんだと痛感しました。

実は、ブランド設立初期は、ブランドの見え方にこだわりを持っていたこともあり、地元メディアからの取材をお断りしていました。でも今は逆に、地元からの取材や講義の依頼は基本的に全部受けることにしています。ブランドの露出にあたって、掲載媒体の全てがメジャーなものや洗練されたものであるべきとは限らない。むしろ、地元のメディアだからこそできることがあるということを、社員のみんなに教えてもらいました。

岩沢 いろんな世代の人たちが働いていると、大切に思っていることも違えば、影響を受けるメディアも違う。そんな社員たちを総じて巻き込んでいくためには、それぞれにフィットしたコミュニケーションを選択していくことが大事ですね。

大江 そうなんです。この考えかたは、2つ目につくったブランド「THISISASWEATER.」のコンセプトにも反映されています。なぜ他ブランドと同様に「ニット」と呼ばず、「セーター」という言葉を使っているのかというと、ベテランの社員たちは自分のことを「セーター屋」と言うからです。そして、「THISISASWEATER.」の裏側にあるミッションは、彼ら「セーター屋たちが自信を取り戻すこと」。米富繊維とベテラン社員が培ってきた歴史や技術をもとに、「これこそがセーターだ」と胸を張れる美しいプロダクトを、今の時代に合わせて発信していくことを目指しているんです。

THISISASWEATER. コンセプト文

ニットファクトリー米富繊維株式会社にとって、1952年の創業から現在に至るまでの半世紀をゆうにこえる歳月とは、美しいセーターをつくることが生命の営みそのものであった歴史です。ときにはきわめてセーターらしいセーターを編み、ときには世に存在すらしなかったサマーセーターを編みだし、ときにはまるでセーターらしからぬセーターをさえ編んできました。「他に先駆けてチャレンジする」ことを自らのアイデンティティとし、編地のクリエイションの可能性を追求し、あらゆる技術、工夫、知恵をセーターに注ぎこみました。そうした日々の積み重ねの先に辿り着いた現在なのです。その意味で米富繊維にとって「セーターとは何か?」とは、長く古い問いです。と同時に、常に更新される新たな問いです。ニットファクトリーとして今あらためてその問いに向き合い、まだ開拓し尽くされていない地平にある豊かなこたえを、ひとつ、またひとつ、かたちにしたいと思います。それが「 THIS IS A SWEATER. 」 一本の糸からはじまる物語に、長くつづく美しさを、古くなることのない真の価値を、一生ものの愛おしさを、編んでゆきます。

“Untitled (Ordinary Sweater #163–1455) “, 2020 © Gottingham
Image courtesy of Akaoni and Studio Xxingham

「THISISASWEATER.」のモデルを務めるのは、米富繊維の社員や関係者の皆さん。「セーター屋が自信を取り戻す」というミッションを一貫させ、組織内部へのブランディングを兼ねた設計となっています。

岩沢 すごい話と言いますか、心を打たれますね。新しい事業をやろう、「デザイン経営」に取り組もうというとき、つい奇をてらったものや、トレンドを追いかけることを想定してしまう方も多いと思います。でも、自社がこれまで紡いできた歴史や大事にしているものこそが、新しい取り組みの出発点になりうるんですね。

OEMと自社ブランド、メーカーとバイヤー。対等で密接な「両輪」を目指して

加藤 最後に、製造業とアパレル業の両軸の経営の中で、OEMでの製造と自社ブランドのリソースのバランスに悩む方も多く見受けられます。こちらに関してはいかがでしょうか。

大江 OEMの生産に関しては、受注量をたくさんいただくために、なるべく時間がかからないこと、コストが見合うことを条件として製造を行っています。一方、オリジナルブランドに関しては、自社ならではのものを作るため、どれだけ時間がかかってもいいと考えています。そうすると「どっち優先なんですか」と現場は困惑しますが、それに対する答えは「どっちも」に尽きるんです。

大江 新しい商品を生み続けることは容易でないため、「OEMのほうが簡単で効率的ではないか」と提案されることもありますが、それで経営が良くなるならば、たしかにOEMを優先します。しかし、実際問題としてOEMだけではこの先も経営を続けられるかわからない。だから、ブランドをやる。一方で、ブランドだけでは大規模な工場を回しきれないというのも事実です。だからこそ、どちらが上か下かという議論はなしに、両方とも大事だと伝えています。

ブランド事業は、やればやるほど伸びる時期もあれば、いずれ頭打ちになる時期もやってくる、そういう波を繰り返すものです。その意味ではOEMのビジネスも片方で履いていた方が、経営のリスクヘッジになると思います。

加藤 たしかに、市場や社会環境を踏まえても、一つの事業軸で経営を行うことはかえってリスクが高いと言えますね。

大江 営業もOEMとブランドで担当者が分かれていますが、若い営業マンには両方を経験させています。会社だけでなく社員一人ひとりに両軸を意識してもらっているんです。

加藤 両軸という意識が人材育成にも反映されているんですね。ここまで根付くには、やはり現場の営業を通して成果を出したり、地元メディアに掲載されたりといった大江さん自身の地道な取り組みが生きているのでしょうか。

大江 最初は社内の理解を得るのに苦労しました。ショップ店員だった自分とは価値観が違いますし、口頭や資料でブランドのことを説明してもなかなか伝わらないんです。それは当然のこと。しかし、それでも「自分はこういうことを考えてこういう商品を作りました」「こんな反応でした」など、実際の商品やその成果は常に発信し続けました。

こうした地道な活動から徐々に社内認知度が上がり、売り上げが上がることで会社の数字が変わり給与やボーナスに反映される。結果として、「一部の人が携わっているブランド」から、「会社みんなのブランド」という認識になっていきました。そこに至るまでに5年はかかっています。今度は「Yonetomi STORE」が「社長が始めたお店」ではなく「自分たちのお店」だと実感してもらうことが次のステップなのかなと思っています。

加藤 ありがとうございます。デザイン経営もそうですが、「変化」を伴ううえでは、組織全体がすぐに納得してくれるわけではない。そうしたなかで、自社の技術や歴史も大事にしながら、一緒に進められる仲間を見つけ、小さくても形にしていくことが大事なんだと改めて学ばせていただきました。

岩沢 今日はOEMと経営というテーマに沿った実践の話をたくさん聞けたと思います。大江さん、ありがとうございました。

大江 こちらこそ、ありがとうございました。

ロフトワークは、経営におけるデザイン戦略・実践パートナーとして、あなたの会社のデザイン経営導入を支援します。

デザイン経営は、デザインの力を活用して、会社のブランド構築やイノベーションを創出していく経営手法と示されています。「これまでとちがう経営手法」と聞くと、なんだか魔法の杖のように聞こえるかもしれません。しかし、実際のところはこんがらがった課題の山をひとつずつほぐし、ありたい会社像へと編み直す、地道で道のりの長い変革活動です。

わたしたちは、そんな活動の始まりから伴走し、最終的にはわたしたちがいなくても活動が広がっていくための、道具と仕組みをデザインしていきます。

▼ デザイン経営導入支援の詳細を見る

未来を起点組織・事業の変革を推進する『デザイン経営導入プログラム』

企業 の「ありたい未来」を描きながら、現状の課題に応じて デザインの力を活かした複数のアプローチを掛け合わせ、
施策をくりかえしめぐらせていくことで、組織・事業を未来に向けて変革します。

サービス資料ダウンロードはこちら

Related Event